あなたの好きなニケはレッド── 作:オス゛ワルト
「え、結局blabla交換するの? あーえーと、スノーホワイトちゃんね、よろしく。テトラあたりのニケかな?」
「先ほど私の名前を知っていたようだが?」
「いいからいいからお食べ」
鹿のお肉を焼いて渡す。仏頂面だが心なしか嬉しそうな顔をしていて食いしん坊なのがわかる。
「最近少し忙しくて動物を狩る暇がなかったからありがたい」
もぐもぐと勢いよく食べているのを見てレッドキャップも少しだけ肉をかじるのを、食べながら開いた口元をスノーホワイトが凝視している。どうしても顔が見たいようである。
流石にレッドキャップもずっとそんな様子な事には気づいている。
いっそ顔を見せてそれでもなお別人であると納得してもらう方が良い気がしてきていた。このまま顔も見せず"もしかしたらレッドフードかもしれない"という不確定情報を抱え込ませ続ける方が残酷だと思った。
可能性があっては諦められないのだ。諦めが悪い事は大切な事だがレッドキャップは自分のことでそんな要らない可能性を追求してほしくなかった。レッドキャップはレッドフードが好きで、レッドフードが好きなゴッデスも好きなのだ。
満足な環境を与えられていたのに、あれくらいのニケ差別に耐えられず、お世話になってるという罪悪感をラピ達の後ろめたさを利用して解消しようとし、あわよくば指揮官が現れるまで地上に居ようという考えが自分本位の甘えた考えだったと自覚させられた。
それの後始末は自分でしなければいけない。
「…………痛っ」
話を切り出そうとした舌が肉を噛んでいる顎と連携ミスを起こして噛まれた。
思わず舌先を出して指で触るが、血は出ていない。血がでるほどやわな作りではない。
ゴクリ、と生唾を飲み込むように口の中にあったものを一気に飲み込んで、深くレッドキャップが息を吐いた。
「もう一度断っておく。アタシは狼じゃない。アンタの知ってるレッドフードじゃない」
そう言いながらポンチョを外し、フェイスアーマーを取る。
スノーホワイトが見開いた目を通してレッドキャップは自分の姿を見た。レッドフードと同じ顔、同じ瞳の色。同じ髪色。同じ声。
「……なるほど」
スノーホワイトの左手が伸びてくる。何をされても仕方がないとレッドキャップは受け入れるつもりだった。レッドフードと何かしらの顛末があったラピとは違い、生き別れたゴッデス部隊の仲間であるスノーホワイトにとってこの顔はどう映っているのかレッドキャップには分からなかった。
何かされるか分からない不安とそれを受け入れるという決意にこもった顔でスノーホワイトを見つめる。そんな様子に表情ひとつ変えず、とスノーホワイトの左手がレッドキャップの頭を撫で、頬をぷにっとつついた。
そんな行為に呆気にとられた顔を晒す。対面する相手は優しく微笑んだ。
「レッドキャップすまなかったな。勝手に期待をかけお前に押し付けてしまった。そんなに怯えなくて大丈夫だ、私はお前を受け入れる」
戸惑いはある。疑問は尽きない。悪意があってこれを為したなら断罪したい気持ちもあった。だがスノーホワイトは目の前にいるニケにそんな悪意があると思えなかった。怯えた子犬のように見えたのだ。
そしてスノーホワイトの記憶の残滓に残るレッドフードは、そんな相手を慰め助ける、誰よりもゴッデスであったニケだ。
「誰が否定しようとお前はレッドキャップだ。私と、私が知るレッドフードが保証する」
「……怒んないのかよ。アンタの大事な人と同じ見た目してんだぞ」
誰かに姿を罪となじられたわけではない、だが赦された安心感に戸惑ったレッドキャップは食い下がる。
「いじらしいな。そういう言葉が出てくる相手に怒るような趣味はない」
この時レッドキャップは"思考転換してしまった誰か"から本当の意味でレッドキャップになったような気がした。だから話しておかないといけないと思った。
「……アタシにもわからないことだらけだけど、アタシの事情聞いてくれるか?」
「聞こう。そういうお喋りは好きだ」
レッドキャップはラピやイングリッドの個人情報は伏せつつ、思考転換を起こす前の前世のような記憶があることや地上に一人で来た顛末と、自分がなぜレッドフードの姿になったのか話した。
