魔法は使えない上条恭介   作:ドクトル・カリガリ

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白いの:黒いの

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Side 巴マミ

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 ――あれは一年ぐらい前の事だった。

 

 入学式ほど在校生にとって退屈なイベントも無いと思う。

 一部の祝辞を送る生徒以外、ほぼ座っているだけ。地域によっては在校生一同で立ちっぱなしという噂も聞くので、見滝原中学校はまだ生徒に優しいのだろう。

 

 面倒くさいしフケてもよかった。でも自分でも嫌になる生真面目さと、独りでいる家の空虚さに耐えきれなかった。ただでさえ、愛弟子にして相棒の少女と喧嘩別れしたばかりだ。

 

(独りぼっちは寂しいものね。でも、学校に来ても結局友達のいない私は独りっきり……ふふふっ)

 

 いや、別に何もおかしくはないのだけど。最近、無理にでも笑っていないと本当にソウルジェムが濁りそうになるのよね。

 あ、そういえばグリーフシード補充しないと。式が終われば午後の授業もないし、今日はいつもより長くパトロールしようかしら?

 そんな考えを巡らせ、私は時間が過ぎるのを待っていた。

 

 だけど。

 

 教室を出ようとした私の前に、彼は唐突に現れた。

 

「みつけた!」

「ほえ?」

 

 入学一日目で上級生の教室へ唐突に現れた少年。新入生代表挨拶で壇上に上がっていた、やたら顔の整った彼は、周囲の視線も気にせず私に迫った。

 

「壇上から見てて思ったんだ。君が一番、可愛くて胸が大きいなって。よかったら、僕と友達から始めませんか?」

「えっ、ま……っ、えぇっ!?」

「僕、上条恭介! 君みたいな可愛い子に上から圧迫されるのが夢なんだ♪」

「そんな、可愛いって連呼しな――ちょっと待って、今なんつった?」

 

 それが私と、このナンパ野郎……上条恭介との初対面だった。

 

 

 

「げっ……女の敵! なんでこんなとこにいるのよ!?」

 

 相手は一応一般人なのに、思わずマスケット銃を向けてしまった。

 

 パトロールしてたら魔女の反応を見つけ、多分使い魔っぽいけど駆除へ赴いた。現場には見覚えのない魔法少女もいたから威嚇も兼ねて派手な大技を見せつける……までは良かったんだけど。

 か、上条恭介……なんでこの人までいるのよぉ!?

 

「あはは、なんでだっけ? 忘れた。マミさんこそ何してんの? そのコスプレ可愛いね」

「や、矢継ぎ早に話すの止めてって言ってる、でしょ……!」

「そうだった。じゃあ……よく似合ってて可愛いよ、その服」

「〜〜〜〜〜っ!! 止めてって言ってるでしょ!?」

 

 恥ずかしさに耐えきれずに背中を向けた。顔が良いからキザなセリフでも似合ってしまう……ていうか、いちばん重要なのがそこ!?

 でも……この男は可愛いとみれば誰にでも似たようなこと言うのよ。そう頭では分かっていても、男の子に慣れていない私はどうしても嬉しくなってしまう。

 私って、ほんとチョロい……これもぼっちの習性かしら?

 

「知り合いなの、恭介くん?」

 

 ピンク髪のツインテール――多分一般人の子が、上条くんへ声を掛けた。

 名前で呼んでるけど、虫でも見るような冷たい視線を向けているから、そんなに深い仲じゃないのかしら。

 

「うん。3年生の巴マミさんだよ」

「あ〜、確か学内で一番胸が大きいっていう」

「そう、そのマミさん」

「誰のせいでそんな噂が広がったと思ってるのよ!?」

 

 そうそう。あの入学式以来、私は「見滝原中学で一番の巨乳」として有名になっている。

 ……そのお陰でクラスメイトとの話題が増えて友達も出来たりはしたけど、ファンを自称する男子もに追い駆けられているのよ。私、アイドルじゃないのだけど。

 

「そろそろいいかしら」

 

 その場にいた三人目の人間――長い黒髪の、服装からして魔法少女であろう少女が、優雅に髪をかき上げながら声を上げた。

 ……すっごい綺麗な子だわ……。上条くんが好きそうな……いや、彼は可愛い女の子なら誰でも好きだわね。

 

「巴マミ……さんね。見滝原を縄張りにするベテランの魔法少女。噂は聞いているわ」

「そういうあなたも魔法少女ね」

「暁美ほむらよ。そこの二人とはクラスメイト。使い魔の結界に捕まって、守りきれるか心配だったけど。助太刀、感謝するわ」

 

 暁美さんは敵意が無いことを示すように、やや慇懃に一礼する。わざわざ使い魔の結界にクラスメイトを助けに入ったのなら、悪い人ではないかも。

 

「ひと先ず、ここを出ましょう。逃げた使い魔が魔女を連れて戻ってくるかもしれないし」

 

 暁美さんの提案に、私は頷いた。それから、二人同時に変身を解いた。

 その瞬間だ。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁーーーっ!?!?!?」

「ひっ!?」

「か、上条くん!?」

 

 突如として上条くんが、両手で顔を覆い絶叫した。彼の隣りにいたピンク髪の子も、あまりの大声に文字通り跳び上がっていた。小動物みたいね。

 蹲った上条くんは、耳まで真っ赤に染めて悶絶する。……な、何事かしら?

 

「い、一体どうしたの!? 目に針でも刺さった?」

 

 暁美さんが怖いこと訊くと、上条くんは俯いたまま辿々しく答えた。

 

「いっ、いっ、いきなり裸になるなんて……何かんがえてるんだぁ……」

「……は?」

 

 普段から意味が解りづらい子だけど、急に何を言い出すのかしら? 裸? 誰が?

 

「だ、だ、だって今、衣装がっ! 光に……!」

『なるほど。マミ、どうやら彼は魔法少女が変身する一瞬に衣服が解ける姿を見切ったみたいだよ』

「あらキュゥべえ、いたの……って、え? 変身?」

 

 私と暁美さんは、互いに顔を見合わせた。

 変身というと、あの服が光ってコスチュームに変わる、あれのことだろう。……いや、確かに一瞬とはいえ裸に近い格好になるけど、あれって0・1秒もないわよね!?

 

「……どんな動体視力してるの、この男……」

 

 暁美さんが、スレンダーな身体を隠すようにしつつも、半ば感心したように呟いた。

 

 ……次からは、人前での変身は控えましょう。私はそう、心に誓った。




 上条恭介は、駅のホームを通勤快速が通り過ぎる一瞬の間に、車内の人間の顔を全て見切ることが可能なのだ。
※ただし可愛い女の子以外は記憶しない。
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