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カン、カン、とピン球の小気味いい音が響き渡る体育館。時刻は午後5時手前ごろ、そろそろ終了にしてもいいだろう。夏休みが始まった初日だというのにみんなちゃんと部活に参加してくれるあたり、部長としてとてもうれしいと感じる。
「よし!みんな今日はここまで。各自片付けして解散だ」
各々「はい!」と返事が返ってくる。
「さて、僕たちも片付けしようか」
先ほどまで一緒にプレイしていた古賀さんに伝え、ネットやピン球を片付けていく。
「先輩。この後時間ありますか?」
「ん?ん~ごめん。今日は雫の様子を見に行きたい」
「そうですね。それが一番いいです」
「ごめんな」
「いえいえ、大した用じゃなかったですから」
「どこかで埋めあ合わせするから」
そう言うと、古賀さんは顎に手を置いて何かを考え始める。
「じゃあ先輩。明日はどうですか?部活休みですよね」
「明日か?いいぞ」
「わかりました。じゃあ、今日の夜にでも連絡しますね」
「おう。ありがとな」
そこで会話が途切れて、片付けを再開する。
みんな片付けが終わり各自解散した後。僕は古賀さんと帰路を辿っている。そう言えば古賀さんの家ってどこか知らないな。同じ方向に進んでいるということは割と近いのかな?
「5時を過ぎても、全然暑いですね」
「そうだな。夏だからな」
「先輩って、海とか行くんですか?」
「海は一度もいったことないぞ」
「あ、そうなんですね!私もなんです」
「そうなんだ。まぁ海に行くのに少し距離があるもんな。なかなか行く機会もないし」
「はい。でも海の家って言うんでしたっけ?屋台みたいな」
「あぁ、一度は食べてみたいよな」
「…先輩、海行きませんか?九条先輩や妹さんを誘って」
「お!楽しそうだな!二人に相談してみるよ」
「ありがとうございます!」
ミンミンと蝉がうるさく泣き喚いている。その鳴き声でより一層暑さを掻き立てている気がする。
「先輩。まだ九条先輩のこと好きですか?」
「え、まぁ…そうだな。まだ諦めついてない」
「…。」
「どうしたんだ?」
「きっとまだ大丈夫です。可能性あります。前にも言いましたが告白は三回まで有効です。まだ頑張れます」
「ありがとな」
「いえ…」
そのあと、二人が別れるまで会話はなかった。
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「あっつい。帰ってる最中に腐らないか不安なんだが」
「保冷バックで来ればよかったわね」
ひとしきり買い物が終わり、帰宅中。
家に着いたら、とりあえずケーキを作る準備して、いや汗かいちゃったから先にシャワー浴びたい気分。家に着くのは大体3時過ぎぐらいかな?まだ余裕はありそうだし、先にシャワー浴びさせてもらおう。
「ねぇ雫?」
「なに?」
「お家ついたらさ、シャワー浴びてもいい?汗かいちゃって気持ち悪い」
「いいわよ。私も入りたかったし」
「じゃあ、各自で浴びてから」
「何言ってるの?一緒に入るのよ」
「いやです」
「どうして?」
単純に恥ずかしいだけ。
「とにかく、各自の家で浴びてくるの!お隣なんだから近いじゃん」
「えぇ、陽菜の胸が見られるチャンスなのに」
「絶対ヤダ」
「まぁ、海行けばいくらでも見れるか」
「…。」
あんまり胸を強調しない水着を買おう。そうしよう。
帰宅。すると母親がもうすでに帰っていた。
「あ、お母さん。帰ってたんだ」
「あら陽菜ちゃん。雫ちゃんもこんにちは」
「こんにちは」
「今日、圭一の誕生日でしょ?雫と二人で誕生日ケーキを作ろうと思って買い出し言ってたの」
「あら、いいわね。私も圭一くんのためにいろいろと料理作ろうと思ってて」
「あ、よろしかったら隣で見せてもらってもいいですか?私、料理覚えたいんです」
雫は、私のお母さんにそう話す。いままで料理とか興味なかった人がどうしたんだろう。
まぁ、多分圭一のためだ。
「いいわよ。先にケーキ作りね」
「あ、シャワー浴びたい。じゃあ雫あとでね」
「うん。私も家で浴びてくわ」
「あら、二人で入ればいいのに」
「ですよねぇ!ほら陽菜。お母さまもこう言ってるんだし」
「なんでそんなうっきうきなんだよ」
「じゃあ、私着替えだけパッと取ってくるから、待っててね」
「えぇ…」
そう言って雫は猛ダッシュで自分の家へと向かっていった。
「なんでそんなに嫌なの?」
「え、まぁ、恥ずかしい」
「いいじゃないの、二人でお風呂入ったことないのかしら」
「確かないね」
「うちに泊まりに来た時に、一緒に入ればいいじゃない」
「…ん~」
まぁ、雫なら…いいのかな?
