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お昼休憩。いつも通り屋上に集まって昼食を食べる。今日はイチゴと生クリームのサンドイッチ。陽菜とけいくんは野菜炒め弁当。毎度思うが、けいくんのお母さまは家事もやって仕事もして四人分の弁当も作ってるらしくて、普通にすごい人だなと思っている。
うちの両輪も共働きで朝早くに出勤する。そのため弁当など作ってる余裕もないらしい。さらにうちの母は料理が苦手。それもあって毎月お昼ごはん代をもらってコンビニ食。まぁ、これはこれで好きなものを食べられるからいいのだが。偏食癖が治らない。
「明日から、一応ゴールデンウイークね。部活があるから実質休みなんてないのだけど」
「あ~、茶道部は…。自由参加ね。文化祭が近づかないとやることないもん」
「茶道部はいいよなぁ…僕たちはずっと部活だぜ」
「そうね~」
まぁ、人によると思うが連休は部活動やアルバイトなどで消えていくので、逆に無いほうが助かる説まである。
「顧問にゴールデンウイークは全休でいいですか?って聞いてみるか?」
「部長なら、聞いてくれそうね」
「えぇ、圭一がずっと家に居るの嫌なんだけど」
「なしてそんなこと言う…」
うちの部活は、部長が絶対みたいな風潮があるから、案外連休中全部休みになるかもしれないわね。
「せっかくだし、けいくんが休みを勝ち取ったら三人で遊びに行かない?」
「あ~いいな」「ん~そうだね」
二人は空を見上げて悩み始める。
「僕は、久しぶりにカラオケ行きたいかな?」
けいくんは、卓球以外だと何が好き?と聞かれればカラオケと答えるほど歌うことが好き。しかもちゃんとうまい。
「あぁ、圭一の歌。また聞きたいかも」
「おぉ、うれしいこと言ってくれるねぇ」
「確かにカラオケもいいわね!私は絶対歌わないけど」
「…雫も歌おうよ。僕は気にしないって」
けいくんと違って私はすさまじいほどの音痴なのだ。歌っているときは気持ちよく歌えているのに、いざ聞き返してみると…まぁひどい。
昔、三人で行ったカラオケで私が歌うと、けいくんがものすごい複雑な顔してたのを思い出す。それはもう苦虫を嚙み潰したような。
「わ、私もそんな歌うまくないし、気にしなくてもいいよ?」
「陽菜は普通にうまいわよ…」
陽菜も歌は上手い。二人の才能を分けてほしいわ。
「まぁ…カラオケはいったん保留!映画とかどう?」
けいくんが気を利かしてくれて、映画に行く選択肢が生えてきた。最近、映画見に行ってないなぁと思う。
「最近、映画見に行ってないわね…全部サブスクで見ちゃうから」
「あ、それ私も。映画館の迫力もやっぱりすごいんだけど、自分の部屋でのびのびと見たいって気持ちもあるんだよね」
「えぇ、僕は断然、映画館派だな~。陽菜の言う通りあの迫力がいいんだよ。世界観にのめりこめる」
2対1で別れた。確かにあの迫力は映画館でしか味わえない。けど普通に行くのめんどくさい。自室で誰の目も気にせず見れるのがサブスクやレンタルの強みだと思っている。
「あと、私は映画とかアニメとか見てると、結構しゃべっちゃうから…映画館だと我慢しないといけないじゃん?100%楽しめないって感じちゃう」
「確かに陽菜って、家でテレビ見てる時もうるさいよな」
「うん。うるさいわね」
「ごめんやん…」
陽菜はテレビを見ながら、結構突っ込みを入れることがある。面白いので何とも思っていないけど。
「てか、そろそろ時間か」
「そうね。顧問によろしくね。部長さん」
「私はいつでも空いてるよ!」
「陽菜はそうだろうな…。とりあえず今日の部活で聞いてみるよ」
各々、自分の昼食を片付けて、ギシギシとうなる重い扉を開けて屋上を後にする。
私が扉を閉めて階段を下りる。けいくんと陽菜が横並びで階段を下り、私は5段後ろを歩いている。階段の折り返し地点である踊り場に二人が下りたあたりで気が付く。
あれ?ポケットに入れたはずの財布がない。もしかしたら屋上におきっぱかも?
