君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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14話 懐かしの遊園地(前編)

 

 

    ----------> ☆ <----------

 夜。私はいつも通り机に向かい、小説を書こうとしている。しかし…。

「…。」

 筆が進まない。先月からずっと。なにもアイデアが降ってこないし、いつもなら散歩をしていると、景色や他人の会話などからアイデアをもらうことがあるのだが、なにも引っかかるものがない。心ここにあらず。といった感じ。

「…。」

 現在、連載中の小説も数か月更新が途絶えている。はたから見れば失踪した人かもしれない。まぁ、読んでいる人が居ないから別にいいのだけれど。

「…。はぁ」

 ため息が出る。パソコンの電源を切って寝てしまおうか。そう思ったとき。

「…新しいの書いてみようかな?」

 連載中の小説が進まないのであれば、筆休め的な感じに別の作品を書いてみるか。短編でサクッと読めるものを。

 今までとは違うテイストで、ポエム的な感じの。

「頭を空っぽにして、感情の赴くままに書いてみよう。私の本心が前面に出てくるような…」

 新規の投稿画面を開いて、私は短編小説を書き始める。

 

 

    △▼△▼

 

 

 私は今、大きな悩みを抱えている。しかし、どんな悩みなのか。全体像がはっきりとつかめていない。漠然とした悩み。それが私のすべてを支配しているのだ。楽しかった趣味も手がつかない。友人と話していても、心のどこかでもやもやしている。

 きっかけは、友達のカミングアウトからだった。私には兄がいて、友達はその兄に恋をしている。

 そうだ。あの時だ。

 あの時から、私は心に大きなモヤがかかった感じがした。

 どうして?わからない。

 …いや、わからないはずない。気づかないふりを続けていたんだ。もう、やめてしまおう。気づかないふりを続けるのは。

 私は…。

 

 

「私は…。」

 ここまで書いて手が止まる。そして、口から言葉があふれだしてくる。

「私は、圭一のことが好き」

 無意識に口から飛びだした答えがすべてだった。しかし言葉は止まらない。

「でも、圭一にとって私は妹。血のつながりがなくとも兄妹には変わりない」

「叶わないのはわかってた。ずっと。でも…」

 震える手を胸に抱きよせる。堪えていた涙がとめどなく溢れる。

「ずっと…お兄ちゃんが好きだった…」

 今にも消え入りそうな震えた声で、小さな好きを叫んでいた。

「でも、この気持ちを伝えたらきっと嫌われる。それがたまらなく怖くて…でも好きな気持ちは捨てられない」

 だから、雫がお兄ちゃんのことを好きって聞いたときは、少しほっとしたのもあった。ようやくこの恋心も終わるんだって。

「でも!終わらせたくないよ。切ないよ…」

 このまま、叶わない恋を追いかけ続けるのは、もう心が持たないんだ。

「私よりも、雫の方が似合ってる」

 私なんか、スポーツも苦手、医学を学べるほどの学力もない。ただ文字の羅列を生み出して、自己満足に浸っているだけ人間よりも、よっぽど雫の方が優れている。

「諦めは、ついている」

 嘘。ついているはずがない。しかし口から出まかせで自分を納得させるしかない。

 涙が、止まらない。

「本当は、いや…。」

 雫にお兄ちゃんを取られたくない。

 でも、叶わない。

「…。」

 一度、深呼吸をする。

「雫の恋心よ。実ってしまえ」

 ふり絞るように声を放った。言霊を込めるように。

「そうすれば、私の恋はきれいさっぱり、忘れられるはずだから」

 そんな願いを込めて。

「…なんか、涙止まんない」

 書きかけの小説を消して、パソコンをシャットダウンする。

「寝よう」

 私は、そのままベッドに体を預けて眠りにつく。

 

 

    △▼△▼

 

 学校の廊下。いつもと同じはずの学校なのに、パステルカラーに彩られた視界が、変に心地よく感じてくる。

 後ろからバタバタと走ってくる音が聞こえる。振り向けばそこには圭一の姿があった。私と目が合って、笑顔で手を振りながらこちらへ走ってくる。

「圭一」

 私も手を振り返す。

 走ってくる圭一は、私の目の前まで来て。そして

「雫!お待たせ」

 私を素通りする。圭一の走った方向を向くと雫がいた。二人は手をつないで廊下を歩いている。

「ううん。待ってないわよ」

 圭一は、まるで私がここに居ないかのように通り過ぎて行った。

「圭一!」

 私は、思わず読んでしまった。圭一と雫は歩みを止めて私の方へ振り返る。困惑したような表情を浮かべる二人。数秒の沈黙の後、口を開いたのは圭一だった。

「…あの、どちら様ですか?」

「え…」

「僕の名前、呼びましたよね?何か御用でしょうか?」

「…圭一?私だよ?陽菜だよ⁉」

「…雫、知り合い?」

「いや、初対面なはずよ」

 嘘だ。そんなはずない。

「なんの冗談…?平野陽菜だよ…。圭一の妹だよ!」

「僕に、妹は居ないはずだけど」

 妹は、居ない…?

