【カオ転三次】覚醒したは良いけれど、終末より前に自分の状況が終わってない? 作:エリム
今回は途中で区切ろうとしたのですが、良いところが見つからず結局駆け抜けちゃいました。
ということでそこそこな長さになっていますがご了承ください。
それではどうぞ!
離れと母屋を繋ぐ廊下を歩きながら、「一々質問に答えていくのも時間の無駄だから、私が二人の立場だったら知りたいことを教えるわ。質問はその後にして」と翡翠叔母さんは言ってつらつらと語り始めた。
それを要約すると
・この世界にはオカルトが存在する
・平坂の一族は霊能力者の家系
・今起こってる現象は翡翠叔母さんも完全には理解していないが、少なくとも霊的な存在の実体化が進んでいる
・さっきの黒い靄も悪霊の類で、今はまだ叔母さんたちも対処できるがこのまま事態が深刻化すればすぐに手に負えなくなる
・この屋敷には結界が組み込まれているので、外よりはまだ安全なはず
・今の状況の原因はわからない
・おばあ様たちもこの状況には気づいてるはずなので、合流して場合によってはこの屋敷から脱出する
・霊的な対処ができるのは、おばあ様、孝蔵叔父さん、翡翠叔母さん、真治叔父さん、幸太郎兄ちゃんの5人。治癒や援護などのサポートなら千秋叔母さんと六花お姉ちゃんもできる
とのことだった。
ある程度予想通りではあったけれど、屋敷には結界が組み込まれてるってソレ、この異変にも絶対何かしら関わりあるよね。厄ネタの匂いしかしないよ・・・
あと、六花お姉ちゃんはサポートとは言えオカルト側なのか。
「・・・という感じね。詳しくは母さんに聞いて頂戴。こんなことになった以上、隠しておく意味はあまりないし教えてくれると思うわ」
翡翠叔母さんが一通りの説明を終えると、ちょうど廊下から母屋に入る扉の前に着いていた。
質問は後からってする時間ないじゃん・・・もしかして狙ってた?
「さて、まずは大広間を見に行きましょうか」
と、翡翠叔母さんが扉を開けようとしたその時ー
ードガァン!!!ー
炎が扉を吹き飛ばしてこちらに襲い掛かってきた!
「え!?」
「っ!
「
母様は驚いた声を上げ、ボクは何もできず、咄嗟に反応した翡翠叔母さんが両手を突き出してその炎を受け止め、そのわずかな間に後ろにいた真治叔父さんが
「ぐっ・・・全員大丈夫か?」
そしてまだ煙がかって見にくい吹き飛んできた扉の方を警戒しながら安否を訊ねてくる。
「私は無事ですけど・・・翡翠姉さんが・・・」
「ボクも大丈夫です。けど・・・」
守ってもらったボクと母様は無事だ。
しかしー
「っ・・・ええ、何とか生きてはいるわ」
炎をまともに受けた翡翠叔母さんは見るからにボロボロだった。
服は至る所が焼け焦げ身体中煤だらけ。両腕に関しては明らかに重度の火傷を負っているし、口から血が出ていることから受け止めた衝撃かなにかで内臓がやられているのかもしれない。これでは自力で動くことも難しいんじゃないだろうか。
それに真治叔父さん自身も、炎にさらした足はズボンが焼け落ちて皮膚は赤くなっていた。見るからに近接型の真治叔父さんにとって、足にダメージがあるのは結構な不安要素なのではないだろうか?
