【カオ転三次】覚醒したは良いけれど、終末より前に自分の状況が終わってない? 作:エリム
ー夢を見ていた
ー長いようで短い、”俺”がボクになってからの日々
ーだけど、夢はいつか覚めるもの
ーさぁ、目をあけよう
ー悪夢よりも質の悪い、現実と向き合う時が来た
「・・・ん、んぅ」
暗い。
どれくらい意識を失っていたのかわからないものの、目を覚まして最初に認識したのは視界の暗さだった。
多分、意識を失う前よりも暗い気がする。
意識が落ちる前は窓の障子や襖の外が赤かった筈なのに。
それに妙に息苦しいし鼻がむずむずしてたまらない。
ていうか、これ。顔に布か何かがかかってる?
記憶の最後では母様がボクを抱いていたはずだけど・・・って!
「母様!おばあ様!」
そうだ!母様やおばあ様は無事なのか!?
急いで顔の布のようなものを取ると、そこはちゃんと控えの和室だった。
けれど・・・
「あ、あぁ・・・これ・・・」
それよりもボクの視界に飛び込んできたのは、
その氷像はとても精巧で、まるで人間がそのまま氷になったような・・・
いや、現実逃避は止めよう。
おばあ様は術の対価だと言って右足が氷になっていた。
それに儀式の最中も徐々に凍っていた。
状況証拠からして、この氷像は
「儀式の後にどうなっているかわからない」と言っていた時点で、おばあ様は自分がこうなることを察していたんだろう。
「じゃあ、母様はもしかして・・・」
おそるおそる手に持った顔にかかっていたモノを見る。
それは、
「あ、あぁ・・・うわあぁぁぁああ!!!」
その事実を直進して、ボクはとうとう抑えることができずに泣き叫んだ。
「なんで・・・!こんなことになるならボクの封印なんて解かないでよかったのに!」
わかっている。これは八つ当たりだ。
おばあ様は翡翠叔母さんの提案を受けて、それが最善だと思ったからボクの封印を解く儀式を執り行ったのだ。
けれど
「だからってこんなのないよ・・・」
それに母様は何故こんなことになっているのか。
母様は霊能の才はないということだった筈なのに、これはいったい・・・
『あら?やっと目が覚めたの?キミが寝坊なんて珍しいね』
「誰!?」
ふとその時、どこからか知らない声が聞こえてきた。
いや、聞こえてきたというよりボクの意識に直接語りかけているような、体験するのは初めてだけどこれはテレパシー?
それに初めて聞く声の筈なのに初めてのような気がしない。まるで昔から知っているような・・・?
『こっちこっち!下の間・・・応接室の方の襖の左端だよ!』
声の主はボクが困惑しているのを自分がどこにいるかわからないからだと思ったのか、そう言ってきた。
実際はそれ以外にも色々と困惑する要素がたくさんあるけど、とりあえずその声のいう場所を見てみる。
そこにいたのは、とぐろを巻いた赤い体に金色の瞳をした一匹の蛇だった。
「へ、蛇?」
『う~ん・・・40点!まぁ今の姿じゃ仕方ないか』
そう言って(?)蛇はボクの方にやってくると、「まぁ楽に座りなよ」と尾の方で自らの前を示した。
「は、はい・・・」
不思議なこの状況で、荒れていたボクの感情は落ち着きを取り戻していた。
というか、この蛇(?)のフレンドリーさと謎の親近感に毒気を抜かれたというのが正しいのかな?
一先ず言われた通りに前に座ると、蛇は「うんうん」と嬉しそうに頭を上下に揺らした。
「さて、自己紹介をしようか。わたしは君たちの祭神の一柱にして一側面。裂雷神だよ!」
そう言って胸?を張る蛇、改め裂雷神。
え?というか裂雷神って・・・
「もしかして・・・ほの様なんですか?」
ほの様ー
『そうだよ。もっとも霊格がだいぶ下がってるし、今の状態だとそこらの蛇との違いなんてこうやって意思疎通できることぐらいだけど』
その
そんな存在が何故こんなところに?そしてどうしてこんなにフレンドリーなのか?
