621が神秘背負ってキヴォトスに降り立った 作:ウィルキンソンタンサン
え?なんでウォルターが五体満足なのかって?うるせぇ、エアがコーラル吸い取ったんだよ。
え?なんでベイラムが普通にいるのかって?うるせぇ!我らが621が何とかしたんだよ!!!
──盛大に恥ずかしいミス(主にセリフのコマンドミス)をしたついでに細部を加筆修正しました。──
ガコン、ガコンと機械が駆動する音。アームが機体の肩、脚などの部位を掴んで固定していく。
『強化人間 C-4 621 通常モード移行。』
『認証完了。登録番号、Rb23 識別名 レイヴン。ようこそオールマインドへ。』
そう女性の声が響く。
『驚いたな、キヴォトスにもオールマインドが……』
『少し前に依頼があったんだ、資金提供を受けてね。まさかとは思ったが、本当に巨大なロボットを格納するための施設だったとは。星外からの依頼と言うだけでも大はしゃぎだったのに、その上これを見てしまったら部員達はもうどうにかなってしまいそうだ。…しかし、AMASをハッキングしてくるとは……貴方も何者だ?』
ウタハ、そう名乗った生徒が興奮気味に語る。
オールマインド。またの名を傭兵支援システム。その実は人間を心底見下しながらも、穴だらけの作戦でコーラルリリースを目論んでいたAIだったはずだ。
(俺はその時意識を失っていたが……オールマインドは621が壊滅させたと聞いている。……一体、何を企んでいる?)
『……そういえば自己紹介がまだだったな。621、来れるか?』
「……!」
ウォルターの呼び掛けに反応。ACのハッチを開き、外に出る。
「む?あれは……」
足場伝いにそのままリフトまで歩いて行き、乗りこんで下まで降りる。
『レイヴン、身体は大丈夫ですか?』
「……。」
こくり、と肯定。既に自立歩行が出来るくらいには回復している。ウォルター主導によるリハビリ様々だ。
リフトから降り、腰程まで伸びた先の赤い黒髪を揺らしながらぺたぺたと歩いてウタハの対面に立つ。
『彼女から説明しておこう。名をレイヴンと言う──訳あって俺は621と呼んでいるが、気にしないでくれ。』
621を前にし、目を見開いて硬直するウタハ。
「……なぜ、全身が包帯で巻かれているのか聞いてもいいかい?」
『言ったところで理解は難しいと思うが……分かりやすく言うのであれば、彼女はあの人型兵器の操縦に最適化するための手術を受けた弊害でそうなっている。感情の起伏にも乏しい。』
「……。」
ぺこり、とお辞儀をする。挨拶を忘れない強化人間の鏡である。
理解出来ただろうか、とウタハの返答を待つ。しかし返ってきた返答は、ウォルターの想定の斜め上を行った。
「──そ、それはつまり、サイコミュを扱えるという事か!?」
『サイコミュ…?いや、よく分からないが、強いて言うならコーラル……なのか?』
「ふふ、私には分かる。あの巨大なロボットを操縦する為の最適化手術……副作用は当たり前だ!しかし実際に目にすることができるなんて……あ、握手しても?」
鼻息を荒くしてそう早口で述べるウタハ。ロマン大好き部ことエンジニア部の部長には、人工ニュータイプ……いや、強化人間なぞ当然守備範囲内なのだ。
戸惑いながらも、差し出された手を握る621。
「ン゙ン゙……それで、貴方は?」
『……俺はウォルターと言う。平たく言えば彼女の雇い主のようなものだ。』
「なるほど、マスターか……よろしくお願いするよ。ウォルターさん、レイヴンさん。」
『あぁ。』
「しかし、星外にも人がいたとは……これは凄いぞ!ウォルターさん、色々聞きたいことがあるんだ、少しいいかな!?」
『……あぁ。』
『…様子のおかしな人です。』
◇◆◇◆
しばらくして、やっと質問攻めから解放されたウォルターは621に休息を言い渡した後、とある人物に通信をかけていた。
『──ウォルター。久しぶりじゃないか。調子はどうだい?』