たった一発でこの惨状。
ーオギャァ!!!ー
煙の中からこの状況を生み出したであろう存在がこちらに向けて突撃するように飛び出してきた。
「・・・蜘蛛?」
母様の呟きどおり、それは赤ん坊のような声をあげる巨大な蜘蛛のような化け物。
その蜘蛛の突進を真治叔父さんは正面から迎え撃ち、「ハッ!オラァ!」と叫びながら殴り飛ばすことで間合いを取る。
「チッ・・・火を飛ばしてきてる時点で薄々予想していたが、殴った手ごたえがある。やはり怪異が実体化しているのか」
一息入れるように真治叔父さんはそう呟くと、怪我をしているとは思えない力強さで床を踏み込んで今度はこちらの番だと言わんばかりに格闘戦を蜘蛛に仕掛けていく。
その隙に、ボクと母様は翡翠叔母さんをできるだけ優しく引きずって母屋の方から距離をとった。近くにいるには危険だし、邪魔になると思ったからだ。
「持ち上げられなくてごめんね翡翠姉さん」と謝る母様に対して、翡翠叔母さんは「いいのよ。ありがとう二人とも」と痛々しく微笑んで返して戦闘の方に視線を向ける。
「けど、たった十数分でここまで状況が酷くなってるなんて・・・これじゃ離れに撤退するのも愚策でしょうね」
「実体化した怪異なんて、私もあの人もどうにかすることはできないわ」という翡翠叔母さんの言葉通りに、こちらから見たらとんでもない人間離れしたパンチや蹴りも蜘蛛には大したダメージを与えることができていないらしく、徐々に真治叔父さんが劣勢になっている。
「外もダメなのよね?」
「ええ。さっきは玲奈には見えなかったでしょうけど、実体化しきっていない怪異の影のようなものが外には沢山いたわ。今の状況的にあれは全部実体化してると見るべきね」
母様の離れがダメなら外はどうなのか?という質問に翡翠叔母さんはそう答える。
さっき見た黒い靄がその”怪異の影”というものなんだろう。
確かにたくさんあった黒い靄の塊が化け物に変わっているのなら、外はここよりも危険だ。
それに離れは庭から簡単に入れる。組み込まれている結界というのを突破していたら、離れはあの蜘蛛のような類が闊歩しているだろう。更に言えば、そうなっていればここもいずれ挟み撃ちにあうだろう。
状況は限りなく詰みに近い。
「・・・おばあ様たちは大丈夫かな?」
「わからないわ。燈子母さんなら私よりも術の練度や知識は上だけど、実体化した怪異とやりあえるのか・・・」
希望のある可能性としてはおばあ様や孝蔵叔父さんが助けてくれることだけど、どうやら望み薄らしい。
こんなことなら無理にでも覚醒修行に参加しておくべきだった。多少知識があったところで、力がなければこんなのどうすることもできない。
後悔は後からするものだとはよく言うけど、ボクは今、身をもってそれを実感した。
「グハッ」
「あなた!」
「真治義兄さん!」
「真治叔父さん!」
そんな絶望的な状況の中、遂に真治叔父さんがクリーンヒットをもらい床に崩れ落ちた。
そしてー
「ぐわああ!!!!!」
蜘蛛はそんな真治叔父さんを
「ッ!!!」
「あなた!
母様は声にならない悲鳴を上げ、翡翠叔母さんは何かしらの術を使おうとしたのか詠唱のようなものを唱えていたけど、それは真治叔父さんの叫びに遮られた。
「こいつが・・・俺・・・に・・・」
しかし、その叫びが最後の力だったのか、どんどん言葉は途切れ途切れになっていきー
「夢中の隙|「【ジオ】!!!」《我らが黄泉の雷神よ!悪鬼を調伏せんがため伏雷の御力を遣わしたまえ!》・・・!?」
「ギャオ!?」
力尽きようとする間際。母屋の方から声とともに一条の雷光が現れ蜘蛛へと着弾。その攻撃が効いたのか蜘蛛は真治叔父さんから口を離した。
「なっ!?」
「え!?」
「っ!おばあ様!」
急な助けにボクたちは四者四様に驚き、雷光の飛んできた方を見るとそこには小刀の切っ先を向けた、普段に服の上から黒い小袖を羽織ったおばあ様が立っていた。
「オギャアアア!!!」
雷にのたうち回りながらも、食事の邪魔をした者へと怒りを向ける蜘蛛。
だが、おばあ様はそんなものには一切動じず、小刀を持つ手とは逆の手で履いていたスリッパを脱ぐと
「ほれ!お前の母はこれじゃ!」
と肩越しに奥の方へ放り投げた。
