魔法は使えない上条恭介   作:ドクトル・カリガリ

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剣:銃

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Side 暁美ほむら

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 これまでにない幸先の良いスタートだと思えた。

 まどかと美樹さやか、ついでに志筑仁美と、転入初日から接触出来るだなんて。そのうえ、放課後に遊びに誘われた。

 人付き合いが得意だなどと口が裂けても言えないわたしには、望外の幸運と言えるだろう。

 

 その切っ掛けについては、この際目をつむることにする。

 

 上条恭介。まどか達三人の幼馴染みで、全国大会でも優勝経験のある剣道家。驚くことに、今回の彼はスポーツマンであるらしい。ついでに、車には轢かれたけど無傷だったとか。人間かしら?

 

 性格については、すでに思い知ったけど女好きのナンパ野郎。軽薄だったりチャラい訳じゃないのに、しょっちゅう女の子のお尻を追いかけているらしい。

 剣道の試合を観て黄色い声を上げたファンの女の子も、顔を踏んでくれと頼まれたら一瞬で冷めるだろう。

 

 けど、意外にもまどか達から上条恭介への評価は低くない。

 

「恭介のやつ、多少でも欲望にブレーキ掛ければ普通にモテるだろうに」

「え〜。けど、普通だと思って付き合ったらエグい趣味告白される方が、私はイヤだけどな」

「まどかさん、言いますね……一理ありますけど」

 

 バーガーショップで上条恭介について話す三人に、呆れはあっても嫌悪感は些かもない。そういえば、クラスメイトも「しょうがないやつ」とは言っても、こき下ろすような言葉は出なかった。悪いヤツではない、というのは事実なのだろう。うっとおしいだけで。

 

「あいつの話はいいや。それより、ほむらの話を聞かせてよ。前にいたミッション系の学校ってどういうとこ? スパイとか養成してたの?」

「さやかさん、ミッション系っていうのは――」

「いや、ギャグだから」

 

 何にしても、だ。

 こんな普通の中学生みたいな会話に混ざれるなんて、いつ以来だろうか。誰にも頼らない、なんて決めたのに、気付けば自然と顔が綻んでいた。

 

 

 

『魔女が来るよ』

(あ。やっべ忘れてた)

 

 まどかに接触しようとするキュゥべえを先回りして駆除しようと思っていたのに、完全な裏目に出てしまった。

 人がいなくて暗い場所といえば、魔女が巣を作る恰好の立地だ。左腕の盾に視線を落とせば……ソウルジェムが思いっきり反応していた。光だけじゃなくてアラームとかバイブの設定ってないのかしら?

 

 などと考えているうちに、三人揃って魔女結界に飲み込まれてしまった。

 この結界は見覚えがある。剪定係のハサミを持った使い魔が跋扈する、薔薇園の魔女の結界だ。

 

 シャキン、シャキン――金属の擦れる音が、数を増やしながら続々と這い寄ってくる。

 

「まどか、こっちへ!」

「ほ、ほむらちゃん!? な、なんなのこれ?」

「説明している時間は無いの! わたしの側から離れないで!」

 

 時間を停止し、まどかの近くへ移動して守勢に回る。……と、そこでこの場にもう一人、魔法少女ではない人間がいたのを思い出す。

 

「上条恭介! あなたもこっち――え?」

 

 だが視線を向けた時にはもう、上条恭介の姿はそこに無く。彼のカバンと竹刀袋だけが転がっていた。

 

「まどか、屈んで!」

 

 真横を通り過ぎる疾風が、わたしを無視してまどかに向かう。

 警告どおりにその場でしゃがんだまどかをさらに飛び越えた上条恭介は、彼女を背後から襲おうとしていた使い魔を木刀の一閃で粉々にした。

 

「うそ……っ!?」

「うへぇ、何コイツ!? 気持ち悪ぅ」

 

 ぶっ飛ばしておいて、上条恭介は使い魔が何なのか知らないようなリアクションをしている。普通、一般人があんなグロテスクなものと対峙したら、恐怖と嫌悪で思考放棄するだろうに。

 上条恭介は怯むどころか、来る奴来る奴を次々と木刀の一振りで打ち砕いていく。

 

 威力もそうだけど、まるで地面をホバー移動するような足捌きは、下手な魔法少女よりもよっぽど素早く敵の懐へ潜り込んでいる。

 

