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5月。
さすがに温かくなってきた今日この頃。朝は少し寒いが昼間の気温は最高すぎて眠気が襲う。そして、現在は5時間目の授業中。昼食後に気温も相まって眠気がピーク。学生の昼寝を義務付けるべきだと僕は思います。
カツカツと黒板にチョークで何かを書いている先生。その音さえも小気味よく聞こえ眠気を誘うんだ。
「えー。このように、いくつかの周波数が混ざった波形から、個々の周波数を算出して、グラフに…。平野!起きろ!」
「んあ!寝てないっす」
「嘘つけ、がっつり寝とっただろ」
「気のせいですよ先生」
「じゃあ、ここの問題答えてみろ」
「え、え~っと」
「話聞いてればすぐ出てくるぞ」
「話聞いてても、馬鹿なんで出てきませんよ」
「それもそうだな」
おい納得するな。
「とにかく寝るな?」
「あい」
先生は授業を再開する。僕は理系が苦手なんだ。文系も苦手だが。これが理解できる雫の頭はどうなっているんだ。
「…。」
『…ええ、とっても』
雫にカフェラテをあげたときの記憶がフラッシュバックする。あの表情がどうしても忘れられず。僕の頭の中に焼き付いている。
「あいつ、最近どうしたんだろ」
妙に距離が近くなった気がして止まない。今朝だってそうだ。
「おはよ。雫」「おはよ~雫」
「おはよ。陽菜とけいくん。今日は眠そうじゃないね」
「僕?いつもよりぐっすり寝れたからな」
「…。」
「よかったわね」
いつも通り挨拶を交わした。ここまではいつも通り。
しかし
「さ、行きましょけいくん」
「お、おう」
あろうことか手を繋いできた。僕の手と温度差があり非常に冷たく感じる雫の手。そして何食わぬ顔で歩き始める。なに?どういうことなの?
「けいくん?」
「え、あ、いや…なんでも」
僕があたふたしている前で、陽菜はそそくさと歩いていく。
そう。雫が異様に距離感がバグってきている中、陽菜は逆に離れて行っている感じがしている。家に居てもあまり会話がなく。最低限の言葉しか交わさなくなっている。
まぁ、元々二人ともおしゃべりというわけでもないが、ここまで話さないとなると、少し気がかり。
なんだけど…。それどころじゃない。まじでどしたの雫?
「ねぇけいくん。昨日、面白い動画見つけて、あとで送るわね」
「お、おう」
「あと、ゴールデンウィークも近くなったわね。どこか出かけたいわ」
「そうだな」
「…ちゃんと話聞いてるの?」
「聞いてるよ。ゴールデンウィークだよな?陽菜はどこか行きたいとこないか?」
「…別に。家でゴロゴロしたい」
陽菜は振り返ることもなく。前を向いたまま答える。
なに?二人喧嘩してんの?そうなの?
それか、僕なにか嫌われるようなこと言った?
