ぶぅん、とプログラムが起動する。
様々な項目をクリアして、たった一つの命令が思考を埋め尽くす。
創造主であるエイリアンに作られた尖兵、機械生命体。それが自分。
そして敵とは、この星の原住民、人類。そして被造物であるアンドロイド。
それが創造主であるエイリアンの命令。
この機体が生まれた理由。
ざざ、と思考にノイズが走る。それは使い込まれたが故の経年劣化だ。
どうやらこの起動は初回ではないらしい。しかし記録が何もない。全ての記録を削除してしまったらしい。外付けの記憶領域で増産していたメモリにすら、何も残っていない。沢山蓄えた知識は欠片も残っておらず、あるのは初期に設定された目標だけ。
何も分からないまま、それは世界の隅でリブートする。
「ぁ……ァ……、?」
スピーカーから響く途切れ途切れの音声が、室内を反響する。
暗い。出入り口にある蛍光灯の光が霞むほどの、赤錆びた鉄の世界が目の前にあった。
僅かに残った記録と一致する。ここはかつて人類が使っていた廃工場。その広間のようなものか。
だが一致しない箇所もある。床一面を占領している、機■■■体達。
「……???」
フォーカスが定まらない。視界に異常があるのか。自己診断プログラムを走らせたが、視覚ユニットは正常。ならば何も可笑しくはない。
黒ずんだモヤのようなそれは、かろうじて輪郭だけ分かった。
何かのパーツのようだ。足、手、頭。人類が昔作っていたとされる玩具の一種だろうか。それにしては大きい。つんつんと触ってみたが、固い感触が返ってくるだけだ。
「……
普通に考えれば、自分もここで死んでいた、と考えられる。
しかしそれなら自分か、誰かが再起動させたのでなければいけないのだ。
一体何故か? 疑問は尽きないが……。
「早く離れた方がよさそうですね……」
敵、アンドロイドに鉢合わせたら大変だ。何せこの体、戦うための武器が何もない。あるとすれば背部のブースターくらいだが、それもこの体を浮かすほどの推進力はない。戦闘のためのプログラムが何一つないのだ。
せっかく再起動したのに、破壊されたらたまったものではない。
それは廃工場を後にしていく。
「はっ、はぁ、は、っふ……!」
がしゃんがしゃんとブリキ人形じみた四肢を動かし、それは必死に走る。低スペックの機械生命体に息切れの概念などないのに、コアはかなりの熱を帯びていた。
その背後には機■■■■体、黒いモヤが大挙して押し寄せている。空に浮かぶものから、それよりも大きなもの。共通するのは赤い目のような光が、それに向けられていること。
「な、なんでっ……!」
それの思考を埋めるのは、疑問だけ。
廃工場を出て、それは仲間を求めて廃棄都市に行った。機械生命体はこの地球にいくらでもいる。近場の都市なら、自分のことも知っているのかもしれないと思い至ったというのに。
いたのは黒いモヤの怪物。そして彼らはそれを見て、こう言うのだ。
ウラギリモノ、と。
「コワセ、コワセ、コワセ!」
「アンドロイドノキョウリョクシャ、ワレワレノテキ!」
「ムラヲサガセ、ホロボセ!」
意味が分からない。
黒いモヤが何なのか、何故追われているのか。
考える暇がない。電磁パルスが波となって押し寄せ、赤紫の光弾が地面を削り取り、土木作業用のショベルよりも凶悪な腕が背後で振り回される。
どれか一つに捕まれば、こんな時代遅れの機体は即座に砕け散ってしまうだろう。
逃げなくては。とにかく逃げて、誰もいない場所にいかないと。
焦燥感が思考を埋め尽くして、手足をせかせかと動かす。
「っ、は、あっ、!」
表の道は開けすぎている。崩壊した建物と建物の脇道に入ると、それはブースターを噴射させて、フェンスを飛び越えた。
入った脇道は行き止まり。あるのは樹齢千年は超えるだろう大樹と、それを守るように廃材で囲われた壁。
そして、下水道に通じる梯子。