「何なんだぁ!? 暁美さん、こいつら知ってるの!? 妙に落ち着いてるけどさぁ!!」

 

 わたしの出番がないぐらい、上条恭介が使い魔を排除する速度が早い。お前は一体何なんだ、とこっちが聞きたいぐらいだ。

 そんな訳の分からないのに任せっきりというのもシャクな話。盾にしまっている9ミリオート改造拳銃を取り出した。

 

「魔女の使い魔よ。人間を喰らう化け物だから、絶対まどかに近づけないで」

「妖怪の類ってこと――暁美さん、なんでチャカなんて持ってるの!?」

「気にしないで、護身用よ」

「何から身を守る気かな?」

 

 苦笑いのまどかからツッコミを受ける。けど、今は上条恭介が仕留め損なった使い魔の排除が優先だ。

 すでに周囲の空間は完全に魔女結界に飲み込まれ、いくつもの絵の具を無秩序に塗りたくった異界に成り果てている。使い魔の数は加速度的に増え続け、もう10や20では利かないほどだ。

 

「んのやろう、どっから湧いて出るんだ!?」

『少なくとも無制限に出てくる類じゃないよ。あと100ちょっとじゃないかな』

「他人事みたいに解説してないで、君も戦えよ宇宙人」

『生憎と僕に戦う力は無いよ』

 

 いつの間にやらキュゥべえがまどかの肩に移動していた。あいつ、誤射の振りして撃ち抜いてやろうかしら?

 

「おいこら」

 

 なんて思ってたら、先に上条恭介が使い魔のついでにキュゥべえまでぶっ飛ばしていた。グッジョブ。

 

「まどかに汚い足を乗っけるな、気持ち悪い」

「きょ、恭介くん、やり過ぎ……」

「けど、暁美さんが害獣みたいなもんだって言ってたし。変な病気になったら嫌でしょ」

「……そうだね。念の為アルコールで拭いておこっと」

 

 ……本当にキュゥべえが乗っかった肩の辺りを、カバンからアルコールティッシュを取り出して拭うまどか。今はそんなことしてる場合じゃないけど、キュゥべえに対する印象がマイナス方向へ傾いてるから良しとしましょう。

 

 それにしても敵の数が多い。2つ目のマガジンを打ち尽くしても、うじゃうじゃと十重二十重の使い魔がわたし達を包囲していた。

 それを、地面を滑る高速移動で蹴散らす上条恭介。挙動は気持ち悪いけど、剣道の摺り足ってことかしら。まどかも彼については特に驚く素振りもないし。

 この男がいれば、この場を切り抜けるのは容易くはある。けどいつものパターンだと、ここで時間を掛けるとヤツが来てしまう。あのええかっこしいの豆腐メンタルが。

 

(顔を合わせるのは避けたいけど、今からじゃ間に合わないでしょうね。……仕方ない、まどかをこんな場所に放置する訳にもいかないし)

 

 考えながらでも、わたしの銃は正確無比に使い魔を撃ち抜いた。

 目に見える数は減らないけど、ソウルジェムで感知する使い魔も当初の半分近くへ滅入りした。その時だ。

 

(来たわね、ええかっこしい!)

 

 頭上から強大な魔力反応。魔法少女の、それも歴戦の強者の気配だ。

 

「んっ、なに!」

 

 上条恭介も、敵を吹っ飛ばしてから頭上を見た。

 

 無数の炎が星のように煌めく。獣の咆哮から撃ち出された弾丸の雨が、周囲の使い魔を瞬く間に貫いた。

 まさに一瞬の出来事。あれだけいた使い魔を文字通り秒殺する手際の良さ、そして威力。やっぱり、一度はわたしが憧れただけの事はあるわね。

 

「一応、手助けさせてもらったわ。一般人もいるみたいだし」

 

 結界が崩れ、元の無機質で埃っぽいビルへと周囲が立ち戻る中、まるでモデルのような優雅さで金髪巻き毛の魔法少女が現れる。

 

「あれ? なんだ、マミさんじゃん。奇遇だね〜」

 

 そう。彼女は巴マミ。この見滝原の……って、ちょっと!? どうして上条恭介が巴さんの事を知ってるのよ!?

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