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カタカタとPCのキーボードを打鍵する音が教室中に響いている。今は情報処理の授業。と言っても文書作成や表計算のソフトを使いこなすための授業みたいなもので、めちゃ簡単。担当の先生も、いつぽっくり逝ってもおかしくないひょろひょろのおじさんが担当している。
今は社外文書の作成。まぁ見本どおり打ち込むだけの簡単な作業。キーボードがどれだけ早く打てるか選手権だ。
しかし私はPCのキーボードがとてつもなく苦手。なんせローマ字があまり得意ではないからだ。
ちらっと隣に座っている陽菜を見る。
うちの学校は少し特殊でPC室のサイズがバカ広い。そのため、2クラスごとに集まって授業をしている。たまたま陽菜のクラスとうちのクラスが合同になった。
席は自由。各自ログイン用のアカウントを渡されており、それで出席を取っているらしい。すっげぇ
「陽菜?どのぐらい進んだ?」
先生に聞こえないぐらい小さな声で会話する。
「8割ぐらい。あと、表の挿入で完成だよ」
「相変わらず早いわね…私なんてまだ2割よ」
「それは遅すぎ…」
陽菜は普段からパソコンで小説を書いているため、ぶらいんどたっち?なるものができるらしく、とても入力スピードが速いのだ。
「なにか、早くなるコツとかってあるのかしら」
「練習あるのみかな?キー配列を頭に叩き込めばいいよ」
「キーボードの位置、すべて覚えてるの?」
「すべてではないよ。記号とか数字は見ないとわからないときがある。でもアルファベットは覚えてるね」
「すごいわね…。中学上がったあたりからパソコンやってたわよね?」
「ん~そのぐらいだったかな?最初は全くなれなくて雫みたいになってたよ。だから、だれでも打てるようになる…っと、おわり!アップロードして終了!」
こうして会話中もキーボードを操作して書き続けていた。マルチタスクというかなんというか…。陽菜の才能な気がするわ
「私のも手伝って」
「やだよ。自分でやりなさいな」
「けちぃ」
「ケチでもなんでもいい。早くしないと自由時間なくなっちゃうよ」
そう、この授業は課題を提出した後の時間は自由時間。好き放題PCを触れるのだ。まぁゲームとかえちえちなものを検索しようとするとブロックされるが、基本なんでも見れるようになっている。
それに、ネットサーフィンだけじゃなく。PCに純正で入っているものだったら何してもいい。ソリティアとかちょっとしたゲームが入っているので、それで遊ぶのもよし。
男子生徒どもは、動画共有サイトはセキュリティに引っかからないらしく、そこできわどい動画を見て楽しんでるとかなんとか。
「私も自由時間ほしいわ」
「じゃあ、頑張りな」
陽菜はケチなので、自分で課題を進めることにする。
カチカチと頑張ってキーを入力していく。
お隣の陽菜はというと、ケーキのレシピとか保存方法、きれいな盛り付け方なんかを調べていた。けいくんの誕生日ケーキ作りの情報収集だった。
私がいきなり無茶を言ったのにも関わらず、ここまで付き合ってくれる陽菜はほんと優しい。
「陽菜はケチじゃないわ」
「え?急になに?」
さて、自分の課題を進めましょうか。
「おわった~!」
授業の残り時間が20分ぐらいのところで終了。アップロードも終わり自由時間だ。
ほとんどの人が終わっていて、授業というより休憩時間のようなざわつき。各自が好き勝手に私語。授業として終わっているな。なんて思うが、こういう先生の授業が気が楽で助かる。
「陽菜、終わったわよ」
「おめでと。前より打つの速くなったんじゃないの?」
「え?そうかしら?」
「前は、もっとギリギリまで打ち込んでた」
確かに、前は授業が終わる5分前とかに終わっていたから、もしかしたら入力速度が上がったのかも?