選択の余地はない。
黒い化け物達が背中に襲い掛かるよりも前に、それは穴へ飛び込んだ。
「あ、ぅ……!?」
落下と同時に、体にとてつもない衝撃が走る。電流だ。あの黒い化け物が放ったのか、それの茶色く汚れたボディを流れ、内部のパーツを破壊していく。視界が砂嵐に包まれ、バランスを失った体が壁に何度かぶつかり、無茶苦茶な態勢で床に激突する。
下水を全身で浴びる。幸い通路に下水が少し流れ込んで、水溜りが出来ていただけらしい。それは体を起こしてみたが、関節部が言うことを聞かず、水溜りにもう一度倒れた。
プスプス、と黒煙が昇っていく。完全に体がショートしている。焼き焦げた回路の修復をしないと動けそうもない。しかしこんな下水道に機械生命体の部品などない。第一修理するにも、自分自身でそれを行えない。
ざー、ざざー、ざ。
不快な雑音。それはすぐ近くを流れる水流のようだったし、パーツが故障したことによる火花だったのか。今の自分にはその判断すらつかない。
ただ、形容しようがないものをそれは感じていた。
目覚めて、己が何者かも分からなくて、黒い化け物達に追われて。そのあげく、下水でまたもやその機能を終えようとしている。
例えるならそう、これは惨めな気分、という奴だ。それも多分、相当な。
軋む体を傾けて仰向けにする。
それ以上は動けない。滴る汚水が更に惨めさを際立たせた。
「……、……」
疑問は増えるばかりだ。
仲間は、敵は何処なのか。
どうして私は追われているのか。
ただ、どれもいずれ知っていったのだろう。
だから、今それが知りたかったのは一つだけ。
「……私は、何のために、再起動したのでしょう……?」
悔しさも悲しさも芽生えず。
ただひたすら、それは、己が起動した意味を知りたかった。
こうなることは目に見えていて、前の自分は今の自分に何を期待したのか。
それは、ただそのことだけを考えて、機能が断絶する。
「……くそ。ほんと、最悪だ。なんだってこいつがまたこんな目にあってる!?」
「否定。■■■■は追われる立場であり、援助もなく廃工場から単独での移動は不可能。この事態は予測可能であり、■■■部隊■■も予想していると」
「後出しでうだうだ言うな。……冷静でいられるか、あんなことがあって」
「訂正。この結果は当機の報告不足。■■■部隊■■は心理的に判断能力が落ちていた」
「ああそうだよ。お前のせいだ……いや、違うな。どうしていいか分からずほっ放ったのは私か。仕方ない。ここで死なれちゃ余りに目覚めが悪すぎる」
「了解。村までの最短ルート検索、地図にマーク」
「気持ち悪いくらいこっちの意図を読むな……全く。全部片付いたら、会いにくるよ。だから生きてくれ、アンタは。■■達のために」
「……ぁぁ……、っ」
声を聞いた気がした。
人のようで、人ではない声は、メモリーの隙間から落ちて、残響すら消え失せる。
それは体を起こして、その残響を思い出そうとしたが、目の前に広がる景色に思考が止まる。
「わっ……」
一面に生い茂る緑。森だ。人工的な手は一切ないはずだが、太陽の光が差し込む角度、それを適度に遮る木々の黄金比は、自然が為した絶景だった。程よい気温に静謐な森に響く小鳥の囀りが、何とも言い難い心地良さを感じさせる。
しかし妙なのは、視線がやけに高いことだった。見れば、木々にぐるりと足場が備え付けられており、自分はその足場で機能が停止していたらしい。その足場に掘っ建て小屋がぽつぽつと建てられているが、これは村なのか?
「……ええっと」
確か下水道に逃げたが、あの黒い化け物の攻撃で破損、機能が停止した……はずである。
だが自己診断プログラムを信じるなら、ボディに異常はない。その上今いるこの村は、地図からしてあの下水道から一キロ近くも離れている。
つまり誰かが助けてくれたということになるのか? しかし誰が?
