暁美さんの服装は、彼女のミステリアスな魅力を引き立てる実に素敵なものだった。
白いトルソーに、ショルダーやスカートを薄紫のヒラヒラでモノトーン調に統一させた、どこかの学生服にも見える衣装だ。足元はストッキングもブーツも黒で統一し、長い脚から年齢不相応な色気を醸し出している。
「素敵な服だね。そういうのが暁美さんの普段着なの?」
「……この状況で世間話なんて始める、普通?」
なんでかこめかみを指で押さえる暁美さん。でも、女性のファッションはとりあえず褒めるものだってのが父ちゃんの教えだ。まどか達だって、それで嫌な顔はしないし。
「……まあいいわ。常識的な反応を求めても仕方ない相手らしいし。……これまでの上条恭介もこうだったのかしら?」
「何の話?」
「気にしないで。……それより」
クールに髪をかき上げた暁美さんが、僕の足元を指さした。
「あなたの足元、なんだけど」
「足元? ああ、これ?」
「え?」
僕は今しがた踏んづけた白い物体を蹴り上げて、彼女へパスした。
暁美さんは、なんだかこう、ツチノコでも見つけたみたいな表情を僕に向けながら、難なく物体をキャッチする。
……昼休みといい、やっぱり僕のつむじに何かが?
「……あなた、
「? これ……って、それのこと?」
暁美さんに渡した物体、それは頭が異様に大きい、狐のような動物だった。僕が思いっきり踏んでしまったせいで、頭が割れてどうみても死んでいる。
……しまった。動物の死体を渡すとか、とんでもないことしちゃった。彼女は気にしてないけど、さやかや仁美に同じことをしたらしばらく口聞いてもらえないぞ。とりあえず謝っておこう。
「ご、ごめん、暁美さん! 暗かったから、うっかり踏んづけちゃって!」
「別に構わないわ。もともと、その害獣を始末するつもりだったのだし」
「害獣? ……まさか、病原菌でも持ってるの?」
「似たようなものよ」
『害獣とはひどい言い様だね』
暁美さんが動物の死体を無造作に通路へ投げ捨てた、その時だ。頭の中に少年のような、少女のような声が響いたのは。
何事かと周囲を見回せば、僕の足元をもう一匹の白い物体がトコトコと通り過ぎていた。その動きは狐や猫のようだけど、やっぱり頭がデカすぎると思うんだ。
気持ち悪いから一歩距離を置くと、なんか暁美さんがますます珍妙なもののように僕を見てきた。
「やっぱり、キュゥべえが視えているのね」
「そりゃ、こんなでっかいの見落とさないよ」
『彼女が言っているのはそういうことではないよ』
「! また頭の中に声が……ひょっとしてそいつが?」
『やれやれ、声まで聞こえているのかい? 素質がある訳でもないのに、妙な少年だね』
白い動物は、ブツブツ言いながら仲間の死体に近づくと、猛烈な勢いで共食いを始めた。あっという間に、自分と同等の質量の物体を腹に収めてしまった。
……その行為に生理的な嫌悪感を覚える。暁美さんも、親か親友の仇のように物体を睨んでいるから、これが彼女のペットの類でないのは確かなようだ。
「暁美さん……なんなのこの、気持ち悪いの? 宇宙人か何か?」
「意外と勘は鋭いのね。その通り、地球を狙う悪い宇宙人よ」
『そういう言い方は心外だな。これでも君達とは最大限有効的に接しているのだけど――きゅぷっ』
あ、物体が暁美さんに踏まれた。ブーツのつま先で潰れないようグリグリされてる。いーなー。
けど、物体は「宇宙人」って部分を否定しなかった。てことはこいつ、本当に宇宙人? へー、初めて見た。
僕は潰されて変形してる宇宙人へ、軽く屈んで声を掛けた。
「はじめまして。僕は上条恭介、君の名前はキュゥべえでいいのかな?」
「こんなのと自己紹介なんて不要よ」
「そんな邪険にすることないよ。いくら気持ち悪い白饅頭だからって、外見だけで拒絶するのは文化人としてどうかと思うよ?」
「……………………」
あ、あれ? いい事言ったはずなのに、暁美さんが食べちゃいけないものを口に入れちゃった的な顔を向けてくるぞ?
クールに見えて、結構表情豊かなんだね。素敵だ。
「あ! やっぱり恭介くんだ!」
またまた別の声が加わってきた。聞き覚えのあるこの声は、まどか? 探してるつもりが、向こうから見つけてきたか。
暗くて足場も悪い中、まどかは僕のライトを目掛けて一直線に走ってきた。転ぶぞ〜。
「ほむらちゃんもいる。やっと見つけたよ」
「ま、まどか!? どうして……」
「それはこっちのセリフだよ。ほむらちゃん、一人で立入禁止のところ入ってっちゃうんだから。なんで恭介くんといるの?」
「たまたま鉢合わせしたの。彼がここにいる理由は知らない」
さりげなく名前呼びになってる。なんか打ち解けてるみたいだね。これなら暁美さんも、すぐクラスに溶け込めるだろう。よかったよかった。
……とか考えてたら、なぜかまどかが僕に白い目を向けていた。え、なんで?
「な、なんだいまどか?」
「まさかとは思うけど、ほむらちゃんを尾行してた訳じゃないよね?
「失礼な」
ひどい濡れ衣だ。まあ、確かにこんなところでばったり出会って「偶然だね」なんて言っても説得力ないけど。僕なら自宅の場所ぐらい本人から聞き出すね。
「僕が追ってたのは君だよ、まどか。立入禁止んとこへ入っていくから。呼び止めても聞こえてなかったみたいだし」
「あ、ごめん。ほむらちゃんを追わなきゃって、そればっかりで……」
『呑気に話し込んでるところ申し訳ないけど、身構えたほうが良い。魔女が来るよ』
「ん、魔女?」
またも頭に響いたキュゥべえの声。まどかにも聞こえたらしく、何事かとキョロキョロしている。
「あっ!」
そして、暁美さんが「うわっやっべ、忘れてた」みたいな顔をした、次の瞬間だ。
周囲の景色が、まるで無数の絵の具を無作為にぶち撒けたような極彩色が塗り潰したのは。