オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳 作:ユリガスキー
運営から配信止められなかったのか?
↑渚が忠告を聞くわけないじゃん
ハフリの配信が始まるまでこっち見とくか
この娘もリーク配信するんだね
何をリークするんだ?
ハフリが暴露する前に内容ぶち撒けたら伝説になるなwww
なんか今日はお呼びじゃないやつが多いな
「おやおや、今日は随分と人が多いんだね。まぁその方が好都合──と言いたかったんだけど、ね」
そう言って辺りを見回す。
今回も毎度お馴染み、運営に見つからないように場所(背景)を変えての配信となっている。
コンテナターミナル、ジャングルと来て第3回目となるリーク配信の場所は……なんと、住宅街だぜ!
画面右の奥の方には公園が一部映っていて、朝昼夕方は人の往来が激しいことが伺える住宅街だ。
しかし、今現在の時刻は夜の21時。こんな時間なんで、もちろん人っ子一人歩いていない。
「こんな静かな場所で大人数を引き連れていると逆に目立っちゃうな」
今日はなんでわざわざこんな場所を?
いつも人が寄り付かない場所にしてたのに
この娘はどうして住宅街にいるの?
ガワは可愛いのに声がかっこよくてバグる
初見です
ほうほう。コメントを見るに例の一件のせいか興味本位で俺の配信を見てる人が大勢いるらしい。
どうせならここでお客さんを増やして、エトワールの登録者数増加の手助けとするか。
「おや、初見さんこんばんは。イケボ系Vtuberの神崎渚です。以後お見知りおきを」
嘘をつけ嘘を
みんな騙されるなよ
まぁ俺らが注意喚起をしなくともそろそろ化けの皮が剥がれるから
お、おう?
「おいお前ら! エトワールファンを増やすチャンスを邪魔すんじゃねぇ!
っとと、あー、ゔぅん……せっかくだから、初見さんのために今日の配信の経緯を説明しておこうかな」
そうして俺がVtuberをやっている目的であるエトワールの魅力を知ってもらうこと、その一環でリーク情報を流していることを説明した。
「そんなわけで運営にバレないように場所を変えながらリーク情報を伝えているというわけさ」
えーと、この娘ってもしかして……
↑バカやぞ
↑↑アホの子だぞ
草
エトワール公式:<⚫︎> <⚫︎>
運営見てるじゃん!!
気づいて渚ちゃん!
「前回や前々回で人気のない場所を選んだのに、運営に居場所がバレて俺は気づいたんだ。
もしかして人気がないからバレたんじゃないかってな。
だから今回はあえて人気が多い場所でリークするって寸法よ! 題して「木を隠すなら森の中、人を隠すなら住宅街の中作戦」だ!」
うーん、この
こ、個性的な娘だね
一人称俺なのか
でもここ人いなくない?
「あー、下見に来た時は人通りの多い、賑やかな場所だったんだけどな。昼間に下見に来たのが間違いだったか……」
草
ダメじゃねぇか!
そんなことよりリーク流さなくていいの?
運営に嗅ぎつかれるぞ
エトワール公式:運営もそう思います
↑草ァ!
「それじゃあ早速情報を流そうか。
けどなぁ、今回は話すべき内容が多すぎて段取りが決まってないんだよなぁ……うーん、どれから話そうかな」
えぇ……
前のリーク回から時間あったろ
今話題のあの話について聞きたいなーw
ルフナとアクアマリーの彼氏について聞きたいなw
「話題の? ……あぁ、レオのことか。あの犬っころめ、ルフナ先輩とマリー先輩に可愛がられやがって……許せねぇぜ!」
マジで喋るのかよ
レオ!?
レオって誰や
渚その話はやめてくれ
って、犬っころ?