「そんなはずない!雫と三人で、いろんなところに遊びに行ったじゃん!三人で焼肉食べに行ったりしたじゃん!同じ平野でしょ⁉」

「僕の苗字、平野じゃないですよ」

「…え、そんな、どうして」

「この後、予定あるのでもういいですか?失礼します」

「いや!待って!お兄ちゃん!」

 私の言葉は無視して、お兄ちゃんはそそくさと歩いていく。

「…いや!行かないで!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 手を伸ばしたけど、もう届かなかった。

 

 

 息が詰まる感覚がして目が覚める。翌朝だ。

 夢だったのか。ほんと嫌な夢を見たな。

 スマホへ手を伸ばして、今の時刻を確認する。

「7月1日月曜、5時過ぎ」

 アラームよりも早い時間に起きたんだな。カーテンの隙間から、かすかに太陽の光が差し込んでいる。

 昨日は大号泣してた。きっと少し目が腫れてる。こんな顔見られたくないな。なんて考えながら天井をジッと見つめる。

 昨日の独り言、圭一に聞かれてないといいな。かなり小声だったから大丈夫だと思うけど、一応心配。

「アラームが鳴るまで、まだ少し時間ある。もう少し寝ようかな」

 あぁ、体調が悪い気がする。休んでしまおうかな?

 寝て起きてから、学校行くかどうか決めよう。

 

「…。」

 

「…。」

 

「…。」

 

 眠れない。一度目が覚めてしまったら簡単には眠れなかった。

 とても憂鬱だ。学校に行きたくない。

 動きたくない。そんな感情が心を支配している。

「やっぱり今日は休もうかな」

 のっそりと体を起こして、リビングへ向かう。

 