なんてことが今朝あった。ん~。どうしたものか…。
答えが出せないまま、僕は窓の外を眺める。
「平野~。次は黄昏てんのか~」
「あぁ、すいません。考え事してました」
「ほう、どんな考え事だ?まさか授業とは関係の無いことじゃないだろうな?」
「え、あ、もちろん関係あることですよ?えぇ~と…あのどのぐらいで授業終わるのかなぁ…なんて」
「平野、放課後職員室な」
「なんでですか!?」
----------> ○ <----------
「部長は、先生から呼び出しを食らって説教中らしいので、代わりに私が担当します。副部長なので」
けいくんから連絡が来て、私が今日の部活動を仕切ることになった。まぁ過去に何度かあったので全然問題はない。たまに副部長である私に仕事が回ってくるのだ。
「えっと、部長と一緒に練習してた…あ、古賀さんね。一応会話するのは初めましてかな?副部長の九条雫よ」
「ひゃ、ひゃい!一年一組、学籍番号23010105、古賀美咲です!よ、よよよ…よろしくお願いします…!」
「緊張しすぎよ…。けいくん…あ、部長とはどんな練習してたの」
「とにかく、ラケットにボールを当てる練習です。エイムが合わなくて、打ち返すこともできませんから」
エイムて…
「わかったわ。とりあえずやってるとこ見せて頂戴。そのあとで練習方法を考えましょう」
「は、はい!よろしくお願いします!」
けいくんのお気にらしいからね。接触しておくべきだと思って。
「じゃあ、行くわよ」
「はい!」
軽くピン球を打ち、古賀さんから向かって右側に向けて飛ばす。
「えい!」
「…。」
空振り。
「やー!」
「…。」
空振り。
「はいや!」
「…。」
空振り。
「おりゃ!」
「…元気ね。君」
「あ、わ、ごめんなさい!うるさかったですか?」
「あ、いや、掛け声は案外大事よ。その調子で頑張りましょ」
「…なんだか、平野先輩にも、同じようなこと、言われました。お二人って、仲いいですよね」
「え?まぁ。幼馴染だからね」
「お付き合いしてないんですか?」
「ええ!?付き合ってないわよ!」
謎に動揺してる。
「この前も、二人一緒に居ましたよね。自動販売機のところ」
「あぁ、見てたの?」
「た、たまたま…です」
「そう…」
「それに朝、手をつないで登校してました。とても仲よさそうに見えました」
「そ、そうなの?」
あれ見られてたの恥ずかしいわね。陽菜が焦るようにって大胆に動きすぎたかしら。
「とてもお似合いです。お二人」
「な、なに言ってるのよ~もう!そ、そんなこと言ってないで、続きするわよ!まったく」
必死に照れていることを隠すように言葉を重ねる。
…どうして、そんなに照れてるの?お似合いって言われてうれしかったのもなぜ?
また、私自身の行動心理が読めない。
なんだろう。
----------> ☆ <----------
放課後。サーっと障子戸を開ける。
「おはようございます」
「おはようございます」
茶道部の部室を開けて中に入ると、
「あ、それおいしいよね!」
「うん。絶品。陽菜はどうして?」
「精神統一というか、頭の中をすっきりさせたくて」
「ふーん。私いない方がいいなら帰るけど」
「いやいや、あ、お琴弾いても問題ない」
「私は別にかまわないけど」
「ありがとう」
そう言って、部屋の奥の方へ進む。
茶道部の部室は、二つの和室がつながったような間取りをしており、手前には座布団が並んでいる。ここでお茶を点てて和菓子を楽しむ。奥は和太鼓やお琴、三味線などが鎮座しており、楽器の練習部屋になっている。
「なに弾くの?」
「ん~適当」
そう言いながら、私はお琴を弾き始める。即興で作ったメロディをただなぞるだけ。自分の好きな旋律を楽しむ。世の中に出ている音楽よりも自分が即興で作り上げた音楽の方が好きだ。それはまぁ自分の好きをかき集めているからだろうけど。
「陽菜って、作曲のセンスありそうだよね」
「無いって、メロディは作れるけど、コードとかよくわかんないし、お琴しか弾けないし」
「楽器ができるだけですごいと思うけど」
「摩耶ちゃんも三味線弾けるじゃん。音階が定まってない楽器の方がよっぽど難しいと思う」
「それはそう。琴に比べれば難しいし習得レベルは高い。私の方がすごい」
「なんなん?お前」
唐突にはしごを外された気分。
そして摩耶ちゃんは本を読み始める。私は少し音量を落としながらお琴を弾く。
あれからどれぐらいたっただろう。大体一時間ぐらい経過した感覚。
摩耶ちゃんは持っていた本をぱたんと閉じて「さて、帰る」と言い荷物をまとめる。
「うん。おつかれさま」
「陽菜もお疲れ。一人になったとたんスカートめくりあげて寝ないでね」
「まじ、その話掘り返すのやめて」
「まだ、写真あるから」
「脅しじゃん」
「脅しだよ」
「もう、早く帰んなよ」
「はいはい。じゃあね」
そう言って、ようやく摩耶ちゃんは部室から出て行った。
「次、部室で寝るときは体操ズボン履いとこ」
そして、お琴に戻る。単旋律を奏でながら考え事をする。
考え事というより、気持ちの整理。このモヤッとした感情をどうにかしたい。小説を書く時もこれが邪魔であまり筆が乗らない。どうすればいいのか。まず、感情の正体は何なのか。
「…陽菜。居るか?」
「圭一!?」
サーっと障子戸を開けて圭一が入ってくる。
「ここ、男子禁制だよ」
「え、まじ。ごめん出るわ」
「嘘だよ」
「なんなん?お前」
「どうして私がいるってわかったの?」
「外から琴の音が聞こえてな。茶道部で琴弾けるの陽菜だけだろ?」
「まぁ確かに」
「ちょっと相談というか、聞きたいことがあってな」
「ってか部活は?」
「サボってる」
「雫にチクろ」
「マジでやめてほしい」
「サボってまでここに来て、何かあったの?」
「…陽菜と雫って今喧嘩中なのか?」
喧嘩?私たちが?いつしたっけ?
