君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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17話 先輩のこと、奪っちゃいますね

 

 

 

    ----------> ○ <----------

 トーナメント準決勝戦。古賀美咲と対戦することになった。今年入部した後輩がここまで勝ち進んできた現実が少し恐ろしく感じる。二年や三年の部員に勝ってきたのだから。けいくんの指導がかなり的確だったのだろう。

 にしても上達スピードはとてつもないことは確かだろうね。手加減するつもりではあるが、油断は禁物かもしれない。

 試合開始前の挨拶。お互いがラケットを見せ合う。

「古賀さん、すごいわね!まさか二年や三年のメンバーを倒しちゃうなんて」

「私が一番びっくりしてます…なんだか、信じられません…」

 少し緊張交じりの返答が返ってくる。

 そして、お互いが卓球台を挟んで向かい合う。

「よろしくお願いします」

「よ、よよよ、よろしくお願いします!」

「そんな緊張しなくてもいいわよ」

「はい…あはは」

 ピッ!とホイッスルが鳴り、試合開始。

 

 先攻後攻を決めるじゃんけん

「最初はグー」「最初はグー」

「じゃんけん」「じゃんけん」

「ぽん!」「ぽん!」

 私がチョキで、古賀さんがパー。私の選考だ。

 ラケットでピン球を下に打ち付け、バウンドして帰ってきた球をキャッチする。サーブをする前のルーティン的な行動をして、サーブの構えを取る。

「…。」

「…。」

 古賀さんの表情が一気に変わる。先ほどまでのおどおどした雰囲気は消え、凛々しく落ち着いた、百戦錬磨のオーラを漂わせている。

 なんだろう…一体。この気配というか、急にバトル漫画始まった?かと思うぐらい、緊迫した空気が流れる。

 

 トス、そしてサーブを打つ。

 無回転サーブ。何のひねりも無いただのサーブを打つ。様子見ということで。

 古賀さんは普通に返してくる。その後はラリーが続く。

「…先輩」

「なに?」

「平野先輩のこと、どう思ってるんですか?」

 その質問に動揺したせいか、打ち返したピン球はあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。

  1 - 0

 

「どう思っている…とは?何かしら」

 すこし圧をかけるように答える。

 会話を続けたまま、私はサーブを打つ。

「もちろん、恋愛的に好きかどうかです」

 古賀さんもプレイしながら、会話を続ける。

「今、それ聞く必要あるかしら⁉」

「わっ!」

 強くスマッシュを打ち、古賀さんは捕らえきれず床に落ちていく。

  1 - 1

 

「ただの世間話ですよ先輩」

 古賀のサーブ。あの構えはけいくんと一緒…。じゃあ、こっち方向に飛んでくるはず。

「今は試合中よ」

 しかし…。

「んな⁉」

 思っていた方向とは逆方向にピン球が飛んでくる。反応が遅れてそのまますり抜けていきサービスエース。

  2 - 1

 

「私、気になるんです。九条先輩が平野先輩のこと、どう思っているのか」

 そして、二回目の古賀サーブ。さっきとフォームは一緒、けいくんと同じフォームなのに飛んでくる方向が違うかった。これは少し警戒しないと…。そう思い台から少し離れて、どちらに来ても対応できるようにしておく。

「ただの幼馴染。それ以上でも以下でもないわ」

 トス。サーブが打たれる。

「やば⁉」

 打たれたピン球はものすごい勢いで回転して台の横へ滑り込んでいく。台からすこし距離を開けていた私は追い付けずにそのまま落下する。

 またもやサービスエース

  2 - 2

 

「九条先輩、手加減してますか?」

 私にサーブ権が回ってきた。

「ちょっとね」

 見栄を張る。入ったばかりの後輩と同点になっているのが少し恥ずかしいと感じてしまったから。

「手加減、しないでください。これで負けても文句言わないでほしいので」

「負けないわよ」

 そう言うなら、まじめにプレイするか。

 いつも通りにサーブを打つことにした。

 私のサーブはかなり回転がかかるため、普通に打つだけじゃ明後日の方向に飛んでいく。回転を相殺する形で打ち返さないといけない。

「くっ!」

 古賀のレシーブは私の回転に負けて、明後日の方向へ飛んでいく。

「やっぱり強いですね。先輩」

「あたり前よ」

  2 - 3

 

