君の恋心よ、実ってしまえ。   作:竹モチ

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3話 陽菜は見た

 

 

 

    ----------> ◇ <----------

 放課後。春とはいえまだまだ冷え込む体育館。

 カン、カン、小気味いいピン球の音が体育館中に響き渡る。点を取れば「よし!」と喜ぶ声や「くっそ!」と悔しがる声。「わっしょーい!」と気合を入れる掛け声など、様々な声が飛び交っている。

 僕は今年の夏に開催される大きな大会に向けて練習をする。この大会が引退試合となるだろう。普通なら、夏で引退して受験のため勉学に励むと思うが、僕はスポーツ推薦をもらっているため試験は面接のみ。なので後輩の面倒も見てくれ。と顧問から言われ、結局卒業するまで部活動は続くだろう。

 それはそれで、さぼり癖のある僕にとってはありがたいことだが。

「けいくん!ごめん、そっちに飛んでったわ」

 すると、足元にピン球が転がってきて、雫が遠くから走ってくる。

「おらよ!」

 そのピン球を取り、回転を掛けながら打ち上げる。ピン球は斜めにきれいな放物線を描きながら雫のラケットへと落ちていく。雫はラケットの上で数回バウンドさせて見事キャッチする。

「ありがと~」

 僕はラケット上げて返事を返す。

「おっとごめん。続きしようか」

 卓球台を挟んで奥にいるのは、今年入学したばかりの女子高生。古賀美咲(こがみさき)。入学というより転校のほうが近いかもしれない。前の学校でなじめず一年で転校してきたそうで、周りの一年生よりも一歳年上なんだそう。年齢的にも少しなじみずらいかもしれないな。

「はい。よ…よろしくお願いします」

「そんな緊張しなくてもいいぞ。卓球は楽しんだもん勝ちだからな」

「はい…平野先輩…」

 人とコミュニケーションを取るのが苦手と入部前に聞いていたから、優しく寄り添う形で練習をしようと心がけている。せっかく来てくれたんだから楽しんでもらわないとね。

「よし、じゃあとりあえず打ち返すことだけに集中しよう。ネットに引っかかってもいいし、明後日の方向に飛んでもいい。とにかくピン球にラケットが当たることだけに集中するんだ」

「は、はい」

「よし、行くぞ」

 軽くピン球を打つ。古賀さんから向かって右方向だけにピン球を飛ばす。最初は慣れないのかラケットをすり抜けて行ってしまう。

「えい!」

「…。」

「や!」

「…。」

「は!」

「…元気だね」

「ああ!ごめんなさい!うるさかったですね」

「あ、いや、気合いを入れることは良いことだよ!…あと、そうだな。ラケットを振るときに、目が閉じちゃってるからしっかりピン球を見よう。それに、振りかぶる勢いが強すぎるかな?もっと軽く振ってもいいよ」

「…なるほど、ありがとうございます」

 素直にお礼が言える子は良いなぁ。みんな自我が強すぎて指導をまともに聞いてくれないときあるもん。この子は伸びるぞ絶対。

 この後も、何度か練習を続けた。

 ピン球をラケットで打ち、古賀さんの方向へ飛ぶ。そして

「えい!」

 カン!と小気味いい音とともに、ピン球が打ち返される。しかも、かなり筋のいい打ち方だった。ピン球がきれいな軌道を描いて僕のコートへ返ってくる。僕はとっさに強く打ち返してしまった。

 カン!と放たれたピン球はスマッシュばりに早い速度で古賀さんのコートに返っていき、古賀さんの横をすり抜ける。

「うひゃあ!」

「あ、ごめん!思わず打ち返しちゃった。大丈夫?」

「…先輩、かっこいい」

「え゛」

「私も!あんな感じに…打てるようになりますか?」

「いずれ打てるようになるよ。今さっきの打ち方も筋が良かった。思わず打ち返しちゃったぐらい。だからいっぱい練習すればかなり上達するよ!」

「えへへ。ありがとうございます。う、うれしい…です」

 なんだこのかわいい生き物は。

 などと考えながら、部活動の時間は過ぎ去っていく。

 

