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いつも通り朝が来る。そう言えば今日って僕の誕生日なんだっけ。自分の記念日なのに忘れがちだ。家族や雫に言われてようやく思い出すことが多い。
小学校の頃は誕生日まで指折り数えていたのにね。
「さて、部活だ」
僕は体を起こして体操着に着替える。いつも通り朝食は食べずにそのまま玄関を抜けて雫の家の前に待機…と着いた瞬間にチャットが一通届く。雫からだ。
『おはよ~!今日、体調悪くてすやぁしたい…顧問には伝えてるから!』
『おはよ。大丈夫か?僕も休んで看病したほうがいいか?』
『大丈夫だよ!けいくんはあ部活行って…!陽菜が暇そうにしてるから、看病は陽菜に任せるわ』
『了解。安静にな』
『ありがTo』
雫が体調不良…これ僕のせいかな?僕が昨日あんなこと言ったせいで体調崩しちゃったのかな?だとするとものすごく申し訳ないんだが。
これ、お見舞いとか行った方がいいのかな?でも僕のせいならお見舞い行かないほうがいいのでは?わからない…。
「とりあえず、部活行くか」
雫がいない通学路を歩く。たった数キロの道のりがものすごく遠く感じた。
体育館の扉を開けて中に入る。まだ部員は来ていないようだ。
「さて、じゃあのんびりと準備して…」
「おはようございます」
「わぁ!びっくりした…古賀さん居たんだ」
ちょうど死角になるところに古賀さんがいたらしく、挨拶されて気づいた。普通にビビる。
「あ…すいません。わたし影薄いですもんね。ここに居るべき存在じゃないですから…ごめんなさい消えますね」
「ちょ、ちょっとごめんって、そんなに落ち込まないで」
「冗談ですよ。それより、九条先輩は一緒じゃないんですね」
「あぁ、体調不良だってさ」
「ほぉ…昨日あんなに元気そうでしたのに」
雫のこと、古賀さんに話していいのかな?正直助言が欲しいというか、慰めてほしいというか…。とにかくだれかに聞いてもらいたい。
「古賀さん。相談…いいかな?」
「いいですよ?どうしたんですか?そんな改まっちゃって」
「実はな…。僕、昨日フラれたんだ。雫に」
「…。」
沈黙。古賀さんはびっくりしているのか表情一つ変えずに、そのまま固まっている。
「…古賀さん?」
「その話詳しく!」
古賀さんはぐいっと顔を近づけてくる。
「ちょ、近い…」
「あ、ごめんなさい。あまりにも予想外だったもので。あの様子を見るに付き合うのは秒読みかと思っていたんですけど…」
「僕も正直、気があるんじゃないか?なんてうぬぼれてた節があるからなぁ」
「本当に、気がなかったの…?いや、そんなはずはない。あの目は恋してる目だったし…。でも確かに否定し続けてた。友達がどうとか言って…」
古賀さんは腕を組んでブツブツと独り言を言い始める。
「あ、あのぉ」
「あぁごめんなさい。にしてもびっくりです」
「何がダメだったんだろうか」
僕は雫のすべてを知っているわけではない。もしかしたら別に好きな人がいたのかもしれないし、彼氏がすでに居る可能性もある。
「もしかして、別に好きな人がいたとか?」
「え~…?そんな風には見えなかったですけど…」
「もうすでに彼氏がいるとか」
「それは絶対ないです…。あ、ネット上とか遠距離は知らないですけど。少なくとも学校内ではいません」
「…なんでわかる?」
「私、人間観察得意なので。あとストーカー」
「やめた方がいいよ。その趣味」
「でもやめられないんですね」
「まぁ、古賀さんから見て雫に彼氏は居ないってことだね」
「はい。それに先輩に気があるそぶりも見せてましたし…告白したときのこと詳しく教えてください」
「まぁ…いいけど」
思い出したくないなぁってのが本音。
「まず、僕が教室に残ってて。って連絡して、教室から人が消えたあたりで雫に会いに行った」
「はい」
「それで、普通に、好きです。付き合ってください。って」
「ふんふん」
「すると、雫が泣き出しちゃって」
「…え?」
「あ、泣くほど嫌だったんだって思ってさ…そのあと、言葉に詰まりながらだったけど、僕の気持ちには答えられない。って」
