あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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北部

「うひゃ、寒いな北は」

「そうですね……体感センサーを切らなければ耐えられません」

「切ったらそれはそれで危なくないか? 注意しないとニケでも凍るぞ」

 

 北部はエブラ粒子の濃度もかなり薄いがなぜか通信が途絶することが多発する魔の領域だ。それでもニケが北を目指すのはそこに救出部隊の[アンリミテッド]が存在しているからである。

 

「今の気温は……うへ、マイナス二十度か」

 

 天候が安定していてこの有様なのだから崩れればより酷いことになるだろう。

 

「行動に支障出そうだったらすぐ言うんだぞ」

「は、はい」

 

 大きい音を立ててラプチャーに囲まれては堪らないので基本は迂回、単独で小さいものなら蹴り壊し進んでいく。

 一面の白い雪景色に日光が照り返すことでピカピカと光ってしまい見通しがいいのに視界が悪いという珍しい感覚があってもラプチャーに対する警戒は怠らない。さらに下に氷が張り雪で覆い隠したような天然の落とし穴のリスクもあって二人は腰を縄で繋いでいた。

 どちらかが滑落などをしてももう一人が助け出す為である。

 

「勉強はしても流石に来たのは初めてだからなぁ。慣れれば行けんのかな」

 

 スノーホワイトは単独で北部を巡回していたりするしやはり経験がモノを言うのだろう。

 

「北部に来たは良いけどどうやって救出のニケ達に見つけてもらうか……とりあえず飯だな」

「え……いえ私は……なんで雪を固めて?」

 

 レッドキャップがつかんだ雪を全力で押し固めた。空気が完全に抜けレッドキャップ自体の体温で溶けた水が外気温で瞬時に凍り、氷のツブテになった。

 

「やっしょい!」

 

 それを全力投擲。弾丸のような速度で飛んでいったツブテが少し離れた針葉樹林からこっちを見ていた鹿の頭に直撃した。氷が木っ端微塵になるが鹿も脳震盪を起こしたのかその場で倒れ込む。

 

「よっし!」

「えぇ……」

 

 レッドキャップもどこかの食いしん坊のピルグリムの初期の失敗のように鹿に銃を撃って木っ端微塵のスプラッタを作ってしまったのでなんとか原型を留めたまま狩りをできる手段を考えた結果が投擲である。

 そのまま気絶している鹿の動脈を切り血抜きをしながらしばらく移動していく。ラプチャーに遭遇してはせっかく貰った命を無駄にしてしまうからだ。

 安全そうな場所を見つけたレッドキャップ達は雪を掘って視界の遮蔽を作りそこで鹿を捌いていく。

 

「動物の体ってこうなってるんですね……知りませんでした」

「アタシも実際に切ったのは2回目だよ。まだまだ経験不足で知らないこともいっぱいだ」

 

 一度目は手が震えたが、二回目の今度は手も震えず作業ができている。

 

「弾一発くれないか?」

「あ、はい」

 

 鹿を捕まえたあたりの針葉樹林の枝をそこそこへし折って薪代わりにした。火種は弾の中の火薬である。

 捌いた一部の肉を細く削った枝の串に刺して炙っていく。残った部位は捌いて雪で包んでおけば天然の冷蔵庫と同じで腐ることはない。腐ったとしてもニケなら食えるが。

 

「この量だと燻す下準備に塩が足りないな。救出部隊に引き渡す時に一緒にお土産として持ってけよ」

「えぇ……」

「とりあえず食べようか。食わないとこんな寒い中やってられないぞ」

「私達は食事がなくてもやっていけますが……」

「よせよせ、そういうこと考え出すと思考転換からのイレギュラー化の可能性だってある。せっかく助けたのにアタシにお前を撃たせる気か?」

「……食べます」

 

 ラプチャーに襲われ、指揮官が死亡し、仲間のニケは侵食され目の前で死んだ。精神的に強い負荷を受けている中食事を取らずに極寒環境で体感センサーも弱めていては思考転換のリスクが跳ね上がる。

 そして多くの場合、それまでの記憶も、意識の連続性も全て転換され断絶する。

 己が己ではなくなるのは人であろうとニケであろうと真っ平ごめんだろう。

 脅すようになってしまったが半端とはいえ思考転換を起こした経験があるレッドキャップは目の前の量産型ニケにそれ以上の事になってほしくなかった。

 

「パーフェクト以外のタンパク源を食べたのは初めてです」

「お、じゃあ初の感想は?」

「雑味のようなアクセントがあってなんだが癖のある美味しさですね」

「パーフェクトはそれこそ完全な美味さってやつだよな。作った奴の意図通りの美味しさがそのまま出るっていうか……うん」

 