『あぁ、アイツは元気にやっている。心配は不要だ。』
『ビジターじゃなくてアンタの調子を聞いたんだけどね……。ま、いいさ。それで、どうしたんだい?』
『……カーラ、俺から個人的な依頼がある。』
通信の向こう側の名はシンダー・カーラ。ルビコン3に巣食う技術者集団"RaD"の頭目だ。同時に、自己増殖する半永久燃料"コーラル"を焼き払う為の組織"オーバーシアー"の仲間でもある。今は元、だが。
『へぇ……アンタが私に依頼をするなんて珍しいね。なんだい?"また"ビジターを預かればいいのかい?』
『……いや、違う。今俺たちはキヴォトスという場所にいるのだが…』
『あぁ、あの例の"神秘"がどうたらってとこか?私も丁度気になっていた所だ。』
『キヴォトスではACやMTと言った大型兵器は主流じゃない。生徒だけで事足りるからな。──つまり621は、今のままでは戦闘が行えない。』
『生徒相手だと的が小さすぎて…当たらないってことかい?確かに強化人間に生身で戦わせるのは中々酷だ。』
『そういう事だ。そこでカーラ、お前に依頼だ。ACの小型化…これを頼みたい。』
『小型化?笑える事言ってくれるじゃないか、ウォルター。そりゃあ新しいコア理論を発明しろって言ってるのと同じ事だよ?』
『もちろん、そちらに丸投げする訳では無い。キヴォトスでも腕利きの技術者集団"エンジニア部"、ハッカー集団"ヴェリタス"と共同で行ってもらう予定だ。技術は保証しよう。』
『……へぇ?アンタがそこまで言うとは、笑えるじゃないか。そういえばビジターには随分と借りがある事だし…いいじゃないか、受けてやるとしようか。』
『…感謝する、シンダー・カーラ。』
『なに、アンタと私の仲さ。礼は要らないよ。……あぁそういえば、あの"火種"はまだ見えるのかい?』
『……いや、アイツに助けられて以降認識出来なくなった。俺の中のコーラルは、既に燃え尽きたのだろう…。』
『──そうかい。じゃあ依頼の詳しい話はまた後にしてくれるかい?今クリーナーの改良をしていてね。……ん?どうしたチャティ。……ハハッ、そりゃ笑えるな!付けよう付けよう…ハハハッハハハハ!!!こりゃ傑作だ!……そうだな、あぁアレも付けてしまおうか!!ハハハハハハ!!!!』
『……。』
ブチ、と通信を切るウォルター。
深く椅子に座り直し、様々な数字の羅列が並ぶモニターを眺める。
「……あの"火種"は……未だ621の傍にいるのか。…アイツにも友人が出来るとは…フッ。」
その瞳はまるで、孫の成長を見届ける祖父のような優しい瞳だった。
◇◆◇◆
『……レイヴン。』
「……。」
『……レイヴン?』
柔らかい日が差し込む中、621は校内施設のカフェのベランダ席に座っていた。
その肩には、ウタハから「流石に素肌に包帯だけという格好は…」と渡された白と青を基調としたパーカーがかけられている。
全身包帯巻きという珍妙な姿が気になるのか、チラチラと生徒達から見られているが、621は何でもないかのように目の前に置かれた珈琲をジッと見ている。
これでも、昔よりは包帯の量もマシになった方だ。前こそ完全に簀巻き状態で、体型すらも分からないような状態だった。しかし今では包帯の量も減り、身体に張り付き殆どインナーのような状態である。その上、顔も包帯は減り辛うじてその端正な顔立ちが分かるようになっている。
赤い目に、先の赤くなった黒髪。これが621を強化人間たらしめる要素である、コーラルの影響なのかどうかは不明。
しかし、その珍しい身体的特徴もまた、生徒達の注目を浴びる要因の一つであるのは自明だった。
『レイヴン、飲まないのですか?』
「……。」
ふわふわ、と白い湯気を浮かべる珈琲を尚のこと見つめる。カップを手に取り、ふうふうと息を吹きかけ、おっかなびっくり1口啜った。
「……、……。」