「あ、忘れも…きゃ!」
踵を返して階段を駆け上がろうとしたときにバランスを崩ずしてしまい。そのまま下へ落下する。
「雫!」「雫!」
二人の呼びかけが妙にエコーがかかり、私の時間がゆっくりのように感じる。
その数秒後。バタンと倒れこむ音。しかし痛みは感じない。
私のすぐ近くでけいくんが痛がる声が聞こえる。
「いてて…。大丈夫か?雫」
私は、けいくんに頭を抱きかかえられながら倒れこんだようだ。けいくんのおかげでケガはない。
「圭一!雫!大丈夫?」
陽菜の心配そうな声が聞こえてくる。
「…ええ、大丈夫よ。ありがとうけいくん」
「ふぅ、よかった」
そうしてけいくんが、私の頭から手をどかして、立ち上がろうとする。しかし、私は両手をけいくんの後ろに回して抱き着く。そして頭をけいくんの胸に埋めながら「怖かった…」と消え入りそうな声を放った。
「…。」
「…。」
静寂。長い時間そのまま抱き着いて離れなかった。
この静寂を破ったのは、授業開始前の予鈴だった。
「わ!ごめんなさい!」
私は勢いよくけいくんから離れる。
「あ、あぁ…大丈夫だ。それより戻ろう」
「うん。そうだね」
「ええ…。」
そのまま各々の教室の方へ別れていった。
…なんか忘れているような。
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授業の開始を告げるチャイム。私の好きな語学の授業。しかしなんだか気乗りしない。
『怖かった…』
雫が圭一に倒れこんだ瞬間がフラッシュバックする。あんな弱弱しい雫の声。初めて聞いた気がする…。
「…。」
窓の外を眺めながる。どこにも焦点を合わせずに、ただぼんやりと外を眺めていた。
二人が付き合った後を想像する。
この前みたいに、二人で手をつないじゃって。あんな風に抱き合って、キスとかしちゃうのかな?デートとかして。いつも一緒にいた三人が、二人と一人になっちゃうのかな?
胸の奥がズキズキと痛む。その先を想像して心が沈み込む。
「はぁ…」
無意識のうちにため息が口を貫き外へ。二人が幸せなのはいいことじゃん。私のお兄ちゃんと大親友の雫。二人が幸せなら。
「…私の幸せは?」
二人の幸せの先には、私がいない。そう考え始めると、とてつもなく切なく感じてしまう。
「教科書70ページの文章を…え~平野さん。読んで」
「…。」
「平野さん?」
「え、あ、はい!」
「珍しいわね。平野さんが上の空なんて」
「ごめんなさい…。もう一度いいですか?」
「教科書70ページの文章を読んでほしい」
「はい」
だめだ。頭の中が二人のことでいっぱい過ぎて先生の声が入ってこなかった。授業の時はこっちに集中しないと。
△▼△▼
「集中力が迷子」
授業の終わりを知らせるチャイムを聞きながら、そんなことをつぶやく。結局最後まで集中することはなかった。
「はぁ…なんか無理」
二人の名前が頭の中を駆け回る。もし二人が付き合ったなら、という先のことを勝手に想像してしんどくなっている。
「…。」
しんどくなる理由。
「…。」
私はきっと…。いや前々から気付いていた。でも見ない振りした。だって私たちは兄妹。血のつながりがなくてもお兄ちゃんには変わりないんだ。
「…お兄ちゃん。かぁ」
窓の外を眺める。
確か、あの頃は…。
「お兄ちゃん!」
私と圭一は、初めて着る小学校の制服に大興奮していた。これから成長すると見越して大きめのサイズを買って、ぶかぶかなセーラー服。圭一もぶかぶかの学ランを着ていた。
「陽菜!すっごいかわいい!」
「えへへ。お兄ちゃんもかっこいいよ!」
ランドセルも背負って、完全に浮かれていたな。あの時。
確か私が父さんの裾を引っ張って「パパ!写真撮って」って言って、いつ買ったのかわからない高そうな一眼レフカメラを持ち出してきたっけ。
「よ~し、撮るぞ。はい、チーズ」
カシャっとシャッターを切る音。
そして入学式。お父さんとお母さん、そして圭一と私で体育館に集まり、入学式が始まる。席は自由だったので圭一の隣に座ってずっと手をつないでいた記憶がある。たしか反対側には雫がいたっけ。
