君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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20話 海に行きたいね

 

 

 

    ----------> ○ <----------

 陽菜と一緒に買い出しのために街の方へ出ている。夏休みが始まった土曜日ということもあって人だらけ。ちらほらとカップルが居たり家族ずれだったりオタクって感じの見た目をした集団が集まっていたり、ほんと様々な人が歩いている。

「ねぇ雫」

「ん?なに」

 陽菜から急に声をかけられて声の方へ顔を向ける。

「そういえばお昼食べてないなって思って、スーパー行く前にお昼食べない?」

 確かに時刻はもう12時を過ぎている。とくに空腹というわけではないが今後のお菓子作りのために体力として、何か食べといたほうがよさそう。

「そうね。どこかで食べましょう。なにする?」

「雫は食べたいものある?」

「特に…あんまりお腹空いてないしね」

「そうなの?じゃあ私ファミレス行きたい。あそこならある程度なんでもあるじゃん」

「いいわね!人が凄そうだけど…」

「まぁ、そうだね。夏休み入ったもんね。とくに家族ずれとか多そう」

「いったん行ってみて、それから考えましょう」

「そうだね」

 ということで、最寄りのファミレスに向かうことにした。

「…海」

「え?」

 陽菜がボソッと言う。

「あ、いや、海なんて一度も行ったことないなって。ほらそこにあるショーケースの水着見て思ったの」

 陽菜は目の前にあるお店のショーケースを指さす。そこにはナイスバディなマネキンが水着を着ている。

「あぁ、私は一度だけあるわよ。確か小学生のころ」

「あ、そうなんだ」

「たくさん屋台が並んでて、かき氷とかりんご飴とか…夏祭りっぽい感じね!とくに焼きそばが絶品だったわ!なんでああいうところで食べる焼きそばってあんなにおいしいのかしらね」

「わかる!夏祭りの焼きそばとかたこ焼きとか、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね!」

「懐かしいわ…」

「海には、入ってないの?」

「入ってないわ」

「あ、そうなんだ…」

「まぁ小学一年生の時で、普通に怖かったわ。お父さんが抱きかかえて入ろうとしてたんだけど、私が断固拒否したのよね」

「まぁ怖いもんね」

 なんて会話をしながら歩いていると、ファミレスに到着した。

 とりあえず入ってみる。

 

「全然居なかったわね」

「そうだね…」

 思いのほか全然人がいない。逆に連休なので遠出している人の方が多いのかな?

「さて、なにしようかしら」

 メニュー表を眺める。パスタにピザ、ステーキにハンバーグなど、ほんと様々なメニューがある。

「陽菜はどうする?」

「ん~…この和風ハンバーグ定食にしようかな?」

「陽菜はやっぱり和風が好きなのね」

「単純におろしポン酢が好きなだけだと思うけど」

 私は…甘いもの食べたいな。

「私、このパフェでいいわ」

「お昼ごはん…なんだけど」

「甘いものが食べたかった」

「全然いいけど。じゃあ注文するね。それ何番?」

 テーブルの端に置かれている伝票とペンを取り注文する番号を記載していく。書き終わってベルを鳴らして店員さんに伝票を渡す。

「楽しみね」

「そうだね。ファミレスなんて久しぶり」

「もともと外食はあまりしないタイプだっけ」

「まぁ、母親の料理が一番おいしいって思ってるからね。あと、あんまり裕福じゃないからさ、金額見て萎縮しちゃう」

「私は逆に外食とか出前が多いわね。お母さんがあんまり料理が苦手ってのもあるし、節約して中途半端なものを食べるより、お金をかけておいしいもの食べたいって考えちゃう」

「庶民と貴族の壁を感じているわ今」

「そんなに裕福かしら、うちって」

「自覚ないタイプだ。お昼ごはんも基本コンビニよね。しかも生クリームとイチゴが挟んであるやつとか、カスタード入りのメロンパンとか…なんでカロリー高そうなもの食べて一切太らないの?モデル体型を維持する秘訣教えて」

