君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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13話 けいくんのお誕生日計画

 

 

 

    ----------> ☆ <----------

「陽菜は、お兄さんのこと、どう思ってるの?」

「家族。それ以上でも以下でもないよ」

「好きじゃないの?」

「好きだよ」

「それは、恋愛として?」

「…。」

 恋愛として、好きかどうか…。

「黙っちゃった」

「変な話するから」

「えぇ~。ただの恋バナだよ」

 やっぱり、圭一のことは恋愛として好きになってはいけない。たとえ血のつながりがなくても、家族であることには変わりないのだし、そもそも雫が好きな相手だ。同じ人を好きになるわけにはいかない。

「陽菜。この言葉だけ覚えてて」

「…なに?」

「行動しなければ何も変わらない。先を越されても何も文句言えない。やらなかった後悔より、やった後悔の方が断然いい」

「…一体、何が言いたいの?」

「さぁね。私はかなり適当にしゃべるタイプの人間だから。それに自分の仮説が間違ってるかもしれない。雫から得た情報だけでは判断しきれないからね」

「雫が何か言ったの?」

「いや。なにも」

「ん?え?」

「まぁ、頑張りたまえ陽菜よ」

「ん?うん…」

 そして、美波は教室を後にした。

「なんだったんだ。あの人は」

 必要以上に圭一のことを聞いてきた。まさか…圭一のこと狙ってる⁉それで私を偵察に来たってわけ?にしては励ますようなことを言っていたような。

『行動しなければ何も変わらない。先を越されても文句言えない』

 私は遠慮なく圭一を狙うから、先越されても文句言わないでね?的なセリフだったのかな?宣戦布告⁉

 …考えすぎか。

「なんか疲れたんだけど。帰るか」

 そうして、荷物をまとめて戸締り、教室から出てカギを閉め、職員室へ返しに行く。

 その道中。

「あれ?雫?」

 小走りで廊下を移動する雫を発見する。保健室の方向へ向かってる?部活で影人が出たのかな?

「陽菜!」

「どうしたの?そんな慌てた感じで」

「けいくんが倒れそうになってて」

「え⁉大丈夫なの」

「今は保健室で安静にしてるわ。顧問の先生に報告してきて、今から保健室に戻るところよ」

「私も行っていい?」

「いいわよ」

 圭一が体調不良?今朝はそんな素振り一切なかったのに。

 

 ガラガラと保健室の扉を開ける。

「けいくん」「圭一」

「あら。増えたわ。とりあえず薬をいくつか飲ませて、今はかなり落ち着いてるわ」

 ベッドに座っている圭一を見る。なんかやつれてない?ほんと大丈夫…?

「とりあえず、よかったわ…顧問の先生には早退するって伝えてきたわ。歩けそうになったら、帰りましょ」

「うん」

「圭一、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫。さっきまで頭がふわふわして、体がほてってて…。なんかよくわからん感じだった」

「そっか…。あれだったら明日も休もう。私も家で看病するから」

「それはさすがに悪い」

「頼りなさい。家族でしょ」

「あ、妹さん?」

「あ、はい。そうです」

「てっきり彼女かと」

「そ!そんなんじゃないですよ!」

「なんか思ってた感じの反応じゃなかったわ」

「う…と、とにかく!落ち着いたら帰ろう。圭一」

「そうだな。ありがとう二人とも」

「いいのよ」「気にしないで」

 保健室の先生は「あ、そうだわ」と言いながら、何やら備え付けの小さな冷蔵庫から、ペットボトルのオレンジジュースを取り出して私たちに配る。

「よかったら上げるわ。熱中症対策…にはあまり向かないけど、水分は大事だからね」

「ありがとうございます」「ありがとうございます」

 もらったオレンジジュースを飲みながら、圭一が動けるようになるのを待つ。

 

 そのあとは、三人で並んで帰った。

 特にこれと言って会話もなく。静かに下校する。

 翌日はすっかり元通り。体調は回復して問題なく部活に復帰することができた。

 ただ、ひとつ気になる点があるとすれば。

 雫と圭一の距離が少し開いた感覚がした。

 

 

    △▼△▼

 

 

