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体育館。ゴールデンウイークが始まったと同時に卓球部はガラリとしてしまった。自由参加といいつつも、なんだかんだで数名は来るだろうと思っていたら、僕と古賀さんの二人しかいない。みんな遊びに行ったり家で勉強してたりゲームしてたりするのかな?
「さて古賀さん。そろそろ休憩しようか」
「は、はい」
古賀さんもかなり上達してきている。本当に成長速度が速くてびっくりするぐらいだ。コミュニケーションをとるのが難しいって言っていた割には、僕とちゃんと会話出来てるし、前の学校の環境が悪すぎたんじゃないかな?なんて思う。どういう過去を辿ってきたのか気になる気がするが、本人のためにも聞かない方がいいだろう。
「…?あ、あのぉ、私の顔、変ですか?」
「え?あ、ごめん」
無意識のうちにずっと見つめていたみたいだ。申し訳ないことをした。
「どう?部活動には慣れた?」
「…はい。でも、先輩がいないとまともに練習できなくて、みんなと練習したいと思うけど、足手まといになりそうな気がするんです」
「そんなことないさ。今の古賀さんはかなり成長して、普通にプレイできるようになっている。これからだんだん強くなっていくよ!僕が保証する」
「ありがとうございます。先輩は優しいですよね」
「そうか?普通だと思うけどな」
自分の水筒を開けて、持参していたスポーツドリンクを飲む。タオルで汗を拭きながら天井を見上げる。
「あの、先輩」
「なに?」
「先輩って、気になる人とか居ないんですか?」
「ごほっごほっ!え?いきなり?」
思わずむせてしまう。
「あ、ごめんなさい!」
「ちょっと…びっくりしただけ」
気になる人…かぁ
あんまり気にしたことない気がするんだよな。実のところ。恋愛に興味がないわけではないが
「居ないかな?あんまり考えたことない」
「あの…九条先輩は?」
「雫?あいつがどうした?」
「いや、そのぉ、仲良さそうだなって思って」
「あぁ、幼馴染だからな。幼稚園の時からずっと一緒にいる。僕には妹がいるんだけどさ、三人でよく遊びに行ったりしてた」
「あ、じゃああの人が妹さんか…」
「え?会ったことあるっけ?」
「た、たまたま!見かけたことがあるんです。朝、三人で登校しているところ」
「あぁ、なるほど」
「…。」
「…。」
数秒の静寂。
「先輩」
「ん?」
「九条先輩のこと、どう思ってますか?」
「え?あぁ~。どう思っているか…。まぁ親友かな?あいつほど馬が合う人はなかなか居ないと思う。話してて楽しいし、二人で居て気まずいと思ったことは…まぁ喧嘩したとき以外は無い」
「ふ~ん。なるほどです」
なんだか、居るのが当たり前すぎて特に何も考えたことがない。改めて言語化するのは難しい気がした。
「…九条先輩は、先輩のこと、親友と思ってないと思いますよ」
「…え?どういうこと?僕嫌われてる?」
「あ!そっちじゃなくて、むしろとても好意を寄せていると思います」
「あの雫が?僕に?」
まさかぁ
…しかし最近の雫はどこかおかしい。スキンシップが多いというか、表情が変わったというか、三年に上がってから色々と変わった気がする。
「…。」
「私は、先輩と九条先輩、とてもお似合いだと思います」
「ん~…」
雫が、僕のことを好いている。
そこでこの前のチャットを思い出す。嫉妬しているようにもとらえられる文章。まさかとは思っていたけど、本当に?