「いや?してないと思うけど」
「最近、朝登校するときさ、一人そそくさと前に出て歩くじゃん。だから雫と仲悪くなってるのかな?って」
「…。」
そういうこと。雫が原因というより二人が原因なんだけどな。二人が仲良くしているところを見ていると、モヤモヤするというか、嫉妬してしまう。だからなるべく見ないようにしようと思って前を歩いている。
それが喧嘩しているように見えたのか。
「喧嘩はしていないよ。早めに学校行ってやることがあったからそそくさ歩いてただけだよ」
「ほんとか?」
「うん」
「あとさ、僕のこと少し避けてない?もともと二人あまりしゃべる方ではなかったけどさ、ここ最近ほんと会話ないなって思ってさ」
「それは…話すことが見当たらなかったからで、避けてるつもりはないよ」
「嘘ついてないか?」
「…ついてない」
「なら、まぁいい」
気づいてたんだね、少しづつ距離開けてるの。圭一と一緒にいるとモヤモヤが強くなって心が苦しいからあえて離れていた。気づかれてないと思っていたのに。
「部活、何時まで?」
「6時までだけど、いつ帰ってもいいよ」
「雫に見つかる前に、さっと帰らない?」
「…ねぇ」
二人で一緒に遊びに行きたい。二人きりで
「どうした?」
「…何でもない。帰ろ。お琴片づけてくるね」
言葉、飲み込んじゃった。
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晩御飯を食べ、お風呂に入り、歯を磨いて、ベッドの上でゴロゴロするだけの時間。
「二人とも、わからんすぎ」
陽菜とは距離が開いたように感じたが避けているつもりはないらしく。僕が過剰に反応しているだけ。雫と陽菜は喧嘩していない。
「う~ん」
何かありそうな気もするけど、本人たちが話したそうじゃないからなぁ…無理に詮索しない方がいいだろうな。
すると、ピコンとスマホが通知を鳴らす。チャットアプリからメッセージが届いていることを知らせてくる。
「げっ!そういえば何も説明してなかった」
画面には雫様と書かれており、メッセージには『おめぇ今日何しとったんやワレェ』と書かれている。普段の雫からは想像がつかない言葉遣いでチャットが飛んでくる。謎キャラを演じているっぽい。
チャットアプリを開いて返信する。
『雫様、申し訳ございません。お説教が終わった後、急用が入りまして』
『ほぉん?急用とな?申してみよ。内容によっては許してやらんこともないぞよ?』
陽菜のところ行ってたなんて言ったら怒られそうだな。
『両親から頼まれていたお使い。今日までって忘れてて急いで対応してました』
『嘘ついとらへんか?』
『はい』
『ならばよろし、もし嘘ついとったら歯すべて引っこ抜いてガタガタ言わせんぞ』
『それだとガタガタ言わすものがありません雫様』
『おめぇ、ぶっころがすぞぉ?』
えぇ…。
『まぁ、とにかく連絡よこせって話。じゃあおやすみ。いい夢見なベイビー』
ベイビー…。
とにかく許してもらえたようだ。親のお使いってなんだよ。って感じだが
「さて、僕も寝るか。おやすみ」
部屋の電気を消して、瞳を閉じる。
「…ちゃん」
「…?」
「お…ちゃん」
「…?なんだ」
「お兄ちゃん!」