「話を戻します。平野先輩のこと、本当に幼馴染だけですか?」

「まだ続けるの?それに、隣にいるんだから聞こえるわよ」

 卓球台は横一列に一台分のスペースを開けて均等に並んでいる。少し距離があるといえど、全然聞こえる距離にいる。

「大丈夫です。聞こえません」

「どうして、そう言い切れるの?」

「聞こえてしまったら展開が危ういからです。ストーリー上、平野先輩に聞かれるとまずいからです」

「どういう…?」

「まぁ、聞こえないから気にせず話していいよってことです」

 まぁ、なんだかわからないけど、妙に納得してしまったので会話を続けることにするか。

 サーブを打つ。さっきと同じように

「おぉ…」

 なんと、古賀は打ち返してきた。今の一回で打ち返し方がわかったらしい…すごいな。

 その後はラリーが続く。

「さっきも言った通り、幼馴染よ」

「嘘ついてますね」

「どうしてそう言い切れるの?」

「見ていればわかります」

 古賀の打ち返した球はネットインして、古賀の点数に。

「ごめんなさい」

「いえ」

  3 - 3

 

「先輩が嘘を貫くようなので、私の本心を教えます」

「え?」

 古賀サーブ。あのフォームは見たことがない。どこに飛んでくるのか予測がつかない。

 トス、そして放たれたピン球は無回転かつ低いバウンド。ものすごいスピードを出し一直線に飛んでくる。

「ちょま!」

 打ち返すことはできたが、打ち上げる形で相手のコートに戻っていく。そして

「私は、平野先輩のこと…」

 スパァン!とスマッシュが決まる。

「好きですよ」

  4 - 3

 

 正直、そんな気がしていたよ。古賀はけいくんに気があるって。最近すごい仲良くしてたし、可能性はなくはないって思ってた。

 そして、遠野さんに接触してきたのは…やっぱり目的はけいくんだったんだ。

「…それを私に言ってなんになるの?」

「九条先輩は平野先輩に気がある。これは見ていればわかります。だから、正々堂々とライバルになろうってことです」

「私は、けいくんのこと、別に」

「また嘘ついてますね。正直になってください。どうして隠し続けるんですか」

「隠してないわよ」

 古賀のサーブ。動揺しているせいかピン球をとらえることができない。サービスエースだ。

  5 - 3

 

 落ち着け私…。落ち着くんだ。

「さっきまでのおどおどした古賀美咲はどこへ行ったのかしら」

「これが素ですよ。あんなめんどくさいキャラ演じるのしんどいんです」

「カミングアウトが過ぎるわ」

 何この子、こわ。

 そして私のサーブ。ラリーが続く。

「では、わかりました。こうしましょう」

「…?」

「この試合で、先輩が勝ったら私は諦めます」

「諦めるも何も…」

「まだ言ってるんですか?往生際が悪い」

「うるさいわね…あ!」

 ラリーの流れとは反対方向に飛んできたピン球を捕らえることができなかった。

  6 - 3

 

 まずい。二倍の差をつけられてしまっている。

 なぜ、こんなに動揺してるんだ。

「もし、私が先輩に勝ったら」

「勝ったら?」

 

「先輩のこと、奪っちゃいますね」

 

「…だめ」

「どうしてですか?先輩は平野先輩のこと、なんとも思ってないんですよね?」

「それでも、だめ」

「やっぱり好きなんじゃないですか」

「私は、けいくんのこと好きになっちゃいけない」

「…どうして?」

 会話をしながらもプレイは続く。

「友達のために、好きになっちゃいけない」

「友達のため?どういうことですか?」

「言えない」

 ここは、陽菜のために負けちゃいけない!

 そう陽菜のために…決して私のためじゃない。

 下向きの回転をかけて、相手のコートへ返す。バウンドして勢いが失速し、私の点数に

  6 - 4

 

「まぁ、お友達のことはよくわかりませんが、九条先輩がこのまま負けてしまえば、私は本気で平野先輩のことを狙うつもりですよ」

「それは許せない。負けられない」

「じゃあ、本気出してください」

「…。」

 一度、落ち着こう。古賀のペースに乗せられて実力が発揮できていない。

 深呼吸しよう。

 

「わかった。ここからは本気よ」

「はい。よろしくお願いします」

 ここから巻き返して、私が勝ってみせるんだから。

 