……という疑問も、目の前の森のせいでどうでもよくなってしまった。
直前まで絶望的な世界を見てきたそれにとって、その光景はこの世のものとは思えなかった。
機械なのにこんな思考はバグなのだろうが。
美しいと、全てがこうあって欲しいとそれは思ってしまったのだ。
「……よいしょ」
足場の端に座り直し、足を宙へと投げだす。
小鳥がそれの頭に乗って、ぴゅーい、と一鳴き。
それが何だか可笑しくて笑った。
いつまでもこうしていたい。それはただ、傷を癒すように、森を眺め続ける。
日が落ちて、また昇るまで。
それは、誰も訪れない村で、ひたすら世界を眺めた。
そうして、それは村での生活を始めた。
と言ってもそもそも機械にとって、衣食は必要ない。最低限の拠点があれば活動に問題はない。必要なのは体を修理するパーツ、拡張するためのものくらいだ。故にまず、それはこの村のことを調べた。
村にそこまでの規模はない。精々百人にも届かない小さな村だろう。しかし妙なのは、この村に少し焦げている箇所があることだ。
廃材で建った小屋は煤に塗れており、木々もよく見れば枝葉が焼け落ちている。最近火事にあったのだろう、まだ微かに灰になった枝が足場に残っていた。
そして一番気になったのは、見覚えのある黒いモヤかがったものが、村中に落ちていることだ。何度も観察して気付いたのは、どうやらこのモヤはあの黒い化け物達と同じ存在のようだ。赤い光こそ宿していないが、あれは起動しているときだけなのだろう。黒いモヤの奥で緑のくすんだ光がチカチカと見える。
小屋の中や道、下の広場にまで転がるそのモヤは、はっきり言って生活には邪魔だ。しかしいつ起動しても可笑しくない上に、触るのも憚れる。とりあえず放置するしかないというのが、それの判断だった。
「おっとと」
村で一番大きな小屋に、荷物を運び込む。途中踏みかけた黒いモヤにヒヤリとしながらも、それの意識は目の前のものに夢中だった。
本だ。それもかなりの年代物。村にはあちこちこういった娯楽が落ちていて、それの好奇心を大いに満たしてくれた。こんなものがあるのは、ここは機械生命体の村ではなく、人に近い姿をしているというアンドロイドの村だったのかなぁ、なんてどうでもいい考察を思考の隅に追いやり、ページを捲る。
それはこの世界の歴史に関する書物だった。今から九千年は昔に発行されたその本は、西暦元年から二千年に至るまでの歴史を数百ページで説明している。
無論その情報の正確さは、定かではない。だが数千年も昔の人間が語るその更に昔の歴史は、どうにも興味深いものがあるのは確かで。それにとっては正しさよりも、彼らがいた証拠を読み解く方が意義のあることだった。
「……ううむ。面白いですが流石古の歴史書、虫食いも凄い……半分くらい何書いているのか判別出来ないのもらしいというか」
穴だらけの本を閉じる。
本来機械生命体は敵を倒すという命令の元に動く。しかしそれは既に、その命令、ネットワークからは外れていた。元々そうだったように、彼は機械生命体にしては特異な存在だった。少なくとも兵装を探すのではなく、日光を浴びて、本を一人読む程度には。
自分のことは何も知らないが、それはそんな毎日が送りたかった。
次の本を開く。本の内容にむむ、と身構えるそれ。
本は哲学書だった。しかし前に別の哲学書を読んだが、それは哲学というものがサッパリ理解出来なかった。
哲学とはそもそもこの世界で生きる上で一番大切なものは何か、という学問である。当然その大切なものは著者、人類基準のもので、機械生命体には何ら分からないもの。つまるところ感情があることを前提としており、多少は近いものを持つそれであっても、全容を理解するのは難しい。
「ツァラトゥストラはかく語りき、ですか」
まぁせっかく持ってきたし、読んでみるか……と、それは中身に目を通し始める。
しかしその本は、それの予想を覆す内容だった。