そして式典が終わり、いよいよクラスごとに分かれて説明会。その時だ。私と圭一が別々のクラスだと知ったのは。
各クラスに分かれて教室に入っていく中、私は廊下で駄々をこね始めた。
「やだ!お兄ちゃんと一緒がいい!同じクラスがいい!」
幼稚園の頃は、ずっと一緒だったから大丈夫だったけど、小学生に上がって離れ離れになるのがとてもつらかった。
「こら陽菜!わがまま言うな。先生が困ってるだろ?」
「やだやだ!一緒じゃきゃやだ!」
廊下で大泣きして…。周りのみんなびっくりしただろうな。圭一も気まずそうな顔してたな。
ようやく落ち着いた私は、ズビズビ鼻をすすりながら自分の席に座って話を聞いていた。いや、聞いてはいたが頭には入ってこなかったな。
入学後、クラス分けの時は気づかなかったが、雫とは同じクラスだった。だから最初は寂しさに耐えられていた。けどやっぱり圭一の方がよくて。
それで、登校中に雫を先に行かせて圭一と公園で遊んでた。
圭一は、私がさみしく思っていることを多分知ってて、一緒にいてくれたんだろうな。あいつ、当時のことあんまりはっきり覚えていないらしいけどね。
私はきっと、最初からお兄ちゃんのこと、好きだった。
回想が終わり、眺めていた空の景色が映し出される。
「ふんんん…」
鼻からため息を吐く。
キーンコーンカーンコーンと授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響き、先生が教室へ入ってくる。
「あい、日直~」
「きりーつ、れー、おなしゃーす」
「おなしゃーす」「おねがいします」「…。」
日直の号令のあと、様々な反応をして授業が開始される。
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カン!カン!と小気味いい音が響く体育館。放課後の部活中、僕は顧問の先生と話している。たっきゅ部の顧問は、なんか貧弱そうな…優しそうなおじいちゃん先生が担当している。いつ倒れてもおかしくない雰囲気が漂っており、普通に心配になるときがある。
「先生。ゴールデンウイークなんですけど」
「んお。どした?」
「部活動も大切だと思いますが、やっぱり学生として思い出を作るためにも、ゴールデンウイークは休みにしてもいいと思います」
「ほんほん」
「…えっと、部活動での思い出というのも大事ですが…えっと」
「無理に理由を作らんでよい、私は別に休むなとは言いませんとも」
「え、じゃあ」
「部長である平野がそうしたいなら、そうしなさい。私はただ部活を見守る立場であって、指示を出すつもりはない。まぁ、副部長とか部員と相談したうえで決めなさい」
「ありがとうございます」
心が広い先生でよかった。まぁ、怒られることはないと思っていたが、やっぱり少し怖かった。
ということで休憩時間を少し拝借して、みんなと相談するか
軽くスキップをしながら卓球台へ。
「平野先輩、なにか、いいことありました?」
話しかけてくれたのは、古賀さん。僕がいない間、壁に向かってラリー練習をしていた。この子は上達スピードが速く、普通にラリーできるほどになった。ラケットがかすりもしなかったころに比べれば、かなりすごい成長だ。
「古賀さん。このあと全体周知するから、その時までお楽しみな!」
「な、なるほどです!」
「さて、練習するかい?」
「はい!」
古賀さんがほかの人とプレイしているところを見たことがない。僕がいないときは基本壁打ちだったり、ピン球拾いだったり、サーブ練習をしている。やっぱりまだみんなとなじめてないんだな…。どうにかしてあげたいが、どうすればいいんだろう。
休憩時間が始まるまで、古賀さんとラリー練習をすることに。
「みんな!ちょっと集合!」
みんなゾロゾロと僕の方へ集まってくる。
「休憩時間にごめんな。聞きたいことがあって、ゴールデンウイーク中は部活を休みにしたいと考えているんだ。先生と相談したところ、みんなと相談して大丈夫なら了承してくれるそうだ。みんなはどうだ?」
やったー!とか、ないすぅ!など賛同の声が聞こえてくる。この様子だと大丈夫そうだな。
ただ一人を除いて。
「…古賀さん?なんか複雑そうな顔してるけど」
