621が神秘背負ってキヴォトスに降り立った 作:ウィルキンソンタンサン
やりたかった事は次回になっちゃったーよー。
『621、俺はこれから用事で少し外す。ベイラムもあんな状態だ、突然依頼が来ることもないだろう。……しばらく休め。』
ウォルターからの通信が終わる。
「……ゲホッ。」
1つ咳き込み、ACのコックピットの背もたれにもたれる。先日、無理に喋ったせいで声帯が傷付いているらしい。龍角散が欲しいところだ。
それにしても暇である。いや、ここに来た後は手持ち無沙汰な時間が多少なりとも続くだろうという事は前から知らされていた。しかし、いざその時が来ると何をしたらいいのか分からなくなるものだ。
脳を焼かれた旧世代型強化人間の独立傭兵に趣味などある訳も無く、完全に時間を持て余していた。
『レイヴン。ウォルターから休暇を出されたのですね。……海を越える予定もありませんし……とある"ゲーム"で遊びませんか?』
「……?」
エアがそう言う。
げえむ、とはなんぞやと言わんばかりに首を傾げる621。
『ゲームとは人間達の娯楽の1種の様です。アナログな物から機械を介したデジタルまで、多種多様に発展しています。少しこの学校について調べた所、ここにはそのゲームを作る部活がある様で……あぁレイヴン、部活と言うのは──』
とエアの説明に耳を傾けながら、自身の
(人間達の娯楽ってことは、趣味にする人もいる。人には趣味がある。……趣味が出来たら、ウォルターは喜ぶ?)
お前は人間なのだから、普通の人生を送る権利があると、耳にタコが出来るほど言う。
そんなウォルターに、普通の人間のように趣味が出来たと言えたなら?
きっと喜ぶに違いない。
そう621は断定し、顔を上げる。
「……や、ろう、エア。」
『──!はい、レイヴン。やりましょう。ここの集団が作っているのはデジタルな物で、所謂"レトロ"ゲームと呼ばれているジャンルです。』
レトロゲーム。旧型フレームのような"古き良き"みたいなものだろうか。古いものだからこそ愛好家がいるのは621もよく知っている。
「それ、やるに、は、媒体が、必要、じゃない?」
戦う為にはACやMTなどの兵器を使わなければならないように、そのゲームをするには何かを使う必要があるだろう。少なくとも、彼女は"デジタル"と言ったのだから、何かしらの機械が必要だろう。
『はい。ゲームをする為にはゲーム機が必要になります。ですので──』
コックピットの裏から──つまりハッチの外からコンコン、と音が鳴る。誰かにノックされたらしい。
ハッチを開く。すると前には例の紫髪の生徒、白石ウタハが立っていた。
「えぇと、レイヴンさん。頼まれていた物を持ってきたよ。」
「……?」
はて、何か頼んだっけか。ウォルターが何か頼んだのだろうか。そう首を傾げる。
『私です、レイヴン。私が彼女らの部室のPCに侵入し、書き置きをしました。』
ふーん、と1人納得。
頭を軽く下げて感謝の意を示してから、紙袋を受け取る。中には複数のコード、小さいレバーに複数のボタンが付いている板のようなもの等が入っていた。
「すまない、配達料……という訳でもないのだが、少し中を見させて貰ってもいいかな?」
と、ウタハ。心做しか目が輝いているような気がする。
「別に、いい、けど。」
「!……喋っても大丈夫なのか?けど、無理は禁物だよ。」
「うん……ゲホッゲホ」
『レイヴン!?』
「無理してるじゃないか!?」
「だい、じょうぶ。へい、き、だよ。コック、ピット、見てもいい、よ。」
やっぱり技術者は気になるんだね、と軽口を飛ばそうとしたが、これ以上は声帯が許さなかった。
「そうか……。あ、これを舐めるといい。購買に売っているのど飴だが、よく効くんだ。」
ポケットから個別包装された飴玉を取り出し、621に手渡す。
包装を剥いて口に放り込み、口内で転がすとどうだろう。喉の痛みが不思議と引いていくではないか。
「うん、効いたみたいだね。……じゃあ遠慮なく見させてもらおうかな。皆、許可が出たよ!」
そう外に向かって声を張る。その瞬間、ダンダンダンと足場を登ってくる音が複数近付いてくる。
「こんな大きな機械を動かすコックピット……宇宙戦艦のヒントになるかも。」
「私でも知りえない宇宙の未知……!私、気になります!!」
「紹介するよ。2人はウチの部員で、こっちの黒いのが猫塚ヒビキ。そっちの黄色いのが豊見コトリだよ。」
ヒョコリと2人組が顔を出す。
「よろしく。」
「レイヴンさんですね、よろしくお願いします!」
どうも、と差し出された手をそれぞれ握る。
しかし……なんだろう。なんというか2人とも……
「……痴女?」
「えっ?」
「だ、誰がですか!?」
随分と露出の多い格好をしている。ウタハや以前ウォルターと話しをしていたユウカという生徒はしっかりと制服を着こなしているのに、目の前の2人組は思わず目を疑うような服装をしている。
ヒビキに至っては制服すら着ていない。せいぜい学校指定であろう上着を羽織っている位だ。
「もしかして、そういう、文化?ごめん、私、そう言う、の、まだ分からなくて。」
「うーん。自然過ぎて私も忘れてたな……。レイヴンさん、他の学校がどうなのかは分からないけど、こういった服装をしてる人はそんな珍しくないよ。それが普通なのかはさておき。」