「やった」
「よかったね」
「さて、自由時間よ!なにする?」
「私は、ケーキの作り方とか調べてるけど」
「あ、そういえば、来週末が誕生日ね!というか夏休みね」
今日は7月13日木曜。来週の金曜から9月まで夏休みに入る。けいくんの誕生日が22日なので、ちょうど夏休みが始まった次の日になる。
「そう。その日は部活ある?」
「けいくんが休みって言わなければあるわ」
「なんとしても、その日部活にして。その日に作ってサプライズするから」
「了解したわ。といっても、何もしなくても部活になるわよきっと」
「まぁね、ゴールデンウィークも遊びに行く日以外は部活出てたもんね」
「古賀さんの面倒ばっか見ちゃってね」
「…嫉妬?」
「違うわよ」
今のは嫉妬深い人のセリフだったね。
「…古賀さん?」
すると、私の反対に座っている女子生徒が話しかけてきた。確かこの子は…。
「摩耶?どうした?」
陽菜がその子と目を合わせて会話を始める。そうだ、遠野摩耶。陽菜と同じ茶道部員で陽菜のパンツ見せてくれた人。
「陽菜さ、古賀美咲って子知ってる?一年の子」
「圭一と同じ部活動の子だね」
「その子が…いつだっけ?前に私のところに来て話しかけてきた。おどおどして小動物みたいな」
「そうなんだ」
「で、こんな会話した」
△▼△▼
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「私、古賀美咲って言います」
私の前に現れた女子生徒。名前を聞いてもピンとこなかった。
「えっと、ほんとだれ?」
「あ、えっと…卓球部の一年です」
「ふ~ん、で、その卓球部さんが私に何の用?」
「あぅ…」
少し威圧的だったかな?普通に会話してるつもりなんだが、怯えられることはたまにある。特に下級生から。
「ごめん、怒ってないから。ゆっくり話してくれていい。あ、でも移動教室だから手短めに」
「あの、平野陽菜さん。ご存じですか?」
「陽菜?知ってるよ。同じ部活だし同じクラス」
「どんな人ですか?」
「教える必要ある?」
「あ、まぁ…そうですよね」
さすがに、易々と友達のことをペラペラとは喋れない。この人が信頼できるかどうかで決まる。
…しかし卓球部?陽菜のお兄さんが卓球部だったような気が。
「えっと、古賀さんだっけ、卓球部なら陽菜のお兄さんがいると思うけど、なんでそっちに聞かずに私なの?」
「平野先輩から聞くのはだめなんです」
「何がダメなの?」
「…だめなものは、だめなんです」
「ふ~ん。あ、そろそろ移動しないといけないから、もういい?」
「え、あ、はい。お時間取らせてしまって申し訳ありません…」
私は返事を返さず、そのまま去って行った。
あの子の目的は何だったのか…?なんかよくわからない子だったな。
△▼△▼
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「なんて会話があったよ」
「ねぇ…優しくしてあげて?絶対怯えてたじゃん」
古賀さんと面識があるわけじゃないけど、おどおどしてるというか…か弱い感じがする人なのかな?って思う。
てか、明らかに当たり強くない?古賀さんって子かわいそうに…。絶対怯えてたよ。
「まぁ、信用できる人間かどうかわかんなかったし、何の前触れもなく陽菜のこと聞いてきたから、警戒はする」
「んん~。過剰防衛だったような気がするけどね」
「九条さんは、古賀さんのこと知ってる?」
摩耶は私の奥にいた雫に話を振る。この二人、面識あったんだ。
「けいくん…陽菜のお兄さんと仲いいイメージがあるわね。部活内でずっとくっついてるわ」
「なるほど。じゃあ尚更、陽菜のことを私に聞いてきたのかわからないね」
「考え過ぎじゃない?摩耶」
「いや陽菜、古賀さんは裏で何考えているかわからないわ」
「えぇ…。二人そろって古賀さんのことなんだと思ってるの?私がどうこう言える人じゃないけどさ」
摩耶は腕を組んで少し考える。そして、何かひらめいたような顔をする。
「あ、これは偵察ね」
「…?」「ん?」
「私が思うに、古賀とやらはお兄さんのことが気になっている」
「え?圭一のこと?」「…。」
「そして、お兄さんの周辺状況を知りたいがためにいろんな人に接触してるんじゃない?」
「じゃあ、なんで私のことを聞いたの?」
「ただのカモフラージュだよ。私のことを調べるために。そこでお兄さんのことを質問したら怪しいじゃん。だから陽菜は咬ませ犬ってこと」
「たとえ悪いけど、なるほど?なんかあんまり分かんないけど」
「…やっぱり古賀さん。けいくんのこと」
なんかこわい顔してるよ?雫。
「お兄さんモテるね」
「…。」「…。」
「二人とも黙っちゃったけど」
まぁ、顔は悪くないよね。性格も優しいし、落ちる女の子は割といるかもしれない。実際、雫から好意を向けられているわけだし。
「まぁ、摩耶の考え過ぎだよ」
「一つの可能性として、あると思うよ」
「そうね。なんか納得するわ」
「雫…?さっきから肯定的なの何?」
「九条さんが言うなら、そうなんじゃない?同じ卓球部だからさ」
「遠野さんの考察も、かなり的を得ているわ」
「えぇ…」
そうなのか、そうなのか?
