オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳   作:ユリガスキー

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あー……異世界行って無双してぇー……

 夢を見た。

 

 異世界に転生して無双する夢を。

 

 

 

 これはきっと、異世界ファンタジーと文明の利器を天秤にかけて前者に傾いた世界線なんだと、なんとなくそう思った。

 

 何もない草原で目を覚ました俺は、突如として襲ってきたモンスターを返り討ちにする過程で、チートスキルが眠っていたことに気がついた。

 道なりに進んだ先にあった街で冒険者登録をした俺は破竹の勢いで等級を上げていく。絡んできた雑魚冒険者を蹴散らし、美少女を次々と惚れさせてハーレムパーティを作る。

 そして、国を襲った邪竜を討伐したことで莫大な富と名声を手に入れた。

 

 若くして悠々自適な隠居生活を送りたいと考えた俺は、今ある資産を更に増やそうと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして異世界に『オセロ』を広めた。

 

 もちろんオセロは大人気ボードゲームになった。著作権使用料によって俺はウハウハだ。

 

 

 

 では、俺はオセロを広めたことに罪悪感を抱いたか? 文明の利器に天秤が傾いた俺みたいに、誰かの功績を奪ってしまったことに苦悩しただろうか?

 

 答えはもちろんノーだ。そんなことを気にかけるはずがない。

 

 俺はオセロを誰が作ったかもわからない。名前も知らない相手に対して罪悪感を抱けるわけがない。

 俺が罪悪感を抱くことはない。それは発案者があまりにも遠くの場所や時代にいるからだ。人は遠い存在のことまで気にかける聖人君子では決してない。

 俺がオセロを異世界に広めたとて、名も知らぬ人の功績を奪ったことにはならない。発案者の功績は地球に残り続けている。騙っているのかもしれないが、奪ったわけではない。

 

 

 

 では俺が、文明の利器に天秤が傾いた俺がオセロを広めたとしても何も思わないのか?

 

 

 

 俺はオセロを誰が作ったか知ってしまった。

 

 ──同じ時代に生きているから当然だ。

 

 人は遠い存在のことまで気にかける聖人君子ではない。

 

 ──でも近くの存在には否が応でも気づいてしまう。

 

 奪ったわけではない、騙っているだけだ。

 

 ──違うだろ? 今、目の前に功績を奪われた人がいるはずだ。

 

 

 

 気がついた時にはもう手遅れだった。

 俺が『オタク文化の創造神』になって世界を見下ろしてみれば、そこには全てを奪われた人々がいた。直接功績を奪われた人、類似した功績によって名を上げる機会を奪われた人、圧倒的な才能の差に心が折られて尊厳を奪われた人……

 

 しかも最悪なことに、俺以外の誰も「奪われた」という事実に気づいていない。この世界では『しろいの』が全て発案したことになっている。本来の発案者達は皆ただの一般人として生活していた。

 

 俺の罪を知るのは、ただ俺1人。

 

 

 

 気が狂いそうになる中で、俺はこう思うしかなかった。

 

 

 

 あぁ、何も気負うことなく異世界で無双したかった、と。

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

「おはようございますマスター。なにやら不機嫌そうですね」

 

「ん、あぁ。ちょっと嫌な夢を見てな」

 

「ほうほう。ちなみにどのような夢を」

 

「…………異世界でオセロを広めてたら、発案者が異世界まで怒鳴り込んできた夢」

 

「長谷川四郎さんがですか?」

 

「……それってオセロの発案者? 名前知りたくなかったわ」

 

 そう言って俺はわざとらしく肩を落としながらソファーにもたれかかった。

 するとアイは優しく微笑みながら俺の後ろに回り込み、そっと首元に抱きつきながら耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

「ちなみに、リバーシーの方の発案者はジョン・モレッルとルイス・ウォーターメンのお二方ですよ♡」

 

「こ、こんにゃろぉ……」

 

 ジト目でアイを睨みつけると「きゃーー」と棒読みで叫びながらキッチンへと逃げ込んでいった。

 

 ……まったく。俺を励ますつもりなんだろうけど、やり方があまりにも不器用すぎるぜ。

 

 

 

 ……俺を励ますつもり、なんだよな? 普通に俺で遊んでいたわけではない、よな?