「え!?いや、ごめんなさい…休みになってうれしです!はい」
「そうか?何かあれば遠慮なく言っていいぞ?」
みんなの視線が古賀さんに集まる。あ、これはまずいことしたかも。
「あ、あぁ…大丈夫です!気にしないでください…!」
「そっか、後からでもいいから、気になることがあったら教えてな。よしみんな!ゴールデンウイークは各々自由に過ごしてくれ!では解散!」
わらわらとその場からみんなが離れていく。どこ遊びに行こ~。とか、家でゴロゴロするぞ~とか。いろんな声が聞こえてくる。
「古賀さん。さっきはごめんな。みんなの前で聞くべきじゃなかった」
「いえ…私が悪いんです。ごめんなさい」
「謝る必要ないよ。それより、なんかまずかったか?」
「…。」
「…。」
古賀さんは何かを言いたそうにして、言葉を飲み込んでいる。
そして、口を開いた。
「…家に居ても退屈で、何もすることなくて、一人の時間が嫌なんです。だから、部活動がお休みになって、さみしいなって。思って」
え、かわいいかよ。
「そっか。ごめんな。気遣ってあげれんくて。ゴールデンウイーク中毎日はちょっと難しいけど、僕は部活来ようと思うから、一緒に練習するか?」
「…!いいんですか?」
「おん!」
「ありがとうございます!平野先輩は、やっぱり優しくてかっこいい」
「ほめたってなにも出ないぞ~」
せっかくいい感じに上達してきているのに、ここで一週間も休んだらもったいなく感じる。だから、この子のためにも部活はやってもいいかもな。
「ゴールデンウイーク中の部活は、自由参加ということにしよう。来たい人だけ来る。ということで」
「はい!」
「あぁ、そういえばグループチャットには招待してるけど、個人チャットは交換してないっけ、行く日と行かない日の連絡したいし、交換する?」
「あ、はい!ぜひぜひ!」
とお互いスマホを持ち寄って連絡先を交換する。
「えへへ…。平野先輩の連絡先だぁ」
すっごいうれしそうにする古賀さん。なんだろう。小動物感があってかわいいな。
なんて思う。
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「…。」
私は同級生のこと練習試合をしている。けいくんを横目で見ながら。
何をあんな楽しそうに会話してるのかしら。
さっきも古賀さんだけ反応が悪くて、それをけいくんが気にしていた。
あの二人、なんか最近仲良くなり過ぎじゃないかしら
「…。」
なんだか、心臓を締め付けるような、不快な感覚。
「…嫉妬なんて、してないわよ」
相手の打った球の軌道を先読みして、スマッシュの姿勢はいる。
スパァン!ときれいにスマッシュが入り。点を獲得。
「…。」
胸が、ズキッと痛む。
【今日のひなたん】
授業の合間休み、頬杖をついて外を眺める。
「はぁ…。」
どうしてこんなに憂鬱かというと。
「このあと、体育の授業あるじゃん」
そう。体育がある。私は運動が大の苦手。この大きすぎる玉二つが厄介で。ため息を吐いていると、前の席に座る女友達がクルリと振り向いて話かけてくる。
「陽菜ちゃんどうしたの?」
「体育」
「あぁ」
一言ですべてを察したみたいだ。
「ほんと、邪魔なんだよね。このおっぱい」
「喧嘩売ってる?買うよ?」
「いやいや、そんなつもりなくて。でも実際こんなの邪魔なだけだよ。男どもはこれのどこがいいのか」
「男って大きければ大きいほどいいって言うよね」
「肩こるし、着たい服着れないし、制服とか前に突っ張るから太って見えるし、体重が増すばかりだし」
「あぁ…」
「平たい胸を経験してみたい」
「やっぱ喧嘩売ってるよね?」
「売ってないってば」
「…陽菜ってお兄さんいたよね?」
「え?うん。どうして急に?」
「…男の人に揉んでもらうと大きくなるって聞いたことあって、実際どうなの」
「は⁉圭一に揉まれてると思ってるの⁉あいつロリコンだから私の興味ないって!」
「ロリコンなの?」
「え、うん」
「え、知らなかった。だから最近、あの一年生ばっかり面倒見てるんだ…」
あ、やばいこの子卓球部だった。
次の日、卓球部の女子の間で「部長ロリコン説」が横行したとかなんとか…。