 パーフェクトを材料にして謎の物体を作り出したエマを思い出して頭を振った。

 

「食べ終わったらとりあえず移動しよう」

「了解です」

「こんにちは! お茶会ですか!?」

「うおっ!」「うわ!?」

 

 後ろを見ると雪で作った遮蔽の上にピンク髪のツインテールが笑顔でひょっこりとこちらを覗いている。

 

「……こんにちは、名前を聞いても良いかな?」

「はい! アリスですよ!」

「負傷者がいると思ったのだけれど、その心配はないようね?」「あっ女王様!」

「アンリミテッドか?」

「ええ、私たちはアンリミテッド。邪悪なハートの女王を倒す為、旅をしてるの」

 

 アンリミテッドの名前を聞いて量産型ニケは手に持ったアサルトライフルを落として膝をついた。緊張が一気に切れてしまったようだ。

 

「えーと、じゃ女王様。コイツのこと任せて良いか? ここまで守ってきたお姫様だ」

「お姫様なんですね! よろしくお願いします!」

「任されたわよ。あなたは?」

「アタシはなんだ、えーと……番犬の用事があるからついていけないんだ」

「ワンちゃんなんですね!」

「わ……ワンちゃん」

「アリス、そういう事だからお姫様と先に家に向かってなさい。私はこの番犬と少し話があるわ」

 アリスと行く前に量産型ニケがお辞儀をした。

 

「その……私にとってはあなたが伝説のピルグリムみたいでした! 任務頑張ってください!」

 

 ピルグリムという言葉にルドミラが小さく反応するがすぐに平静に戻り、二人が先に行った後小さく礼をした。

 

「アンリミテッドのルドミラよ。話を合わせてくれてありがとう」

「レッドキャップだ。ヨロシク」

「分隊は?」

「分隊には属してないな、アタシ一人だから。だからエリシオンって言うしかないかな」

「捜索中に見たラプチャーはどうやって壊したの?」

「そりゃもうこれ撃ってでけえ音立てると寄ってきて危ないから蹴り壊した」

「…………まぁいいわ。改めて救出に協力してくれてありがとう、あなたも気をつけて」

「ありがとう。そっちこそ頑張れよ。後これ鹿のお肉」

「……多いんじゃないかしら」

 

 赤いレッドキャップと白いルドミラは互いの健闘を祈ってルドミラに鹿肉をかなり持たせてお別れした。

 ケースに鹿の皮と肉をくくりつけて猟師みたいになって別れたレッドキャップは北部を抜けて海の方へ向かう事にした。ニケ由来のスタミナとパワーで山も直進で突っ切り山の稜線に到達したあたりで北を見返すと白い景色の中に溶け込むように誰かが歩いている。レッドキャップの視力でも限界一歩手前だ。

 

「うおっ本物か?」

 

 うっかりそんな声を漏らしつつもむこうがアークのニケに干渉しないようにしているのと、顔とか声で何か面倒ごとになりそうな予感がしたのでレッドキャップは戻って追わない事にした。

 そちらにばかり意識が行っていたせいか、単純に真っ白の世界で赤いポンチョが悪目立ちしているせいか尾根の影からラプチャーがこちらを認識し砲撃を敢行してきた。

 

「おい撃つなよ!」

 

 ラプチャーの撃った音でも当然他ラプチャーは寄ってくる。がそれより先に地鳴りのような音が響いた。レッドキャップの総重量には耐えていた尾根の氷が砲撃による破損と回避したレッドキャップの衝撃で砕けたのだ。

 だが雪崩なら上側にいるレッドキャップには関係のない話だ。問題は氷の下にあったのが山の地肌ではなくラプチャーであった事だろう。

 稜線の大部分が砕け本体に対して長い八本の足が姿を現す。ハーベスターに似たその姿はしかし足にピッケルとスキー板を組み合わせた雪上山岳仕様だ。その巨体はタイラント級と呼ばれる大型ラプチャー。

 音に釣られてやってきたラプチャーと合わせ逃げ切れるものではない

 

「こっちに来る時は大事を取ってて正解だったな」

 

 山を強行軍で超えていたらあの量産型ニケの命はなかったかもしれない。大事を取って安全なルートを考え移動をしたことにレッドキャップは内心安堵した。

 そして鹿の皮や肉を巻きつけていたケースを手放し山の下に滑り落とす。攻撃で破損するより探す方がマシだと考えたのだ。

 

「こういう時こそ言ってみるべきだな……エンカウンター!!」

 

 そう言ったレッドキャップは銃を構えながら駆け出した。

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