魔法は使えない上条恭介   作:ドクトル・カリガリ

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転生者ではないけど、かぶき町に住んでそうな上条恭介。


初期装備:竹刀

 幼馴染みの女の子に告白して、振られた日の夕方。

 僕――上条恭介は自動車に撥ねられた。

 

 自転車の横っ面を、進入禁止を無視して住宅地を猛スピードで走ってきた真っ赤なスポーツカーに追突された。

 体が宙を舞い、時間がやたらスローモゥに感じる奇跡体験を得たけど、アスファルトの路面に叩きつけられた衝撃で一気にリアルへ引き戻された。

 

 スポーツカーの運転手が、地面に転がった僕を見て「やっべ!」って顔をしてる。チンピラ風の若い兄ちゃんだ。

 さっさと救急車を呼んでほしいところだったけど、あろうことか運転手は車をバックさせ、その場から逃げようとしやがった。

 

「ふっざけんじゃねえ、テメェ!!」

 

 もうちょっと弱ったフリをしてようかと思ったけど、頭に血が昇った僕は速攻で背負い袋から竹刀を引っ張り出し、スポーツカーを追い駆けた。

 バック走行で速度が乗ってないのなら、追いつくのは簡単だ。ボンネットに飛び乗って、フロントガラスを竹刀の尖端で思いっきり一突きした。

 

 ガラスが粉々に砕け、運転手の眉間に強烈な一撃をお見舞いする。が、そこで終わりではない。車内から引きずり下ろし、竹刀で殴る、足蹴にする、と徹底的に痛めつけた。

 

「ぶつかっといて逃げるとはどういうつもりだテメェ!! オレじゃなかったら死んでただろうが! テメェみてぇなヤツは二度と車なんて運転すんじゃねーよッ!!」

「ひぃぃぃ〜っ! しゅ、しゅんましぇーーーん!」

 

 ……いや。もっともらしく説教してるけど、ぶっちゃけフラレた腹いせだ。ただの八つ当たり。相手がひき逃げ犯なら何してもいいよね? という心の免罪符を盾に暴行してるに過ぎない。

 

 それから数分もしないうちに、誰が呼んだのかパトカーと救急車が到着した。

 轢かれた被害者より、加害者の運転手の方が圧倒的に重傷という極めて珍しい交通事故に、お巡りさんからも病院の先生からもドン引きされたものだ。

 

 それから色々あったけど、結果だけ言うなら僕は過剰防衛で厳重注意こそ受けたけど厳罰は免れ、運転手のチンピラはひき逃げの罪で逮捕・起訴された。万事解決、ハッピーエンドである。

 

 ……いや、全然ハッピーじゃないよ。色々ありすぎて忘れてたけど、日常に戻ってしまうとフラレた心の痛みが返ってくる。

 

 幼馴染み……鹿目まどかにフラレた精神的ダメージがね。ぶっちゃけ車にぶつけられた痛みより数段激しいバイブレーションだ。

 ああ、いったい僕のどこが不満なんだ? 家は金持ち、顔はイケメン、全国大会優勝の剣道家。そこらのタレントなんて目じゃないハイスペック男子じゃないか。

 

 ……え? 上条恭介なら音楽家じゃないのか、だって?

 何の話? 僕は楽器なんてリコーダーぐらいしか出来ないよ? 剣道なら4歳からやってるけど。

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