 土曜日の昼間。特に何もやる気が起きずに、ひたすらベッドに横になりながら天井を眺めている。

 時の流れ、というものは実に早いもので、6月も終わりが近づいてきて7月の風を感じる。要するに暑い。

 学校では、ちらほらと冬服から夏服へ切り替えている生徒がいる。半袖のセーラー服。正直、腕が見えるのはちょっと嫌だ。日焼けクリームやらいろいろと面倒だからだ。

 というか、夏自体が嫌いだ。暑いし汗かくし日焼けするし…。唯一いいことがあるとするなら、私の誕生日が8月にあるぐらい。

 私が8月29日、圭一が7月20日。雫が9月27日。大体みんな一か月間隔で誕生日がある。来月は圭一の誕生日か。

「今年は何を用意しよう」

 …悩む。

 何かちゃんとしたものを送りたい気もするが、私よりも雫の方が重要だろう。夏休み明けに告白するって言ってるし、割と期限が近づいている。

「雫は…なに送るんだろう?」

 なんだか、すごい気になる。

 と言っても、まだ6月。圭一の誕生日まではまだまだ時間はある。さすがに早すぎるか。

「ん~」

 一度気になる始めると、解決するまでもやもやする。

「電話かけてもよ」

 多分、部活で電話出れないだろうけど、なんとなくかけてみよう。

 スマホを手に取り、雫へかける。3コール後に通話がつながる。

『もしもし陽菜?』

「あ、もしもし?ごめん部活中かな?」

『ちょうどいま休憩時間よ。どうしたの』

「圭一、近くにいる?」

『いや、離れたところにいるわ。変わる?』

「あぁいや、雫に聞きたいことがあって」

『ん?なにかしら』

「圭一の誕生日プレゼント、なに送るの?」

『まだ一か月ぐらいあるのに?気が早いわね…』

「いや、なんか雫よりも豪勢なものを送っちゃいけないなって思って、ある程度、目途が立ってたら教えてもらおうかな?って思って」

『今のところ、特に考えてないわね。物を送るのもありかと思うけど…。あ』

「え?どしたの?」

『陽菜。お菓子作り教えて』

「え…」

 

 

    ----------> ○ <----------

「陽菜。お菓子作り教えて」

『え…』

 部員たちの談笑が響き渡っている体育館。端の壁にもたれかかりながら陽菜と通話中。

 私は思った。けいくんの誕生日に手料理をふるまいたいと。しかし、料理経験が皆無の私には難しい。焼肉を焦がした経験もあるし。

 でも、陽菜がいれば問題ないじゃない。陽菜からお菓子を教えてもらいながら、二人で作って「二人からのプレゼント」ってことにすればいいじゃない。天才だわ。

「今まで、市販のものを送ってたけど、今回は頑張って手料理をふるまいたいって思って、ぜひ陽菜の手助けを」

『まぁ、いいけどぉ…』

「なんで、そんな煮え切らない返事なのかしら」

『絶対大変…』

「思っても、本人の前で言わない方がいいわよ」

『ごめんごめん。にしてもお菓子作りかぁ…。私、料理はするけどお菓子の経験ってあまりなくて、調べながらになると思うよ?』

「それでも大丈夫よ。私ひとりじゃ調べたってわからないもの」

『書いてある通り作ればいいだけなんだけどなぁ。特にお菓子は』

「専門用語とか出てきたら、もう無理」

『そこまで難しいのは出てこないと思うけど…』

「あ、ごめん。そろそろ休憩時間が終わるわ。またチャットで日程とか決めましょ」

『おっけ~。部活頑張ってね』

「ありがとう。じゃあね」

 ここで通話が途切れる。けいくんが中心あたりに立ち、手を二回たたく。そして「休憩終わり~練習再開」と声を出す。

 その合図とともに、部員のみんなが立ち上がり各々の卓球台へと歩き始める。私も立ち上がり、練習している後輩たちを眺める。みんなの面倒を見るというのが、最近のお仕事だ。みんな優秀なのであまりすることはないのだけれど。

 けいくんは、相変わらず古賀さんにつきっきり。あの二人の関係って何なのかしら。

 ただの先輩後輩じゃない。そんな気がして止まない。

「…。」

「九条せんぱ~い」

 後輩の子から声をかけられて、そちらへ振り向く。

「なに?」

「ちょっと練習に付き合ってもらえませんか?」

「いいわよ」

 後輩の子と一緒に卓球台へ向かう。そして練習が始まる。

 