もっと凄い人もいるし。と付け加える。
変な星だな、と621は思った。
「まあ、いいか。自由に、見て、いいよ。私、は邪魔に、なりそうだから外に、出てるね。」
「あ、あぁ。すまないね。」
コックピットから出て、少し離れる。思いのほか飴が効いており、結構喋れている事に自分で驚きつつ、興奮気味にコックピット内を見渡している3人に声をかける。
「何か、分からない事が、あったら、聞いて、ね。可能な範囲、答える、から。」
「はいレイヴンさん!」
「コトリ、どうぞ。」
素早く手を挙げたコトリの質問を聞く。
「この機械ってどういった物なのでしょう!?戦闘用という事は武装から分かりますが!」
えーと、と思案する。621はあくまで搭乗者であり、技術者じゃない。そこまで詳しい事は解説は出来ないが──
羽織っているパーカーの内ポケットから首輪型の機械を取り出し、首に巻く。
これはカーラから貰ったもので、声帯の代わりに合成音声として声を出力してくれるという物だ。首輪型なのは単にその方が都合がいいから、もうひとつは制作した本人曰く『その方が笑えるから』らしい。
『レイヴン、似合っていますよ。』
「……むぅ。」
どーせどこまでいっても私は犬ですよ。と心の中で毒づきながら、声を発する。
『ごめん、素の声だとちょっとあれだからこっちを使わせてもらう。……これについてだったね。戦闘用って言うのは大正解。これはACって呼ばれてて、正式名称は確か──人型駆動兵器"アーマード・コア"。MT…"マッスルトレーサー"って言う作業用のマシンを元に純戦闘用として開発した兵器……だったはず。』
「ほう……兵器とな。」
『うん。頭、腕、コア、脚部、ブースターにFCS、ジェネレーターが自由に換装出来るのが特徴で、用途とか敵の性質に合わせて変えることが出来る。』
「通りで。型に統一性が無いと思ったらそう言う事だったのか。」
と、ウタハが顔を出して言う。
『詳しくは……ウォルターに聞いた方が早い。機械系に強いから。もしくは私の技術者の友達にでも。』
脳裏に浮かぶのは"笑えない事はしない"という信念を持った女性の顔。
挨拶もせずにルビコンを出てきてしまったが、元気にしているだろうか?
『でも、どちらにせよあんまり踏み込んだ事は教えてくれないと思う。』
「え!?なんでですか!?」
もしかして報酬とか!?とコトリが言うが、それは違くないけど違う、と首を振る。
『私は独立傭兵だ。肩を並べるのも、銃口を突きつけ合うのも、全ては金次第。敵になるかも分からない相手に仲間の手の内を晒すなんて、そんな
実際、1回君らの仲間と戦ってるしね。と肩を竦める。ただの勘違いから始まった戦闘だったが、依頼によっては敵対する事も十分に有り得るのだ。そんな相手の技術者達に安易に情報を渡すなんて事は考えられない。
まぁ、その予想はウォルターからの依頼による小型AC共同開発という形で後に見事に外れる訳だが。ちなみに今ウォルターは、エンジニア部なら引き受けるだろうと踏んで声をかけるのは後回しにし、今はヴェリタスに掛け合っている状態である。
「うん、確かにそうだね。あまり踏み込んだ質問はしないと約束しよう。」
『ごめん、ウタハ。』
またコックピットの詮索を再開する3人。
「レイヴン、この機体ってBluetoothはある?」
『ブルートゥ?』
「いや、Bluetooth。」
『ミルクトゥース?……うっ、頭が…』
『レイヴン、大丈夫ですか?』
"このような僻地まで来てくださるとは……感激だ。"
"喜んでもらえたなら……素敵だ……"
"スロー、スロー、クイック、クイック、スロー。待ち遠しいですね、ミルクトゥース。"
"ご友人!サプライズをさせてくれないのですか!?"
"親元を離れ…カーラを恋しがっていたのでしょう。不憫だ……"
"スロー、スロー、クイック、クイック、スロー。素敵なステップです……!ご友人!"
"新しいご友人……贈り物をくれるのですね……。素敵だ……"
『レイヴン?』
『ッ!?』
プルプル、と頭を振って幻聴を振り払う621。あの
いけない。集中しないと。
ぺち、と頬を叩く。
「レイヴンさん、操縦桿が少ない気がするのだが、これで足りるのだろうか?」
『私は強化人間だから、上からぶら下がってるコードで神経ネットワークに接続して直感的に操作できるんだ。だから操縦桿はほぼ安いオマケみたいなものだよ。』
「ふむ。そう言うものか。いや流石は強化人間だ。」
◇◆◇◆
──その後、2〜3時間程エンジニア部に付き合った。
「今日はありがとう。またお願い出来るかな?」
『うん。いつでもいいよ。』
そう言って3人を見送る。
『レイヴン、楽しそうでしたね。見たところ同年代……でしょうか?』
『そうだね。ルビコンにはいなかった。新鮮で、楽しかったよ。』
『それは良かったです。』
首輪を外す。便利だが、これに頼りきっていてはいつまでも駄犬のままだから、と621は結論付けているのだ。
『……ところでレイヴン、ゲームは?』
「あっ。」
2人がゲームの事を思い出したのは、それから1時間後だった。
Bluetoothの下りがやりたかっただけです。素敵だ……♡