「何もしてないわよ…?逆に太らなさ過ぎてちょっと心配だもの」

「いいなぁ、私なんて食べた分だけちゃんとついちゃうからさ」

「陽菜も太ってるように見えないけど」

「こいつがマジで邪魔」

 そう言って、陽菜は自分の胸をぺちぺちとたたく。

「私からしたらうらやましいの一言に尽きるんだけど」

「分けれるなら分けてあげたいわ…。あ、そういえば新しいブラ買わないと」

「え、また大きくなったの?」

「うん。今じゃ少しきつい」

 末恐ろしいわこの子…。

「そういえば、海はどうする?今年、初の海デビューする?」

「あぁ~どうしよう。確かに海行きたいかもしれない」

「けいくんも誘って、三人で行きましょうよ!海開きまでに水着買ってさ」

「…一応あなた、圭一のことふってるんだよね」

「ええ」

「なんか、すごいね」

「…?」

 陽菜は複雑そうな顔をする。

 なんて話していると、注文していた料理が運ばれてくる。和風ハンバーグ定食を私の前に置き、パフェは陽菜の前に置かれた。

「ご注文の品は以上でよろしいですか?」

「はい。ありがとうございます」

 そう言って、伝票をテーブルに置いて立ち去っていく。それを見送ってから私と陽菜の料理を入れ替える。

 ハンバーグのプレートはまだ熱々のままで、じゅわぁとおいしそうな音が響いている。見てるとほしくなるよね。

 私の注文したパフェは、イチゴがたくさん乗っているストロベリーパフェ。とてもかわいい。

「もうおいしい」

「まだ食べてないじゃない」

「これでおいしくないわけがない」

 プレートの隣に置かれている小さな小鉢の中に味ぽんが入っており、それをハンバーグの上からかける。アツアツの鉄板に味ぽんが落ちてじゅわぁとより一層大きく響く。音からしておいしそう。

「ねぇ…陽菜?」

「ん?」

「ひ…一口…」

「そんな恥ずかしそうに言わなくても上げるよ?」

「じゃあ、半分」

「急にがめついな。一口だけ」

「やった~。私のも一口上げる」

「ん~…私は大丈夫」

 ごはん中に甘いもの食べれないタイプの人だ。

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 

 学校から休むことなくダッシュで帰ってきた。息が上がり頭が痛い。心臓が張り裂けそうなほど脈を打つ。

 ガチャりと思いっきり玄関の扉を開け、中に入る。

「泣いちゃ…いけなかったのに」

 靴を脱いで、廊下を歩き始めたはずなのに気づけば膝から崩れ落ちていた。両手で顔を抑えて流れる涙をぬぐっていた。

「断りたくなかった…本当は断りたくなかったよ…」

 でも、断るしかなかった。私は陽菜の気持ちを知っていたから。後押しするって決めていたから。

 私は好きになっちゃいけなかったのに。

 まさか、けいくんから告白されるなんて思ってもみなかった。予想外だった。

「ほんとずるい」

 ゆっくりと立ち上がって、脱衣所へ向かう。とりあえず服を着替えよう。よたよたと左右に揺れながらゆっくりと歩いていく。脱衣所に到着して服を脱ぎ捨てると洗面台の鏡と目が合う。

「ブサイクな顔ね」

 鏡に映った私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。こんな顔を見られていたなんて考えると死にたくなる。

 洗面台の蛇口をひねって冷水を出し、顔を洗った。

 

 

 その日の夜。陽菜が心配して電話をかけてくれた。けど私は上手く話せる気がしなくて、断っちゃった。

 早く寝よう。寝て、すっきりしてしまおう。

 そう願って瞳を閉じる。

 