「説明する前にとりあえずこれを聞いてもらおうかな」
『はー……やっぱりアタシのレオは最高にカッコいいわ……』
『アタシのって……レオくんは私の家族なんだから変なこと言わないでよ。ねー、レオくん♡』
『ちょっと! アタシのレオに色目使わないでよね!』
『色目って……写真に対して使う言葉ではないでしょ』
『なによ! なんか文句ある!?』
『あのー、飼い主の私が文句を言っていいですかね?』
『ダメよ』『だめです』
『えぇ……そんなに犬が好きならお2人とも飼えばいいじゃないですか』
『アタシのマンションは犬が飼えないからダメね』
『お父様に動物を飼うことを禁止されているからだめです』
犬を取り合ってただけかよ!
草
どうせそんなことだろうと思ったわ
なんだつまんね
俺はお嬢たちを信じてたけどな
もう1人の声は誰だ?
レオの飼い主?
「3人目の声がレオの飼い主で、エトワールの社員だぜ。エトワールに就職が決まって上京した時からレオを飼っているそうな」
エトワールの社員……つまりは俺のマネージャーのことだな。
二期生を応募していた時期に入社して、一時期ルフナ先輩のマネージャーを務めていたらしい。
その時にレオを自慢して以来、こうしてルフナ先輩とマリー先輩がレオを取り合うようになったそうな。
「覚えてるやついるかな? 1年くらい前のルフナ先輩の雑談回でレオについて話してたんだけど。担当マネージャーに飼ってる犬を自慢されて動物を飼いたくなったっていう話を」
あー! 覚えてる覚えてる
あの時の犬か!
まだ二期生が入ってない時よな
古参以外知らんやつやんそれ
アーカイブ見直してきます……
「まぁそんな感じで、今話題の騒動はこの内容を編集して情報を流そうとしてただけだよ。
えーと誰だっけ。は、は……ハフリーズ? ってやつがな」
複数形になっちゃった……
なんかいい匂いしそう
というか何でそんな音声データを渚が持ってるの?
あっ、そういえばそうじゃん
「俺がこのデータを持ってる理由は一旦置いといて……なんでこの会話が録音されたかについて話そうか。
結論から言うと、この会話を録音してハフリーズに提供したのは増員された警備員のうちの1人だな。これは俺の推測だが……元からエトワールを失墜させる目的のために応募したんだと思うぜ」
推測、なんて言って言葉を濁したが、俺はそれが事実であることを知っているし、ハフリの魂胆や警備員の思惑を全て把握している。
けど、それを話すと「何でそんなことを知ってるんだ」ってことになってしまう。だから今話したことは「推測」という
「ウタウマーのサインの一件があって増員した警備員の中に、悪意を持ったやつが紛れ込んだんだからな。少しだけ責任を感じるぜ」
あの時増員された警備員か
急だったから変なのが紛れ込んだのか
俺そいつが許せないんだが
どこのどいつだ
「誰が盗聴器を仕掛けたのかは近いうちに判明するはずだぜ。
さっきの犬云々について盗聴した機器は回収されていたが、他の場所を捜索して見つけ出した盗聴器には指紋がついていたからな。この指紋を増員した警備員と照らし合わせれば犯人がわかるはずだからな」
マジかよ
警備員ざまあああ、この配信みてるー??
