あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
「ご苦労様です。レッドキャップ」
「あーうん、ごめんドロシー、ニヒリスター逃しちまった」
事前に言われていたのに無茶をしようとしてしまいバツが悪いレッドキャップはそんなことを言いながらウルフスベインを地面に立てて謝った。
アレだけ念入りに言われていたのにドロシーが無線で呼びかけてくれなければ相打ち覚悟だったろう。
「謝る必要はありませんよレッドキャップ。元より正攻法で落とすのは困難なことは分かっていました。少なくともニヒリスターがエデンを探す足は鈍るはずです」
下手に姿を晒して探そうものならいつレッドキャップの放った攻撃が飛んでくるかわからない。そう思わせるだけでも捜索の精度は恐ろしく落ちるし偽装の効果も高くなる。ヨハンやドロシーは考えていた次善の状態へニヒリスターをうまく誘導できている考えていた。
「それよりも、ですよレッドキャップ。頭を下げてくださ……私の言い方が悪かったです膝をついて屈んでください」
頭を下げてと言うので素早くお辞儀をしたレッドキャップにドロシーが苦笑しながら言い直す。言われた通り膝をついて屈んだレッドキャップの頭を覆うポンチョを優しくまくると、そのままフェイスアーマーを外す。着けてる本人より素早い異様な手際の良さである。
「ドロシー?」
「よくできましたレッドキャップ。偉いですよ言いつけをしっかり守りましたね」
「ど……ドロシー?」
そのままもう一方の手でレッドキャップを引き寄せると力強く、それでいて優しく抱きしめて頭を撫ではじめた。
「あ、なんかすげー恥ずかしい! やってもらってることはすげー嬉しいのになんかすげー恥ずかしいんだけどドロシー!」
「ご褒美みたいなものですから恥ずかしがる必要はありませんよレッドキャップ……よしよし、いい子いい子ですよ」
側頭部をドロシーの腹部のあたりにくっつけて抱きしめられている。
離れようと思えば無理やり離れることもできるのだが、それも悪い気がしてされるがままに頭を撫でられていると、レッドキャップはだんだんと心地が良くなってきた。
いずれラプチャーが寄ってくるような環境ではNIMPHが脳内伝達物質の制御をおこなって集中力の継続を行うが、レッドキャップはそれが不活性化している。
さらに久々の人肌の温かさとドロシーの存在そのものによる安心感で簡単にリラックス状態になってしまうのであった。
「なんだかドロシーってお母さんみたいだな」
恥ずかしさも消えて目を閉じてその心地良さを味わっていると、不意にそんなことを口に出してしまった。流石に失礼なことを言ってしまったと思いレッドキャップは謝ろうと目を開けた。
開けた方向の先、少し物陰になっているところにヨハンがいた。よく見るとその近くに今も空を飛んでいるであろうイサベル以外全員いた。
三人は目線が少し上の方、つまりドロシーの方を見ていたが目線が少し動いてレッドキャップと目が合った瞬間、すごい勢いで三人は頭を動かして目を逸らした。
レッドキャップの顔がその髪の毛に負けないほど真っ赤になる。耳も含めて。
「ど……ドロシー、み……見られ」
「レッドキャップ、私はアナタのお母さんになることはできません。ですが誰かの役に立とうと誰かを助けようと一生懸命に行動するアナタが少し疲れてしまった時に羽休めのできる居場所のような存在でありたいと思います。ですから今回私たちがレッドキャップに頼ったように、何かあれば私を頼ってくださいアナタが損得抜きで誰かを助けるように私も損得抜きであなたを助けたい。それほど大切に思っているのですが」
「わかってる頼るよドロシーだから今頼りたいとりあえず一旦抱きしめるのを中止で」
レッドキャップが身じろぎしてなんとか抜け出そうとしはじめるが、膝をついた姿勢に加えてドロシーの抱きしめが強力すぎて無理である。万力のように動かないように締め付けられているわけではなく、レッドキャップの動きに合わせて柔軟に抱きしめ方を変えて抜け出せないようにする高等技術であった。
無理やり立ち上がれば抜け出せる足がかりになるだろうが、そうすればドロシーを押し倒すような形になるので詰んでいるのである。
「気にする必要はありませんよレッドキャップ」
「そこまでにしてやれドロシー。そろそろここにも騒ぎを聞きつけたラプチャーが集まってくる」
「………………………………………わかりました」
レッドキャップと目が合った後もがき出したのでやってきたヨハンが助け舟を出した。
ドロシーは名残としそうにレッドキャップをぎゅう、と抱きしめてからレッドキャップを立たせた。
「あっ大丈夫だそれくらい自分でできるから!」
膝についた土を払おうとしてくれたドロシーを制止して自分で払うと、真っ赤な顔にフェイスアーマーをつけてポンチョを被り置いていたウルフスベインを再度地面に立てて何事もなかったアピールのように寄りかかる。