 しかし、次の日の朝。

 私はいつも以上に早い時間に目が覚めた。寝汗がひどく体中がびちゃびちゃで気持ち悪い。私はゆっくりと起き上がっる。お風呂に入りたくなった。

 よたよたと歩いて、服を脱いで、シャワーを浴びる。

「…。」

 鏡に映る自分と目が合う、そいつがどうしようもなくブサイクでやつれた顔をしていた。なんでふった側がこんなに心病んでるのか意味わからないね。自分勝手だ。

「…。」

 シャワーの蛇口を思いっきりひねって、勢いよくシャワーを浴びる。水圧が強く若干痛い。

「けいくん…」

 無意識に名前を呼ぶ。当たり前に返事は帰ってこない。

「好き…に、なってしまった」

『行動しなかった側が悪い』

 美波の言葉がフラッシュバックする。

「…今なら、けいくんと付き合える。陽菜を出し抜くことができる」

 悪い考えが脳を支配する。今ならまだ間に合う。今ならけいくんと恋人になれる。陽菜は私がけいくんのこと好きと思っているから、当然の結果に見える。私が陽菜を出し抜いたようには見えない。

「…。」

 でも、やっぱり私は陽菜の恋を応援したい。これは紛れもない本心。

 でも、自分の恋もかなえたい。

 わからない。二者択一。

 

 シャワーを止めて、鏡に映る自分を見つめる。

「雫。どうしたい?」

 私は鏡に向かって問いかける。

「あなたは、この気持ちとどう向き合うつもり?」

 当たり前だが、鏡は答えない。私のセリフを一寸の狂いなく復唱している。

「…どっちもかなえるならば、正々堂々とライバルになる」

 鏡に映る私がそう答える。

「私は陽菜の背中を推しつつ、その背中を追い抜くようにする。それならどっちの目的も果たせる」

 そうか。その手があったのか。

 私と陽菜は、同じ人を追うライバル。

 そうすればいいじゃん。

 

 私はお風呂から出て、体を拭く。

 出かける服に着替えて陽菜に連絡を送る。

『今から行くわ』

 

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 

 

    ----------> ☆ <----------

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

 二人とも食べ終わって、少しの休憩時間。

「話し戻すけどさ、海行くなら水着買いたいわね」

 ごはんを食べ始める前にしていた話題。陽菜は海に行ったことがないって言ってたので、もしかしたら水着なんて学校指定のものしかもっていないんじゃないかと思った。その胸で学校指定のものは着れないだろうし、せっかくなら私も一緒に水着を買おうかと思う。

「水着かぁ、学校指定のものしか持ってないね。それでいいんじゃない?」

「絶対だめよ。まずサイズあるの?」

「なんと中学から身長が変わっておりません」

「え、そうなの?じゃなくて、その胸よ。あれでスク水なんて着たらいろんな意味でやばいわよ」

「べつに…誰も私のこと見てないし」

「あなたはその胸がどれほど価値があるものなのか自覚するべきよ」

「ふ~ん」

 私だってそのぐらいほしい。

 でもスポーツが市裏くなるのは嫌だね…。

「まぁ、とにかく水着は買いに行きましょう。来週予定空けとくわ」

「わかった。私も空けとくね」

「基本暇でしょ?」

「そうだけど、言われると腹立つな」

 なんて会話しながら席から立ち上がり、伝票をもってレジへ向かう。お会計は1000円を切っていた。

「陽菜。財布をしまいなさい」

「え、でも」

「いいの。これからお世話になるんだから、このくらいさせて」

「ありがとう」

 そう言って、バックから財布を出そうとする陽菜を阻止して私がお会計を済ませる。

 