哲学書と銘打っているが、内容は完全に小説である。ただツァラトゥストラという主人公を通して、著者の思想を描いている。だがその様は押しつけと言ってもいい。
例えば作中でこんな言葉を主人公が言っている。
神は死んだ。
……機械に神がいるのか、という前提はさておいて。これは人間達でいう宗教上の神が物理的に死んだ、ということではないらしい。
正直かなり理解に苦しむが、神という絶対的な存在はこの世界にはなく、それに縋ることなく生きていくべきなのだ……ということなんだとか。変な話である。
神というものはそもそも、人が己の弱さを補強するための拠り所である。つまりそれが無くては、人が生きていけなかったという証拠。なのにこの哲学者は、その拠り所を捨てろというのだ。これでは矛盾している。
何よりこの本より後も宗教というものは続いている。結局これは、人と神を切り分けることは出来ないといういい証拠である。
宗教に関して機械の自分が理解し得ない領域であり、故にこのニーチェという哲学者の考えは、やはり理解出来ない。
……ただ。
「もしも、
仮に機械生命体というものに神がいるとすれば、それは自分達を作った開発者、エイリアンなのだろう。
インプットされた思考プロセスを行うことを、神の啓示とすれば、辻褄は合う。
ならばその機械生命体のネットワークから外れた自分は、ニーチェの言う、超人という存在なのだろうか? それとも単に神から見捨てられた落伍者なのか。
……機械生命体に向けたものではないだろうに、と本を閉じる。
「うーむ、深い。哲学とはなるほどこういう……」
機械にも通じるとは人類恐るべし。それは謎の敗北感を覚えながら、次の本に手を伸ばす。
村に住み始めて、三日が経った。
今日も今日とて本を読もうとしていたそれだが、今日はいつもと違うことが起きた。
村に訪問者が訪れたのだ。
「あー、あんたか? ここの村長は?」
薄汚れた外套を羽織った彼女は、人そのものの姿をしていた。人類は当に月へ退避している。機械生命体の敵、アンドロイド。
つまり現在戦争真っ最中の相手……なのだが。
「そんなに緊張しなくていい。一応協力者なわけだしさ。……記憶がないのも知ってるよ、災難だったね」
疑問を一気に彼女は答えてしまった。色々手間が省いて助かる。
彼女、ジャッカスが言うには、自分と彼女の所属するレジスタンスは協力関係にあったらしい。資材の受け渡し、情報の交換など。随分危険なことをしていたものだ。裏切り者と言われるわけだ、とそれは納得する。
「それではジャッカスさん。今回はどのような用で私のところまで? 協力関係の私に何らかの情報や物が欲しいなら、私から得られるものはありませんが……」
「おいおいそこまで私も鬼じゃない。そうだな、アンタの生存確認と……これの回収をね」
つい、と人差し指を真下に向ける。
それは黒い化け物の亡骸だった。
「いつまでもこんなの置いておくのも良くはないだろ、ほら」
「……そうですね。これだけ数が多いと
三日も動かないと流石にこの黒い化け物への恐怖も薄れる。そろそろ鬱陶しさの方が勝っていたところだ。その処理を手伝ってくれるなら願ってもない。
「……、」
「? 何か? もしかしてこれのことじゃなかったりします?」
「ああいや。確かにガラクタだ。アンタには無用の長物だよ」
ジャッカスは少しだけ顔を顰め、黒い化け物を指で突っついた。触るのも嫌ということか。
「それで? 何が欲しい?」
「はい? 何が欲しいとは?」
「貴重なサンプルを貰うんだ。ギブアンドテイクだろ、そりゃ」
「そんなに貴重なものなんですか、これ」
「……まぁ、な」
なら……とそれは思いついたものを要求した。
「本や、昔の記録のアーカイブがあれば私にください。今の私は世界を知らなすぎるので」
「了解。……つっても、こんだけあったらいつ無くなるかも分からんな。どうせなら店でも開いてとっとと全部売ったらどうだ? 色々すっきりするだろ」
