あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
後に[トラバース]と名付けられるタイラント級ラプチャー。多数の関節を持つ八本の足が重量を分散しつつ尾根という不安定な地形で抜群の安定性を見せつけている。
極地に特化しすぎた影響で他地域に進出できずニケも基本指揮官がついている都合わざわざ山を登るなどしない為山頂でそのまま休眠状態に移行、それが北部の気候の影響で凍りつき稜線の一部と化していたのだ。
「足場が悪いなオイ!」
対してレッドキャップは二足歩行だ。人型なのだから当然である。
足の部分は鋭利な傾斜装甲のようになっていて弾が滑り戦うフィールドの悪さから短期決戦を狙い足の付け根の本体へ銃撃しながら飛びかかる。
「マズッ」
その銃撃が持ち上げられた足から発生した防御フィールドで受け止められる。二発目でフィールドが限界を迎え破損するがもう一本の足が飛びかかるレッドキャップを串刺しにしようとしてくる。
横に銃撃を放ちその反動と体の捻りで直撃は回避、さらに他の足が刺突してくるのを見て突き出された足を蹴り付け攻撃範囲から離脱しようとするが向こうの動きが機敏すぎて離れることができない。
「いっそ滑り落ちて逃げるか?」
そう独り言を呟いて首を横に振った。見つけたからには殺しておくのが吉だ。状況を整えて戻ってきたとしてもまた休眠で雪に埋もれて行方知れずの方が困る。
「足を二本くらいにしてやればアタシと同じ苦労味わえそうだな!!」
進路上にいた小型の砲撃ラプチャーの砲身を撃ち抜いて破損させそのまま足を力任せに持ち上げて投げっぱなしジャーマンの要領で後ろに放り投げた。
哀れな小型ラプチャーにトラバースは目もくれず、銃を構えたレッドキャップに足を持ち上げ防御フィールドを展開する。
レッドキャップは走りながら撃つのではなく腰を据え膝をついて雪上で出来るだけの安定した姿勢を取り引き金を引いた。
放たれた弾丸はトラバースの防御フィールドに当たることなく、放り投げられ未だ空中にいる小型ラプチャーの装甲に浅い角度で衝突。
跳弾となり本体装甲を穿たれたトラバースが僅かに怯み足の統制が乱れた。
「隙ありってやつだな」
ウルフスベインが変形。顎を開く。
赤い奔流に防御フィールドは一撃で粉砕。即座に他の足がフォローに入り再度フィールドを展開し粉砕、展開粉砕、展開粉砕、展開粉砕、展開粉砕、展開粉砕、展開粉砕。
破壊された防御フィールドの再展開が間に合わない。攻撃に転じようとした足が吹き飛び、本体を守ろうとした足が傾斜装甲でわずかばかり耐えてから次々と吹き飛び、逃げようと向きを変えた足が吹き飛ぶ。
「同じ立場になったな。二足歩行同士仲良くしたいところだけどおしまいだ」
残り二本の足では重量を支えきれず、足場が崩れ斜面を滑り落ち始める。そんなトラバースの本体に飛び乗って接射を数度放つ。火花が飛び散りレッドキャップが飛び降りた後、もはや抵抗する足のないタイラント級ラプチャーはそのまま爆散した。
残った小型ラプチャーも軽く捻り背伸びをする。大怪我はしなかったものの結構小さな生傷ができている。レッドフードならもっと上手くやれただろうと反省した。経験がまだまだ足りない。
「ふー、一件落着。写真撮ってデータ作らないとな……ってそうだケース!」
さっきまで山の稜線だった抉れた場所を見る。そこに一旦登り落としたケースの痕跡を辿って山を降りていく。
「アレ……? これ違くね? ケースの跡じゃなくてあのラプチャーが崩した氷の滑った跡かよ……」
「こっちはさっき爆発したアイツの破片かよ……」
上の方でレッドキャップの攻撃やらトラバースの攻撃やらで色々滑落しまくった影響で跡すらもしらみ潰し化していたがめげずに探す。
「探し物はコレか?」
「うおびっくりした!」
探し回っていると木の影から声を掛けられた。そこには探していた鹿肉と鹿皮付きのケースがあった。
「おお! 誰か知らないけど悪いな! 北にいるって事は遭難したか? アンリミテッドに今日会ったしそっちの方に連れてってやろうか?」
表情はフェイスアーマーで隠されているので身振り手振りで喜びを表現するレッドキャップの目の前には純白の巡礼者、スノーホワイトが立っていた。
