あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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実地

 レッドキャップが滞在していた施設は全体を見ればエリシオンの研究所だ。新装備の開発やニケの性能向上など様々な研究を行っている。

 

「訓練も無しに地上に出すとはな」

 

 アブソルートのウンファもそこで新型ニケが完成したと呼び出されれば、量産型に行っていたように教練を施すものと先入観が働いていた。

 ところがそうではなく実地試験の見張り役をしろとの命令に地上へのエレベーターの中でウンファはじろりとその新型、レッドキャップを見ながら呟いた。

 そのレッドキャップはといえば隅の方にじっと立ち不動の姿勢だ。狼のようなフェイスアーマーから表情も感情も読み取る事ができない、不気味さのようなものを醸し出しベスティーがエマの後ろに隠れてしまっている。

 端的にいえば最悪の空気であった。

 

「レッドキャップって言うのよね。今日は頑張りましょうね、しっかり頑張って帰ったら美味しいご飯をご馳走してあげるわよ〜」

 

 そんな空気もお構い無しに話し始めるのはエマの美徳であるが、ウンファは新型の味覚センサーを破損させるのはやめろと警告するべきか本気で悩んだ。

 

「アンタ達がアタシの子守してもらうんだろ? だったらアタシがご馳走するのが筋なんじゃないかな?」

「訓練もしてないルーキーにしては……道理をわきまえてるな。新型の利点として報告しておこう」

「みんなblablaやってんのか? アタシさっきCEOに端末もらったばかりでさ、よければ連絡先交換しない?」

「わ……私とも交換するの?」

「うんうん全員と交換しよう」

 

 アタシってこんなに社交的に振る舞えるんだな。とレッドキャップは感心した。肉体に体が引っ張られているのだろうか、それともレッドフードを好きだったこうなる前の自分がどこかで望んでいたのだろうか。

 こうなる前に持っていた携帯端末でもあれば自分の変化をわかりやすく見れるが、変わってしまった、変えられてしまった後では事実なのか空想なのか区別が付かなかった。

 

「あれ、ウンファのは?」

 

 エマとベスティーと連絡先を交換したのにウンファはしてくれなかったのでそちらを向く。

 

「私が交換するかは試験の後決める。精々頑張る事だな」

「そりゃ頑張らないと」

 

 レッドキャップは手に持った銃に力を込めた。思考転換で変わっている最中に奪って、形を変えた銃だ。レッドフードの持っていたウルブズベインとほとんど同じ見た目をしている。

 違いは大型の光学照準器と赤いスリングが取り付けられていない事か。

 エレベーターが地上に到達し、四人が外に出た後はラプチャーに見つからないよう隠蔽状態に戻る。

 

「ここから北方にある目的地点、アレが見えるか? あそこを襲撃する事が今回の任務だ。エブラ粒子濃度は薄い、危なければフォローはしてやるから好きに動け」

「りょーかい」

 

 ウンファが指差した先の建物を見てからレッドキャップは走り出した。隠蔽も何もない大股走りの音に気づいたラプチャーが銃口を向けるよりも早く走ったままレッドキャップが引き金を引いた。

 ニケの使う大口径火器でもなかなか無いような轟音と共に狙われていたラプチャーが真っ向から装甲を貫かれて爆散する。

 一射と共にラプチャーを次々と破壊していき、ガキンッとボルトが後退した。補正というべきか、狙った場所に容易く当てられる事はエリシオンの研究施設での検査などで試射した時から分かっていた。

 それに加えて狼を模したフェイスアーマーが狙う敵の距離などを表示してくれるのだ。よほど早く動いていなければ外すはずがない。

 ニケとしての性能に助けられている面もあるが、攻撃相手の取捨選択はウンファの目から見てなかなか悪くなかった。

 

「えーとこうやって……こうやってと」

 

 それはそれとしてリロードの手際は別問題である。やるプロセスがわかっていても素早く行うには練習が必要だ。

 その隙にビーム攻撃や近接攻撃を仕掛けてくるラプチャーが出てくる。

 

「あら……」

「待て」

「どうして? アレじゃやられちゃうよ?」

 

 エマとベスティーが援護に出ようとするのをウンファが静止した。

 

「多少破損しても構わないだろう。訓練無しの初の実戦だ、ルーキーは選択を誤ればどうなるかを学ぶ必要がある。無論死なせるつもりはないが……その時は連絡先交換は無しだ」

