あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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地上行きたい

 レッドキャップはフェイスアーマーがすっかりお気に入りだった。鏡を見てもグラつかない。動揺することもない。切った髪と共に自分がレッドフードでは無いという強迫観念じみた自認を満たしてくれるのにうってつけだった。

 ウンファに指摘されたリロードや立ち回りの問題も訓練すればするだけ洗練されていくのでやっていて楽しささえ感じていた。

 新型ニケという肩書きを持っているが存在は極秘扱いの為中央情報局のオペレーターすら付かないアブソルートの任務に着いていく程度だ。レッドキャップでなく、レッドフードがアークの根幹を揺るがしかねない存在と言われている以上公の場で動く事が無いよう厳重注意されていた。

 給料もかなり貰えているので頼み込んだら監視役をつけられてロイヤルロードに買い物に出てみたが「いくら金積まれようがニケに売るものは無い」や「値段を数倍に引き上げられる」など露骨なニケ差別に遭遇した為それ以降行く気が喪失した。ので、通販で済ませている。パーフェクトも調理方法が異次元すぎて料理じゃなく工作をしてる気分になり食欲が減退するので出来た料理を注文、仕事の時以外部屋の外に出ないダメ人間のようなニケ誕生である。

 アブソルートの面々は任務で同行する時以外チャットで偶に話すくらいなのでそれを知らず、そんなレッドキャップの様子を知っているイングリッドは機密保持の観点からすれば都合がいいので何も言わない。

 アークでは人の目があるからだ。ニケの口に戸は立てられるが人の口には立てられない。

 

「それでもこれだけ好きにさせてくれるのは……なんか負い目があるのかねぇ」

 

 特にラピの態度からそれを感じる。彼女の中にはレッドフードが眠っているはずなのでそれに由来するものだとレッドキャップは思っている。

 それがあるとしても報いたいと思う程に良い生活をさせてもらっていた。

 

「息苦しさからの解放と、こんなアタシでも居る意味があるんだって思いたい願望と、イングリッドやラピの厚意に報いたいって良識と、地上を奪還したいって思いの混ぜ合わせかなコレ?」

 

 自分にできる事を考える。あるのはただ一つ、力だ。

 知識は文明レベルが明らかに上のアークでは意味がない。話としての未来予知の様なものはレッドキャップがこの場にいる時点で破綻している。

 

「力は有効利用しなきゃ、だよな」

 

 思い立ったが吉日、すぐ行動に移さねば生き物というのは易しに流れる。すぐにイングリッドにCEOなのにいいのかと言わんばかりの手軽さで連絡を入れるとそれはもうアークの深度より深そうな深い深いため息を吐かれた。

 

『何を言ってるかわかってるか?』

「役に立ちたいんだ」

『すでに役に立っているがまだ足りないのか?』

「アークの悲願は地上奪還だろ? ならまず奪還するための場所を探す必要があるし地上のいろんな情報が必要だ。大人数じゃラプチャーに気づかれるしアークにそんな余裕は無い、だったら余りモノかつ、人前にお出しできないアタシみたいなのがやれば良いんじゃないなー、と思ったりしてて」

『…………』

 

 通信の向こう側で再び深いため息が吐かれる。

 

『ニケ単機による地上奪還の為の長期偵察任務……といった所か。タクティカルとしては正しい事だ。何を以って地上奪還とするかも決めずただラプチャーを殲滅しようとするのは過去の大規模作戦と同じ轍を踏む事になる』

「じゃあ」

『許可はできない』

「えぇー!?」

『通信で騒ぐなうるさいぞ。そもそも私が口を出せる領分を上回っている。中央政府の副司令官クラスの後ろ盾がなければ不可能だ』

「その言い方は何かツテがあるんじゃ?」

 

 十中八九アンダーソン副司令だろうとレッドキャップは思ったが口には出さなかった。

 

『……数日待て。それと、そんな無謀な事を言った以上そちらにも万全を尽くしてもらうぞ』

 

 低い声でそう告げられ通話を切られた後一時間後、測量やらニケの機体構造補修方法やらサバイバル技能やらデコイ製造方法やら狩猟のやり方やらその他大量の教材である。

 