 そう、思ってたのに。

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 

 ゲームセット。

  11 - 9

 古賀美咲の勝利。あのまま点差を広げることができずに負けてしまった。本気でプレイした。手加減なんてしていない。

 おかしい。負けてしまった現実を受け入れることができない。

 隣の台からけいくんが駆け寄ってくる。

「雫…。お前どうした?古賀さんのために手加減したのか?」

「…いや、本気でやった。それで負けたわ」

 目を合わせられずに下を向いている。こんな泣きそうな顔、見せたくないから。

「大丈夫か?雫…」

 心配の声をかけてくれる。しかし今はそのやさしさがとてもつらく感じてしまう。

 だめだ。けいくんの声を聴いているといろんな感情がぐっちゃぐちゃになる。

「ごめんけいくん。先に帰ってもいいかしら?体調悪い」

「お、おう。気を付けて帰ろよ」

 私は荷物をまとめて、体育館を後にした。

 

 

 帰路。一人でトボトボと歩いていると

「雫ちゃ~ん」

 後ろから能天気な声が聞こえてくる。声の主は美波だろう。

「美波」

 振り返ると、予想通りの美波だった。

「あらまぁ、そんな辛気臭い顔しちゃって~。部活でなんかあったの?」

「…別に何も」

「ふ~ん」

 美波は顎に手を置き、目を細めて考え込むような表情をする。この子はたまにすべてを察した。と言わんばかりの表情をするときがある。本当に心を見透かされているような感じがして、たまに怖い。

「なによ」

「別に~。一つ言えることは、雫が思い込んでるほど状況は悪くないって話」

「…?」

 どういうことだろう?

「この前の掃除の時間に話したたとえ話。その続きってところね?」

「あれは、たとえ話で私の話じゃないから」

「はいはい。その様子を見るに、突然のライバル出現!そして大ピンチ~!って感じかな?」

「…。」

 ほんと、怖いよね。

「でも安心して。私が思うに、そのライバルは何もできない。というか何もしてこない」

「どういうこと?」

「片思いさんは、少しずつ感情が揺れ動いている。詳しくは言わないよ?面白くないから」

「揺れ動いている?」

「君たち三人の絆の中に、赤の他人が介入するなんて不可能ってこと」

「ふん…」

「それに、ライバルさんはライバルさんじゃない。キーパーソンだ」

「わかんない…」

「わからなくてもいいよ。というかわからないでほしい。面白くなくなるから」

「ふん…」

「まぁ、これを読んでいるみんなのために軽く説明すると、ライバルだと思っていた人は、実はキーパーソンで、雫のために動いている」

「読んでる人…誰?私のために動いているって?」

「まったく、君たち二人はどうして、素直に背中を押すってことができないのかね?遠回りして、悪役になろうとして…全く、これだから他人の恋愛を見るのは面白いんだ」

「まって、なにもかもわからないわ」

「振り回されているおっぱいちゃんがかわいそうだ」

 いろいろ濁して話しているのはわかるが、なんかもう理解するの諦めた。

「とにかく雫。行動しなかった側が悪い。先越されても文句は言えない。だからね」

「あ、はい…」

「何もわからないって顔してるね。それでいいのだよ」

「美波ってそんな不思議ちゃんだったかしら」

「最初はこんなメタキャラにするつもりなかったらしいけど、路線変更ってことね」

「え?う、うん…うん?」

「ということで、用は済んだので帰るね。じゃあまた明日」

「あ、ちょっと」

 そう言って、私と真反対の方向へ走り出す。あの子、私と話すためにわざわざ逆方向に進んできたのね。

 なんだかよくわからないことを言われた気がする。

 でも…。

「安心した…気がする?」

 

 

    ----------> ◇ <----------

「平野先輩!」

「古賀さん」

「わ、私、勝っちゃいました!すごいです!全部先輩のおかげです!」

「いや、僕は助言しただけで、古賀さんの頑張りだよ」

「そんなことないです!すべて平野先輩のおかげです…!」

 そしてトーナメント表には、僕と古賀さんの二人だけが残った。

 

「よろしくおねがいします」

「よ、よろしくお願いします!」

 古賀さんと卓球台を挟んで向かい合う。最終決戦ということでギャラリーも僕らの方をじっと見つめる。目の前にはあの雫を倒した人物が相手だ。油断できない。今まで頑張ってきた成果がこうしてはっきりと表れると指導者としてとてもうれしく思うが…ちょっと、成長速度が速すぎて恐怖を感じる。

「じゃ、雫を倒した古賀さんの実力。見せてもらおうかな」

「ほ、本気で行きます!」

 相変わらず緊張しているなぁ。

 じゃんけんをして先攻後攻を決める。結果は僕が先攻、古賀さんが後攻となった。ピン球を手に取り、卓球台でバウンドさせてサーブ前のルーティング的な行動をとる。

 トス。そして打つ。

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 

 どうしてだろう。おかしくない?

