オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳 作:ユリガスキー
「ってか匂いで当てるってなんなんだにゃ!」
「まーだ言ってるのかよ。訓練すれば誰だってデスソース入りのたこ焼きを見分けられるようになるって」
「絶対無理よ、それは。断言するわ」
無事に配信を終わらせた俺たちは、調理器具を洗ったりゴミを捨てたりと清掃をしていた。
パーティーの後の片付けなんてものは大抵面倒で大変なことではあるのだが、そこは家事一般を何でも熟す彗月ちゃんと何でも出来るスーパー万能美少女天才こと俺だ。パパッと手際よく終わらせて、あとはたこ焼き器を洗って事務所の倉庫に片付けるのみとなっていた。
ちなみに凛ちゃんは戦力外として残ったたこ焼きの処理に回っている。仕方ないね。
そうそう、彗月ちゃんが持ってきた業務用のたこ焼き器は事務所に置いてくことに決まったんだぜ。
「私たちはもう使わないから貰ってもいいよ」という彗月ちゃんのご両親の要望と、この重たいものを持って帰るのは面倒だという彗月ちゃんの思いが一致したからだ。
もしかしたらまたいつかタコパをするかもしれないし、その時のために置いとこうかと彗月ちゃんと凛ちゃんは言い合っていたが……このまま使われることなく埃を被っていく未来が見えるのは俺だけだろうか。
「まぁ、本当は説明するのが面倒だったから匂いで判断したって言っただけなんだけどな」
「ほらやっぱり! …………匂いで判断したんじゃにゃいなら、どうやって見分けたのかにゃ?」
「いや別に匂いを使ってないわけじゃないぜ? 他の要素でも判断したってだけで」
他の要素? と首を傾げる凛ちゃんと、たこ焼き器を洗いながら俺たちの話に耳を傾けている彗月ちゃんに、舟皿に乗った2つのたこ焼きを見せる。
「右のたこ焼きと左のたこ焼きは同じ色だと思うか? あぁ、ソースとか青のりとかは抜きにして、たこ焼きの表面だけの色で答えてくれ」
「まったく同じようにしか見えないにゃ」
「……私にも同じようにしか見えないわね。普通こういうのって目で見て違いがわかるくらいには色のばらつきがあるはずなのに、怖いくらいに同じ色をしているわ」
机の上に2つのたこ焼きを置いて、もっとよく見比べるよう促す。
凛ちゃんは机の上に顎を置いて目線をたこ焼きと合わせながら、目を細めながらじーっと見つめていた。しかし、何もわからずに諦めてしまったのか、そのままの体勢で動かなくなってしまった。
そんな凛ちゃんを見て洗い物を中断した彗月ちゃんは、2つのたこ焼きを串で刺して目線の高さまで持ち上げると、ピタッと2つをくっつけて観察し始めた。
「ちょっと彗月ちゃん、今凛が見てる番だったにゃ」
「あら、もう既に諦めたのかと思ったわ、ごめんなさい。でも私もダメみたいね。こうしてくっつけてみても同じ色にしか見えないわ」
「むー……まぁ、凛もこれは同じ色にしか見えないにゃ。というかこれって違う色なのかにゃ?」
「降参なら答え合わせをするぜ? 左のたこ焼きはc47e31、右のたこ焼きはc47e41だ」
「しーよん…………にゃ?」
「カラーコード。色を数値化するために使われる6桁の英数字のことよね。でも、そんなの見ただけでわかるものなの……?」
「ふっ、訓練すれば誰だって出来るようになるぜ」
知らんけど。
というか、訓練した記憶がないのにいつの間に出来るようになっていたぜ。
多分何かが解放されて出来るようになった拍子に併せて、カラーコードを肉眼で判別できるようになったんだろうけど。
「あの時の俺はデスソース入りの焼き色だけを濃くして、それで見分けたってなわけだな。単純だろ?」
「っていうか何気にそれも凄くない? 焼き色を完全に微調整出来るってことよね?」
「またオレ何かやっちゃいました?w」
「うわっ、うざっ! そこはかとなくうざいにゃ!」
なっ! この猫野郎、俺の人生で一度は言ってみたい台詞第5位をバカにしやがって……!