でもハフリは報いを受けないんだよな
↑でもこれで影響力は削いだから……
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
暗い部屋の中で男が1人、食い入るようにモニターを除きこんでいた。
くしゃくしゃに握り潰した紙コップからはジュースが溢れ落ち、男の手や机を濡らしていたが、男がそれを気にした様子はない。男の怒り具合が伺える。
いぇーいwハフリーズくん見てるー?w
犬と人を間違えるかな普通
あーあ、なんか残念だよ、きみw
まぁ所詮デマカスなんてこんなもんやな
いつになったら配信始めるんだよ
もう10分経ってるぞー
男が見ているのは、自身で立てた配信の枠の待機画面、そこに流れているコメントだ。その全てが男を小馬鹿にするコメントで溢れていた。
この男こそ、神堕祝を名乗り悪意を持ってエトワールの情報を流そうとしていた者だ。
歳は25、整った顔の中でも切れ長の目が印象に残る、高身長痩せ型の男だ。
知人友人も多く存在しており、男を知る者は皆「彼はいい人だ」と口を揃えて言う。
旧帝大を卒業してから都内の某一流企業に勤め、先輩後輩からの評価も高い。
イケメン、人脈が広い、高学歴、高収入のいわば勝ち組……これが、神堕祝という男の正体だ。
そう聞くと何故彼のような男が暴露系Vtuberなどやっているのかと疑問に思うことだろう。
これには、男の"癖"が関係している。
男は2つの癖を持っている。
1つはブス専であること。そしてもう1つが、人の絶望した姿を見ることだ。「人の不幸は蜜の味」という言葉があるが、男はこの蜜がどうしようもないほどに好きなのだ。
しかし男はその癖が人々に受け入れらないモノであることを知っている。社会には到底受け入れられるモノではないと。
だから男はこれまでの人生を癖をひた隠しにして生きてきた。
それがここにきて「Vtuber」なるものを知ってしまった。
顔や名前を隠したまま、人の秘密を暴き、他人の騒動に突っ込み、炎上を煽る。男にとってはまさに天職だろう。
今の今まで抑圧されていた感情を解放した時の勢いは凄まじかった。男は水を得た魚のように暴露系Vtuberとして名を馳せるようになった。
──余談であるが、男がブス専であるのは「己の醜さに絶望している姿」を見るのが好きだからである。もっとも、男はそのことに気づいていないようだが──
事の発端は1週間前、男のトゥイッターアカウントにDMで音声データが送られてきたことである。
そのデータは、2人の企業Vtuberが男を巡って口論している内容だった。
しかしこのデータ、内容を編集しているのが一目瞭然で、素人が聞いてもすぐわかるような雑な編集をしていた。
大方エトワールに良くない感情を抱くものが、なんらかの方法で入手したボイスデータを元に捏ち上げたのだろう。
そう当たりをつけた男は、そうと気づきながらも、それにまんまと乗っかった。
たとえこの内容がいい加減な嘘っぱちなものだとしても、近々誕生日を控えているルフナには大ダメージを与えることができる。
その上、この件が長引けばクリスマスイベントも潰せるかもしれない。
嘘が発覚しても「送られた音声データを公表しただけだ」と言い張ればいい。
そう考えた男は音声データを加工し、違和感がないように編集しなおした。
そうして今に至り、あとはこの加工したデータを流すだけで全てが終わるはずだった。
そのついでに、渚がやっているリーク配信に被せることで「小さな絶望」を鑑賞しようとしていた。
渚という取るに足らない小石はどう動くのか。配信を中止するのかしないのか、一連の騒動に触れるのか否か、しつこいコメントにどう対応するのか……男にとっては最高のエンタメだ。
それがどうだ。取るに足らない小石が、男が流すはずだったデータを先に流されてしまい、データそのものが嘘偽りであることも暴かれてしまった。
渚がどうやってあのデータを入手したのかはわからない。だが、あれはまさしく男が加工したデータと同じ──
──加工したデータと同じ?
違和感を感じた男は、すぐに手持ちのデータと渚が公表したデータを聞き比べる。
後半の、犬云々と話しているデータこそ男は持ち得ていないが、前半部分は完全に一致している。2つは
頭に冷水をかけられたような気がした男は、ここにきてようやくある重大な事実に気づく。
渚の背景の住宅街。この場所を男は知っている。いや知らないはずがない。どうして今の今まで気づかなかったのか。この場所は──
「──俺の、
「ハロー、神堕ハフリーズくん」
男は反射的に振り返る。
そこには、絶世の美少女がいた。
艶やかな、絹のような、透き通った、宝石のように、宇宙の神秘を詰め込んだ、白く細い指先、均衡の取れた、完璧なプロポーション、この世ならざる…………そんなありふれた言葉ではこの少女の美しさを到底言い表すことなどできやしない。この少女の"美"を伝えるためには、世界中から言葉を持ってきたとしてもなお足りない。
そんな「言葉の限界を突きつける美」を持つ少女が、いつのまにか男の背後に立っていた。
「よろしくどうも初めまして。神崎渚の中の人だ」
男は渚を見て固まってしまった。
男は渚に見惚れてしまったのだろうか?