「私と雫って付き合い長いのにお泊りと化したことないよね」
「まぁ、お隣さんだから、お泊りするメリットってあまり感じないかもしれないわね」
「あ、私と雫と圭一の三人で海に行きたいねって話してて」
「あら、いいわね!二人とも海行ったことないわよね」
「そう。せっかくだし今年はってことで話してるの」
「なるほどね。ちょっと待ってて」
そういうと、お母さんは自分のバックを置いてある場所に行き、中から財布を取り出す。
「はい」
そう言って、私に一万円を渡してきた
「え!そんな大丈夫だよ」
「いいの!圭一君には内緒ね。お金のことなんか気にせず、好きな水着買って、好きなように遊んできなさい。まだ進路が決まったわけじゃないけど、今年でみんなバラバラになっちゃうでしょ?悔いが残らないようにしなさい」
「ありがとう。お母さん」
その一万円をありがたくもらって、水着代にさせてもらおう。
そうんな会話をしていると、雫が着替えをもって帰ってきた。
「さぁ!入るわよ!陽菜!」
「なんでそんな張り切ってるの?怖いよ…」
腕をがっしりつかまれて脱衣所へ連れていかれる。力つよ…。
「私、だれかとお風呂入ってみたかったのよね」
「そりゃまたどうして?」
「裸の付き合いって親密になれるじゃない?」
「自分で言うのも恥ずかしいけど、私たち十分親密じゃない?親友だと思ってる」
「お、うれしい。でも私はもっと親密に…そう!ちちくりあいができるぐらい」
「だまれ。私にそんな趣味はない」
「まぁ後半は冗談よ。単純に友達とお風呂とか入ってみたかったのよ」
「中学とか、小学の時の修学旅行で入らなかった?」
「あぁ、大浴場嫌いで部屋のお風呂使わせてもらったわ」
「…友達とお風呂入りたいんじゃ」
「友達、というより陽菜と。だわ」
「…ふーん」
なに、この複雑な感情。うれしいような気恥しいような怖いような。
そして、次々とためらうことなく服を脱ぎ始める雫。かなりの細身で本当にモデルさんのようなすらっとした体。どんな服でも似合いそうだな。なんて思う。しかし。
「本当に平たい」
「殴るわよ?」
「ごめんごめん」
それに比べて私は、胸は大きいし身長は小さい。お腹は出ていないといえどずんぐりむっくりしている感じが否めない。
雫を前にすると、それが余計顕著に感じる。
そんなことを思いながら、服を脱ぐのをいぶっていると
「早く脱ぎなさい?」
「いや、その…」
「もう!女の子同士でしょ!?」
すると雫に半ば無理やり服を脱がされる。
「あん」
「そんな可愛らしい声出さないで?びっくりするわ」
「いやだって、くすぐったい」
「我慢しなさい」
あれよあれよと全部脱がされていく。
そして浴室へ入るのだが、シャワーヘッドなんて一つしかないので。一人がシャワーを浴びてる間、後ろで待機しなくちゃいけない。
最初は雫がシャワーを使い。私は後ろで待機。
「なんか、囚人のシャワータイムみたいな感じね」
「後ろからじっと見られてるからね」
「私の背中、綺麗かしら?」
「うん。ほんとモデルっぽい。芸能界目指さないの?」
「いやよ。私、演技苦手だから女優にはなれないし、歌もうまくないからアイドルも向いてない。それに体を張ったバラエティとか嫌いだもの」
「でも、運動神経がいいからダンサーとか向いてそうね。歌もそこまで下手じゃないからさ、歌って踊れるアイドルみたいな」
「ん~。人前で歌うのは怖いわ」
過去にいろいろあったのは、私も知ってる。自信を持ってほしいとは思うけど、あまりその話題に触れないほうがいいのかな?なんて思う。
「はい陽菜。交代」
「あ、ありがとう」
そう言って、シャワーヘッドを雫から受け取ってシャワーを浴びる。真夏とはいえ全裸で待機していたのでさすがにちょっと寒い。温かいシャワーがとても心地よく感じる。
「ふぅ~」
「陽菜の後ろ姿ってほんとかわいいわね」
「え?そう?」
「なんか、幼さがあるわね」