 

 狙撃銃を覗き込んでいつでも撃てる体勢をとっているウンファの言葉に二人は納得して様子を見守る事に決め、ウンファの意図を汲んで攻撃を受けたらすぐにレッドキャップ周囲のラプチャーを消し飛ばす構えをとった。

 

「リロードの邪魔すんなよ!」

 

 そんな三人の様子を知らないレッドキャップはビーム攻撃を身体能力に振り回されているのか大きく避け、ウヨウヨと近づいてきた近接攻撃型のラプチャーを思いっきり蹴り飛ばした。

 ニケの攻撃手段は武装による遠距離攻撃であり肉弾戦など想定していない、が蹴られたラプチャーは装甲を陥没させ機能停止と共に吹っ飛び他のラプチャーを巻き添えに爆発を起こす。

 

「「「……」」」

 

 呆れたような顔をアブソルートはしていた。アレでは並のラプチャーなら素手で全部破壊できてしまうだろう。リロードを終えるとまたあの攻撃力が撒き散らされラプチャー達が木っ端微塵に破壊されていく。

 数の暴力をものともしない圧倒的攻撃力だった。全部壊しながら突き進んでいく様は赤い暴風を思わせる。

 

暴虐の妖精(レッドキャップ)の名前に相応しい暴れっぷりだな」

 

 先を進むレッドキャップが残したラプチャーの残骸を踏み越えながらウンファがつぶやいた。彼女の夢である地上奪還の希望を見出すには十分な強さだった。

 この性能を安定して製造できるようになればエリシオンがトップシェアになるどころか地上奪還も絵空事ではなくなる。そんな喜びがわずかに声色に出ていて、エマはニコニコしてベスティーは相変わらずオドオドした。

 そうこうしてるうちに建物が近づいてくる。大型の人工物はラプチャーを誘引する性質がある為、開通したエレベーターが近隣にあるこの建物は破壊する必要があった。爆破用の爆薬はアブソルートの面々が持っている為レッドキャップの役割はこの場のラプチャーを一時的にでも皆殺しにして爆破までの安全を確保する事だ。

 アブソルートなら難なくこなせる任務であるが試験とはいえ新品のニケに手伝わせる任務では本来無い。

 

「おっと大物のお出ましか?」

 

 建物の影から飛び出してきた大型ラプチャーが防御フィールドを展開し人の頭がすっぽり入りそうな大型砲を大量展開する。レッドキャップなど簡単に飲み込んでしまうような極大のビーム砲撃が先程までレッドキャップがいた場所を溶岩のようにドロドロに溶かした。

 脚力で空に飛び上がったレッドキャップがポンチョをはためかせながら構えたウルフスベインは狼が顎を開くように形を変えている。

 

「残念だったな! お終いだ!」

 

 その掛け声と共にその銃身からは想像もつかないような赤い奔流が一直線に大型ラプチャーの防御フィールドに衝突、粉砕する。

 それで終わりでは無い。第二射、第三射などと数える暇もないほど威力に対してあまりにも理不尽な連射速度は大型ラプチャーの体躯を削り取り、雑魚ラプチャー諸共大爆発を起こさせた。余波で建物が損壊するほどだ。

 爆炎と破壊の後静かになった場所に着地を決めようとしてズポンっと足が膝まで沈み込んだ。

 

「うわやっべ!」

 

 ニケの重量と落下速度の組み合わせである。駆動系に損傷一つないがまだ敵が居たなら致命的な隙になったであろう。

 

「もっと慎重に動け。だが……及第点だな」

 

 足を引っこ抜いていると後からやってきたウンファがそう言い残し、建物を爆破しに向かった。大型ラプチャーを含め一時全滅させていた為迅速に作業は終わり、エレベーター周辺の安全が確保され実地試験は終了となった。

 対象の前だと辛口評価を崩さないウンファでさえ若干心躍る程に新型ニケの性能は高いと報告書を提出した。訓練で動きの最適化を図ればより良いとも。レッドキャップの実態は新型ニケではないが、それを知っているのはラピとイングリッドだけである。

 試験後にレッドキャップはイングリッドにダメ元でアブソルートとの食事会をねだって、予想に反して許可が出て驚きつつウンファと連絡先を交換し、フェイスアーマーが食事の時口のところが開く機能に驚くこととなった。

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