あなたの好きなニケはレッド──   作:オス゛ワルト

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パイオニア

「すごいですね……! 私の知るレッドフードとお顔が一緒! 〇〇〇〇で×××な事を想像してしまいます!」

「えっ……いやちょっとそういう話題はあんまり」

「あぁ……レッドフードが私にあんな本を勧めてきた理由の一端がよくわかってきました……! 無垢な相手を染め上げる快感という事でしょうか……?」

「レッドフードはそこまで考えとらんと思うがね。それにしてもラプンツェルがそこまで驚くという事は本当に同じ顔をしてるんだねぇ」

 

 頭を掴まれるのをやめてもらった後もレッドキャップが逃げないと言っているのも構わず手を繋がれて連れて行かれた集会場所でラプンツェルが驚愕し、紅蓮が顎に手を当てながらまじまじとレッドキャップの顔を見た。

 紅蓮もスノーホワイトと同じく数度の思考転換を経験している。最初はレッドキャップに対して胡乱げな目で見ていたがスノーホワイトの説明とラプンツェルの様子に納得したようだった。

 この場でレッドフードの姿を完全に覚えているのはラプンツェルだけなのでラプンツェルが一緒というなら信じる他ない。

 そうして続けて変な事を言ってくねくねし始めたのでレッドキャップはたじろいだ。

 

「それはさておき、あなたはアーク所属のニケですので、出来ることなら私達の事は内密にしてください。私達はともかくあなたにも危険が及ぶかもしれません」

「温度差すごいな」

 

 くねくねよだれを垂らしながら妄想を口にしていたのが突如キリッとしてレッドフードを見据えた。スノーホワイトは目を瞑って我関せず、紅蓮は呑気そうに左手で頭をかきながらホホホと笑っている。

 

「大丈夫、言わないよ」

 

 レッドキャップもアークの強かであり人の心を介さない部分は知っている。彼らからすれば地上を徘徊する超高性能ニケのデータは喉から手が出るほど欲しい代物だ。分解し隅々まで調べ自分たちの技術にしようとするだろう。

 だが地上奪還の為の偵察任務な以上必要な情報は地形やらラプチャーのモノだ。ピルグリムの事を話すつもりは当然なかった。

 

「お主が口固くしててもNIMPHで中身を見られたら意味ないと思うけどねぇ」

 

 先ほどまでの呑気な態度を崩さず、しかし目を細めながらそう言った。

 

「地上に人類をとは思っているが、その人類にこちらの邪魔をされても困るからね、何故お主を連れて来たのか分からぬが、ここまで知った以上アークに帰るのは難しいかもしれないよ?」

 

 暗にレッドキャップをアークに二度と帰れないように連れ回すか何かすると言ってるようなモノだ。ラプンツェルも場合によっては仕方ないといった雰囲気を醸し出している。

 

「アタシの頭の中の事なら大丈夫だ。アークの技術じゃ記憶を覗けない」

「ん? お主エリシオンの第九世代型ニケじゃ無いのかね? アークで作ったものをアークで解析できない道理はないだろう?」

「それは方便で……アタシの体がどう出来てるかはアークでも分からない。こうやって地上に出してもらえたのもある種の温情みたいなモノだし」

 

 そこまで黙っていたスノーホワイトが目を開いて首を傾げる。

 

「体が第九世代でも前世のようなものがあるから記憶が読めないと思っていたが……」

「説明が悪かった本当にごめん」

 

 平謝りした。

 

「体のことが謎ならより危険じゃないかね? 今は地上に出ているから問題ないが戻れば分解されて調べられるかもしれんよ。温情で地上に出してくれた連中もそのリスクがあるから地上行きを許可したんじゃなかろうか?」

 

 レッドキャップが思い返せば、自分のわがままを通してくれたと考えていたが任務期間と帰還場所も指定されず情報の送信だけすれば良いのはおかしな話ではある。

 