恋愛経験が浅い…というか全くない僕にとってそれは、思考を奪うのに秒もかからない。九条雫という人物の名前が頭の中を支配していた。
「…。」
「…先輩?」
「あ、ごめん。考え込んでた。話を聞いていると雫のことが気になり始めてな」
「お二人がお付き合いしたら、ぜひ教えてくださいね!」
「えぇ気が早いって、それに付き合えるって決まったわけでも…」
「えへへ」
「逆にさ、古賀さんは気になる人居ないの?」
「私ですか?いるにはいるのですが…」
「なんか訳あり?」
「大したことじゃないんですけど、その子、結構チャラい感じの人で授業態度とかすごく悪いんですけど、すごく根はやさしくて、だれにでも分け隔てなく接することができる人なんです」
「素敵やん」
「はい、でも、だれにでも優しいから嫉妬しちゃって、私だけを見てよ!って感じです。付き合ってすらいないのにそんなわがまま」
「告白とかしないの?」
「あの子にとって私は、複数人のうちの一人。きっと振り向いてくれません」
「そう言い切っちゃうのはもったいないんじゃないかな?」
「…え?」
「たとえ、複数人の中の一人、それでもアタックすることで周りよりも一歩前に出ることができると思うんだ。すると、距離も近づくし、前に出てるから目立つ。その子にとって、複数人と一人になるかもしれない」
「…!」
「だから、まぁ、がんばれ!無責任なこと言ってるかもしれないが」
「いえ、とっても嬉しいです。励みになりました」
「それならよかったよ」
恋愛のアドバイスができるほど、経験値なんて持っていないけどな。
「で?その気になる人は、もしや卓球部?」
「あ、いや、同じクラスの男の子です」
「あぁ、じゃあ知らないなぁ」
知ってる人なら、話盛り上がるかな?って思ったが。
「惚れたきっかけはなに?聞いていい?」
「…は、恥ずかしいです」
「あぁ、ごめん」
「教室でずっと一人だったところに話しかけてくれて、優しくしてくれたんです」
あ、話してくれるんだ。
「ふんふん」
「私、教室では誰とも話さずに端っこの方で本読んでるだけなんです。やっぱり話しかけるのが怖くて。でも、田辺くん…あ、その子の名前なんですけど、田辺くんが優しく声かけてくれて、そのあとも何度か声をかけてくれました。それだけでもうれしかったんです」
「心優しいやつなんだな」
「はい。でも、それはみんなにも優しくて、私だけじゃなかったんです。遠いクラスの女子とも仲良くしているし、というか男子と喋っているところ、あまり見たことないかもです」
「ん?ん~なるほど…」
「みんな、私よりも明るくて、ちゃんと会話のキャッチボールができていますけど、私だけどもってしまって…。もっと楽しくおしゃべりがしたいのに」
「僕とは普通に会話出来てると思うけど」
「…先輩は、なんだろう?年上の頼れる人って感じです。お父さんとかお兄さんとか…え、今すごい恥ずかしいこと言った!」
「かわいいかよ」
あ、やばい勝手に口が
「もう…かわいくないですよ!」
「ま、まぁ!冗談じゃな古賀さんはかわいいと思うぞ!だから、その~田辺くんか、自信もってアタックしなって」
「…んん~、が、頑張ります!」
結構長い時間休憩したなぁ、そろそろ練習再開しようかな?
「十分休憩できた?」
「はい。おかげさまで」
「よし、じゃあ続きするか!」
「はい!」
△▼△▼
部活終了の一時間前。かなりしっかりと基礎が身についてきたと判断して、1セット先取の練習試合をしてみることに。得点版を用意して、挨拶からしっかりとやる。
二人近づいて、自分のラケットを相手に渡して状態を確認してもらう。
「この時、赤色と黒色のラバー部分を触ったらめっちゃ失礼になるから気を付けてね」
「は、はい」
練習とはいえ、古賀さんにとっては初めての試合形式。かなり緊張しているみたいだ。
「そんな、緊張しなくてもいいよ」
「む、むずかしいです…」
「そっかぁ」
初々しいなぁ。なんて思う。僕も始めたての頃はド緊張してやばかったなぁ。
お互いにラケットを確認して、じゃんけん。先攻後攻を決める。
「最初はグー」「最初はグー」
「じゃんけん」「じゃんけん」
「ぽん!」「ぽん…」
僕がパーで、古賀さんがチョキ。古賀さんの先攻だ。
「そっちが先行だね」