「わぁ……」

 

 や・れ。という見えない圧力が大量に添付された電子データの目次から伝わってくる。言ったからにはやるのは筋だし、地上に行くのに準備してしすぎるということはない。

 レッドキャップが学習を始めて三時間後、ニケの頭というのは知識の吸収が良く勉強も捗るというモノでレッドフードが聴いていた歌のリズムを鼻歌でとる程度に機嫌よくやっていると、フートが部屋に食品を届けてくれた。

 

「差し入れだそうですよ」

「おぉー気が利く。フートも一緒に食べる?」

「良いんですか? 護衛対象と一緒に食べるのは気が引けますが……」

「いーのいーの」

 

 このやりとりは何度目か、定期的にフートはレッドキャップに関する記憶を消去されているので数度目の初対面を経ている。悲しい気分になるが仕方ないことと割り切って箱を開けるとそこにあったのは、虫だった。

 

「にょっぽう!?」

「わっ!?」

 

 思わず放り投げそうになったレッドキャップと驚きながらもそれを制止するフートは一瞬間を開けて箱の中を覗き込んだ。

 

「イタズラ……ではないですよね? 手紙が入ってます」

 

 手紙を開いてみる。

 

[地上食事練習用昆虫(パーフェクト加工品)]

 単独行動で偵察をする都合上パーフェクトの食品などの補充品の入手は困難だ。だから何を食うか、虫である。その練習用の代物らしい。

 

「……なぁフートも食べ「護衛の仕事があるので」

 

 フートは全力で持ち場に戻っていった。

 

「おっまじかっマジかっ!? 食えるのかアタシ!? 行けるか!?」

 

 ニケは食事など人間らしい行動を取らないと思考転換からのイレギュラー化のリスクがある。レッドキャップの体は特殊らしく、コアからエネルギー供給を受けると共に食事による栄養補給も可能なハイブリッド仕様だった。

 エリシオンの研究所では解析できなかった技術の一つだが重要度は低めである。

 

「えーと、目を瞑ってぇ……触覚も切るか……? いや腹括れアタシ!」

 

 一思いに食べた。あくまで形を模しているだけなので味も食感も普通に淡白な白身魚の様だった。

 

「アタシ今度から白身魚のパーフェクト食えなくなるかも……」

 

 形だけで味と食感は別と分かれば意外と食えるモノであるが血の様なフードを被り口のところが開いたフェイスアーマーで昆虫を咀嚼する絵面は魔物である。

 

「よーし食べ終えたぞ! みたかイングリッドアタシの意思は硬いぞ!」

 

 仮面の下はちょっと涙目だが努めて強気な声を作って拳を突き上げた。突き上げた先には部屋を監視するカメラがある。

 

「だけど昆虫パーフェクトは勘弁してくれ!」

「あ、すいませんまたお届け物です……」

 

 フートがまた荷物を持ってきて絶望した顔をしたレッドキャップだったが、箱を身構えながら開けてみると今度は工具類が入っていた。

 ウルブズべインやニケボディの補修整備道具類である。レッドキャップは昆虫パーフェクトじゃないだけでとても喜んで実技的訓練に取り組み出した。

 

 

 

「この資料が使用するニケか?」

「能力は申し分ないことは保証します。地上奪還への意欲と、偵察作戦遂行の可能性はアブソルートに匹敵するでしょう」

「そこまで評価するか、だが必要なものはそれだけじゃない忍耐力や判断力を要求される。特に指揮官を持たない単独行動のニケには」

「必要でしたら監視カメラの映像を送りましょうか」

「ああ、頼む」

 

 そのリアルタイムの音声付きで手元に映像が届けられる。

 

『〜♪ ふふん〜♪』

 

「…………! 彼女にはレトロ音楽の趣味があるのかな?」

「それは……わかりかねますね」

「必要ない質問だった。この作戦は承認されるだろう。彼女の奮闘を期待しているよ。それでは失礼する────────五分後に会議があるのでね」

 

 そしてレッドキャップの地上偵察作戦は承認されることとなった。

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