すると蜘蛛は「オギャァ!!!」と大きく叫び、物凄い速さでその方向へ向かっていき消えていった。
それを見届けたおばあ様は懐に小刀を納刀してしまうと、足早に真治叔父さんのそばに行く。
その光景にとりあえず安全になったと考えたボクと母様も、母様が翡翠叔母さんを背負ってそばへと向かう。
「真治殿、間に合わずに申し訳ないの・・・。もう死の運命を避けることはかなわんが、せめて幾ばくかその時を遅らせ、苦しみなく逝けるようにしようかのぅ」
「
「感謝します。母刀自様」
「うむ」
「母さん・・・」
「ぐっ・・・」とうめきながらおばあ様に声を掛ける翡翠叔母さんに、「翡翠、お前も頑張ったようじゃの。わしらは少し離れておくから最後の語らいをせぃ」と真治叔父さんにかけたのと同じ術だろう術をかける。
そして、母様に翡翠叔母さんを下ろさせるとボクと母様を連れて二人から少し離れた。
「さて、玲奈と悠希もお疲れ様じゃった。まさかこのようなことになるとは夢にも思わなんだ」
「偉いのぅ」とボクの頭を撫でるおばあ様に、母様は孝蔵叔父さんたちや今の状況は何なのか。何故このようなことを教えてくれなかったのかを尋ねた。
「うむ。まぁ当然の疑問じゃな。まず、孝蔵たちじゃが・・・残念じゃが殆どが黄泉へと旅立ったのを確認した」
「そんな!?」
「六花お姉ちゃんたちも!?」
孝蔵叔父さんたちが亡くなったと聞いて、ボクと母様は思わず声を上げた。
そんなボクたちをおばあ様は「一先ず落ち着け」と宥めた。
「殆どと言ったじゃろう。確かに孝蔵たちはわしの目の前で逝ったり亡骸を見つけたりしたがの。まだ六花と紅音、それに・・・孝太郎は亡骸を見ても旅立ちを見送ってもおらん。まだ希望は残っておるじゃろう」
「そうですか・・・まだ全滅ではないんですね。けど・・・兄さん・・・義姉さん・・・おばちゃんたち・・・」
「六花お姉ちゃんに紅音姉ちゃん、孝太郎兄ちゃんはまだ生きてる可能性がある・・・」
勿論、孝蔵叔父さんたちがなくなったというのはショックだし悲しいけど、実際に見てないからか実感がわかない。
それなら、とりあえずは希望の方に目を向けていよう。泣くのは後でもできるし、なによりまずは生き残ることを優先しなくては。
「さて、ショックは理解できるのじゃがそれは後じゃ。次は今の状況じゃな」
ボクと母様がある程度落ち着いたのを見計らって、おばあ様は現状を話しだした。
「今起こってる現象は“異界化“と呼ばれるものじゃ。異界とは此の世とは違った別の界。一番わかりやすいのは彼の世じゃの。つまり異界化とは、此の世と彼の世が混じり合うなり置き換わるものじゃと考えればよい」
ここで一区切りを入れて、おばあ様は指を3本立てる。
「元々ここには向こうへ繋がる門のようなものがあっての。これに対処するために3つの結界があるのじゃ。まずは門そのものを封印する結界。次にそれを補強するための屋敷の結界。最後に…屋敷の周りを覆う蓋をする結界じゃ」
最後の結界のことを話す直前、おばあ様は一瞬だけ苦虫を噛み潰したような表情をしたけどすぐに元に戻った。
ちょっと気になりはするけど、ここは黙って続きを聞こう。
「そしてこの3つの結界の内の2つ。門の結界は完全に壊れ、屋敷の結界も機能不全を起こしておる。何故かはわしも確かなことは言えんがの。じゃから今まともに効力があるのは蓋の結界のみなのじゃが···」
そこまで言っておばあ様は目を瞑り、「ふぅ」と溜め息を一つついた。
「蓋の結界はしっかりとその役目を果たし過ぎておってのぅ。外と中がきっちり別れ過ぎたせいで、異界化の進行がとんでもない速さで起きておる。それこそ、本来は此の世では存在を保てない魑魅魍魎が一刻も経たぬうちにそこら中に顕現するほどにの」
「ここまで付いてこれておるかのぅ?」というおばあ様の問いかけにボクはスレの情報や“俺“のオタク知識もあって頷いたものの、母様は「な、何とか」と怪しそうだった。
これにはおばあ様も「今まで教えておらなんだし、仕方無いのぅ」と苦笑している。
「要は今の屋敷は化け物が歩き回る危ない場所という事じゃ。ちなみに、先程の蜘蛛は佐渡に伝わる【ウブ】という怪異での。他にはここに来る前に【ガキ】も見かけたの」
