君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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18話 この先も友達で

 

 

 

    ----------> ◇ <----------

 目が覚める。平日だというのに陽菜に起こされる前に目が覚めてしまった。

「…。」

 ベッドに横になりながら天井を見つめて考え込んでいる。部活でトーナメント戦をしたあの日の夜に僕は雫へ連絡をした、でも返ってくる返事は全部「体調が悪かったから気にしないで」のみ。本人がそういうなら、これ以上詮索しないほうがいいだろうか。

「…。」

 自己中なのは重々承知なのだが、やっぱり僕に気があるように感じるところがある…。

 夏休みが近い。というか今日が最後の登校日で明日から休みだ。

「雫…」

 ほとんど無意識に名前を呼ぶ。僕は雫のことが好きなのだろうか。古賀さんに言われたあの日からずっと頭の隅には雫がいた。ゴールデンウィークに三人で遊びに行った時も雫のことを考えていた時間の方が長い。

「好き…なんか?」

 恋愛なんて今までしたことなくて、この感情が恋愛的な好きなのかどうかわからない。感情に回答なんてないから答え合わせもできない。でも、好きという大きなカテゴリの中には属しているものだろう。

「…。」

 きっとこれは恋愛的な好きだ。恋人として雫と二人で夏休みを過ごしたい。そんな願望が湧いてきたから。

 きっとそう。僕の早とちりではないはずだ。

「うん。そうだな」

 僕は、ベッドから体を起こして制服に着替える。そしてリビングに向かうと両親がすでに起きていた。

「おはよう」

「おぉ、めずらしいこともあるもんだな。おはよう」

「あら、おはよう。陽菜ちゃんは?」

「たぶん、まだ寝てるよ」

「そう、朝食は?」

「いらない。僕、もう学校に行く」

「おう、気ぃつけてな」

「うん。行ってきます」

 そう言って、僕は玄関を抜けて学校へ向かう。放課後について考える時間が欲しかったから。

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 

 ガラガラ、と教室の扉を開く。まだ誰も教室に来ていないようだ。

 僕は席について考え始める。変に凝ったことするよりストレートに伝える方がいいだろうな。今日は夏休み前だから体育館に集まって話を聞くだけ。そのあとは各クラスごとに夏休みの日程やら交通マナーやらの話をして即解散だろう。なので午前中にすべてが終わる。

 部活動も基本的には休み、午前で終わって午後はみんなと遊びに行くって感じで学校から人が消えるのは早いだろう。

 雫の教室に向かって…。

 連絡入れよう。

『おはよう。今日朝先に行っててすまんな。放課後なんだけど時間ある?』

 さぁ…ここで断られたら今日はおしまいだ。

 すると大体一分ほどしてから返信が返ってくる。

『空いてるよ~!』

 よし…

『教室に残っててくれ、放課後向かうわ』

『りょうか~い』

 なんだかもうすでに緊張してきた。

「よし!がんばれ僕!」

 

 

 