「ほの様、あなたがほの様だということはボクには真贋が見抜けないので信じることにします。ですが、あなたがここにいるのか?どうしてボクのことなどをを知っているのか?それを教えていただけませんか?」
一応、祭神を名乗る存在なので丁寧に訊くことにしたけれど、『似合うけどそんなに畏まらないで』と一瞬でそれを止めるよう言われてしまった。
それに対してちょっとムッとすると『うんうん。それくらいでいいよ』と気に入られる。
少なくともこのほの様ー裂雷神は畏まられるのが嫌らしい。
『さて、それだけしか訊かなくていいの?他にも知りたいことが色々あるだろ?」
「それはまぁ・・・そうですけど」
『そうだよねそうだよね!』と喜色を感じさせる思念を送ってきながら、ほの様はおばあ様の氷像の方に近づいて行った。
『まあ時間もないし弄るのは一旦ここまでにしようか』
おばあ様の氷像が着ている小袖に潜り込みながらそう言って、ほの様は何かを咥えて戻ってくるとそれをボクに渡してくる。
「これは・・・鍵?」
渡されたのは経年劣化なのか少し黒ずんだ鍵だった。
大きさは小さくてどこかの部屋や扉の鍵ではなさそうだけど・・・
『それは燈子・・・君のおばあ様の部屋にある戸棚の鍵だよ。そこに君の知りたいことの大半があるんだけど・・・まずは受け継いだ知識を定着させよう』
そういうなりボクの腕にガブリと噛み付き『気をしっかり持ってね』とのたまうほの様
「痛っ!?ちょっ、いきなり何するんで・・・うっ・・・」
それに抗議しようと声を上げたものの、その噛み口から何とも言えない何かが流れ込んでくる感覚とともに頭の中に
その知識の奔流に文句を言うような余裕はなくなり、ボクはただ意識を持っていかれないように踏ん張るしかなかった。
やがて意識どころか自分すら持っていかれそうな情報の濁流は収まり、浅くなった呼吸を整えて無意識に瞑っていた瞼を開く。
『お!最低限とは言えよく意識を落とさなかったね』
そこにはいつのまに離れたのかボクを見ながら『感心感心』と尾をふりふりし、口周りをを舌でペロペロしているほの様がいて、ちょっとイラッとしたので睨むと『そんな顔しないでよ』ととぐろを巻きなおしていた。
ちなみに嚙み付かれたところからは少量とはいえ血が出ている。
「ほの様・・・どさくさ紛れに血を吸いましたね?」
『まぁ
『テヘペロ☆』と擬音が聞こえそうな感じに言ってるけど、勝手に血をもっていかないで欲しい。
ほの様は黄泉の存在である以上ボクがそっちに近づきすぎるのもあるし、そもそもこのほの様がここにいる理由は・・・
「今の言葉と受け継いだ知識のおかげで察しました。ほの様、あなたは母様に喚ばれたんですね」
ほの様の目を見つめてそう聞いてみる。
母様の霊能の才はおばあ様曰く、ボクが殆ど持って行ってしまったらしい。
つまり、元々は才能があったのだ。
そして実は才能が完全になくなったわけではなかったとしたら、この
『正確には祈っていた玲奈にわたしが持ちかけた取引の結果だけどね。玲奈の力じゃどうやっても召喚術なんて使えないからからこっちでいろいろ合わせなきゃいけなかったし。いやけど、母の愛情というのはすごいよ。確かにこちらから持ち掛けたとはいえ、自分一人分の命だけでいくら霊格を下げた低位分霊ではあっても神格を顕現させるんだから』
ほの様が訂正を入れるけど、結果としては【母様がほの様と引き換えになった】。これに変わりはない。
多分、ぼくを抱きかかえながら燃えていたあの時。あの時にはもうその取引を交わしていたんだと思う。
母様・・・なんでそんなことを・・・
『玲奈から伝言だよ。【私がこのままいても足手まといにしかならなそうだから、私の代わりにほの様に来てもらうね。私の勝手な考えだけど、これが今は正しいと思うから。悠希には寂しい思いをさせちゃうし、その怒りはいつか悠希がこっちに来た時にたくさん受け止めるからひとまずは抑えてくれると嬉しいな。本当に何も言わずに居なくなってごめんね。声は届かないけどいつも見守ってるから。愛してるよ。悠希】以上だよ』
「母様・・・」
やめてよそういうの。
ボクは母様たちと一緒にいたかったのに・・・
そういった悲しみや自分勝手な怒りで心が埋め尽くされそうだけれど、それを圧縮して心の淵にいったん置いておく。
今は生き残らないといけないんだ。正直ここで死んでしまいたい気持ちもあるけど、おばあ様も母様も、翡翠叔母さんだってボクをこうする方が一番いいと思ってこうした。なら、それに答えないのは裏切りだし向こうで怒られてしまう。
受け継いだ知識で知ったけど、ボクたちにとって死は永遠の別れではないのだから。
だからこそ、ほの様への憎悪は沸かないんだろう
『うん。今までも見てて思っていたけど、キミは面白いね。普通の幼子とは違う。
「!?ほの様はボクが転生者だと知っているんですか!?」
心の整理をつけている最中、急に聞き流せないことを言い放ったほの様に思わず食いつき気味に聞き返してしまった。
そのボクの反応にほの様は嬉しそうだ。まるでいたずらが成功して喜んでいるみたいに。
『そうじゃないかとは思っていたよ。キミがどこまで血の記憶を受け継いだかわからないけど、わたしたちはキミたちをずっと見守ってきたんだ。特に玲奈はわたしのお気に入りだったからね。その子どもであるキミも生まれる前から見ていたよ。それに最近キミはその年齢にそぐわない行動をしていたしね』
つまり鎌をかけられてしまったということらしい。『自白してくれてありがとう』と笑ってお礼まで言われるし、これ、完全にボクをからかってるよ。
それに色々詳しいのも、要は今までボクたち平坂の一族をずっと見てきたからか。
見守ってきたというけれど、そうそう干渉できないだろうから実際は気に入った一族の人間の人生を観察して娯楽にしていたといったところじゃないかな?