前々から気になっていたが、より一層、古賀美咲という子のことが気になるようになった。
キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
「あ、そういえばまだ授業中だったのか」
「そうね。もう完全に休憩時間の気分だったわ」
「さて、帰りますか陽菜。九条さんもまたね」
「ええ、遠野さんもまたね」
「雫、じゃあね~」
「うん。じゃあね」
挨拶を交わして、教室を出る。
「摩耶さ、雫といつから面識あったの?」
「陽菜が学校休んだ何日か前。楽譜をお兄さんに渡してもらった日に連絡交換した」
「へえ、そうだったんだ」
「うん。…ふふ」
「え?なにその笑い」
摩耶は答えないまま自分の席へ戻る。
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「くしゅん!」
授業の終わり掛け、急にくしゃみが出てきた。誰か噂でもしているのかな?
早く終わらないかな?なんて考えながら、頬杖をついて窓の外を眺める。
もう夏も本番だな。暑い。
最近、卓球部内では恋人を作る作らないの話題で持ちきりだ。夏休み前に彼女を作って遊びに行きたい男ども。それを察して気持ち悪がっている女性陣という構図だ。
「彼女かぁ」
今まで、部活で忙しくて考えたことなかったな。大会も控えてたし、周りからすごい期待されてたから彼女作って遊びほうけてたら、何言われるかわからない。
しかし、今年は何も言われないだろうきっと。
…雫と陽菜に何言われるかわかんないな。
…雫ねぇ
古賀さんが言っていた。雫は僕に好意を持っているって、二人はお似合いだって。
他人の言葉をうのみにして浮かれるのはどうかと思うが…そんなことを言われたら気になるに決まってる。
あと少しで夏休みか。
…その後の授業は、ずっと雫のことを考えていた。我ながら気持ち悪いとは思う。
そして時間は進み放課後。部活動の時間だ。
僕はいつも通り、古賀さんの練習を見ている。正直もう僕がいなくても十分な腕前なんだけどなぁ
「ねぇ古賀さん」
「なんですか?」
「もう、僕以外でも練習してみないか?」
「え…先輩だから本気を出せるんです!ほかの人だと緊張しちゃって」
「それはそれでうれしいのだが、実際の大会は名前も知らない赤の他人だ。緊張しないようにしとかないと」
「と、言われましても…」
ということで僕は、一つひらめいた。
「部活内でトーナメント戦をしよう」
「ええ⁉」
部員全員でトーナメント戦をする。これである程度実力を測ることもできるだろうし、何より、僕以外の人ともプレイしてほしい。
「休憩後にやるか」
「そんな!いきなりです先輩」
「たのしくなってきたぁ」
「心底楽しそうですね…」
と、時計を見ているとちょうど休憩時間になっていた。
「よし、古賀さんも休憩していいよ。みんなに声掛けしてくる」
「はい」
そして、全体に休憩をとるように指示をだす。休憩時間の間にルーズリーフにトーナメント表を作る。ランダムに対戦相手を決めていく。
「なにやってるの?」
うしろからひょいっと雫がのぞき込んでくる。
「休憩後にな、トーナメント戦をしようと思って」
「ほう。そりゃまたどうしてかしら?」
「まぁ、現状の部員たちの実力を測りたいってのと、古賀さん、僕とばっかり練習してるから、僕以外の人とも練習してほしんだよね。だからこれを機にってこと」
「なるほど」
「うん。よし!こんな感じだ!」
「あ、私とけいくんも普通に参加するのね。シード枠とかじゃなくて」
「あぁ、実際の大会で自分と実力差が段違いの相手にあたらないとは限らないじゃん?だから」
「鬼ね…。手加減してあげなさいよ?」
「しないよ。相手に失礼じゃん」
「んんん。けいくんとあたる子がかわいそうだわ」
なんて会話をしながら休憩時間を過ごす。
「さて!みんな休憩終わり!ちょっと集まってくれ!」
僕の声かけにみんなが集まってくる。
「これから、トーナメント戦をしようと思う。これはみんなの実力を大まかにでも測りたいためだ」
次々に「はい!」と元気のいい声が聞こえてくる。やる気いっぱいで僕はうれしいよ。
そして、僕の作ったトーナメント表を張り出し、各々バラバラな反応が返ってくる。
僕と最初に戦うのは、大会ではいいところまで行って負けちゃう子か。まぁ、普通にプレイしてもいい勝負になるだろう。
「よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
「ゲームルールは1セット先取。デュースなし。では!」
こうして、トーナメント戦が始まる。
順調にいけば、5回勝ち続ければ優勝だ。
まずは1戦目。まぁ余裕だったね。雫も通過。古賀さんも通過している。なんだ、僕以外でもちゃんと実力を発揮できてるじゃん。
そして2回戦。3回戦と勝ち進んでいく。雫も難なく勝ち進む。そこまでは予想ついていた。しかし部員たちのひそひそ話が耳に入ってくる。
「古賀さん、強くね?」
「おお、ちゃんとプレイしてるとこ初めて見たぜ」
「あの切り返しの速さ…。平野先輩に稽古してもらってるだけある」
「ほんと、強すぎ」
「私なんて、弄ばれただけで終わったわ」
たった半年で、ここまで上達したのか…。末恐ろしい…。
「雫。古賀さん、強くなっただろ」
「そうね。さすがけいくんだわ」
「僕は、助言しただけで、頑張ったのはあの子だよ」
「…ふ~ん。あ、私の対戦相手、古賀さんみたいね」
「お!楽しみだな。まぁ雫が負けるとは思えないけど、どこまで点数を取れるか」
「…ラブゲームで終われせてやるわ」
「なんでそんな殺気立ってる?」
「気のせいよ」
そう言って、雫は卓球台へ向かう。
さて、僕も行きますかなぁ
△▼△▼
第4回戦、僕はもちろん勝利、ラブゲームとはいかなかったものの、かなり点を守った方だろう。
さてと、お隣の雫古賀チームは…?
「…え」
11 - 9
古賀美咲の勝利。
「…まじかよ」
雫が負けた?そんなことがあるのか?
うつむき気味に歩く雫のもとへ駆けつける。
「雫…。お前、どうした?古賀さんのために手加減したのか?」
「…いや、本気でやった。それで負けたわ」
雫は目を合わせない。相当落ち込んでるように見える。
「大丈夫か?雫…」
「ごめんけいくん。先に帰ってもいいかしら?体調悪い」
「お、おう。気を付けて帰ろよ」
そう言って、雫はトボトボと体育館の外へ歩いてく。
ざわつく体育館。「あの九条先輩が?」「帰っちゃったけど?どうしたんだろう?」「まさかとは思っていたけど…勝つなんて…」など
「平野先輩!」
「古賀さん」
「わ、私、勝っちゃいました!すごいです!全部先輩のおかげです!」
「いや、僕は助言しただけで、古賀さんの頑張りだよ」
「そんなことないです!すべて平野先輩のおかげです…!」
そしてトーナメント表には、僕と古賀さんの二人だけが残った。
【今日のひなたん】
お料理なう。
軽食というか、小腹が空いたので圭一と私の分を作っている。あいつには一切手伝わせない。なぜかというと散らかすからだ。
「卵サラダと食パンでサンドイッチとかいいね」
と思い、ゆで卵を作る。その間にレタスときゅうりを切る。
トントントンと小気味いい音が響く。
しかし
「いっ!」
きゅうりを切っている途中で指を切ってしまう。浅い切り傷だが、血がとめどなく流れ出てくる。
「ん?どうした?陽菜」
異変に気付いて圭一が様子を見に来る。
「指切った」
「珍しいこともあるもんだ。こっち来な」
そうして、圭一は私を机に座れせて、救急箱を持ってくる。
「そんな大げさな」
「もし細菌が入って、大事になったら大変だろ?消毒するから、切ったところみせて」
「はい…」
そうして、圭一は私の切り傷のところに消毒液をかけ、軽く綿で拭く。
「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝」
そりゃもちろん痛い。切った時より痛い。
「どこから声出しとんねん。もっと女の子らしい感じにならないの?」
「難しいこと言うなお前」
「ほら頑張ってみろ」
「あん!いやん!そこっ…らめぇ♡」
「…。」
「い…いたいよぉ…お、お兄ちゃん!んあっ♡」
「…。」
「おい黙るな。なんか言え」
「カワイイネー」
「は?心こもってないやんあ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝」
話してる最中に消毒液をぶっかけてきた。
「まじ許さんこいつ」
「よし。絆創膏貼って終わり」
「圭一のサンドイッチ無し」
「申し訳ありませんでした。私にもサンドイッチをお恵みください」
ものすごい勢いで土下座する圭一。プライドはないのか…。
足で踏んずけてやろうかと思ったが、これで喜ばれたら困るのでやめておいた。