「無事にここから出ることができたら調べてみるのも良いかもしれぬな」とおばあ様の言っているが、ボクは【ウブ】と言う名前を聞いて愕然とした。
【ウブ】それは“俺“が遊んでいた女神転生シリーズの外伝作品で出てきていた。
確かレベルは5。作中では序盤に出てくる弱い悪魔として扱われていた筈だ。
勿論、作品によって扱いは違うだろうし、そもそもここは現実なのだから基準の一つにしかならないけど、それでもスキルなどの推察はできる。
恐らくさっきの炎の攻撃は【アギ】。メガテン系列では火炎属性の
それなのにボクたち4人は纏めてやられる可能性があった。
事実、ボクたちを守るためとはいえ翡翠叔母さんは大怪我をして、真治叔父さんの命の灯火は間もなく消える。
頭では分かっていたつもりだったけど全然だ。
この世界では力がなければあっさり死ぬ。むしろ苦しまずに死ぬことができれば幸せなのだということを。
ことここに至って、ボクは漸くソレを実感を持って理解した。
「さて、後は何故に今までこういう事をお主らに教えておらなんだかだったの」
そんなボクの内心を知ってか知らずか、おばあ様は最後の質問の答えを話し始めた。
「まぁこれは背景は複雑なのじゃが理由は簡単じゃ。その方がお主らもわしらも安全だったからじゃ」
「私たちだけでなく母さんたちも?」
母様のオウム返しに「うむ」と頷くおばあ様。
それに対して母様ははてなマークを浮かべているけど、それはボクも一緒だと思う。
世の中には知らない方が幸せな事が存在するのは知っている。
だからボクと母様だけなら何となく理解はできるのだ。
けれどそれがおばあ様たち、つまりおそらくは平阪の一族の安全に繋がるのか?
「詳しくは長くなるので省くがの。お主らは悪魔や悪霊、不幸といった俗に言う“悪いモノ“を誘引する霊質なのじゃ」
「私たちが···」
「“悪いモノ“を誘引する···?」
流石親子という感じに分割して要点を口にするボクと母様をおばあ様は「そうじゃ」と見つめる。その瞳には何か決意を決めたような意思を宿らせて。
「それはこの一族に数代に一人生まれる霊質での。じゃからある程度は性質や特徴がわかっておる。そのうちの一つに“本人が知らないものは殆ど誘引しない“というのがあってな。そのために霊能のことは教えぬことになっておったのだ」
「要はわしらも自信が無かったのだ。霊能も過去の代に比べれば弱いからのぅ」とのことだけどちょっと待ってほしい。
“知らないものは殆ど誘引しない“というのは逆に“知ってしまえば誘引する“ということだろう。だからおばあ様たちは霊能関係の情報を隔離した。
しかし、ボクはここに来る前にスレの情報などからその辺りのことを知ってしまった。
悪魔、異界、メシア教、終末などなど。
ということは、もしかして今の状況はボクが引き寄せてしまったのではないか?
一度そう思ってしまうと否定したくても否定する材料がなく不安が大きくなり、それから逃れるためにまた考える。
そんな思考の無限ループにより、不安と罪悪感が一気に膨れ上がって冷や汗が止まらない。心臓は早鐘を打つようにドクドクと脈打ち、呼吸は過呼吸を起こしたように浅いものを何度も速く繰り返す。
そんな風にパニックに陥ったボクだったが、ふと身体を包む暖かい感覚と頭の上のヒンヤリした感覚に気付き少し落ち着くことができた。
「落ち着いた(かの)?」
「うん。ありがとう母様、おばあ様」
その2つの感覚の正体はボクを抱きしめる母様と頭を撫でてくれたおばあ様だ。
二人にお礼を言って、一度大きく深呼吸をする。
「ふぅ…よし」
落ち着いた。
そうだ。こういうのは今考えても仕方ない。色々片付いたらゆっくり考えればいいんだ。
「ごめんなさい。お話の途中で」
「良いのじゃ。いきなりこんなことを言われてわけがわからぬだろうからな。じゃがこうなってしまった以上、知らぬほうが危ないのじゃよ」
「一気に全部受け入れなくたっていいのよ。私なんて半分もわかってないんだから」
「玲奈よ。お主はもっと理解せい」と母様に突っ込みを入れると、おばあ様は翡翠叔母さんの方を見やる。
「さて、他にも色々あるのじゃが・・・あっちも頃合いのようじゃ。助ける手立てがない以上、最期の旅立ちは皆で見送ってやらねばの」