(嘘だろ? アークのニケは避けるはずだろ。アタシが戦闘で死にかけたわけでもないし)
アークのニケには干渉しないと思っていた為かなり精神的な不意を突かれた。
知らぬ存ぜぬのつもりで話しかけているがフェイスアーマーで隠された顔はめっちゃ焦っていた。ちょっと目も泳いでいる。
「いや、構わない……良ければその武器を見せてもらえないだろうか?」
「あー、コレはエリシオンの最新技術の機密の塊だからな。ちょっと渡すのはダメだ」
ウルフスベインの見た目は上部にあった大型スコープがないこと以外ほぼ同じだ。細かくは銃身にサバイバルナイフを着剣できるようにパーツを足してカラーリングを少し変えているくらいでほぼレッドフードの持っていた物と同じである。
レッドキャップは少し恐怖を感じていた。何に対しての恐怖かはわからないが。
「そうか……それなら仕方ない」
「代わりにさ、それのお詫びと荷物見つけてくれたお礼と言っちゃなんだけどこの鹿肉、持ってくか?」
「良いのか?」
「ああ、アタシの荷物をアンタが見つけてくれた。だからアタシはお礼にお肉をあげる。ギブアンドテイクだ」
レッドキャップの差し出した鹿肉を受け取るような手つきだったスノーホワイトの手が一転レッドキャップのフェイスアーマーを掴んだ。しかしエリシオン製で戦闘でも外れる事がない代物だ。多少引っ張られたくらいでは取れない。
「何やってんだ?」
「すまない。せっかくだから顔を見て見たくて」
「せっかくってなんだせっかくって。アタシは珍獣じゃねえんだぞ」
平静を装っているがだいぶビビっている。逆に攻め込んで引いてもらう事にした。
「アタシはエリシオンのレッドキャップ。単独で長期の偵察任務をやってんだ。アンタもテトラかミシリスのそういう任務か? というか名前は? blablaやってる?」
「…………」
よし、勝った。とレッドキャップは確信した。アークのニケに不干渉である事とレッドの言葉にぴくりと反応したりと正体を探りたい考えが拮抗しているようで、少し考え込んでいる様子だった。
「言えない事情があるなら仕方ないな。アタシだって機密の塊第九世代型ニケだからな。じゃ、お肉しっかり食べてくれよ
そう言ってそそくさと去ろうとするレッドキャップの肩が掴まれる。
「ん? まだ何か……うおっ!」
スノーホワイトがまたフェイスアーマーを剥がしにかかってきた。さっきより本気度が高い。ポンチョのフードがずり落ちて赤髪のウルフヘアが露出する。
「ちょい待て! アタシより小さいからっておチビちゃんって言ったのは謝るよ! なんで人のお面剥がそうとすんの!」
「せっかくタンパク源をもらったなら一緒に食べないか? それがあったら食べるのに邪魔だろう」
「口のところ開くから平気だって!!」
レッドキャップのフェイスアーマーが外れそうになったタイミングでうまく関節を極めてスノーホワイトの頭を小脇に抱えてヘッドロックをした。
そこでポトリとフェイスアーマーが落ちる。顔を見ようと首を回し体に力を入れるが、胸が邪魔でフェアリーテイルモデルのスノーホワイトのパワーを持ってしても見える位置まで抜け出せない。それが逆に証明のような気がしていた。
「あなたは……レッドフードか?」
「いいや違う。アタシは狼じゃない」
チクリとレッドキャップの胸の奥が痛んだ。
「なら顔を見せてくれてもいいじゃないか」
「いいやダメだ。狼じゃないのに、みんなが狼と間違えちまう」
レッドキャップは自分が恐れていた事に合点が行った。レッドキャップに変わる前は、レッドフードが一番だが、ゴッデスのメンバー達みんなが好きだったのだ。そんなゴッデスの面々にレッドフードが生きているとぬか喜びさせて、落胆させて、傷ついてほしくなかったし傷つきたくなかったのだ。
「自覚するのが遅いぜアタシ……もっと早く、スノーが視界に入った時点で自覚しとけよ」
スノーという言葉に反応しながらも、レッドキャップがフェイスアーマーを拾いつけ直すまでスノーホワイトは抵抗せずそのまま小脇に極められたままでいた。脳が老化と思考転換の連続で記憶を失っても、体が何かを覚えているかのように。