「泣くほど嫌だった。なんてことはありえないはず…。ますますわからなくなりました」
「う~ん。いままで仲良くしてたの。嫌々だったのかな?って思っちゃって」
「でも先輩たち幼馴染でしょ?それも幼稚園ぐらいから」
「そうだね」
「嫌々でそんな長期間一緒に居られないですよ。そこは自信持ってください」
「ありがとう」
「慰めになるかわからないですけど、告白は三回まで有効っていう話を聞きます」
「三回まで有効?」
「はい。なのでまだチャンスわあります!頑張ってください」
「…本当に可能性あるのかな?」
「…。」
「…。」
「ねぇ先輩?」
すると古賀さんは僕に抱き着いてくる。
「え、え!?古賀さん」
「…。」
古賀さんは何も答えない。
そして顔を上げてつま先立ちで顔を近づけてくる。
「古賀さん…」
「…。」
唇が触れ合う寸前で、パッと古賀さんから胸を押されて距離を離される。
「先輩。ここは、雫がいるからごめん。って断るのが誠実な男ですよ」
「…ごめん。でも急にハグされたらさ」
「言い訳しないの!私は二人を応援してるんです。がんばってください」
「…まぁ、ありがとう」
「そろそろ、皆来そうですね。準備しちゃいましょう」
「そうだな」
とりあえず気持ちを切り替えよう。
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午前10時。目が覚める。
今日は圭一の誕生日会。そういえば雫と買い出しに行く時間とか全然決めてなかったや。連絡しないと。
昨日の今日だから、大丈夫かちょっと心配だな。
寝ぼけた目をこすりながらスマホを探す。
「スマホぉ…どこぉ…あった」
手に取って画面を見るとチャットが一通来ていた。雫からだ。
『今から行くわ』
「今から、行く…?」
その瞬間、ピンポーンとインターホンが鳴る
「え!ちょっと待って!」
急いで自室から飛びだして玄関の方へ走り走る。勢いよく扉を開けるとそこにはやっぱり雫がいた。目が合うと雫は笑いをこらえるかのように目をそらした。
「ふふ…陽菜…その髪どうしたの…?」
寝起きのまま飛び出してきたので、髪は寝ぐせでボサボサだった。それはもう尋常じゃないほど。
「ね、寝起きで…あはは…」
「にしても…ふふ、あはははは」
とうとう耐え切れずに笑いだす。そんなに笑うことないじゃん。
「と、とりあえず上がって」
「ええ、ふふ…」
「そういえば、集合時間とか何も決めてなかったわね」
「いきなり来るからびっくりしたよ」
とりあえず雫をリビングに招いてお茶を出す。雫にはちょっと待っててもらい自室で着替えて、髪を軽く整えてきた。
「それで、買い出しに行く前にお話しがあるの」
「話って?」
大方、昨日の出来事についてだと思うけど
「けいくんから、昨日のこと聞いた?」
「ごめん。私教室の外から盗み聞きしてた」
「あら、じゃあ全部知ってるのね」
「うん…。」
「そう」
「ねぇどうしてあいつの告白断ったの?雫は圭一のこと好きじゃなかったの?」
雫は少しうつむいて次の言葉を探している。数秒の静寂が訪れた。そして顔を上げて目線が合う。きりっとした雫の瞳。
「けいくんのこと好きって、新学期が始まったときに話したよね。あれ全部嘘だったの」
「嘘?どうしてそんな嘘」
「陽菜。あなたはけいくんのこと、兄妹じゃなく異性として好き。違う?」
「…。」
私は返事をしない。肯定も否定もしたくなかったから。
「その反応はやっぱりね」
「…違うよ。私たちは兄妹。恋愛感情なんて持っちゃいけない」
「でも二人に血のつながりはない。恋愛しちゃいけないって誰が決めたの?本当の兄妹だとしても恋愛は許されるべきだと私は思っているわ」
「…。」
「陽菜は、兄妹っていう肩書のせいで自分の気持ちを無視し続けていた。私は陽菜が好きだってこと昔から気付いていたわよ?でもずっと無視し続けていた。それを見てていてもたってもいられなくなったのよ」
「…。」