「おはよう。陽菜」

「おはよう。陽菜ちゃん」

「おはよう…。ごめん今日体調悪くて、学校休みたい」

「あら、どうしたのかしら」

「熱はあるのか?」

「測ってないけど、多分ない」

「…。」

「…。」

「…。」

 数秒の沈黙。さぼりと思われたらいやだな。いや実際のところさぼりとほぼ変わらないのだけれど。

 理解ある両親と信じて…。

「今日ちょっと、メンタルが落ち込み気味で、このまま学校行って、つらくなるのがいや。今日一日だけ許してほしい。明日からはちゃんと行く」

「…わかったわ、許すも何も、怒ったり咎めたりしないわよ。学校には風邪気味って説明しとくわね」

「俺たちも、仕事休んだ方がいいか?家に一人だとなおさらしんどいだろう」

 怒ることもなく、かといって理由を聞くこともなく、そっと察してくれた両親の温かさが、今はとてもありがたかった。

「ありがとう。大丈夫だよ。お仕事だもん、急に休めないよね」

「娘のためだ。多少無理はする」

「そうよ。いっそのこと圭一も休ませて、みんなで出かけちゃう?」

 私を元気づけるためなのか、ニコニコと明るく私に接してくれる。

「みんなに、迷惑かけちゃうのは、嫌だから…」

「迷惑なんかじゃないぞ?なんなら仕事休んで遊びに行けるなんてラッキーだ」

「私たちが勝手に休むだけなの。陽菜ちゃんのせいじゃないわ」

「…ありがとう」

 二人のやさしさに、また涙が溢れだす。

 お母さんは私の背中をさすってくれた。お父さんは、わたしのコップを用意して、いつも飲んでいる牛乳を用意してくれた。

「よし!そうと決まれば職場に連絡してくる」

「ええ」

「うん」

 そうして、両親は職場に連絡を入れている。私は牛乳を飲んで、少し落ち着いた。

 しばらく涙が止まらなかったが、落ち着いてきたころに圭一がリビングに来た。珍しく一人で起きたんだね。

「おはよ。何の騒ぎ?すっごい騒がしいんだけど…」

 圭一と目が合う。

「陽菜?どうした?大丈夫か?」

「え?何が?」

 とりあえず、すっとぼける。

「目が晴れてる。泣いてたのか?」

「泣いてない」

「嘘だ。今日起こしに来なかったし、何かあったんだろ?」

「…。」

 私が回答に困っていると

「はぁい、圭一!今日は学校休んで遊びに行くわよ」

「え、なんで…?」

「なんでもよ。理由を聞くのは野暮ってものよ」

「ん…?」

 困惑といった表情を浮かべる圭一。それはそうだ。親から学校休んで遊びに行く。なんて言われたら驚くしかない。それに私がこんな状態だし、ただ事ではないって感じているかもしれない。

「ん~、まぁ合法的に休めるならラッキーだ」

「そうよ。今日はチートデイよ!」

「チートデイってそういう意味だっけ?」

 お母さんは私と圭一の欠席連絡を済ませて、二人とも私服に着替える。

 そして、みんなの準備が終わった午前9時。お父さんの車に乗り込んで発車する。

「さて陽菜。どこに行きたい?」

「えっと…。どこだろう…」

「どこでもいいのよ?」

「なにこれ…」

 圭一はこの状況に違和感しか感じていないだろう。それはそうだ。

「昔さ、家族で行った遊園地、覚えてる?少し遠いところにある」

「あぁ~近海公園か?小学校ぐらいの時に行った」

「そう。そこに行きたい」

「よし!いいぞ!」「懐かしいわね」

「え、どこそこ?」

「お前、覚えとらんのか?陽菜と二人でブランコとかしてただろ」

「マジで覚えてないやごめん」

「ま、行けば思い出すわよ」

 そうしてお父さんの運転する車は、その近海公園へと向かっていった。

 

 近海公園は小学生のころ、家族四人で行ったところ、隣の県まで車を走らせる必要があった。距離が距離なため一度しか行ったことない。圭一が忘れてても仕方ないとは思う。

 運転をしながら、お父さんは私と圭一に声をかける

「昼飯はどうするんや?」

 時刻はまだ10時手前、早めのお昼ごはんを食べて遊園地へ遊びに行くつもりだろう。

「ん~、何が食べたいかな?」

 今日は朝ごはんを食べ損ねてるからお腹は空いているはずなんだけど、食べたいものは?と聞かれれば何も出てこない。

「圭一は?なんか食いたいもんあるか?」

「肉食いてぇ」

 昼間っから重いなぁ。と思いつつも、確かにお肉も食べたい。

「私も、お肉食べたいかも」

「よっしゃ!肉料理の何食いたい?」

「僕は、ステーキとか」

「私は、ハンバーグみたいなの」

「じゃあ、ペッパーディナーとか行くか?ステーキもハンバーグもあるぞ?俺はあそこのペッパーチャーハン気になってたんよな。母さんはそれでいいか?」

「いいわよ。近所にないから、こういう機会でないと行かないものね」

 ということで、そのお店に行くことが決定した。

「お父さん。私が小学生のころによく車で聞いてた曲とか、今流せる?懐かしい曲聞きたい」

 昔を思い出したい。そんな気分になったんだ。

「お?ほとんど売っちまったからなぁ…。母さん、そこの収納にCD入ってないか?」

 助手席に座っているお母さんは、前にある車の収納スペースを開ける。

「あら、このCDとか懐かしいんじゃない?ファンキーモンキーラバーズ。お父さんが聞いてて、私もハマったのよね」

「そうだったなぁ。俺が一番好きなアーティストだ。今はメンバーが変わって、当時の面影が無くなって寂しいもんだ。陽菜のお目当てはこれかい?」

「うん、ありがと」

 そう。このアーティストの曲はお父さんがとても好きでよく聞いていた。若々しさを感じる。明るくてポップな曲。しかしたまにぐっと心に来るバラードがあったり、勇気づけられる応援歌、みたいなのもあった。

 昔聞いていた曲をもう一度聞くと、その時の情景とか色んなものが思い出されて素敵だ。音楽って素晴らしいものだと思う。

 そして、カーナビにCDを挿入して曲が流れ始める。

「懐かしい…」

「僕も好きだったな」

「みんな好きだったのか。いいよなぁ」

「なんだか、色々思い出しちゃうわ」

 少し感傷的な気持ちになる。

 私がお兄ちゃんと呼んでいたあの頃。まだこの感情が恋愛的な好きなのか、兄妹としての好きなのか、はっきりわからなかった時期。なんせ小学生だ。好きという言葉の重みをそこまで理解していない。