「寸胴鍋って言いたいんか」
「違うわよ。幼い女の子らしい可愛さがあるのよ。それに髪もふわっとしたボブだし、ゆるふわ系なのよね」
「みんなそれ言うけど、本人納得してないからね」
「まぁ、見た目は確かにゆるふわだけど、中身は全然男勝りだもんね」
「ん~否定はできないかも」
「たまに男でもびっくりするぐらい口悪い時あるわよね」
「なんでだろうね」
「お父さん似?」
「え、どうなんだろう。お父さんに似てるのかな?実のお母さんはほとんど知らないから何とも言えないけど」
「でも、陽菜のお父さん。すごいやさしそうよね」
「本当にやさしい人だと思う。となるとお母さん似なのかな?」
実の母については、私もほとんど知らない。私が物心つく頃にはもう離婚していて、圭一のお母さんと再婚していた。お互いに元パートナーのことはなにも知らないらしい。まぁ今になって知る必要もないといえば確かにそうかもしれないが。私は一度でいいから本当の母親と会ってみたい。そう感じる。
でも、お父さんはそれを許さない。いつか教えると言って毎回はぶらかされる。なにか隠したい理由があるのかもしれない。
「ふぅ。シャワー終わり、出よ?」
「そうね」
そうして二人は浴室から出る。
「さて、やるわよ」
「気合入ってるね」
服を着替えて、早速ケーキ作りに挑戦。まぁスポンジとかクリームとか出来合いのものを買ってるから、適当に塗りたくるだけなんだけどね。あとはセンスに任せてますかっとやらブドウを盛り付けるぐらい。
「さて、雫、そこのクリームとっ…」
と雫の方を見ると、なんとホイップクリームを直で食べてる。
「あ~~~」
「おいこらなにしとんねん」
雫からホイップクリームを奪う。
「あぁ!私の」
「お前のじゃない。足りなくなったらどうするんよ」
「また買えばいいじゃない」
「金持ちが…。あんた普段から家でこんなことしてるの?」
「まぁ、たまに」
「糖尿病、気をつけな」
雫、来年から一人暮らしするっていうのに、食生活がとても心配になった。
とりあえず適当に生クリームを生地に塗りたくる。ばばばっとだして包丁でなんとなく広がる。
「ゴムベラの方がよかったくない?」
「確かに…」
雫がゴムベラを取ってきて、生クリームが付いた包丁を洗ってもらおうと雫に私と、指できれいにふき取り食べ始める。まぁそんな気はしていた。直に舐めなかっただけましか。
それっぽく生クリームを伸ばしたら、スライスしたマスカットやブドウを敷き詰める。上からまたクリームで覆いかぶせるので適当。
「よし、こんなもんか」
「生クリーム、足りてなくない?wow wow?」
「だまれ」
露骨にしょぼくれた表情をする雫。
そして、上から生クリームをかぶせて、スポンジを置く。これだけでもうケーキっぽい。さらに上から生クリームを塗り、再度も頑張って塗る。
「よし、あとは雫に任せるか。上から好きに果物載せたりホイップクリームしたり、そのあとは雫の好きなようにしていいよ」
「わかったわ!よ~し」
気合十分といった感じに腕まくりをする雫。
「気合い入れるために一粒味見」
「おい」
雫はマスカットを一粒手に取って、そのまま食べれしまう。
そのあとは、雫の感性に任せて果物をトッピングしていく。ホイップは苦手だったらしく、なんとも形容しがたい形のホイップクリームが量産されている。
「難しすぎるわ…」
「私も綺麗にできる気がしない。プロってどうやってるんだろうね」
いろいろと試行錯誤しながら、ケーキを彩っていく。見た目はちょっとあれかもしれないけど、二人の手作りだし、心はこもっているはず。
「…ふぅ、完成!」
「いえ~い」
マスカットとブドウのケーキが完成した。確かに素人が作ったんだなって感じがひしひしと伝わってくるが、これはこれで味になっているはず。
「料理は、見た目じゃなくて愛情だから」
私は、明後日の方向を見ながらささやくようにつぶやく。