    ----------> ○ <----------

 学校へ向かう支度を済ませて平野家の前で待機。二人が来るのを待っている。

「明日は、けいくんの誕生日ね」

 予定としては明日の午前中に陽菜と買い出しに行く。午後になったらケーキ作り開始。けいくんはきっと夕方ごろに帰ってくるから、制限時間は夕方まで。

 夕方になると、陽菜のお母さんも帰ってくるから三人で夕食の準備。お誕生日パーティをする予定だ。まぁ…私は料理できないからお手伝いさんする程度だろうけど。

 にしても、私がいきなりケーキ作りたいって言っても、ちゃんと最後まで手伝ってくれる陽菜には感謝しないとな。持つべきものはやっぱり友。

 なんて考えていたら、玄関から陽菜が出てくる。けいくんの姿がない…。

「おはよう陽菜。けいくんは?」

「あいつ、なんか私より先に起きて学校に行ったみたい。あの低血圧が珍しい」

「え、珍しいわね…何かあったのかしら?」

「さぁ、部活でなんかあったんじゃないの?」

「いや、特に何も連絡は来てないわよ」

「ん~。ただの気まぐれ?」

 不思議だな。なんて考えながらとりあえず学校へ向かうために歩き始める。

「明日はよろしくね。陽菜」

「おう!まかせろり」

「本当に心強いわ」

「そんな大したことしてないと思うけどなぁ」

 若干照れくさそうに陽菜は答える。

 すると、スマホに一通のチャットが届く。けいくんからだった。

「…?」

「どしたの?そんな気難しそうな顔して」

「なんかご指名が入った」

 私はけいくんからのチャット画面を陽菜に見せる。画面には『おはよう。今日朝先に行っててすまんな。放課後なんだけど時間ある?』と書かれている。

「え、なんだろう」

「まぁ、何も予定ないし」

 私は『空いてるよ~!』と返信する。『教室に残っててくれ、放課後向かうわ』と返ってきて『りょうか~い』と返事をする。

「これ、私が知ってていいの?」

「いいんじゃない?妹特権」

「妹特権、つよ」

 

「…にしても厚いわね」

「熱い…インドア派の私にとって夏って熱いだけの季節なんだよね」

「私もそこまでアウトドアって感じでもないし、暑くて外に出る気が失せるわ」

 最近の夏は暑すぎるんだわ。十数年前とかなら全然外に出て遊びに行ってたけど、ここ数年の夏は死を感じるほどの暑さ。熱中症で救急搬送される件数も年々増えているし、なんなら自宅に居ても熱中症と診断されるケースも出てきた。十数年前ならありえなかったはず。

 暑さのせいで汗が止まらない。タオルで汗を拭いながら通学路を歩く。

「でもさ、屋上って日陰に居れば涼しいよね。風がよく吹いてるし」

「そうね。日差しさえ遮れたら涼しい」

 なんて会話をしていると学校に到着した。なんとなくけいくんの下駄爆を確認する。ちゃんと靴が入れ替わってるから学校には来ている。

「じゃあ、またね」

「うん。またね」

 陽菜と別れて自分の教室へ向かう。

 

 ホームルームが終わると、全校生徒が体育館に集められて夏休み前の挨拶をする。校長のありがたいお言葉を聞かされる。意味あるのかな?なんて思いながら。

 校長のお話が終わると、今度は教頭のお話。

 教頭曰く、最近の学校付近で交通事故が多発しているらしい。学校の正門前に大きな横断歩道があるからより一層気お付けて登下校するように。とのことだ。

 確かに一か月もしない前に私も車に轢かれそうになった。気を付けておこう。

 そして、すべてのお話が終わり各自のクラスへ帰っていく。周りのみんなは午後何して遊ぶか話し合ってる。けいくんも私とどこか遊びに行きたい的な感じなのかな?陽菜には連絡してなかったみたいだけど。二人でってこと?

「九条先輩」

 後ろから古賀さんに呼び止められる。

「おはよ。どうしたの?」

「あ、あの時はごめんなさい!」

「ん?あの時って?」

「いや、勝っちゃったこと」

「え、私今、喧嘩売られてる?」

「ち、違いますよ!あの時、勝つつもりなかったんです」

「勝つつもりなかった…?」

「あの時、私が負けて、やっぱり平野先輩には九条先輩しかいない。って背中を押すつもりだったんです。九条先輩なかなか行動に移さないから」

「余計なお世話よ…。あの時言った通りで私はけいくんのことなんとも思ってないわよ」

「まだ言ってる」

「何度でも言うわ」

 この子は、いったい何なんだろうか。

「とにかく、私はけいくんのこと、そんな風に思っていない。古賀さんが狙うなら狙うで私は邪魔しないわ。でも…」

「でも?」

 きっと、けいくんは陽菜を選ぶはずだから。古賀さんや私が入る余地なんてない。

「何でもないわ。じゃあまたね。部活で会いましょ」

「え?あ、はい。失礼します」

 古賀さんは諦めて歩いていく。

 この後は担任からいろいろ話を聞いて、プリントをもらって、解散。

「さて、けいくんが来るの待ってよ」

 

 

 

    ----------> ☆ <----------

 放課後。

 私は帰り支度をして教室を出る。そのまま昇降口へ向かって歩くが…。

 しかし気になる…とてつもなく気になる。こっそり教室の近くに隠れて聞いてようかな。妹特権だもんね。許される。

 くるっとUターンして、雫の教室へ向かうことにした。

 

 到着。

 ばれないように窓から中を覗く。雫と圭一が対面している。何やらただならぬ雰囲気を醸し出している。いったい何だろう。

「けいくん。どうしたの?そんな張り詰めたような顔して」

「僕。もう隠すのはやめることにした」

「隠す…?」

「僕は…」

 