体を揺さぶられている。目を覚ますと外だ。近所の公園にあるドーム型の遊具、そのてっぺんで僕は寝転んでいた。
「お兄ちゃん!起きて。一緒に遊ぼ」
肩を揺らしていたのは、妹である陽菜。二人とも小学校の制服を着て公園にいる。ちらっと柱に設置された時計を見る。しかしアナログ時計なため読めない。
「陽菜?」
「なに?」
「今、何時だ?」
「わかんない。まだお昼ごはん食べてないよ!」
「なんで制服?」
「どうしたの?お兄ちゃん。学校行ってる途中で嫌になって、公園で遊んでる最中だよ。でもお兄ちゃん、眠たい。って言って寝始めちゃったからさみしい」
あぁ、学校サボっているのか。
「まぁいっか。遊ぼう!陽菜」
「わーい!おいかけっこしよ!私がお兄ちゃんを追いかけるの!」
「よしきた!にげろ~」
「わ~!」
こうして、公園の敷地内を走り回る。
「あはは。まてまて~」
「うおぉ!つかまってたまるか~」
「あはは」
「えへへ」
「おりゃ!捕まえた!」
「捕まっちまった~!陽菜、足早くなったなぁ。お兄ちゃんうれしいぞ」
「…何言ってんの圭一、早く起きて?」
「え?」
目を覚ます。バサッと布団をめくりあげ、勢いよく飛び起きる。
ここは?…僕の自室だ。目の前には女子高生の陽菜が立っている。
「うおぉ、いきなり起きた。早く着替えないと遅刻するよ」
「なんだ夢か。陽菜が、お兄ちゃん!お兄ちゃん!ってかわいかったなぁ」
「妹パーンチ」「ぐわぁ!」
思いっきり顔面を拳で殴られたんですけど。
「寝ぼけたこと言ってないで、早く着替えて」
「あい…」
そうして、陽菜は僕の部屋から出ようとドアノブに手をかける。
「なぁ陽菜」
「なに?まだ殴られたいの?」
「いやいや…小学生のころさ、僕たち学校サボって公園で遊んだことあったっけ?」
「…あったね。そんなこと」
「あ、そうなんだ。夢に出てきてな、昔の記憶だったのか。なんでサボってたんだっけ?」
「その時の気分よ…」
「ふぅん」
ガチャリと扉を閉めて陽菜は出て行った。
----------> ☆ <----------
「学校行ったらクラスが別々で、お兄ちゃんと離れたくなかったからだよ…」
【本日のひなたん】
本日は土曜日。圭一も私も部活が休みで、リビングでのんびりしている。
「圭一、今日は月に一度の口悪いDAYなので、気を付けてね」
「え、なに?口悪いDAYって…」
「は?察しろよボケナスが」
「早速やば…」
まぁ、あれだ。女の子特有のあれだ。ストレスがたまるというか、勝手にイライラするというか。女に生まれたことを後悔するよ。
「なので、圭一に暴言を吐いてストレス発散しようということなのです。わかったか?」
「僕はサンドバックではありません」
「は?サンドバックが喋るなゴミ」
「うちの妹…こわい…」
なんだか小腹が空いてきたので、冷蔵庫をあさる。チーズとベーコン、ピーマンを見つけたのでピザトーストを作ろうと思う。
…せっかくだから、圭一の分も作ってやるか。
「おいカス。ピザトースト食べるか?」
「え!?ありがとう!小腹空いてたからちょうどいい!」
「は?喜び方キモ過ぎ。ただの気まぐれじゃくそボケ」
「マジ、口悪…。しかし妹ツンデレは萌える!」
「…。」
「その、無言で「うわぁ」みたいな顔するのやめて…」
この後、3日ぐらい口悪いDAYが続いた。