「それに、今年で私もけいくんも県外に行っちゃうでしょ?簡単に会えなくなるから、せめて近くにいるうちに思い出を作ってもらいたい。だから、嘘をついて陽菜を焦らせたかった。自分の気持ちに素直になってほしかったのよ」
「余計な…お世話だよ」
「私は陽菜の恋を応援したかったの。そう決めてたんだけど…」
「…?」
雫はもう一度黙り込んでしまう。少し長めの静寂が訪れた。
そして、口を開く。
「私、本気でけいくんのことが好きになってしまったの」
「…え?」
「私は陽菜の恋を優先したかった。これは私が勝手に初めて勝手に墓穴を掘ったこと。実質には裏切る形になった。ごめんなさい」
「謝る必要なんてないよ」
「ねぇ陽菜。正直に答えて、けいくんのこと好き?」
「違うよ。きっと」
「まだ認めないのね」
「認めてしまったら、私はどうしたらいいのかわからない。止められない」
「止める必要なんてないわ。私はもうブレーキを踏まないことにしたわ」
「…どういう」
「最初の宣言通り、夏休みの終わり…正確には夏休み明け最初の登校日、放課後に呼びさして告白するわ」
「振ったのに?」
「告白は、三回まで有効よ?」
「それ、振った側のセルフ?」
「とにかく、私と陽菜はライバルになるの」
「…雫の方が圭一とぴったりだよ。私じゃない」
「それ、本気で言ってるの?」
「…。」
だって私たちは兄妹だから、血の繋がりがなくとも家族には変わりない。そんなの許されない。
『妹だし恋愛感情はわかないよ』
圭一のセリフがフラッシュバックする。そう、これは一方的な感情なのであって、好きを伝えたらすべてが崩れ落ちる。それが何よりも怖いから。
でも、雫のことばを聞いていれば私にもチャンスがあるのかも。なんて思ってしまう。明らかに雫の方が有利なのにライバルだなんて。
そのちょっとの希望にかけてみたい。なんて思ってしまうの。
「私だって…お兄ちゃんが好き」
「久しぶりに聞いたわ。お兄ちゃん呼び」
いつからだろうか。お兄ちゃんと呼ばなくなったのは。いつの間にか言えなくなって、それと同時に恋を始めた。
私が呼び方を変えて、すごく戸惑っていたのを覚えている。精神的に距離を離さないと、これ以上恋心が大きくならないようにしないと、兄妹という立場に押しつぶられてしまう。
「陽菜。私はあなたの背中を押すわ。でもその背中を追い抜くために走り出すことにした」
「でも、お兄ちゃんは雫のことが好きだって。妹には恋愛感情はわかないって。私に勝ち目はないよ」
「それは陽菜が恋愛対象になるための行動をしなかったからよ」
「そんなことしたって…」
「変わるわよ。絶対意味はある」
「…どこからそんな自信が湧いてくるのか」
「根拠はどこにもないわ」
「…何の励ましにもなってない」
「行動しなかった側が悪い。先を越されても文句は言えない」
「…。」
あの子が言ってたセリフと同じだ。
「でも、恋愛対象になるための行動なんて言われても、私にはわからない」
「私より詳しいと思うわよ」
「そんなこと」
「天才作家の卵でしょ?私よりもロマンチックなシチュエーションを思いつくはずよ」
「あはは…。天才作家…ね…」
一応、励まされているのだろうか。
やっぱり何度考えても雫に勝てる気がしない。
でも、可能性にかけてみようかな?なんて思ってみる。
「わかった…ライバル」
「ええ!」
雫は漫勉の笑みを浮かべる。
「さて陽菜。そろそろ買い出し行くわよ」
「あ、そうじゃん忘れてた」
「早くしないと、作る時間なくなっちゃうわよ」
「圭一、どのぐらいで帰ってくると思う?」
「たぶん、5時ぐらい?お兄ちゃん呼びやめちゃうのね」
「え、まぁ、ちょっと恥ずかしい」
「乙女だわ」
「うっさい」
なんて会話をしながら、私は出かける準備をする。小さなポーチに財布と携帯、エコバックを二つほど入れて準備万端。
「ねぇ雫」
「ん?」
「髪、ちゃんと直したほうがいい?」
雫を待たせちゃいけないと思って、軽く整える程度だったのでまだ寝癖が残っている箇所がある…。客観的に見て直したほうがいいかどうか。
「別にいいんじゃないかしら?くせっ毛ってかわいいじゃない」