    ----------> ◇ <----------

「雫、おつかれ」

「あ、おつかれ」

 部活の時間が終わり。これから下校するところだ。

「昨日は、ごめんな。自分でもよくわからない感じになってた」

「いいのよ。それより体調は大丈夫なの?」

「うん。すっかりばっちり」

「すっかりばっちり…。まぁよかったわ。熱中症?」

「ん~先生からは熱中症だろうって言われてたな。確かに水分とってなかったし」

「そう。六月でも熱中症になることはあるから、気を付けるんじゃよ」

「はい。まじで迷惑かけたからな。以後気を付ける」

 校門を出たあたり、ほかの部活動の人たちもちらほら見える。

「今日は陽菜来てないのかな?」

「あの子、今家に居るわよ。休憩時間に電話かかってきたもの」

「あぁ、なんか話してるなって思ったら陽菜だったのか」

「…ねぇ、けいくん」

「ん?どうした?」

 妙に弱った声で僕の名前を呼ぶ雫に、なんだかドキッとした。

「古賀さん、どう?」

「どう?とは…?」

「ほら、最近ずっと一緒にいるじゃない?どうなのかな?」

 質問の意図がわからない。上達しているのかどうかを聞きたいのか?

「かなり上達しているぞ。最初とは比べ物にならないぐらい」

「そうじゃなくて」

「え、何について聞きたいんだ?」

「…。」

 黙りこくってしまった。何かを言い淀んでいるかのような。どうしたんだろう一体。

「古賀さんのこと。どう思ってるの?」

「…またその質問?」

「ええ」

 前も似たような質問されたっけ。その時と答えは一緒だ。

「ただの後輩って思ってるよ」

「仲いいじゃん」

「部活以外で会話したことないぞ?お互いにただの先輩後輩って思ってるだろう」

「ふーん。ならいいわ」

 なんなんだろう一体。

「雫…。最近なんか変じゃないか?」

「変?」

「あぁ、古賀さんのこと気にし始めたり、急にべったりくっついてきたり、今までそんなことなかったじゃん」

「…。気のせいよ」

「そうなのか?」

 明らかにごまかされた雰囲気を察した。これは聞かない方がいいのだろうと思い、身を引くことにする。

「まぁ、なんか悩んでることがあるなら、相談してくれ。陽菜でもいいし」

「ほんと、何でもないわよ?でも、ありがと」

 そんな会話をしながらゆっくり歩いていると、後ろから「あの…」と声をかけられる。その声につられて僕と雫は後ろを振り向く。そこには見知らぬ女子生徒。同じ制服を着ているから同じ学校だろうと思う。

「あの…平野陽菜さんのお兄さんですか?」

「あ、はい。陽菜のお知り合い?」

「はい。同じ茶道部のものです。部長から今回の課題曲の楽譜ができたから渡しといてって言われまして、次来た時でいいのになぜか今日」

「そっか、ありがとね。よかったら名前教えてくれる?」

「私は、遠野 摩耶(とおの まや)。陽菜によろしくお願いします」

「わかった」

「…あのお兄さん。面白い写真があるんがあるんですけど」

「面白い写真?」

 そう言うと、遠野さんはスマホを操作し始め、こちらに画面を見せてくる。そこには陽菜が写った写真が映し出されている。口を大きく開けてよだれを垂らしながら寝ている陽菜の姿が。しかもパンツ丸出し。

「部室で何してんの?」「陽菜…やばいわね」

「見せたことはここだけの秘密です」

「わかった」

「陽菜。かわいいパンツはいてるわね」

「あ、そこなんだ」

「よかったら上げますよ。連絡先を交換していただければ送ります」

「もらうもらう」「私も」

 こうして、二人は遠野さんと連絡先を交換して、チャットアプリ経由で写真をもらった。

「では、これで失礼します」

「うん。じゃあね」「お気をつけて」

 そう言って、遠野さんは踵を返して去っていった。

「すごい、物静かな子だな」

「そうね。キャラ被りしてるわ」

「その心配はいらないから大丈夫だ」

 コツコツと革靴が地面を積み閉める音が響く。もうすっかり夏の風を感じる帰路を歩く。

 

 

    ----------> ○ <----------

「ということで、手作りお菓子会の計画会議をするわよ!」

 平野家の陽菜部屋

 陽菜にお菓子作りの約束をしてから一週間後の土曜日。さすがに学校でその話題を出して話すとけいくんの耳に入るかもしれない。というか基本三人で一緒だから、会話する機会があまりないのもある。

