あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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長期偵察

「青い空に白い雲、地上って良いもんだよなやっぱり」

 

 レッドキャップは日差しを浴びながらそう呟いた。仮面は外さないがフードを外すと中に篭っていた熱気が空へと抜けていく。代わりにウルフカットの赤髪を熱する日差しは空の高い所で燦々と輝いていた。

 アークの日差しはあくまで人工で人を害さないようにできていて、いつも崩れない春の心地の様な快適さだったが味気なさも感じてしまうのは贅沢な悩みかもしれない。

 

「おっとと、どっかでいい感じの箱作ろう」

 

 片手ではこぼれ落ちそうなほどの素材を持ってレッドキャップは呟いた。

 保守点検用具やサバイバルキット、ラプチャーの残骸からクラフトをする為の工具類を詰め込んだボックスは銃火器と合わせて1トン近い重量となっているが今の体からしたら軽いものである。体幹が崩れる素振りすらない。

 

「地上奪還の拠点探しだからな、温暖で水場があって、ラプチャーが少ない場所がいい」

 

 そんな呑気なことを言いながら歩くレッドキャップの背後にはラプチャーの残骸の山ができていた。大型ラプチャーを見かけたので銃撃したら音に呼び寄せられてどんどんどんどん、わんこそばの様にラプチャーのおかわりが来たのである。

 向こうが在庫切れになったので残骸から使えそうな部品やら無事なコアやらを引っこ抜いて退散する所である。

 次にラプチャーを見かけてもできるだけ銃撃でデカい音を出さずに無音で倒す必要があるなと思った。

 

「というか隠れてやり過ごすのが一番なんだけどなぁ……」

 

 その為にデコイの製造方法を学んだのだ。次から気をつけようと思いながら自然の豊富な方へと進んでいく。

 

「ラプチャーは自然物には興味を示さず人工物に寄っていく……だったな」

 

 初日だからとはしゃぎすぎな面もあるから気を引き締めて行かなければならない。少なくとも寝る時はラプチャーが存在しにくい自然の多い場所、もしくは人工物が多くとも身を隠せる場所が必要だ。

 森に入り込んだあたりでガチョンガチョンと金属が軋む特徴的な音が聞こえてきた。

 

「一時間に一回は遭遇するって言うけどマジだな」

 

 エブラ粒子のお陰で目視、聴音、熱源探知のどれかに引っ掛からなければラプチャーはこちらを見つけられない。木々の湿気と差し込む日光によるマダラな熱源発生に守られたレッドキャップはラプチャーのセンサーを通り抜け嘆息した。

 サイズとしてはそこまで大きくないが戦闘になれば大きな音が立つ。それを聞きつけたラプチャーと戦闘になればせっかくの自然も台無しだ。

 デコイを設置するのも、結局はラプチャーをデコイに誘引し破壊されるまで時間稼ぎをするものなので周りに被害が出てしまう。

 良い場所を見つけてもラプチャーと戦闘になって破壊されれば意味がない。数日かけてマッピングを行いながらラプチャーの巡回ルート、聴音能力も測ってみることにした。

 

「このエリアは一発撃てば少なくとも数キロ以上先から飛行型ラプチャーが飛んでくるな……。代わりに地形的にラプチャーが少なく身を隠す場所もたくさんあるってところか」

 

 最適な場所、そしてふと思い出すのはレッドフードの故郷だった。少なくともあのアンダーソン副司令がお墨付きを与える良条件が揃っている。

 山を背にそこまで広くなく、水辺があり植物が育成可能な土壌かつ温暖環境。

 

「川を探すか」

 

 ラプチャーが人工物を破壊する為人類の長年の努力の成果であった治水は失われている。

 川の付近はその影響で多くが氾濫原と化している為人工物は風化以上に押し流されラプチャーもあまり近寄らないことがわかったが、洪水の運んできた豊富な栄養由来の原っぱや森が多いが代わりにそれに覆い隠される形でぬかるんだ土地が多く重量のあるニケでは行動に問題が出やすかった。

 あの土地は本当に奇跡的に残っている場所なのだろう。

 そこまで時間をかけず川を見つけ、いろいろやって数日。

 

「うえーポンチョがドロドロだ……」

 