ピン球を渡して、離れていく。
そして、台を挟んで向かい合う。
「よろしくお願いします」
「よ!よよよ…よろしくお願いしましゅ!」
そして、お互い構える。
手の器にピン球を乗せて、手首とラケットが垂直になるように浅く握る。どこで覚えたんだろう…その握り方。手首の返しが直接ラケットに伝わるので、回転をかけやすくなる。
「えい!」
高く、ピン球を持ち上げ、胸より少し下までピン球が落ちてくるのを待つ。そして
「おりゃ!」
あの握り方は、回転をかけるフォーム、僕の方向へ湾曲して飛んでくるだろうと予測して、待機していたのにも関わらず。
「なん⁉」
僕とは真反対の方向にストレートな一撃を食らう。回転を全くかけておらず、手首のスナップを効かせてたたくように打っている。このうち方は低いバウンドで速度が出るため、初見で使われるとかなりきつい。
しかし、
「あぶねぇ…」
間一髪、カットで打ち返すことができた。
かなり強く回転がかかったため、古賀さんの方向へ飛んだのち、バウンドで失速する。
「おりゃ!…あれ⁉」
失速したピン球を捕えきれずに台の下へ落下。僕が一点獲得。
1 - 0
「ごめん、にしてもそのサーブどこで覚えたの⁉普通に危なかった」
「これは、動画サイトで見たんです。サーブ集みたいなのがあって、一番かっこよさそうで強かったから」
「いい動画見つけたね。サーブのレパートリーは増やしておいて損はないと思うから、できるなら全部覚えちゃおう」
「はい!」
次。古賀さんのサーブ。
さっきと同じ構え、少し台から距離を取り速い球に対応できるようにする。
空高く打ち上げたピン球は、胸の下あたりまで落ちてきて、打つ。
「はいや!」
次はなんと回転がかかり、僕のコートの中腹あたりで湾曲する。
「マジか!」
急いで台に近づいて台の横にこぼれたピン球を打ち返す。
まさか、相手の距離で打ち分けてる?
そのまま、古賀さんのコートへ帰っていき、ワンバウンド。
「おりゃ!」
問題なく打ち返してくる。斜め上に振り上げるフォーム。
ラリーが続く。古賀さんから向かって右側なら問題はなさそうだが、左に振ると。
「わぁっ!」
対応しきれなくなるみたいだ。
2 - 0
さて、僕のサーブだ。さっきはサーブで翻弄されたからな。仕返しをしてやろう。いつもの構えを取り、ピン球を高く上げる。そして横向きに強く回転をかける。
僕からほぼ直進に打たれた球は、ワンバウンドで少し右に逸れ、ツーバウンド目で思いっきり右方向へそれる。そのためコートの中腹あたりで右方向に進むため、準備していないと対応できない。
「えぇ⁉」
古賀さんはピン球に触れることなく落下。サービスエースだ。
3 - 0
「先輩…!本気じゃないですか」
「さっき弄ばれたから仕返し」
「そんなぁ」
さて、次も僕のサーブだ。何して遊ぼうかな?
下方向に回転をかけて失速させるサーブを打つことに。
手から高く放たれたピン球は、ちょうどいい高さまで下りてきたのちに打ち込まれる。下方向へカットするイメージで打つ。
「ちょちょちょ!」
最初は勢いがあるため、遠くに飛ぶと思って、後ろ目に警戒した古賀さんだったが、ツーバウンド目で失速するもんだから、びっくりしたのだろう。
打ち返した球は、明後日の方向へ飛ばされて落下する。
4 - 0
「先輩…ひどい」
「ごめんごめん」
今までのプレイで古賀さんはバックで打ってこない。なので自分の方向へ飛んできた玉は、自分が打ちやすい位置まで移動している。それに、ネット付近に落ちる球も、バックで打ち返さないので、手首がつらそうなことになっている。これは今後の課題だな。
そして、古賀さんのサーブ。
台から少し距離を置いておく。もしこれで回転のかかった玉が来れば、相手の距離を読んで打ち方を変えていることになる。
「いーやっ!」
「狙い通り」
しっかりと回転のかかったピン球が打ち出され、台の横の方へ流れていく。予測していたからスムーズに返すことができる。
「あ!」
打ち返したピン球は、古賀さんの体めがけて飛んでいき、体をずらして打ちやすくする動作が間に合わず体にあたり落下する。
5 - 0
「んんん!くやしい!」
「さすがに負けへんよ」
「大人げないです!先輩!」