「くせっ毛って言えるようなかわいいハネ方じゃなかったけど」
「まぁ、大丈夫よ。行くのスーパーだけだし、うろうろしてたらいずれ治るわ」
「わかった」
時刻は、ちょうど昼時。
行きの途中にでもお昼ご飯を食べていこうかな?なんて考えながら雫と玄関を抜けて買い出しに出掛ける。
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「へっくしゅん!」
部活中、そろそろお昼休憩の時間だな。なんて思いながら古賀さんとプレイしている。
「風邪ですか?」
「いや、体調はなんともないぞ」
「じゃあ、誰かが噂してますね」
「そうな…へっ…へっ…」
くしゃみが出そうで出ない。この時間が一番つらいよね。
「あ~誰かが噂しそうになってますね」
「へっくしゅん!」
「しましたね」
噂話をしそうなときってつらいね…。
そんなこんなで、昼休憩の時間になった。
「よし、お昼だな。古賀さんは休憩していいよ。みんなに休憩の合図してくるから」
「わかりました」
こうして、みんなの耳に届くように「お昼休憩入っていいよ」と叫ぶ。各々がお弁当を持ち寄って友達同士でお弁当を食べている。
まぁ、僕は弁当を用意していないので、コンビニでも行ってなんか買ってくるかな。
「あ、先輩」
「ん?古賀さんどうしたの?」
「よかったら、お昼一緒に食べましょ?」
「あぁ~ごめん。今からコンビニに買いに行くから、待たせると悪い」
「大丈夫です。先輩のお弁当用意しました!」
「僕の?」
すると、古賀さんは小さな可愛らしいお弁当箱を持ってくる。
「ほら、一緒に食べましょ」
「ありがとう」
ここはお言葉に甘えて、古賀さんが持ってきた弁当を食べることにした。体育館の端に座り、弁当の二を開けると、ソーセージや卵焼き、ミートボールやポテトサラダ、のりたまのふりかけがかかった白ご飯。一般的だがとてもおいしそうなお弁当だな。と思う。
「おぉ、おいしそう!古賀さんのお母さんが作ったの?」
「い、いえ…私が作りました」
古賀さんは少し照れながら答える。
「え!すごいね!将来、いいお嫁さんになるよ」
「そ!そんな!お嫁さんだなんて!」
バシッ!と背中を平手打ちされる。めちゃくちゃ痛い…。
「いてて…でも、すごいなぁ。僕は料理が一切できないから尊敬するぜ」
「こんなの、焼くだけですよ…!」
「その役だけでも、できないんだよね」
焼肉言って時に痛感した。
古賀さんのお弁当は、とてもおいしくてすぐに食べ終わってしまった。そのあとは他愛もない雑談をしながら、休憩時間を過ごした。
【今日のひなたん】
学校帰り、素直に家に向かわず寄り道するのが地味に楽しい。ということでまた街の方まで寄り道しに来ているわけだけど。
書店に行ってもほしい本はないし、ゲームセンターは地味に遠い。カフェ…お金ないなぁ。
そうだよお金があんまりない。
「やっぱり帰るか」
踵を返して家の方向へと歩き始める。すると。
「陽菜?」
「あれ?摩耶じゃん。こんなところでどうしたの?」
帰ろうとしたときに、摩耶から声をかけられる。制服姿なので同じ寄り道しに来た組なのかな?
「部活でお使い」
「…え、ごめん。何か連絡来てたっけ?」
「いや、私がたまたま部室にいたから先生に和菓子とかお抹茶とかのお使い頼まれた。割とまじめだから私」
「まぁ、出席率いいよね」
「ただでお茶とお菓子が楽しめるんだから当然。でも、そろそろ文化祭のことも考えないと」
「あぁ…そうだね」
茶道部にとって、一大イベントである文化祭。来客者にお茶を提供するお仕事とステージで和楽器演奏を披露するお仕事。私と摩耶はステージで演奏する仕事を任されている。
「そろそろ練習しないとね」
「本当にめんどくさい。三味線って難しんだよ」
「確かに…お琴だって難しいよ」
「弦と吹奏は大変…。打楽器組は良いよね」
「たぶん私たちが知らないだけで、彼らなりの苦労はあると思うけどね」
「ポンポンたたけばいいだけじゃん」
「摩耶、それ以上はいけない」
そのあとは、さすがに申し訳ない気がしたので摩耶のお使いを手伝うことにした。