 そういうレッドキャップも足を取られて盛大に転んだのであった。

 原因は拠点を作ったのが結局川沿いの森だからだ。

 足場が悪いとはいえ逆に地上型ラプチャーもあまり寄り付かず、飛行型ラプチャーもこちらを認識できない為のは利点だった。湿気以外は居心地がいい。ラプチャーの部品でも特に軽量な部位を使って高床式の隠れ家を作り木々の枝や葉っぱ、その辺にある泥と草で覆い隠せば安全な寝床が確保できた。手に入れた物やラプチャー素材を置いて置く場所があるのも良いことだ。

 人間だと長期間滞在で風邪や病気になりそうだが学んだサバイバル技術が早速役に立っている。

 

「お日様でなんとかなるのは本当だなぁこれぞ生活の知恵────」

 

 呑気なことを言っていたら発砲音が響いた。連続した発砲音はアサルトライフルのものだろうか。作戦行動中のニケと鉢合わせては相手に迷惑がかかる。

 少し高いところに登って様子を伺い、レッドキャップはすぐに銃を構え、発砲した。三人、肩車をされたニケ達が銃を撃ちその背後を大型のラプチャーが追いかけてきていたのだ。

 レッドキャップの放った弾は大型ラプチャーの頭部に直撃し破損、体を傾かせたところで全弾を叩き込み露出したコアに弾頭が突き刺さり爆散する。

 大きな音を出した以上ラプチャーが探知して寄ってくる可能性が高い。全力疾走で泥を跳ね上げながらニケ達に近づいた。

 

「大丈夫だったか? 一旦落ち着いて銃を下げろ」

「ダメなんです……! その子は」

 

 肩車をしていたニケもされていたニケもどちらも量産型だが、肩車をされ今も銃を撃とうとしているニケは目が赤く染まっていた。

 

「◼︎◼︎っgd`jtDjwdg@hajpm」

「この子はもう……侵食されてて……でも置いてけなくて……指揮官が撃ってくれないとこの子が終われなくて……! 助けていただいてありがとうございます!! 指揮官の治療もお願いできませんか!?」

「わかった任せろ。簡易的な治療ならできるかもしれない。指揮官はどこ……に…………」

 

 レッドキャップはそのニケの反対側。遠目で見た時三人組と思った原因がわかった。彼女らの指揮官はそこにいたのだ。しかし、死んでいる。血まみれの軍服に、頭と胴体の一部と片腕しか残っていない。ニケなら脳は生存している可能性があるが、人間でこの状態は死んでいる。

 

「……眠らせてやれ」

 

 そっと下ろし、開いたままの目を指を使って閉じる。

 

「でも、でも、そしたらこの子はどうすれば」

「……アタシが終わらせてやる」

 

 出発前にイングリッドから渡されたモノ、自決用の拳銃だ。拳銃の形状でニケを破壊する都合上装弾数は一発。

 どこを見ているかもわからなくなってしまったような侵食されたニケの眉間に銃口を向け、頭の中で湧き上がるそれを差し止めようとする感覚を無視し、引き金を引いた。

 戦闘音に比べればあまりにも儚い破裂音と共に侵食されたニケは終わりを迎え、もう一人のニケは死んだ亡骸に縋り付いてひとしきり泣いたあと、レッドキャップへ向き直り敬礼をした。

 

「ありがとうございました。あなたは……伝説のピルグリムなんでしょうか? 圧倒的強さで地上奪還のためさすらう伝説のニケ……」

「いいや違う。アタシはエリシオンのニケだ。偵察任務をしていたんだ」

「そうなんですね。助けていただきありがとうございました」

「待て、どこに行くんだ?」

「別任務中のニケを巻き込むわけにはいきません。回収地点のデータも指揮官と一緒になくなってしまいましたから……私は北に向かいます」

 

 何かあれば北に迎え。助かる道がある。

 それは回収部隊のニケ達が北にいるからだ。だがニケ一人で辿り着ける確率はかなり低い。

 

「……ちょっと待ってろ。荷物を取ってくるからさ、アタシも北に行く用事があるんだ。一緒に行こうぜ?」

「あなたには任務が……いいえ、ありがとうございます」

 

 地上奪還の為の情報集めなのだ。どこに行っても有益な情報を集められれば問題はない。そう言い訳をするが、目の前で困って、命の危機のあるニケを放っては置けないだけだった。

 人の死体と自分でニケを撃った感触を誤魔化すようにレッドキャップは右手でポンチョの裾を握り込んだ。

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