 

    ----------> ◇ <----------

 放課後になった。さて、行くか。

 戦場に向かう兵士の気分だ。

 隣の教室なのですぐに到着した。中には雫一人。スマホを操作しているのが窓の外から見える。ガラガラと教室の扉を開けて中へ。

「お疲れ、雫」

「あ、けいくん。ご指名ありがとうございます~」

 雫はわざとらしく笑う。いつも通りのおちゃらけた感じ。いつもなら「とりあえずシャンパンを」なんてふざけた返事をするのだが今は愛想笑いしか出てこない。

「けいくん。どうしたの?そんな張り詰めたような顔して」

「僕。もう隠すのはやめることにした」

「隠す…?」

「僕は…」

 心拍数が上がる。息が詰まる。落ち着け自分。自分に言い聞かせて深呼吸する。

 一拍おいて、もう一度口を開く

「僕は、雫のことが好きだ。付き合ってほしい」

「…。」

 雫からの反応は、まだない。

 体感にして1分。実時間にして数秒が流れた。

「…どうして私なの?陽菜は?」

 どうして、ここで陽菜の名前?

「妹だし恋愛感情はわかないよ」

「でも、血繋がってないんでしょ?」

「まぁそうだが。それとこれとは関係ないよ。僕は雫が好きだ」

「…ふ~ん。うれしいこと言ってくれるじゃない。でも…」

 雫は、ここでうつむいてしまう。「でも」の先を言い淀んでいる。

 雫の様子がおかしい…。

「雫?大丈夫か?」

「…なにが?」

「だって…」

 

    ----------> ○ <----------

「だって…泣いてるじゃん」

 けいくんに言われて気づく。私泣いているんだ。

 だめ。泣いちゃダメなのに。涙が止まらない。

 私は、陽菜の恋を応援するって決めたの。決めていたはずなんだ。私はけいくんのことなんとも思っていない。そう言い聞かせてきたじゃん。

 なのにさ。

 ごめんなさい。の一言が喉につっかえてうまく言えない。

 たった一言。断る言葉が口から出ていかない。自分の気持ちを押し殺すことができない。

「雫、ごめん。泣くほど嫌だって思わなくて」

「違うわ!そうじゃないの。違うの…」

 ここで言いなさい雫。あなたの気持ちには答えられませんって。陽菜のために私は断るのよ。言うことを聞きなさいよ。私の口。

「私は…けいくんの、気持ちに、答える…ことが」

「…。」

「…。」

 どうしてなの!最後の最後で言葉が出ない。

「わかった。ごめんな雫。嫌じゃなければさ、この先も友達でいてほしいな」

「…ええ、ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ」

「そうね」

「…。」

「…。」

「先、帰るわね」

 ガラガラと扉を開けて、私は駆け足で教室を出る。

 涙をハンカチで拭いながら。

 

    ----------> ☆ <----------

 私は体育座りをして二人の会話を聞いていた。教室の中央。一枚壁の向こうで二人が会話をしている。

「雫が、泣いてる?どうして?」

 状況が呑み込めない。雫は圭一のことが好きで、願ったり叶ったりだと思っていたのに、どうして断っちゃったの?わからない。

 教室の向こうから「ん~」とうなる声がする

「あぁ~。泣かせちゃったな…。明日から気まずいな」

 圭一が独り言を言っている。

 私は立ち上がって、開いた窓の外から圭一を眺める。

「圭一」

「うわぁ、びっくりした。なんだ…聞いてたのか」

「うん。ごめん」

「別にいいよ。は~振られちまったな~」

「どうして、雫泣いてたの?」

「わかんない。俺のこと嫌いだったわけじゃなさそうだし。ほんとなんでだろう」

「心当たりも?」

「一切ない」

「…圭一は、今でも雫が好き?」

「まぁ…な。でも振られたし、あきらめる努力をしないと」

「そっか」

 数秒の沈黙。

「よし!帰るか。陽菜」

「そうだね」

 心のもやもやはさらに大きくなっていった。今まで以上に苦しい。心臓を鷲掴みにされている気分だった。

 