しかし、男にはどうしようも無いほどの下衆のような癖がある。その腐った趣向によって生まれた「ブス専」という癖がある。
そんな男が渚を見て見惚れることなどあり得るのだろうか?
無論、この美しさだ。
どんなに癖が曲がった者でも、たちまち魅了するほどの美しさ、男が靡くのも無理はない。
「なんで今配信をしているはずの神崎渚がここにいるのか疑問に思っているんだろう?」
しかしそうではない。いや、少しは渚の美しさに惹かれているのかもしれないが、とにかく違うのだ。男が固まってしまっているのには別の理由がある。
それは【魂】だ。
21.3グラム。アメリカ人医師のマクドゥーガルが導き出したとされる人の魂の重さだ。
死の前後の体重を正確に測ることによって、魂の存在と重さを彼は証明してみせた。
無論、この話は科学的な信憑性がまったく認められていない話だが……
「ふふふ、最初の方は普通に配信してたんだけどな。今の配信はあらかじめ録画している内容を垂れ流しているだけなんだぜ」
仮に、もし仮にこの話が真実として、それでは渚の魂の重さはどれほどのものだろうか。
それは誰にも、渚本人でさえもわからない。
ただ1つ確実に言えるのは、その【魂】の大きさに人はただ成す術もなく立ち尽くすしかないということだけ。
この【魂】を人は知覚できないから、その美しさにやられているのだと勘違いしているのだ。
「協力者にコメントを打ってもらって、配信の内容を誘導するようにしてもらってるんだ。先輩たちの一件はだいぶデカいからね。簡単に誘導できるって寸法よ」
以前、渚のマネージャーが顔を隠すよう言った際、渚は冗談めかして「顔を隠しても意味がない」と言ったことがある。
あの時の渚は半分本気で言っていたのだ。
「おいおい、いつまで呆けて…………」
だが、何事にも例外というのがある。
「ただの人」ならば呆然と立ち尽くすばかりで何もできないのかもしれない。
しかし「天才」なら話は別だ。天才なら莫大な魂に怯みながらも前へ進める。天才なら渚の目を見据えることができる。天才なら渚と並び立つ可能性がある。
「…………ハァ……そうだったそうだった。最近は普通に会話できるからすっかり忘れていたぜ」
言うなれば、渚の存在そのものが人の才を見分ける鑑定器のようなモノなのだ。
渚に見惚れて動けないままなら一般人、そうでないなら天才、と。
「俺たち一般人がさ、天才の邪魔をしちゃいけないんだよ。なぁ、わかるか?」
渚にとってこの体質は呪いだ。
渚が人の温もりを求める時、相手は天才でないといけない。それも、渚の魂に耐えられるような天才が。そうそういるものではない。
「フッ、まぁルフナ先輩もマリー先輩も、今回の騒動でまったく堪えていないけどさ。流石だよな。一般人とはわけが違う」
ここまで渚が一方的に話しているばかりで、男からの反応は一切ない。
外部からの刺激がなければ、男はこのまま永遠に呆け続けることだろう。
「でも、俺はただの一般人だから、さ。先輩たちに楯突こうとした件について勝手に報復させてもらうぜ?」
そう言って渚はポケットから電極を取り出した。
「懐かしいなこれ。10年前に使ったきりだっけか」
渚が手に持っている電極は、10年前に渚の家に侵入した襲撃者に対して使った物だ。
この小さな電極1つで、断片的な記憶の読み取りや、記憶の改ざんを行うことができる。
「あの時は記憶を消すくらいしか出来なかったけど……今は記憶を好きなように弄れるようになったんだよな」
「使う相手がいなかったから倉庫に眠ってたけど……その身体で色々と試させてくれよ?」