 …………うん、深くは考えないでおこう。

 

 肩の力が抜けたからか、なんだか無性にお腹が空いてきた。

 料理が運ばれてくるまで待てなくなった俺は、つまみ食い……じゃなくて、味見をするべくキッチンへと向かった。

 

「アイー、今日の朝ごはんってなにー?」

 

「カツ丼ですよ」

 

「えっ? なんで朝からそんな重たいもんを」

 

「先々週にマスターご自身がリクエストしてたじゃないですか。この日はお二方にリベンジするから縁起のいいカツ丼を頼むって」

 

「んー、あぁー……言ってたような、言ってなかったような」

 

「……マスター、まだボケるような年齢ではないですよね?」

 

「な、ななな、なにを言ってるんだね、ちみは!」

 

 こいつ、ピチピチの18歳に向かってなんて口を叩くんだ。

 いやでもまてよ? 前世の記憶は曖昧だが、若くして死んだってことは覚えている。でもって社会人として働いていたことも加味すると、だいたい20歳から30歳くらいまで生きていたはず。

 ってことは、今の俺の精神年齢は38歳から48歳……若年ボケとしてはあり得る年齢、なのか?

 

「や、やべぇぞアイ! 俺まだ18歳なのに、もうボケが始まっちまった! 若年ボケだ!」

 

「それはよかったですね。よかったついでにこれを食べてってください。どうせつまみ食いでもしにきたんでしょう」

 

「おっ、流石アイさん。わかってる〜。って、なんでキャベツなんだよ。俺のカツは?」

 

「いえ、少しばかりキャベツを切りすぎてしまいましてね。流石に1人1玉は多すぎましたか

 

 ちらっと、アイの後ろを見てみれば、そこにはボウルいっぱいの山盛りキャベツが。ご、ご機嫌な朝飯だ……

 

「まぁでも、老いを気にしているマスターには丁度いいじゃないですか。ほら、胃もたれを防いでくれますよ」

 

「いやいや、脳はもう手遅れかもしれないけど、身体は若いから大丈夫だって。ってなわけでカツいただきっ!」

 

「あっ、こら!」

 

 へへっ、怒られる前に退散するぜ!

 ってか、めちゃくちゃ美味いな、このカツ。衣サクサク中ジューシー、まじで無限に食べれるぜ。キャベツとかいらないからカツだけ食べてたいわ。

 

 

 

 さーて、カツ丼が出来るまでアーカイブでも見直しますか!

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ごちそうさまー。いやー美味かった美味かった」

 

「キャベツのお代わりはしなくてもいいんですか? 色んなドレッシングがありますよ?」

 

「い、いや、もうキャベツはいらないから」

 

「そうですか……今日の晩御飯はキャベツの千切りの野菜炒めですね」

 

「oh」

 

 うぅ……もうキャベツの千切りは見たくねぇ……

 

 

 

 今日は昼から事務所に行って、案件配信をする用事がある。

 だから、12時には家を出ればいいのだが……現在の時刻は午前9時。あと3時間も時間がある。

 

「あー、なんか暇だなぁ……」

 

「配信でもしてたらいいじゃないですか」

 

「今日は配信しないでーってマネージャーさんから止められてんの」

 

「それなら少し早いですけど事務所に向かいますか? 誰か来てるかもしれませんよ」

 

「今警備の人が増えてるから神崎さんの顔は見せないでくださいーってさ。いや、わかるけどね? 字面だけ見るとそうとう酷いこと言ってるよな」

 

「ある意味顔面凶器ですからね、マスターの顔は」

 

 色々と失礼なことを言ってるアイにツッコむべきなんだが、やる気が起きない。

 今日やる案件の茶番のため、午前中には配信できないし、ウタウマーのサインの一件のせいで警備員が増えて早めに向かうこともできない。

 

 

 

 あー、なんか、なんか面白いことないかなーって、うん?

 

「アスライテ先輩からメール来てる」

 

「わざわざメールでですか?」

 

「あぁいや、神崎渚宛にじゃなくて「シンテンドー」宛にだな」

 

 

 

 「シンテンドー」

 俺が持つハンドルネームの1つで、このネームでは主にゲームの開発を行なっている。

 ハード、ソフト問わずあらゆる分野に手を出している天才と名高く、世に出てまだ10年しか経っていないというのに、彼を抱えている卯月家のゲーム会社は、ゲーム業界の売上ランキングで2位と差をつけての1位となっているのだ。

 

 今、ちょこっとだけ出た卯月家の説明は、めちゃくちゃ長くなるから割愛するぜ。あの家の説明はめんどくさいんじゃ……

 