付いてこいとジェスチャーをして真治叔父さんの方へ行くおばあ様。その後ろにボクと母様は続いていった。
「母さん・・・」
「母刀自様・・・」
おばあ様が近づくとそれに気づいたようで、話していた真治叔父さんと翡翠叔母さんは顔を上げた・
「よい。楽にせい。そろそろ刻限じゃと思うのじゃが、真治殿どうかのう?」
「そうでしょうな。段々と眠気に抗いがたくなってきました。最期に翡翠とこうやって痛みなく話せたこと、本当に感謝します」
そう言って笑顔を浮かべる真治叔父さん。
その表情に苦しみの色はなく、腰から下を見なければ本当はどうということはないんじゃないかと思ってしまいそうだ。
「・・・ねぇ母さん。本当に真治義兄さんは助けられないの?霊能力で治したりとか」
母様も似たようなことを感じたのか、おばあ様にそんな無茶なことを訊ねている。
その問いに口を開きかけたおばあ様を、「俺が言いますよ」と真治叔父さんは制止した。
「玲奈ちゃん、その気持ちはありがたいがな。霊能も万能ではないし、こんなことはこの世界ではありふれている。寧ろ幸せな方なんだよ。俺は」
「そう・・・ですか」
母様も無茶を言っている自覚はあったようで、真治叔父さんの言葉を聞いて引き下がった。
「そうだ。ゆう坊」
「え?はい」
急に声をかけられ、油断していたのもあってちょっと間が抜けた返事をして真治叔父さんに近づく。
一体なんだろう?
「もしも紅音とゆう坊が無事に生き残ることができていたら、今まで通りでいいから紅音と絡んでやってくれ」
「そんなことなら頼まれなくてもです。寧ろ嫁にしてくれとか言われるんじゃないかと思いました」
「ハハハ!流石にそんなことは頼まん!ただ、紅音は寂しがりな所があるからな。翡翠にも頼んだができるだけ絡んでやってくれ。これは玲奈ちゃんや母刀自様にもお願いしたい」
そんな頼みを聞いた母様たちは
「もちろんです!」
「無論じゃ。紅音もかわいい孫に違いはない」
とその頼みを快諾する。
「あぁ・・・これで一先ず心配はなくなりました。翡翠・・・」
それに納得がいったのか、「ありがとう」とボクに囁くと翡翠叔母さんを呼ぶ真治叔父さん。
「はい。何ですかあなた」
「今まで苦労を掛けたな。先にあっちで待っているから、できるだけ・・・遅く・・・来てくれよ・・・」
「っ!あなた!」
その言葉を最期に真治叔父さんは息を引き取った。
その最期の表情は晴れやかなものだった。
「・・・形見を持ったらいくぞい」
短い黙祷を捧げ、そう声を掛けると翡翠叔母さんを背負うように母様に指示を出すおばあ様。
遺体は荷物になるため置いていくとのことだ。出来れば埋葬したいところではあるけど、状況的に仕方ない。
「準備できたかの。目指すは応接室の和室じゃ。あそこには破魔矢や清め塩などがあるからの。それを回収してー」
母様が翡翠叔母さんを背負ったのを確認して目的地を告げたおばあ様だったけど、その言葉の途中で「走れぃ!!!」と叫んで小刀を抜き放った。
その瞬間、背中にものすごい突風受けてボクは大広間の隣の壁まで吹き飛ばされた!
「ーー」(グハッ)
壁にぶつかりうめき声をあげるー筈なのに、ボクの口からは吐息しか出てこなかった。
「ーー」(なにこれ・・・?母様たちは?)
息を吐いて口を動かしても喉は震えることをせず、ただ吐息が出てくるだけ。
どうやら声を出すことができなくなったらしい。
そして廊下の方を見ると、母様が何とか翡翠叔母さんを背負ったままこちらに駆け寄ってきて、その後ろでおばあ様がまた雷の術を放っていた。
「悠希!大丈夫!?」
「ーー」(なんとか・・・)
母様に返事をしようとしてやはり声が出なかったので頷いておく。
「これは・・・祈り殺しの呪?玲奈、悠希くんは多分喋れないわ」
「そうなの!?」
「(コクコク)」
母様の背からボクを見た翡翠叔母さんが一発で状態を見抜いてくれた。
どう伝えたものかと思っていたからありがたい。
「何をしておる!一旦散らしたがすぐにあれは戻ってくるぞ!」
そしてすぐにおばあ様もやってきたけど、その足音がおかしい。
コンコンとまるで木に何かを叩いているような・・・!?