 せっかくなら通話じゃなく、対面で話したかったしね。

「わざわざ部活休んでまでうちに来なくても…」

「せっかくなら対面で話したいもの」

「まぁ、いいけどさ。どんなの作りたいの?ちなみにあいつはなんでも食べるよ」

 実は、ある程度考えてきている。誕生日といえばのスイーツ。

「ショートケーキのホール」

「…マジで?」

「大マジよ。ホールケーキを作って、みんなでお茶会でもしながら楽しく誕生日会とかできたらいいなぁって感じ」

「まぁ…めちゃくちゃ難しいわけでもないけど…。圭一の誕生日って何曜日だっけ?」

「あ~カレンダー確認するわ」

 私はスマホに入っているカレンダーアプリで7月20日の曜日を確認する。

「あ、土曜日ね。どうして曜日?」

「ショートってことはフルーツ乗るじゃん?生クリームとかたくさん使うし、保存期間的に休みだと助かるなって思って」

「あぁ、なるほど」

「土曜日ならちょうどいいね。今日みたいに、部活行っている間に作っちゃおうか」

「そうね!」

 カレンダーアプリに「けいくんのケーキ作り」と予定登録をしておこう。

「材料も当日に買い出しかな?」

「いくらぐらいするかしら…」

「ん~。めっちゃ高い!って感じじゃないだろうけど、イチゴがちょっと不安だね。時期じゃないし」

「この時期の果物って何かしら?」

「ん~スイカとかメロン、ぱいなぽー、ブドウとかマスカットあたりかな?」

「あ、ブドウとマスカットのホールケーキとかどう?」

「いいね~。マスカット高そうだけど」

「お金出すの私だから気にしなくていいわよ」

「いや…この前も焼肉出してもらったばっかりなのに…」

「庶民は黙まっとれい」

「庶民いじりしてくる…」

「ごめんよ、でも本当に気にしなくていいわよ」

 実際、これは私が言い出したことだし、私がお金を出すべきだと思ってる。

「ありがとね。じゃあ、ブドウとマスカットのケーキにしましょう」

「了解よ!」

「さて、レシピ調べとかないと…多分普通にショートケーキ作る要領でいちごをブドウとマスカットに買えるだけだろうけど」

「ホイップクリームとか作れるの?」

「ん?作れなくはないけど、超絶めんどくさいので、すでに出来てるものを買うよ」

「あ、はい」

「あれ、結構しんどいからね⁉電動泡だて器なんてチートアイテムはうちにないし、それだけで体力が持たない」

「確かにテレビで見てると大変そうだったわ」

 そんな感じで、ケーキ作りの計画ができていく。

 そして。

「こんなもんかな?じゃあ20日の午前中に買い出しだね」

「わかったわ」

 時刻は午後4時。私が来たのが午後1時なので、3時間経っていることになる。

「さて、この後はどうする?」

「ん~私は帰るわ。そろそろけいくんも帰ってくるでしょ」

「そうだね」

「体調不良ってことにしてるから。ここにいるのバレたら厄介」

「怒りはしないと思うけどね」

「嘘ついて部活休んでるって知ったら、変に心配されそうだわ…部活で何かあったのか?って」

「あぁ、その可能性はあるね。あんなんでも部長だし」

「そうなのよね。みんなにやさしいのは、ちょっと問題だわ」

「確かに…」

 私は立ち上がり、陽菜の部屋から出ようとする。

「じゃあね。今日はありがとう。急に押しかけちゃってごめんなさいね」

「大丈夫だよ~。当日でもいいから連絡ほしかったけど」

「ごめんやん」

「玄関まで送るよ」

「別にいいのよ?」

「一応、お客さんだから」

「そう。ありがとね」

 こうして、陽菜と玄関前まで歩いてくる。

「じゃあね」

「うん。またね」

 玄関を抜けて、私は隣の自宅へ帰宅した。

 

 

 





【今日のひなたん】

 基本休日はごろごろしているのだが、今日は気が向いたので外出することにした。特に目的もないまま町の方へ出かける。
「…CDショップか」
 なんとなく興味がひかれて、CDショップの中へ。そこには新しいCDから、かなり古めのCDまで、何でもそろってそうな印象を受けるお店だった。
 普段から曲をかなり聴く方ではある。サブスクを契約していろんな曲を聴く。歌詞から小説のアイデアをもらうため。
「j-popコーナー…あ!懐かしい!Blueeeeじゃん!このグループの軌跡って曲とか好きだったなぁ」
 そのほかにも懐かしいアーティストたちが並んでいた。お父さんの車でよく聞いていた記憶がよみがえる。
「お兄ちゃんとちょっと遠い遊園地とか行って遊んでたな…。懐かしい」
 確かその時は、雫はいなかったはず
「あ…」
 このCD、お父さんの車で聞いてて、お兄ちゃんがすごい好きだった曲だ。サブスクとかにも配信されてなくて、確かCD売っちゃったんよね。
「…喜んでくれるかな?」
 私は、そのCDをもってレジへ向かった。

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