「ごちそうさまです」

「いえいえ」

 お店を出て、スーパーの方へ歩き始める。

「にしても、本と熱いわよね」

「年を重ねるごとに熱くなってるよね。温暖化?」

「いつまで上がり続けるのかしら?」

「東北とか北海道行けば数しいのかな?」

「あぁ、どうなんだろう。北の方には行ったことないわね」

「九州にはいったことあるんだっけ?」

「えぇ、遠い親戚が福岡に住んでて、三年に一度会いに行ってるわ」

「その都度、お見上げくれてありがとう」

「毎回ラーメンで飽きないのかな?って思ってたわ」

「やっぱり、ラーメンが一番」

「一応、明太子とかあるんだけど」

「ラーメン一択だね」

「そう…」

 すたすたと歩き続ける。

「陽菜はラーメンの中だと何が好き?」

「ん~なんだかんだ言って醤油が一番かな」

「和風だ」

「それは意味わかんない」

「私はやっぱり豚骨かしらね」

「よかった生クリームとか言い始めたらどうしようかと思った」

「でも、生クリームうどんって聞いたことあるわよ?」

「…まじ?」

「まじ」

「甘党の人でも、それはさすがに厳しいんじゃない?」

「とても気になるわ」

「うそぉ…」

「甘ければ甘いだけいいもの」

「なんで、いつも甘そうなもの食べてる雫がモデル体型を維持できているのか不思議」

「適度な運動じゃないかしら?運動部だし」

「確実に運動量が追い付いてないと思うんだけど…?」

「逆に太れないのも考え物よ。嫌味に聞こえるかもしれないけど」

「んん~。私からするとうらやましいの一言に尽きるな」

 なんて会話をしていると、スーパーに到着した。

「涼しい~」「涼し~」

 自動ドアを抜けるとひんやりとした風が体を包み込んでくる。外で熱されていた体がちょうどよく冷やされて気持ちがいい。

 買い物かごとカートをつかんでショッピング開始。

「えっと、マスカットとブドウ」

「夏のフルーツ、全部入れない?」

「え、めんd…色味がごちゃごちゃしちゃうから、マスカットとブドウだけにしない?」

「めんどくさいんだ」

「まぁ、はい」

 そう言って、マスカットとブドウをひと房づつかごに入れる。

「あとは、ホイップクリームとスポンジと」

「陽菜~これほしい」

 そう言って雫はソフトクリームを持ってくる。

「戻してきなさい」

「陽菜ママのケチ」

「誰があんたのままだ」

 今もって来たら、確実に溶けるでしょうに。

 

 そのあとは順調にケーキの材料を買って、お会計。

 やっぱりここも雫が全部出してくれた。雫曰く「お世話になるんだから」とのことだが、さすがに材料費全部指してもらうのは気が引ける。

 あとで何かお返しを用意ししとこう。

 

 

 





 【今日のひなたん】

 自室のベッドの上でゴロゴロしている。最近ずっとゴロゴロしてるなぁなんて思いながら、体が動かないのだから仕方ない。
 しかし、勉強机や小さなテーブルの上に置かれている漫画たちを整理したい気もする。それにクローゼットの中の整理とか、机の中身の整理とかここ数年してない気がする。
「さすがに今日は動くか」
 ということで、頑張って体を起こして本を片付け始める。作者やジャンルごとに本棚へ片していく。
 クローゼットを開ける。夏真っ盛りだというのにまだ冬服が吊られている現状。とりあえず冬服は片して、夏服をいくつか出しておこうか。
 さてと、机の中は
「あ、なつかしい」
 引き出しを開けると、一番に目についたのは私が小学生のころに書いていた自由帳。もとい小説のネタ帳だ。
 あまりのなつかしさに椅子に座ってしっかり読み返す。
「ふふ。こんな突拍子の無い物語書いてたんだな」
 そこには、内気で独りぼっちなお姫様と誰に愛される白馬の王子様が登場して、ふたりの恋愛物語が記されていた。突然現れた白馬の王子様は私の手を取って「君は最高に美しい。ぜひ私と一夜踊りませんか?」の一言から話が始まる。
「導入、雑だなぁ。でもこれはこれで味がある。童話っていうか。こういうのもいいよね」
 さらにペラペラとめくる。
 このころはBL趣味はなかったんだな。どれも男女の恋愛話ばっかりだ。昔はこんなに恋愛小説ばっかり書いてたんだな。
 
 気づけば、そのネタ帳をずっと眺めているだけで数時間が経過していた。
「あ、片付けしてたんだ」
 私は、そのネタ帳を机の中にしまって片付けの続きを始めた。


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