あれ? 6位だったっけ? いや8位だった気が……まぁいっか。
とりあえずムカつくから余った舟皿投げつけるか。
「ちょっ、やめっ……ヤメロォー! くっそー、こうなったら凛も投げ返してやるにゃ!」
「2人とも子どもじゃないんだから…………いや子どもだったわ」
舟皿で紙飛行機を作って飛ばして凛ちゃんと遊んでいる間に、彗月ちゃんはたこ焼き器を洗い終わっていた。
倉庫に片付けるのはマネージャーさんがやってくれるそうなんで、あとは余ったたこ焼きを食い切れば解散だな。
いやー、始まる前は「たこ焼きなんて無限に食える」とか思ってたけど全然そんなことなかった。上手く作れるまで練習したいって言って無限にたこ焼きを作り始めた凛ちゃんを止めておけばよかったぜ。
「それで?」
「モグモグ……それでってモグモグあぁ、匂いで判別したカラクリが知りたいのか」
うーん、どうしようかな。
それは俺の技能じゃなくて技術の結晶だからな。
あまり世間に知られたくないことではあるけど……口止めしとけば大丈夫か。
「そのカラクリを教えるけど、今から言う内容はオフレコで頼むぜ?
これをデスソース入りにかけたんだ」
「それは……香水?」
「いや、これは俺が独自に開発した液体、その名も「ミグラス」だ!」
そう言って空中に向かってワンプッシュ……うわ! くっさ!
香り製品を意味する「フレグランス」と、強烈な匂いの代表格「シュールストレミング」を合わせて「ミングランス」とし、そこからさらに省略して「ミグラス」と名付けた。
いい感じにオシャレな名前になったし、我ながらネーミングセンス最高だな、うん。臭いけど。
「こいつにはある大きな特徴があってな。調合段階で特殊な操作を加えることで、特定の一個人にだけ強烈な匂いを感じさせることができるんだ」
「クンクン……何の匂いもしないけど、渚ちゃんは匂いを感じてるってことかにゃ?」
「あぁ、強烈すぎて鼻がきつい。色だけだと、凛ちゃんが全面にソースを塗ったら詰みかねないからと保険でかけたんだよな。匂いがキツすぎて判別が出来なかったんだけど」
「あははっ! ただのバカだにゃ!」
むむっ、バカはこのミグラスがどれほど非常識でやべー発明なのかを理解していない凛ちゃんの方だろ。
彗月ちゃんなんか今の科学力では再現できないのではと考えちゃったせいで思考が停止してしまったんだからな。
「俺が匂いで判断したって言ったからなのかさ、見ろよこれ。トゥイッターにあげられたイラストなんだけど」
「どれどれ……にゃははっ! 渚ちゃん犬耳を付けさせられてるにゃ、意外に似合ってるし普通に可愛いにゃ」
「んでもって、これをリプライして画像を投下っと」
神崎 渚@犬耳
@k4nz4k1nagisa
コスプレのまま帰った猫がいるんで忘れていった服の匂いを堪能してきます
【画像】
更衣室の中で脱ぎ散らかされた凛ちゃんの服が描かれたイラストを、トゥイッターにアップする。
「ははっ、もうコメントついたぜ。えーとなになに、「今電車乗ってるってマジですか」「匂い、匂いの実況お願いします」「凛ちゃんェ……」」
「にゃ、にゃんてこった……衣装付けたまんまなの忘れてたにゃ!?」
「よくその格好のまま普通に過ごせるよな。嫌味とかじゃなくて、普通に尊敬するぜ」
「い、いやぁ……たこ焼き食べるのに夢中で忘れてたにゃ」
「忘れてるのは衣装だけじゃないだろう?」
「むっ、ちゃんと罰ゲームの件も覚えてるにゃ。渚ちゃんの分も合わせて4回分、彗月ちゃんが言うことを聞くって」
「何言ってるの凛ちゃん。もともと1回分あったから、それを合わせて5回よ」
あっ、復活した。
「その1回分があったから凛ちゃんへの罰ゲームが最悪なくなっても良かったってことか。いったい何をさせたいんだか。
あっそうそう、お絵描きは草のときの罰ゲームも残ってるの忘れるなよー」
「……えぇい! こうなったら4回でも6回でも聞いてやるにゃ!」
「あっ、じゃあそのままの格好で帰って──」
「それは無理だよ。身バレしちゃうって」
「うわあああ!!?? 急に猫語を辞めるなぁ!!??」