『まぁそう膨れないで。別にだからといってどうこうするということは、少なくともわたしはないよ。面白そうだし。それにわたし達も分霊を転生させることがあるから、珍しくはあるけどいるにはいるものなんだよ、転生者って。もっとも隠すに越したことはないけどね』
そんなボクの考えも見透かしているのか、なだめるようにほの様はボクの腕に絡みついてきた。
むぅ・・・まぁボクの自爆だし、どうこうされないならこの件はこれから気を付けるってことで飲み込もう。
で、ボクが落ち着いたのを見計らったのか、ほの様がこう切り出してきた。
『さて、ここからはこれからの話をしよう。今のところ、この屋敷内で生きているのはキミの他には紅音と六花の二人だけだ』
「六花ねぇ達はまだ生きてるの!?本当!?」
六花ねぇと紅音ねぇが生きてる。
これはボクにとって今一番嬉しい情報だ。
この絶望的な状況で皆黄泉へ旅立った。
正直、六花ねぇと紅音ねぇもおばあ様が見てないだけでもう旅立っていると思っていたのだ。
だけど生きているなら助けない道理はない。
「どこにいるの!?すぐに助けに行かないと!」
『今どこにいるかわからない。わたしは分霊だから本霊と違ってキミたちをリアルタイムで見ることはできないから。ただ、喚ばれた時は階段下の物置にいたね』
階段下の物置!
かくれんぼの時に六花ねぇが言ってたところか!
手遅れになる前に急いでいかないと『まだ話は終わってない!気持ちはわかるけど最後まで聞け!』うぐっ!・・・分かりました。分かりましたから腕を締め付けるのやめてください。
『こんな状況だから仕方ないけど、冷静さが無くなっているよ。第一、助けに行った後どうするんだい?この異界から出ることが出来なきゃ結末を少し先送りにするだけだ』
「・・・」
締め付けを緩めながらそう諭してくるほの様に、ボクは何も言うことが出来なかった。
確かに地下の祠や屋敷の知識は手に入ったけど、この異界化はおばあ様がわからなかったように原因不明。
外に脱出するにしても、外の結果が
門まで行って、「外に出れませんでした」じゃすべて終わりだ。
『うんうん。きちんと理解できたみたいだね。それじゃあ次はどうすればいいか、わかるよね?』
腕を上ってボクの耳を舐めながら聞いてくるほの様からはどこか怖ろしい・・・いくら低位の分霊とは言え、神格という人間からすれば遥か格上の存在から発せられるオーラを感じる。
さらにほの様はボク達、平坂の家の祭神。
つまりこれはほの様を敬い平伏しろというようにも取れるけど・・・
「ほの様。ほの様は母様に喚ばれてここにいます。さっきほの様は「これからキミおサポートするのに」ということでボクの血を飲みました。それに母様の伝言から考えてほの様が母様と交わした契約はボクの安全を守ることといったところでしょう。だったらボクがこの異界から脱出することも契約内のハズです。脱出方法、教えてくれますね?」
ここは【メガテン】世界。神格とて悪魔として扱われる世界だ。
なら、母様ま身を捧げて喚んだこのほの様との間には何かしら契約が交わされているはずだ。取引とも言っていたし。
その内容は状況証拠から推測しやすい。ボクを守るといった感じの物だろう。
そして契約は悪魔にとって絶対だ。
なら、ここは契約の履行を迫るべきという風に考えた訳だけど・・・合ってるよね?
『フフ、アハハ!うん、その通りだよ!やっぱりキミは面白いね!』
「よくできました」という感じに尾でボクの側頭部を撫でてくるほの様の反応的に完全正解っぽい。良かった・・・
『それじゃ、脱出方法を教えるよ。とは言え脱出する条件自体は単純だ。この異界化を一時的にでいいから沈静化させる、それだけだ』
「・・・え?」
もっともハードモードな状況は一切変わらなかったけど。
皆さんお久しぶりです
ちょっと私事で書けていなかったのですが、最近やっと落ち着いてきたので再び筆を執りました
ゆっくりではありますが、エタるつもりはないのでこれからもよろしくお願いします