『……苦いのですか?レイヴン。』
口を歪ませ、なんとも言えない表情をする621。味覚を取り戻してまだ日が浅いため、どうにも慣れない様子だ。
『何故、珈琲を選んだのですか?』
カフェのメニューにはもっと甘くて美味しそうな飲み物があった筈だ。何故わざわざ苦い珈琲を選択したのか、エアは聞く。
「……。」
『ウォルターがよく飲んでいるから?……あなたらしいですね。』
理由はもっぱら、それこそ笑える理由だった。強化人間、いや、ウォルターの猟犬の鑑である。
『レイヴン、質問していいですか?』
「……?」
ちびちびと珈琲を啜る手を止め、首を傾げる。
『あなたは、"あの時"ウォルターが言った通り、自由なのです。自由に飛べる、借り物では無いあなただけの
「……。」
一言で表す事は難しいのか、少し俯いて、珈琲の水面に写った自分の顔を眺める621。
思案し、やがて纏まったのか顔を上げる。
「……。」
『ウォルターの事が……好きだから?……ふふ、そうですか。好きだから、一緒にいたい。好きだから、役に立ちたい。好きだから、褒めてもらいたい。──だから、あなたはウォルターの猟犬でいることを選んだのですね。』
「……///」
頬を掻きながら、頷く。
『では……』
と、再びエアが声を出した瞬間。
『新着メッセージ 1件。』
「……?」
ウォルターから持たされた携帯のCOMからそう告げられる。
『新しいメッセージ……ベイラムからの様ですね。確認してみては如何でしょう?』
コクリ、と頷いて携帯を開き、メッセージを再生する。
ベイラムからのボイスメッセージ。この時点で携帯の音量を確認しなかったのが、レイヴンのミスである。
『『『G13レイヴン!!!』』』
「!?!!??!?!!」
『レイヴンッ!?!!?』
あまりの大音量に携帯を取り落とす621。無慈悲にも大音量のままボイスメッセージは再生されていく。
『『『そう言えば伝言を頼まれていたのを忘れていた!!!遅まきながら今伝えさせてもらう!!!!』』』
「……、……;;」
周りにぺこぺこと頭を下げながら携帯を拾って音量を辛うじて聞こえるところまで下げ、続きを聞く。
『G1ミシガン総長からG13へ伝言だ!』
『……とのことだ。ミシガン総長は貴様にコアを避けて戦闘不能にさせられた事を大層気にしていてな、病院から抜け出してずっとアリーナに篭って貴様のデータ相手に夜通し演習している始末だ!お陰で今レッドガンは、いやベイラムは忙しくそちらに構っている暇が無い。』
「……。」
『という訳で暫く貴様は自由だ!キヴォトスで観光でもしているといい!』
それと、と話を繋げる。
『迎撃依頼を受けながらもミシガン総長を助けて貰ったこと、感謝する。……これは個人的な感謝だ。』
話は以上だ。とボイスメッセージが終わる。
『……相変わらず、嵐のようでしたね。』
「……」
頭を両手で抱える621。
『ミシガンを殺さなかったのも、ウォルターと同じ理由ですか?』
「……、、、」
うーん?と言うように首を傾げる。無論、621はウォルターの事は大好きだし、ミシガンもウォルター程ではないにしろ、好きの部類に入る。
ウォルターも、ミシガンも、エアも、カーラも、チャティも、ラスティも……エトセトラetc。
何故殺すのを躊躇ったのか。見捨てても良かったものを、何故助けたのか。
何故?何故?何故?何故?何故?
思案。思案。思案。
末に。
「殺し、たく、なかっ、た、から。」
『ッ!レイヴン……声が!』
あまりにもか細い、声と呼ぶには掠れすぎているその声で、しかし不思議と通る声で。621──レイヴンはそう言った。確かに、機能してないはずの声帯でそう言ったのだ。
『──これもまた1つの羽ばたき、という事でしょうか?』
「……そう、かも、ね。」
そう言って珈琲を啜り、やはりその端正な顔を顰めるのだった。
しかし企業宣言ニキは死んだ模様