「えぇ、そうね…」
雫もまた、明後日の方向を見ている。キッチンで黄昏ている二人という構図にお母さんは困惑を隠せない様子だ。
「よし、帰ってくる前に冷蔵庫に隠そう」
「おっけーだわ」
そう言って、私は冷蔵庫を開けて中にケーキをしまう。
すると、お母さんがキッチンの方へきて、晩御飯の支度を始める。
「さて、私は疲れたのでリビングでゆっくりしてる」
「私は、お母さまの隣で料理の勉強してますわ」
「あら、私も全然素人よ?」
「いえいえ、家屋四人分の食卓を賄っている実績は、かなりのものです!ぜひ勉強させてください」
実績…。まぁ、最近の雫はやたらと料理を作りたい欲が強いらしく、私にもたまに聞いてくる。私もそこまで詳しいわけではないし、なんとなくで作っているので感覚だよりなのだ。その分言語化が難しい。
どうして料理に目覚めたのか。今度着てみようかな。
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「じゃあ、僕はこっちだから」
「あ、はい。また夜に連絡しますね」
「おん、また明日な」
「はい。また」
そう言って、二人別れて歩き始める。ひりひりと皮膚が焼ける感覚にさいなまれながらも帰路を辿る。
家に荷物を置いてから雫の様子を見に行こうか。
そう思い、急いで家に向かうことにする。
「ただいま」
玄関を開けると、靴が一足多い。なんだか見覚えのある靴だな。なんて思っていると。
「おかえり、けいくん」
エプロン姿の雫が、廊下をすたすたと歩いて出迎えてくれる。どうしてうちにいるの?その恰好はどうしたの?など、いろんな疑問が一気に推し押せて言葉を失い、雫の目をじっと見つめる。
「…あ、あの。見つめられると恥ずかしいわ」
「あ、ごめん。ちょっと…いやかなりびっくりして」
すると、奥からもう一人、今度はいつもの姿の陽菜だった。
「おかえり変態」
「おい、なんで変態扱いなんだ」
「雫のエプロン姿に花推した伸ばして、きも」
相変わらずお口が悪い…。
「ま、まぁ!けいくん!晩御飯できてるわよ!早くお風呂入ってきなさい」
「お、おぉ…」
僕の困惑なんて知らないといわんばかりに、雫はそそくさとリビングの方へ行ってしまった。
陽菜もリビングに向かったのだが、去り際ににらみつけられた感じがする。僕、なにかしました?
「雫が奥さんなら、こんな感じになるのかな?」
なんて、つぶやいてみた。
【今日のひなたん】
「ねぇ、陽菜」
「なに?」
私のお母さんから料理を教わっているはずの雫が、リビングの方に来て私に話しかける。
「陽菜のエプロン貸して」
「あぁ、いいよ。ちょっと待ってて」
そう言って、私は自室にあるエプロンを取り出す。確か中学生のころに料理を覚えたくて、お母さんにエプロンと包丁を買ってミラったんだっけ。今じゃもうエプロンなしで料理しちゃうけど、昔はこれを着てるだけでプロになった気分だったな。
懐かしいなぁ。なんて思いながら自室から出て雫に渡す。
「ほい」
「ありがとう。エプロンがあるだけでプロっぽいわよね」
「昔、おんなじこと思ってた」
エプロンは首からかけて、腰あたりにあるひもを後ろでくくるタイプなのだが、どうも後ろでくくるのが苦手の用で苦戦している
「ねぇ、陽菜。やって?」
「こどもか」
「陽菜おねえちゃん」
「あんたの姉になった記憶はありません」
雫の後ろに回って、ひもをくくる。きつく締めてしまわないように少し慎重に。
「ほい。できた」
「ありがとうおねえちゃん」
「あんたの姉ではない」
雫はニコニコ笑顔で、またキッチンの方へ歩いていく。
その背中を見て、雫が将来結婚したら、旦那さんに料理とか作ってあげるんだろうな。
なんて思い。私は結婚できるのか不安になった。
料理も家事も得意ではないにしろ、ある程度はできる。家庭的な女性だと私自身は思っている。あと茶道部だし。
まぁ、今考えたところで何もない。