 その日の夜。自室のベッドの上でぼーっとしていた。

 放課後から頭がぐるぐるする。とりあえず雫の連絡を電話をかける。

『もしもし?雫』

『あ~ごめん陽菜。ちょっと今手が離せないの。明日でも大丈夫かしら』

『あ、うん。わかった』

『ごめんね。チャット入れてくれたら反応するから』

 と言って通話は切られた。忙しかったのなら仕方ない。明日かけなおすか。

 ベッドへ寝ころび、そのまま就寝。

 明日の誕生日会、どうなるんだろう?さすがに無くなりはしないと思うけど…。今は考えるのをやめよう。

 おやすみ。

 

    ----------> ○ <----------

 陽菜からの電話を切る。

 手が離せないなんて嘘。うまく会話できる気がしないから落ち着くまで一人でいたい。

 私は、けいくんの告白を断った。うまく言葉にできなかったけど雰囲気的に断ったことになっているだろう。

 よかったじゃない。これできっぱりと諦めることができる。陽菜の恋を応援することができる。これでいいのよ。

 切ない。こんな感情を抱くなんて思っていなかった。私は陽菜に自分自身の恋心に気づいてほしかった。すべてはそのためだった。

『この先も友達でいてほしいな』

 けいくんの言葉がフラッシュバックする。

 そう。私の恋心なんてきれいさっぱり消し去って、友達のまま。また三人で遊びに行くの。

 私がくよくよしちゃだめよ。

 もう寝よう。たくさん寝れば気持ちも晴れるわ。きっと。

 明日の誕生日会…。どうしよう。

 

 

 





【今日のひなたん】

 高校一年生になった。中学の頃は部活に所属していなかったから高校からは何かやりたい。動画共有サイトでよく見るギター弾いてみた動画。この人たちのようにかっこよくギターを弾いてみたい。
「けど…絶対難しいし、一人でするのと部活としてするのでは意味が違う。挫折したときに周りに迷惑がかかっちゃう」
 体育館に集められた状態でそんなことを思う。いまは部活動紹介ということで、各部活動がステージ上でどんな活動をしているかを紹介している。
「あ、軽音部だ」
 軽音部の順番が来て、一曲披露してくれるみたいだ。

「おぉ…」
 素人でもわかる。かなりのクオリティでとても素人が入っていけそうな雰囲気ではなかった。軽音部は諦めてほかの部活にしよう。
 すると、茶道部がステージに上がってきた。
「私たち、茶道部は文化祭などでお茶菓子を提供したり、普段からお茶菓子を楽しんだり、お抹茶を点てたり、和の心を感じる部活です」
 お茶飲んで、和菓子食べてるだけの部活じゃない?
 なんて思っていると、隣に座っていた子が話しかけてきた。
「ねぇ、茶道部興味ある?」
「いえ、というか誰ですか?」
「一応、同じクラスなんだけど…遠野摩耶だよ。ちゃんと会話したのはこれが初めてだけど」
「あ~、最初の自己紹介で見た」
「そりゃ同じクラスだからね。それより茶道部、興味ない?」
「いえ、まったく」
「じゃ、ほかに気になる部活は?」
「軽…いやないね」
「じゃあ茶道部入ろう」
「どうしてそうなった?」
「私、気になってるけど一人で入るの嫌じゃん。周りの反応見る感じ入部希望なの私だけじゃん。だから」
「だから。って言われても」
「道連れ」
「もっといい言い方なかった?」
 でもまぁ…和菓子とか好きだし、ちゃんとしたお抹茶と和菓子が食べれるならいいかもしれない。かなり暇そうな部活だし、小説活動にも影響でないだろう。
「まぁ、いいよ。よろしくね」
「おぉ助かる。ところで君の名前は?」
「お前も覚えてないんかい…平野陽菜だよ」
「じゃあ、陽菜って呼ぶね」
「お、おう」
「私のことは摩耶って呼び捨てにして」
「え、まぁ…いいけど」
「よし。犠牲者確保」
 なんか、独特な子に捕まったなぁ…。


「ってのを最近思い出した」
 お抹茶を点てながら私は摩耶に話しかける。入部を決めたときのことを最近ふと思い出した。
「誰そいつ知らない」
「あんたのことだよ」
 この子は、昔から変わらないな。
「ねぇ陽菜、お茶まだ?」
「急かすな待ってろ」
「あい」


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