「つまりアタシはアークに帰らず偵察情報の送信だけやってればピルグリムの情報も流れずアタシも分解の危険がなくて安泰ってことか」

「地上で安泰というのもおかしな話であるねえ。まぁ少なくとも私らがやってけてるから問題はないか。酒の肴に困りはしていないが、酒の共には困ってるからね、また会う事があったら良い酒を用意しておくよ。レッドキャップ」

 

 傘の端を右手で撫でながら紅蓮がはにかむ。その右手は先ほどまで花無十日紅の柄に添えられていたものだ。いつでも、すぐさま抜刀できるように。

 その意図に気付いていないのはこの場でレッドキャップだけだったが、あまりの無警戒さに紅蓮が肩をすくめた。

 

「ある意味美徳かもしれないけどね、地上でやっていくならもう少し警戒心がないのは懸念点か」

「他にも懸念点がある。武器のシルエットも大きく変えたしフェイスアーマーとフードを取らなければ問題ないとは思うが」

「なんだい?」

「なぜ……あぁ」

 

 ラプンツェルが思い当たる節があるらしく目を伏せた。

 

「……レッドキャップ、席を外してくれ。ここに居ないメンバーの話をする」

「わかった」

 

 レッドキャップが遠くに離れる。知識として思い当たるニケはいるが聞き耳を立てるのも不義理なので聴覚センサーを一応切って漏れた声が聞こえないように配慮した。

 しばらく自然の景色を無音で堪能しているとポンポンと肩を叩かれる。振り向こうとしてむにゅりと頬に指が刺さった。

 

「聴覚を切っててくれたんですね」

「アンタ達の内緒話を聞いちゃ悪いからな」

「ありがとうございます」

 

 頬に指が刺さったままそんなやりとりをしていると、ラプンツェルがレッドキャップを引き寄せて抱きしめた。

 

「あなたが己をどう思っているかを勝手に決めつけるのは烏滸がましい事ですが、あなたはあなたです。どうか自身を大切にしてください。レッドキャップ」

「んんうんん。んんっん」

「ふふ、失礼しました」

「いや大丈夫、それより励ましてくれてありがとうな」

 

 窒息しそうになっていたレッドキャップがタップをしたので抱き締めるのをやめてしっかりと向き合う。すこし気恥ずかしさを感じたレッドキャップだが目は逸らさなかった。

 レッドフードのことを完全に覚えているラプンツェルなりの激励だった。

 

「では、武運長久ではないがまた会えるのを楽しみにしておくかな」

「またどこかでお会いしましょう」

 

 そうしてラプンツェルと紅蓮をスノーホワイトと共に見送り、二人が見えなくなったところでスノーホワイトが口を開く。

 

「私の欠落した記憶を持つラプンツェルと検討したが、そのフェイスアーマーを外さなければ問題はない。私にしてくれたように安易にそれを外すな」

「約束はできない」

「外すなとは言っていない、安易でなければ良い」

 

 スノーホワイトがどこか遠くを見つめた。

 

「私にしたように、その決意を見せられれば納得はしてくれるはずだ」

 

 レッドキャップは小さく頷く。

 

「私達はまだ何も成せていない。クイーンは手がかりすらない───最近めぼしい物は見つけたが。レッドキャップ、お前はお前のやり方で地上をラプチャーの手から奪い返す術を探せ」

「見つけるとも」

 

 その言葉を最後にスノーホワイトとレッドキャップも別れた。振り向きはせず前だけを見つめて。

 有意義ではあるが寄り道をしていたレッドキャップは当初の目標であった海辺へ向かう事にした。海辺は人工物が存在するには過酷な環境だ。塩気のある風は建物の劣化を促進させ荒波や強風が海から吹き荒ぶ。

 

「海だ〜!」

 

 海が見えて歓声をあげてみるが砂浜のあるリゾート地のような海岸ではなく波打ち際の岩場といった風情だ。だが塩気を嫌がったのか、指標とする人工物が自然環境で勝手に崩壊したからかラプチャーの姿はない。

 レッドキャップは早速河口を探しに海岸線を移動し始めるのだった。

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