「ふぅ」

 休憩時間に入り、壁にもたれながら座って休憩する。

「おつかれ、けいくん」

 すると雫がやってきて隣に座った。新品のスポーツドリンクを持っており自販機帰りかな?と思う。

「おつかれ、雫はどうだ?」

「新人指導?まぁ、ぼちぼちね…私、人に教えるのはあまり得意じゃないのよ」

「あの雫様が?僕に勉強教えるとき、すごい分かりやすいけど」

「勉強と卓球じゃ意味が違うわ。感覚っていうか、長年の感っていうか。そう言うのない?」

「あぁ、でも確かにわかるかもな。スポーツって体で覚えるもんだから、言語化するの難しい。そう考えると体育の先生ってすごいんだな」

「そうね」

 僕は喉が渇き、水稲を開ける。しかし

「あ、飲み切ってたんだった」

「あ、のむ?私の」

 そう言って、新品のスポーツドリンクを差し出してくる。さすがに悪いな。とも思ったが雫だし甘えさせてもらおう。

「お、いいのか?ありがと」

 雫が蓋を開けて渡してくる。ペットボトルを受け取り飲み始める。この喉が渇いたときに飲むスポーツドリンクはどうしてこんなに美味いのだろうか。生き返る。

「私も飲むから、全部飲まないでよ?」

 勢いよく飲んでる姿を見て心配になったのか、残しといてと雫が告げる。

「ん?あぁ、ごめん。はい」

 全部、飲み切るつもりはなかったのだが勢い余って大体1/3ぐらい飲んでしまった。

 雫は僕からペットボトルを受け取り、その流れで飲み始めた。

 これ、なんも気にしてなかったけど、間接キスだよな…?

「ふぃ。…けいくん?どしたの?私の顔何かついてる?」

「え、いや。なんでもない」

「あ、そろそろ休憩終わるね。よかったら残りあげるわ」

 そう言って、僕にスポーツドリンクのペットボトルを渡して立ち上がり、そそくさと歩いて行ってしまう。

「雫が飲んでたやつ…。さすがにキモイな自分」

 間接キスだの考えてうれしく感じている自分が気持ち悪いと感じ、さっと立ち上がって卓球台の方へ向かう。古賀さんの練習相手をしてあげないと。

 

    ----------> ○ <----------

 これっていわゆる関節キッス!

 と心の中ではルンルン気分の私です。飲んでる最中、私のことずっと見てたし多少は意識し始めたでしょう。ただ、陽菜がいないところでアピールしても意味ないわね。なんでこんなことしたのかしら?

 自分の行動心理がたまに分からなくなる。

 そんなことを考えながら、後輩と一緒に練習を再開する。

 

 

    △▼△▼

 

 

 午後6時を過ぎ。部活動の終わりを知らせるチャイムが鳴る。まず自分のラケットを掃除して片づける。次に卓球台からネットを外して、台を畳む。

「けいくん。いい?」

「おう」

 卓球台を畳むときは、二人同時に持ち上げる必要があるため、けいくんに協力してもらう。失敗すると普通にケガするので気を付けながら畳む。

 そして、すべての台が片づけ終わったら部員全員でモップがけ。ここまで終えれば今日の部活動は終了だ。

「みんな集合」

 部長であるけいくんがみんなの招集する。終わりのあいさつ。

「今日も一日お疲れ様。しっかり休むように、では解散!」

「お疲れさまでした!」「お疲れさまでした!」

 部員のみんなとあいさつを交わして、終了。

「けいくん。帰りましょ」

「おけおけ。あ、その前に自販機寄ってもいい?」

「いいわよ」

 なにか買いたいものがあるのかな?そう思いながらけいくんについていく、

 体育館の外に出れば、肌寒い風がほほを撫でる。汗をかいていたからなおさら寒く感じ、思わず身震いをしてしまった。

「さむっ」

「春ってもっと温かいイメージなんだけどな」

「そうよね…今年はなんだか寒いわ」

 なんて会話をしながら自販機に到着。けいくんはお金を入れて、ホットカフェラテを購入する。

「ほらよ」

 けいくんは買ったカフェラテを私の方へ投げて渡す。

「わわっ!」

「さっきのお返し。スポドリありがとな」

「…そんな、気にしなくていいのに」

「いや。気にするね!恩は必ず返さないと」

 律儀だな。と思いながらカフェラテを開けて、一口飲む

「あったかい」

「カフェラテ、好きだったよな」

 そう言いながら、けいくんはホットコーヒーを購入する。自販機の近くにある二人掛け用の小さなベンチに座り、コーヒーを開けて飲み始める。

「うん。甘くしてないとコーヒーは飲めないもの」

 私も、けいくんの隣に座って、買ってもらったカフェラテを飲む。なんだかとても幸せな気分。

 そのあとは、二人が飲みきるまで何事も離さなかった。でも不思議と苦じゃなくて、こんな時間が続けばいいな。なんて考えていた。

 

 

 

    ----------> ☆ <----------

 私は陽菜。今日は珍しく茶道部に顔を出し、終了の時間になったので帰宅しようとしたところ。茶道部の部室は、校舎から少し離れたプレハブ小屋のようなところにあって、自販機の前を通るのだが…

「雫と圭一が…一緒にいる」

 物陰に潜んで、二人を見ている。

 部活終わり、若い男女が飲み物を飲みながらベンチで二人きり。なにこのラブコメ展開。しかむ口元が動いていないからしゃべってないよね?お互い黙っていても気まずく感じない的なあれなのか?