「なるほど……ニケ化以前にレッドフードに会ったことがあるのかもしれないな」
ニケは自身が望んだ姿になる。スノーホワイトは得た情報からレッドキャップの基となった人間にレッドフードの記憶が鮮烈に焼き付いていたのだろうと推察した。
言葉の節々からレッドフードを感じるのは、彼女の元の性格がレッドフードに近かったか、思考転換の影響でそうなったのか、致し方ない事だった。
どこで知ったか? という疑問は口に出さなかった。100年近く前に死んだレッドフードを知る機会が最近ニケ化した人間にあるのか、自分を抑え込めるほどの出力のボディを今のアークが作れるのか。以前見た光とそこから現れた喋るラプチャー。
関連付けようと思えばいくらでもできる材料がスノーホワイトの中にはあったが、レッドキャップの様子を見ていると口に出せなかった。代わりに違う事に口出しする事にした。
言いにくい事を言ってくれたお礼のつもりだった。レッドフードがよく口にしていたギブアンドテイク。
「レッドキャップ、改めてその銃を見せてくれないだろうか?」
先ほどと違い素直にレッドキャップは渡した。鹿を焼いていた焚き火に照らされる銃身は艶々と輝き、丁寧に手入れされている。銃床がカビたりキノコが生えそうなそぶりもない。
スノーホワイトが銃を返すと立ち上がった。
「ついてこい」
「え?」
「聞こえなかったか? ついてこいと言ってるんだ。だが道ゆくラプチャーは全部お前が倒せ。あと畏ろうとするな。私達は地上奪還を目指す対等なニケだ」
「……わかったよ。じゃ聞くけどなんで着いてかないといけないんだ?」
「お前も言っただろう。ギブアンドテイクだ」
手を取ってレッドキャップを立ち上がらせたスノーホワイトが自信のある表情をした。
「その銃を本当のお前のものにしてやる」
その宣言を聞いてスノーホワイトとレッドキャップ、紅白の紅がガンガンと遭遇したラプチャーを撃ち倒しスノーホワイトがその様子を見るまま進んでいく。
エブラ粒子の濃度が非常に濃い地帯に入り暫く歩く。
「ここは?」
「私の拠点だ。私が破損した時の修理や武装の整備に使っている。貸せ」
レッドキャップのウルフスベインをひったくると作業台から大量の工具を引っ張り出す。そこには金属部品からラプチャーの部品まで様々なものがあった。
「この銃はレッドフードがちゃんと整備しないズボラな性格……これはよく覚えてるぞ。肩に当てるパッドの部分にキノコが生えたんだ。それを想定して本来不要な要素も足してある」
スノーホワイトが銃を弄り始め、次に炉のようなもので金属を熱し始めた。
「それとここにくるまでに見たお前の戦い方に合わせてオプションを変更する」
「アタシには刀鍛冶でもやってるように見えるんだけど」
スノーホワイトがなんか金属を叩いて整形している。レッドキャップにはなんだかシュールな絵面であった。
「銃剣を作っているんだ。以前紅蓮が使って結構好評だった気がする。お前のように紅蓮ほどではないが近接攻撃もする奴にはちょうどいいだろう」
「ガッデシアムって鍛造に使えるんだ……」
「だいたい何にでも使える」
「ガッデシアムすげぇ」
二日くらい作業を続け、満足げな顔で渡してきたウルフスベインには狙撃銃に似つかわしくないでっかい銃剣が装着されていた。
「普段使いもできるようにセレーションもつけておいた。役立ててくれ。それと変形機構と放熱機能も良くなっているはずだ」
「こんだけしてもらって悪いね、アタシは何をお返しすればいいのかな?」
「要らない。これはレッドキャップの事情を話してくれた事に対する返礼だ。足りないと思うならついでに……さっき言った紅蓮とラプンツェルに会ってほしい」
「……なんで?」
「私はお前をレッドキャップだとわかったがあと三人、お前をレッドフードと間違えるニケがいる。そのうち二人と会っておけば今回みたいに誤解されてお前が苦しむ必要がなくなる」
「合理的! だけど待って心の準備が」
「問答無用だ。二人に会う日は今日だからな」
「待った銃剣作りで時間稼ぎしてただろおい頭掴むな行くって! 行くから!」
レッドキャップはまた頭を掴まれ、今度は抵抗せずスノーホワイトに引きずられていったのだった。