「やっぱり手加減って、相手に失礼だと思うんだよね」
「初心者相手ですよ!」
「サーブがもう初心者卒業してるんだわ」
相当悔しそうにする古賀さん。
さ、次も古賀さんのサーブだ。今度は台に近づいて高速な玉が来ることを予測する。
「とりゃ!」
「やっぱり」
思い通り、低いバウンドの速い球が放たれる。この子は選手との距離感で打ち方を変えているな。初心者がそこまで考えてサーブなんて打てないのよ。この子の上達速度と言い、これからの功績に期待が高まる。
しっかり身構えていたのもあって、次は難なく打ち返すことができる。ゆっくりとした玉がラケットから放たれる。
お互いラリーを続け停滞気味。ラリーの速度を少し上げて、どこまで耐えられるか見てみよう。
「あ!あ!あ!」
速度を上げるたびに、少しずつテンパってきているな。
「うわぁ!」
そして、耐えきれずラケットにあたったピン球は高く舞い上がる。そのまま僕のコートへ飛んでくるので、スマッシュ。
スパァンと心地の良い音が響き、古賀さんの横をすり抜けていく。
6 - 0
「強いぃ」
「これでも手加減してるんだぞ?」
「んんん~」
とても悔しそうに唸る。
11 - 0
ゲームセット。あの後から古賀さんのスタミナが底をつき、僕の圧勝でゲームが終わった。
「一点も取れませんでした」
「でも、入部してそんなに経ってないのに、ここまで上達しているのは驚きだった。これからに期待だな」
「…!ありがとうございます!」
時間もそろそろ部活終わり、片付けをして撤退しよう。ということでラケットを片付けて、ネットを外して、台をたたむ。そしてモップ。
「よし、お疲れ様」
「お疲れ様です。先輩」
「帰り、自販機寄っていかない?」
「ん?いいですよ」
二人とも荷物をまとめて体育館を出る。無駄にでかいカギで入り口を閉めて職員室に返した後、二人で自動販売機の前に来ている。
そこで僕はスポーツドリンクを二つ買った。
「はい、古賀さん」
片方のスポーツドリンクを渡す。
「え!あ、ありがとうございます!」
「今日頑張ってたからな、ご褒美だ」
「えへへ…うれしいです。明日もよろしくお願いします」
「あ、あぁ…ごめん明日は来れないんだ」
明日は雫と陽菜の三人で出かける日になっている。出かける予定の場所は、いろんなスポーツができたり、映画館があったり、カラオケなんかもある大きな施設だ。きっと雫と卓球やらされるんだろうな。
「あ、そうなんですね。すいません」
「謝ることないよ。今日はほかの運動部がいなかったけど、明日はバスケ部が体育館使う予定になってた気がするから、こっそり入って練習しててもいいと思うぞ」
「いえ、さすがに一人であの空間にいるのは…なので明日は休みます」
「そっか」
古賀さんは少し寂しそうな表情を浮かべていた。
【今日のひなたん】
晩御飯を食べ終わった後、今日は私が食器洗い当番なのでキッチンに立って洗い物をしている。
あ母さんと圭一はリビングでテレビを見ている。お父さんはお手洗いから出てこない。きっと食べすぎたんだろう。
「…ん?」
何やら足元に気配を感じて視線を落とす。すると…。
テカテカと黒光りする小さな物体が、ガサゴソと足元をうろついている。そして、足の小指にぶつかり、ピタっと止まる。
「【G】< コンニチワ」
「いやああああああああ!」
とっさに足で蹴ってその場から離れる。その叫び声を聞いて、母さんと圭一が駆け寄ってきた。
「なに⁉どうした⁉」
「G!G!」
「なに⁉待ってろ陽菜!うららか墓穴連れてくるからな!」
「遊〇王のネタ持ってくるな!一部しかわからんだろ!」
「陽菜ちゃん…私に任せなさい」
お母さんが、どこから持ってきたのかわからない新聞紙を丸めた棒を片手にGへ近づく。
「お母さん!」
ちょこまかと動き続けるGに狙いを定めて…。
「ふん!」
会心の一撃。瀕死状態となりゆっくりと移動し続けている。
「お母さんすごい!ありが…」
バン!バン!とお母さんはたたくのをやめない。完全に息の根を止めるまでたたき続ける。
「え、たたきすぎ…」
もうなんか、モザイクかけないといろいろアウトな状態になったGをティッシュでくるみ、ゴミ箱へポイ。
「退治したわよ!」
とても清々しい笑顔を向けてくるお母さんに、少し恐怖を覚えた…。