 

 

「なるほどなるほど、アスライテ先輩が新たに考えているゲームについてシステムやハード面について協力してくれって要望らしい」

 

「いわばゲームの持ち込みってやつですか。もちろん受けるんですよね?」

 

「おいおい、いくら俺がアスライテ先輩の大ファンだからって、こういったとこでエコ贔屓はしないぜ。ちゃんと企画書に目を通して、ダメならダメでお祈りメールを──っ!」

 

「どうしたんですか?」

 

 この世界は前世と違うところがいくつもある。それこそ、大きいものから小さいものまで様々だ。

 小さいところでいうと、前世では有名なゲームとして発売されていたものが、今世では一切名前を聞かないというのがある。

 俺はそう言ったものを数多く()()していたのだが……なんで俺はこのゲームの存在を今の今まで忘れていたんだ!

 

「流石だよ。流石だよ、アスライテ先輩。やっぱり本物の天才ってのは違うんだな。まさに天才的発想だぜ」

 

「うーん、面白そうだとは思いますが……これのどこが天才的発想なんですか?」

 

「それはお前、1ヶ月後のお楽しみよ。というわけで、この資料と………………よし、出来た。この設計図も開発部に回してくれ。

今週中には製造工程に入れるよう調整するように、あと試作版10台を今月中に送るよう頼んでおいてくれ」

 

「了解です」

 

「いやぁ、今から楽しみだな!」

 

「よくわかりませんが、マスターが言うなら正しいのでしょうね。

それより、アスライテ様の件を1分足らずで解決してしまいましたが、残り2時間と49分、何をしてお過ごししますか?」

 

「……わ、忘れてたっ! あまりの衝撃と一刻も早く完成させたいという思いで最速で片付けちまった!

あ、アイ〜、なにか暇つぶしできるようなのない〜」

 

「まったく、仕方ないですね」

 

 そう言ってアイはリビングを出てどこかへ向かった。

 いやぁ、流石アイさん。頼りになるなぁ。

 

 

 

 それから5分後、アイは台車に大量の紙を乗せながらリビングまで戻ってきた。

 

「おいおい、アイさんや。なんですかな、この大量の紙は」

 

 1つ手に持ってみると、それが紙じゃなくて色紙であることに気づいた。

 なんだか嫌な予感がするぜ……

 

「どうせ暇でしたらウタウマーのサイン書いちゃいましょう。書く素振りを見せて未だに何の公表もないですからね。そろそろ暴動が起きますよ?」

 

「い、いやでもこの量は流石に。これ全部縦に積んだら天井まで届くんじゃね?」

 

 俺の家の天井って結構高いはずなのに、余裕で届いて余る量あるのはやばい。これはマジで腱鞘炎になるやつじゃねーか。

 

「大丈夫ですよ。なんたってマスターの身体は若いみたいですから」

 

「……も、もしかしてカツをつまみ食いしたの根にもってたり……」

 

「ははは、そんなわけないじゃないですか。とりあえず、台車があと9台分もありますので早めに書いてくださいね?」

 

 

 

「わァ……あぁ……」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「う、うぅ〜、ここが、エトワールが俺のオアシスなんじゃ」

 

「な、なんだか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

 

「ま、ママー! 俺、いっぱい頑張ったから褒めてー!」

 

「えーと、よしよし?」

 

「なにやってるにゃ」

 

 あぁ、やっぱりエトワールは最高だぜ。

 家に帰ったら色紙が台車4台分残ってることは忘れて、今日はめいっぱい楽しむか!

 

「あっ、神崎さん、神崎さんはこちらへ来てください」

 

「うん? どうしたんマネージャーさん」

 

「神崎さんにはハーフアニバーサリーのサイン入り色紙を書いていただくので、別室へ向かってください。あっ、猫道さんと伊織さんは大丈夫ですよ」

 

「な、なんで俺だけ!?」

 

「神崎さんはもう案件の最終打ち合わせ終わってるじゃないですか。余ってる時間で今のうちに少しずつ書いていってください」

 

「……お、俺もう書いたから! 天井6つ分くらいの高さまで積み上げられた色紙にサイン書いたから!」

 

「はいはい、話は別室で聞きますからねー」

 

 

 

「ほ、ほんとなんだって! あ、あぁー! 腱鞘炎になっちゃうぅぅぅ!!!」

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