「ーー!」
「!?母さん!その右足は!?」
ボクが指さしたことでおばあ様の異常ー右足が凍り付いていることに気づいた母様が驚いて訊ねる。
「気にするでない。術の対価じゃ。それよりも「提案があります。母さん」・・・なんじゃ?翡翠」
足のことなどどうでもいいと先を急ごうとするおばあ様に対し、翡翠叔母さんが待ったをかけた。
というか術の対価って・・・確かにすごい術ばかりだったけどそんな身を捧げるようなことをしたら本末転倒じゃないの!?
「このままでは私はただの荷物です。玲奈の体力も奪ってしまう。ですので、ここに置いて行ってください。足止めをします」
「ちょっと何を言ってるの姉さん!?」
「玲奈は黙ってて!」
「っ・・・」
とんでもないことを言う翡翠叔母さんに、母様が声をあげるもののそれ以上の剣幕で黙らせられてしまった。
けど、声を出せたらボクも同じことをしたと思う。
さっき真治叔父さんを亡くしたのに翡翠叔母さんまで・・・
「代わりに悠希くんの封印を解きましょう。今のままではジリ貧です。どうなるかは分かりませんが賭けるべきでは?」
「・・・それは確率の低いここの皆が助かる可能性を捨てて、最悪一人でも一族の者を残すということかの?」
「一族としてみるのであれば」
「わしにこれ以上血族を見捨てよと言うか」
「はい。私も心苦しいですが」
「・・・」
問答の末、黙り込んだおばあ様。
黙ってしまったということは悩んでいるのだろう。
それにまた気になるワードもあった。
ボクの封印って一体何のこと?
「・・・玲奈、翡翠を下ろせ」
「そんな!」
「もたもたするな!ここで全滅する気か!」
短くも長い沈黙ののち、おばあ様の下した決断は提案を受け入れることだった。
母様はそれに反発するものの、おばあ様に一喝されてしまい気勢が削がれる。
「ありがとう。玲奈。だけど大丈夫、私もみすみす死ぬつもりはないわ。だから下して?貴女は悠希くんを守りなさい」
更に翡翠叔母さんからもそう言われて、「ううぅ・・・」と唸りながらその背から翡翠叔母さんを下す。
そしてそのままボクを抱きかかえた。
「そう。これでいいの。さぁ行きなさい!」
床に座ったままそう叫ぶ翡翠叔母さんに、おばあ様は「最後まで諦めることは許さん」と言葉を投げ、「いくぞ!」と母様の腕を引っ張って走り始める。
「絶対にまた会おうね!姉さん!」
母様もそう言葉をかけて、おばあ様に連れられて走り始めた。
廊下から応接室の和室までは歩いて2~3分。
それを警戒しながらとはいえ走ったのだから1分程で着くことができた。
「着いたのぅ。さて、儀式に必要なものは・・・」
そう言って部屋の中を漁りだしたおばあ様に続いて、ボクと母様も中に入る。
「奥の控えの間で待っておれ」という指示に従って、母様がもう一つ奥の和室に続く襖を開けたその時だった。
「キャ!」
「どうし・・・っ!
奥の間の開いていた窓から何かが飛んできて、咄嗟に母様がボクを抱えてしゃがみ込む。
そして、その声に反応したおばあ様は状況を見るとすぐに術を使い、更に開いていた窓を閉めた。
「大丈夫かの?すまぬ。油断しておった」
「私は大丈夫です悠希は?」
「(コクコク)」
「そうか、それは何よりじゃ。すまぬが少し待っておれ」
ボクと母様の無事を確認して、おばあ様はまた応接室側に戻っていった。
「・・・なんだか大変なことになったね」
「(こくり)」
隅にあった座布団を一枚使い、ボクを膝の上に乗せて頭を撫でながら呟く母様。
確かにこの数十分でいろいろなことが起こりすぎた。
異界化していく屋敷にウブとの戦い。たくさんの一族の死や行方不明。
それに母様にとっては知らなかったオカルトもある。
きっと心のうちはいっぱいいっぱいなんだろう。
「(スリスリ)」
言葉を発することができないので、母様の頬を撫でることでなんとか「大丈夫だ」と伝ようとしてみる。
その思いが通じたのか、「ありがとう」と母様は微笑んでくれた。
「よくわかんないことが多いけど、何があっても私は悠希のそばにいるからね」
そんな感じで母様と話すこと暫く。
「待たせたの」とおばあ様がこちらにやってきた。手には数珠のようなものに何かの入った袋が二つ。それにお供え用の台と半紙を持っている。
「少しこの部屋の結界を弄ったのじゃが、時間がかかってしもうた。さて、それでは簡単にこれからを説明するかの」
よいしょとボクたちの前に座って持ってきたものを置くと、おばあ様はボクを見つめて話し出した。
「これから行うのは悠希に施してある封印を解く儀式じゃ」
「悠希に封印・・・ですか?」
「そうじゃ。さっきお主らの霊質のことは話したの。実はの玲奈。今のお前にはその霊質は無い。悠希がそういうものを全部持っていってしまっておるからの」
「え!?」
(なんだって!?)