 確かに上達しているし、油断すると僕でも危ない時があった。しかし、点数板をもう一度見る。

  11 - 0

 ゲームセット。ラブゲームで試合が終了した。

「だ…だめ。もう…体力が」

 古賀さんは力なく膝から崩れ落ちて、ペタン座りをしている。

 雫との一戦で体力を使い果たしてしまって、僕と戦っているときは結構ギリギリの状態で戦っていた。ということになるのだろうか。まぁ、五回連続で試合をしているんだ。それにほとんど初めての相手だったし、自分よりも学年が上の選手を相手にしていたんだ。この子にとってかなりしんどかっただろうな。

 まぁ、最後の結果は少しあれだったが頑張ったことには変わりないんだ。

「お疲れ古賀さん。にしても本当に強くなったな。指導者として誇らしいよ。今日はよく頑張った」

「は、はい!」

 僕は、ほぼ無意識に古賀さんの頭に手を置いて撫でていた。

「あ…」

「…あ!ごめん!無意識だった!」

「い、いえ!大丈夫ですよ!ちょっとびっくりしましたけど、うれしかった…です」

「あ、あぁ…」

 なんだこの空気…。女子生徒たちがひそひそ言いながらこっちを見ている。やめて…!

 さてと、いい感じの時間になったことだし片付けを始めようか。そう思いみんなを招集して挨拶をする。

「はい。みんなお疲れ様!この結果をもとに今後とも頑張ってもらいたいと思う!ではちょっと早いけど、後片付けして今日は解散!以上!」

 各自、「ありがとうございました」とあいさつを交わして、お片付け。ふと古賀さんの方を見ると、何人かが集まっているのが見える。なんだか楽しそうに会話しているようだ。よかった。これで周りとも打ち解けていけるといいな。

 さて、雫の様子が気になるな。

 帰ったら連絡してみるか。

 

 

 

 





【今日のひなたん】

 晩御飯を食べ、片付けをして、お風呂に入って、歯を磨いて、寝る前の暇な時間。小説を書きたいけどやっぱり何も浮かばないんだな。
「う~ん」
 今日は動画共有サイトでも眺めて、眠くなったら寝ようかな?
 パソコンの電源を切って、ベッドに寝転びながらスマホで動画をあさる。
「お、この曲」
 私の好きな曲のギター弾いてみた動画を見つけた。気になったので再生して聞く。ギターやベース、ドラムなどの弾いてみた叩いてみた系の動画は割と好きで、たまに見たりする。ギターにあこがれて軽音部に入ろうか悩んだ時期もあったが、人前で演奏できるほど上達する未来が想像できなかったのであきらめた。
 もしかしたら、弾けるようになっていたのかもしれないけど…お琴だって、茶道部に入部するまではやるって知らなかったわけだし。
 あとは、高いね…。たぶん部に所属すれば貸してくれるだろうけど、いずれほしくなる。正直、お琴も家にほしいぐらいだから。
「にしても、かっこいいよね。ギター弾ける人」
 やっぱり私って音楽好きなのかな?楽器演奏とか見てると憧れちゃう。
 もっとみたいな。と思い「ギター弾いてみた」で検索。知ってる曲があれば片っ端から見始めた。
 エレキもいいけど、アコギで弾き語りしている男性はかっこいい。今度は「アコギ弾き語り」で検索。
「いいなぁ。弾き語り。お琴もやろうと思えばできるかもしれないけど、似合わないよねぇ」
 そのまま動画を見続ける。

「さて、そろそろ寝ないとなぁ」
 そう思いスマホの時間を確認する。
「…5時?」
 おかしいな。何度見ても午前5時。まさか一晩中動画を見ていたなんて。
「今寝たら確実に遅刻…寝ずに行くか…」

 案の定、授業中の眠気が最高にやばかった一日でした。
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