 まぁ、幼稚園の頃からずっと一緒だから気心知れてると言われれば、そうなんだが…。

 あ!二人同時に飲み物を飲んだ。あ!!二人同時に飲み物から口を離した。あ!!!二人同時に息を吐いた。

 息ぴったりじゃん。確か熟年夫婦なんて煽られていたっけ。

 やっぱりモヤっとする。二人が仲いいのは私にとっても嬉しいことのはず。なのにやっぱりモヤモヤする。あの時からだ。

『けいくんのこと、好きなの』

 雫の言葉がフラッシュバックする。あの時からだんだんと膨らんでいく焦りや不安。わからない感情が私を支配している。

「圭一。あいつは私たちのこと、どう思ってるんだろ?」

 圭一の私に対する評価を聞いてみたい。そんな思いが少し強くなった。

 ヒューっと冷たい風が一気に吹き抜ける。

「いいっ!しゃぶい…!」

「ん?誰かいる?」

 あ、まずい、バレた。

「陽菜じゃん。先帰ったんじゃねぇの?」

「久しぶりに部活顔出そうと思って…暖房のきいた温かい部屋でお茶菓子食べてただけだけど」

「茶道部ってなんだっけ…」

「あはは。そろそろ帰らない?けいくんも寒くなってきたでしょ?」

「まぁな。コーヒー飲み終わったし、帰るか。陽菜ももう帰るだろ?」

「うん」

「よし!じゃあ行きまっしょい」

「ええ、けいくんありがとね。カフェラテ」

「おん。あったまったか?」

「…ええ、とっても」

 おいなんだ雫のその顔は!?幸せそうな顔しやがって…!

 そのまま、私たちは学校を出て帰路につく。

 

 

 

 

 ぽちゃん。とお風呂のお湯に水滴が落ちる音、お風呂に入っているときは、とても頭がさえる気がして、小説のネタは大体お風呂かおトイレで思いつくことがある。

「…はぁ」

 しかし、今は何も出てきそうにない。

「雫の幸せそうな顔」

 あの表情がどうしても忘れられない。恋する乙女の表情だった。実は知らないうちに二人付き合ってるの?いや、雫は夏休み明けにって言ってたんだ。それまで告白はしない。あの子は自分の言った言葉に責任を持てる子だから、きっと嘘はついていない。

「なんで夏休み明けなんだろ。前の方が休み中遊びに行けると思うんだけどな」

 単に好感度稼ぎの時間を延ばしたかったから。なのかな?

「…。」

 どうして、私が焦っているの?分からない。ここのところ、ずっともやもやして変に焦ったような感覚に駆られて、不安に感じる。

「分かんない」

 頭の中がぐるぐるする。圭一と雫。そして私。

「はぁ~っ!」と私は大きく息を吸い込み、お風呂の中へ頭を鎮める。水中の独特な反響音。自分の脈拍がはっきりと聞こえてくる。

 数秒後。

「ぷはぁ!はぁはぁ…」

 息が苦しくなり、私は勢いよく頭を水中から引き離す。

「ちょっと、頭がぼーっとする」

 きっとのぼせたんだろう。ゆっくりと湯船から立ち上がり、風呂場を後にした。

 

 

 

 





【今日のひなたん】

 サーっと障子戸を開けて、茶道部の部室へ入る。部室はかなり広くて、二つの和室がつながっているような感じになっている。手前には座布団が並んでおり、奥の部屋には和太鼓やお琴、三味線などの和楽器が鎮座している。
「誰も来ていないっと」
 わかってはいたが誰も来ていない。帰ってもいいのだが、なんとなくこの和室でのんびり過ごしたい気分だった。
「とりあえず、お茶点てるか。和菓子もまだ残ってたかな?」
 私は手際よくお茶を用意して、いい感じに和菓子を添える。
「ん~。おいしい」
 和菓子ってなんでこんなにおいしいのだろう。
「なんか眠くなってきた。寝るか」
 座布団を縦に並べ、一つは二つ折りにして枕。
「おやすみ!」


 次に目が覚めたときは午後6時。部活の終了時間だ。
「おはよう世界。大体2時間ぐらい寝たのかな?」
 さて、帰ろうか…と荷物をまとめているところで気が付いた。
「…あれ、摩耶ちゃん。いつから」
 同じ部員の子が隣でお茶を飲んでいた。
「一時間前ぐらい。気持ちよさそうに寝てるから。あとこれ」
 そう言ってスマホの画面を見せてくる。
 そこには、寝ている私の姿が映っているのだが、大きく口お開けてとてもにこやかな顔でよだれを垂らしている。足も開けてスカートが全開、パンツが丸見え。
「えやだ!写真撮んないでよ!」
「これはとるしかないでしょ。茶道部のグループチャットに…」
「やめてぇぇぇぇ!」
 このあと、何かあるたびにこの写真を引き合いに出さ江るようになった。
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