顔も耳も隠せて今ほどポンチョとフェイスアーマーに感謝した事はないほどレッドキャップは感謝した。
「何も取り繕えてないんだけど」
ノアのツッコミにレッドキャップは口笛を吹いて誤魔化した。
「レッドキャップ、改めてご苦労だった。殺し切るには至らなかったが"銀の弾丸"は確実に奴の中に撃ち込まれた。エデンに帰投後セシルからしっかりとメンテナンスを受けろ。どこに行くかは知らないがエデンからできる限りの支援は行う」
「悪いなヨハン世話かける」
「それはセシルにいう事だな」
「フフ、ヨハンもこんな事を言っていますが、あなたのことを気に入っているんですよレッドキャップ。
ドロシーがレッドキャップの耳元で内緒話風に喋るがヨハンにも聞こえているのですごい嫌そうな顔をした。
「…………」
「…………」
「さ……さーみんなお疲れ! じゃ、アタシ一足先にエデンでメンテナンス受けに行ってるから!!」
「私が運びますよレッドキャップ」
「ありがとイサベル! サンキュー!!」
ヨハンの不機嫌な顔とドロシーの笑顔に挟まれて耐え切れなくなったレッドキャップが駆け出し、それを後ろからイサベルが持ち上げて飛行する。取り残されたノアはさりげなく自分とドロシー達の間にハランが来るように移動していた。
「イサベルもその……見てた?」
「…………私は上空から警戒をしていただけですので何も見ていません決して、何も」
「あーうん。イサベルは飛行装置やられたって言ってたけど大丈夫か?」
イサベルに気を遣われたので話題を切った。
少し低めに飛んでいるが飛行はかなり速く、むしろ低めなせいで体感速度が上がっているので若干怖い。
「巡航そのものに問題はありませんが、レッドキャップを抱えていますから万一落ちた時の安全のため低く飛んでいます」
「確かに、でもなんかヤバそうだったらアタシのこと離して落っことしていいから。重たいだろ?」
「そんなことはないですね。むしろ見た目の割に軽い方です」
「軽い女って奴か……」
「その言い回しだとレッドキャップは見た目の割に重いですね。ドロシーもですけど」
「アタシそんな重いか……?」
ドロシーに関しては否定しないレッドキャップであった。
「ですが最近になって私もドロシーに共感する所があります」
「え?」
首を回してイサベルの方を見ると、思い出しているだけで顔を赤くして目にハートを浮かべそうな恍惚な顔をしていた。
「あ……うん。大切な人ができたならよかった」
「ええ! この間北部で出会ったのですが────────で────────でしてなんと────────────────」
十中八九あの指揮官だろうと思ったがイサベルの凄まじい熱量の語りが始まり100%あの指揮官だなとなったレッドキャップはエデンに着くまでイサベルの語りに相槌を打ち続けた。
エデンに着いてメンテナンスに来たレッドキャップの少しぐったりした様子にセシルが提案した「整備中寝てますか?」にレッドキャップは頷いたのだった。
「冗談はさておきまして」
「本当に冗談だったか?」
レッドキャップが飛んで行った後、ヨハンの言葉を流しエデンに向けて歩み出しながらドロシーは続ける。
「ニヒリスターが
「"アンチェインド"か」
アンチェインド、真っ向から撃ち滅ぼす手段としてのレッドキャップに対して、ヘレティックの体を構成するナノマシンそのものを破壊、機能停止させ無尽蔵の回復能力を封じる病原体に対するワクチンのような代物だ。
「今後の観測結果次第ではあるが、ニヒリスターの活動が縮小したならアンチェインドへ割ける探索量が増える」
「ええ。エデンが真の楽園として存続していく為にも、アンチェインドは必須でしょう」
ドロシーはアンチェインドの在処を一つだけ知っているが、それを言うつもりはなかった。今のドロシーは会うことはできないし、奪うと言う発想そのものが出てこない。
話を終えてエデンに帰還した後、ドロシーはセシルに整備を受けているレッドキャップを見に行った。
見にきたドロシーにセシルは何も言わずに作業を続ける。通常のニケのようにNIMPHを用いて意識を落としたりできないので、本当は眠らせるほどではないのだがレッドキャップは薬物を利用して眠りについた状態で整備を受けていた。
「レッドキャップの家はエデンですが……アナタはアークにも拘ります。ですからいずれ私がアークでアナタがのびのびと過ごせるようにしてあげますよ」
眠るレッドキャップを見るドロシーの顔は優しさと妖しさを兼ね備えており、最近エデンのいつもの定位置で一人そういう顔をするようになったドロシーにセシルは引いていたが、レッドキャップにその顔を向けるとまるで子供を慈しむ母親に見えた。
レッドキャップが知ったら床をのたうち回りそうなので黙っているがドロシーに色々されている様子も当然セシルは知っている。
問題児がより面倒に、ただ良い方には向かっているような変化にセシルは整備を続けながら深く深くため息を吐いた。