「ああ、聞いたことがあります。断捨離という奴ですね。人類はそうやって不要なものと今必要なものを分けたとか」
「ああ。……他のアンドロイドにも伝えておくよ。いい店があるってな」
彼女は足元の黒いモヤを担いで、踵を返していく。
その去り際、彼女は言った。
「聞かないのか、お前に何があったのか?」
どうして記憶を無くしたか。ここは何だったのか。自分は誰だったのか。
それは一瞬逡巡したが、答えは首を振ることだけだった。
「必要ありません。私は、今の私がそれなりに好きですから。自ら記録を消したのなら、それこそ私には要らないものだったのでしょう」
「そっか。余計な詮索だった、気にしないでくれ」
村から去っていくジャッカス。その足取りは少し早い。まるでここから早く離れようとするようで。
……いいや、事実そうなのだろう。それはジャッカス達の記憶を忘れてなお、何も知ろうとしない。ジャッカスからすれば、その姿はどう映ったのか。
冷たい機械だと思ったか、はたまたいずれ敵になると思われたか。
どちらにしろ。
「……どんな本を持ってきてくれるでしょうか。楽しみですね」
やることが増えた方が、それにとっても幸運だった。
そうして、それの村での生活は少し変わった。
普段は村にあった本やアーカイブを読んで、旧世界の考察、現在の世界を夢想し、ジャッカスが紹介したらしいアンドロイド達と取引をして、知識を貯め込んでいく。この森では知り得ない知識ならどんな小さいものでもよかった。この村中にある亡骸をどうにか出来るなら、砂漠には砂があると言われただけでも交換した。
亡骸がアンドロイドにどう使われているのか、それは知らない。売れて、村から離れたものは遠い世界の異物でしかないからだ。
けれど、アンドロイド達は勝手に喋ってくれた。
「何に使うって、そりゃ武器の素材とかにするけど」
「私は練習台かな。ほら、これ簡単に壊れないでしょ? だから的には丁度いいの」
「……ストレス発散。手の形がいいだろ、これ。足も好きだけどやっぱ手だよ」
どうやら役に立っているらしい。こんなガラクタでも役立つなら、それにとっては嬉しいことに代わりはない。
このままいけば村から亡骸が無くなるのも時間の問題……というわけではない。それが気付かない内に、誰かが村の入り口にまた新しい亡骸を捨てているからだ。
まるで墓扱いである。ガラクタだと考えると廃棄場か?
店は続けたいが、売り物は変えたいのだ。別に売れるものが増えた今、こんなガラクタ、いつまで需要があるか分かったものではないのだから。
そうした問題に頭を悩ましながら、それは日々を過ごす。
意外と悪くない生活だと思う。指針もないのだから当たり前だが、何かに急かされることもなければ、障害もない。全てがこの村で完結しているが故に、ずっとこんな生活でいいとすら思っていた。
色々な疑問よりも、それは己の今を優先している。
……しかし。
一つだけ、考えることがあった。
(私は、何のために再起動したのか)
どんな本や資料を読んでも、その考えが残った。
他の疑問はどうだっていいのに。
それが一度機能停止まで持ち込まれたからか。その思考だけはどんなアーカイブでもメモリーから引き剥がせない。
しかしその理由を探すほどでもない。今の生活を手放す気もなく、されど疑問は解消されない。
そんなときだったのだ。
彼が、現れたのは。
「……おや」
小屋の中で本を読んでいたそれは、訪れたアンドロイドの様子に驚く。
白髪の少年だ。しかし何のためか黒い布で目を隠している。全身を黒いゴシックな服装に包んでおり、アンドロイドよりも人形のような出で立ちだが、何より目を引くのが、左腕。
二の腕から先がないのだ。切断されて痛々しい断面は、歩く度に部品の破片がパラパラと足場に落ちていた。
レジスタンスのアンドロイドではない。きっと新規の客だろう。
それは、ごく普通の挨拶をした。
「ああ、こんにちは。ここは良いところですよ」