 そして今。

「…。」

 お店に着くまで、私は一言もしゃべらなかった。

 

 

 

    ----------> ○ <----------

 一人での登校。もしかしたら初めてなんじゃないか?って思う。平日は陽菜とけいくんが一緒にいる。土日の部活はけいくんと行くし。

 …でも、小学校のころ、何度か一人で登校していたような?うっすらと記憶にある。

「たったこれだけの距離なのに、なんだか長く感じるわ」

 そして、思いのほかさみしいってことも。

 部活中に倒れかけてからは、とくに不調な感じはなかったのだが、もしかしたらどこかで無理をしていたのかもしれない。

 副部長だから、何かと仕事を任せてくれてもいいのに。けいくんは一人で全部抱え込んでしまう。

 うちの学校の卓球部は少し特殊だ。基本的には男女で別れて活動をするものだが、混合で部長と副部長が面倒を見ることになっている。顧問の先生も…まぁ良くも悪くも口を出してこない。私たちにすべて任している。その分自由にのびのびと練習ができるのだが。ちょっとは手伝ってくれても…とは思う。

 そんなことを考えながら通学路を歩く。学校のほぼ目の前には大き目の横断歩道があり、今は信号待ちをしている。

 同じ制服を着た生徒がちらほらと居て、みんな信号待ちをしている。

 数十秒後に歩行者信号が青に変わり、一斉に生徒たちが歩き出した瞬間。

「うわぁ!」

 ものすごい勢いで車が通り過ぎて行った。幸い誰も轢かれることはなかったが、信号無視して突っ走っていった車に腹が立つ。

「危ないわね!まったく」

 たまに、こういうことをする人間がいるせいで、交通マナーが悪いだの事故率がワースト一位だの言われる。実に不名誉。

 そんな、矛先が決まらない苛立ちを抱えながら、学校に到着する。昇降口で上履きに履き替える。

「雫ちゃん。おはよう。珍しくひとり?」

 声をかけてきたのは、美波だった。

「おはよう。いつも登校してる友達が体調不良だって」

「平野圭一と平野陽菜だね」

「ん?うん。あれ知り合いだったかしら」

「陽菜ちゃんとは、この前お友達になったよ」

「そうなんだ」

「恋バナしてきた」

「ちょっとまってどういうこと⁉」

 まさか美波、余計なこと言ってないかしら…。でもまぁ、この前のはたとえ話だし、具体的な人物を言っていない…はず。

「雫…。私は非常にわくわくしているよ。まぁ頑張りたまえ」

「は?ちょっと、陽菜とどんな会話したのよ!」

 結局、そのあとも何度か尋ねたが、答えてくれなかった。

 

 

 





【今日のひなたん】

 今日も今日とて、ふらっと外出中。
 特に目的もないまま、街を練り歩いている。
「ゲームセンターかぁ。ちょっと久しぶりに行ってみようかな」
 そう思い立って、この街では一番大きなゲームセンターへ向かった。UFPキャッチャーやプリクラ、パチスロ、音ゲー、シューティングゲームなどなど、一応なんでもそろっているゲームセンターだ。
 UFOキャッチャーは苦手なのでスルー。プリクラも…一人は寂しいので今回はスルーで。
「あ、meimeiだ!前やってたな~。手袋持ってないけどやってみようかな」
 ドラム洗濯機っぽい見た目をしているリズムゲームで、画面中央から外に流れてくるノーツをタッチしたり、画面内に出てくる矢印をスライドしたり。普通に難易度が高いゲームシステムだと思っている。
「昔は手袋もってきて、ずっとやってたな~中学校の頃だっけ」
 早速100円を入れてプレイ開始。会員カードがまだ残っていたのでかざしてみると…まだ使える。当時のプレイヤー情報が出てきて、少し感動。
 昔と同じ感覚で、最高難易度を選択する。高スコアというわけではないが、普通にクリアはできるぐらいの腕前。
 きっと、体が覚えてる!よし!

「ボロボロなんだが」
 結果はクリアすらできない。下手になっている。しかも、ゲームシステムが少し変わってノーツの種類が増えている…。さすがに新機能には対応できないよ…。
「もっかい!」
 後ろに並んでいる人もいなかったし、私が納得いかないので続投。

 気づいたころには、2000円溶かしていた。
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