母様の驚きとボクの驚きがシンクロする。
ボクは母様のそういったもの、恐らくオカルト関連の才能や特徴を引き継いでいるということだよね?
「そのあたりは今は置いておくのじゃ。儀式のあとでわしの日記を見ると良い。今大事なのはそうして今から封じてきた悠希の才能や力を解き放ち、知識を授ける儀式を行うということじゃ」
そう言っておばあ様は袋の一つから白いチョークのようなものを出すと、「よっこいしょ」と立ち上がりボクたちの周りに魔方陣を書いていく。
というか、その置いといたことが知りたいんだけど!?
「玲奈よ。昔教えた祈り言葉は覚えておるな?」
「はらえたまえってやつ?」
「そうじゃ。お主はそれをずっと唱えておれ」
「わかったわ」
そんなこんなで魔方陣が書きあがり、もう一つの袋の中身の灰のようなものを小刀の刃にかけつつ母様にそう指示するおばあ様。
「悠希の封印はそのお守り袋を中心として行っておる。これを特定の手順で破棄するのじゃが、今までの反動が悠希には襲ってくるじゃろう。それには下手に逆らわず受け入れるのじゃ」
「よいな?」と言われても、良いも何も拒否権なんて存在しない。
そもそも、ボクにそんな力があるのなら望むところではある。
「よし。それでは始めるとするかの。この足のように何かしらの術の反動があるかもじゃが気にするでないぞ」
ちょ!?サラッと何言ってるの!?
そんなボクの抗議も母様に抱きかかえられて封殺される。
「高天原に神留り坐すー」
おばあ様が詠唱し始めると、部屋の空気が変わった。
そして胸の奥底から何かよくわからない感覚が込みあがってきて視界の端にちらちらと火の粉と雪のようなものが見え始める。
・・・え?火の粉?
雪みたいなのはおばあ様方からのだけど、こっちは・・・
「祓え給え 清め給えー」
見上げるとニコッ笑い返してくれる母様だけど、その背からは火の粉が吹き上がっている。
(気付いてないの!?一体どういうことなの!?)
そんな混乱とおばあ様の言う通り反動なのか意識がふわつき始めながら、儀式は進行していった。
そして冒頭へー
最後は少し駆け足気味だった気がしますがご了承ください
さて、例の謎のお守り袋については主人公の霊的拘束具でした。
そんなことをした経緯などについて、詳しくは次々回の予定ですが大雑把には作中でおばあ様がオカルト関連を教えなかった理由と同じで、“主人公や一族の安全のため“です。
悪魔避けなどの効果は結果として備わっていますが、本質的には「避けるもの」ではなく「抑えて隠すもの」です。
ちなみに主人公は「自分が知識を手に入れたからこの状況を引き寄せたのではないか?」と思っていましたが、あの時点では封印されているため異界化には関係ありません。
寧ろ、もし覚醒修行にこちらをブッチして参加していた場合、戻ってきたら家族親類全滅ルートでした。
もっとも短い道中で悪魔に襲われたのは、異界化の影響で漏れ出ていた部分もありますが。
あと、本当に裏設定ですが、真治叔父さんの本来の戦闘スタイルは素手ではなく剣闘です。
得物を持ってきてさえいれば、ウブを倒すことは出来ずとも時間稼ぎは余裕でできるぐらいの実力はあります。
そこは完全に運が悪かったです。
さて、次回は箸休めに掲示板回の予定です。
感想、誤字報告、質問などはお気軽にどうぞ!
それではまた次回!