オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳   作:ユリガスキー

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タコパのあとに(後編)

 配信用の機材を全て片付けて軽く伸びをして背中の凝りをほぐす。本来2〜3人でまわす仕事を1人でやっていたので当然ですが、かなり疲れが溜まっています。

 けど、休憩するにはまだ早いです。まだ最後の仕事が残っているので、機材保管庫に鍵をかけて元来た道を戻ります。

 

 私の担当Vである神崎さんは顔がとても良い。良すぎるあまり見惚れて動けない人が出てくるくらいには顔が良いです。

 そんな中、唯一私だけが神崎さんを見ても動けるからという理由で、今回のタコパ配信の裏方は私1人ということになりました。

 神崎さんは確かに美しいけど、そんな固まったりするほどでしょうか? それとも私に審美眼がないだけ?

 そんなことをぼんやり思いながら配信部屋に戻ると、そこには渦中の人物が座っていました。

 

「あれ、まだ残っていたんですか神崎さん」

 

「今日使った機材は全部軽いやつだからいいけど、たこ焼き器は結構重いだろ? だから手伝おうかと思ってマネージャーさんを待ってたんだよ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ありがとうございます神崎さん。この重さのたこ焼き器を1人で持っていくのは苦労したので助かりました」

 

「なーに、レディの手助けをするのは男の義務ってもんだぜ」

 

「神崎さんも女性では?」

 

「はっはっはっ」

 

 『しろいの』には多くの天才が所属しています。

 歌唱・楽曲作成、物理化学、医療、アニメ制作、文学、美術、数学、哲学……

 あらゆる分野の頂点に立つ天才たちが所属していますが、そこにはある共通点があります。それが「文化の発展に著しい貢献をしたこと」です。

 

「あぁ、でも神崎さんが来ていなかったら2人ほど人員がいたはずだからお礼を言う必要はない……なんなら私の方がお礼を言われなきゃいけないのでは」

 

「何を言ってるんだね、チミは」

 

「今日と、あと前回の案件の時、どうせみんな神崎さんの顔にやられて動けなくなるからって現場は私1人で回していたんですからね?」

 

「ふっ……美しいとは罪でもあるのだな……」

 

「今度から強制的に仮面を付けさせますよ?」

 

 長く続いた3度にわたる世界大戦によって疲弊した世界には娯楽がありませんでした。いえ、正確に言うなら娯楽はありました。けどそれは『しろいの』登場後と比較すればあってないようなものです。

 『しろいの』が登場するまで、私たちは本当の歌を、ゲームを、アニメを、小説を……何も知りませんでした。それほどまでに彼らは他者を圧倒し続けたのです。

 

「前も言ったと思うけど、仮面を付けても無駄に終わるだけだぜ。俺の美貌は仮面如きでは隠せないってこった」

 

「またそれですか」

 

「ちょ、そんな呆れた目するなよ! これは俺も実際に試したから本当なんだって!」

 

 そして、その勢いは日本だけに留まらず、世界へと発信するようになりました。無論『しろいの』はどこの国でも歓迎されて、ついには世界中のありとあらゆる場所で『しろいの』の名を聞かない日はないと言わしめるほどになりました。

 そうして『しろいの』は、世界を1つの文化に染め上げたのです。

 

「俄には信じられません」

 

「なら今度仮面を付けたまま事務所内全ての部屋を通って、出勤してる人全員に声をかけてやるぜ」

 

「もし神崎さんの言うことが事実なら大変なことになるのでやめて下さい」

 

 『しろいの』に所属している天才には、もう1つわかりやすい共通点があります。

 それが「才能の使い道が大なり小なりオタク文化に偏っていること」です。

 アニメ制作の第一人者にして数々の名作映画を手がけた「カントク」や、日本をここ数年でゲーム大国に押し上げた「シンテンドー」などは説明しなくてもわかると思います。

 

「まぁ付けないよりかはだいぶマシになんだけどさ」

 

「……やっぱり今度からここに来る時には仮面を付けてきてください。この前あげたやつ、まだとってありますよね?」

 

 わかりづらいところでは……医療の天才である「クロオ」などでしょうか。彼の功績だけを見れば「オタクだ」と思う人はまずいないはずです。しかし、動機に目を向けてみれば彼の本質、行動原理がすべてそこに集約しているのだと気づきます。

 

「はぁ……まぁその分他のとこで休みを貰ったりしてバランスは取れているんですけどね」

 

「ならいいじゃねぇか」

 

「私1人だと責任の重さが段違いなんですよ」

 

 「クロオ」は1年ほど前にHIVの治療法を確立させたことで話題になりましたが、彼がその研究に至った動機は「HIVによって亡くなった推しに供養を捧げるためにも治療法を見つけるんだーい!」という、世の研究者が聞けば激怒して当然のものでした。というか実際に激怒していましたし、そこからわずか1ヶ月で治療法を確立した時には研究者は皆泡を噴いて倒れてました。

 他にも、癌の特効薬に「ソノトウトサハガンニキクヨウニナッタヨ」とふざけた名前を付けたりとやりたい放題です。

 

「さて、と。ここに置いておけば大丈夫でしょう」

 

「なぁなぁ、このたこ焼き器、今後使う機会あると思う?」

 

「……」

 

「おい、目を逸らすなよ」

 

 

 何故、私は『しろいの』について延々と考えていたのか。それは『しろいの』に関係する、あることを神崎さんに確認したかったからです。

 

 そう、私は神崎さんに確認したいことがあったのです。でもそれは、人目のあるところで話せるような内容ではありません。

 同じ会社の社員(という括りは本来正しくはないのですが)ではあるものの、神崎さんはVtuber、次会う機会、ましてや誰の耳にも入らないような場所を用意するのは至難の業。

 そう思い、今すぐに確認できないのならばこの疑問に蓋をしようと思っていたのですが……今現在、私は神崎さんと2人っきりになっています。誰かに聞かれる心配をすることのない、またとない好機です。

 

「んじゃ、俺たちも帰るか。夕飯用意してるだろうけどお腹いっぱいなんだよな……

夕飯いらないって言ったら怒られるかな」

 

「……物によると思いますけど、冷蔵庫に入れて明日の朝に済ませてしまえばいいのでは?」

 

「! その手があったか! よし、アイにはそう提案するか」

 

 しかし、疑問を問いただしたところで何かが起きるわけではなく、ただ自分の知的好奇心を満たしたいという低俗な思いしかありません。

 ならわざわざここで神崎さんに問いただす意味はない、はず。

 

 そう私は結論づけて、倉庫の出口へ向かって歩き──

 

 

 

「ところでさ、何か聞きたそうな顔をしてるけど……今のうちに聞いとかなくて大丈夫かい?」

 

 

 

「………………神崎さんはエトワールメンバーとの会話を録音するため、常にボイスレコーダーを身に付けてるんですよね」

 

「……あぁ、そうだけど?」

 

「そしてあの時の、ルフナさんとマリーさんの会話も録音していたから、あの炎上もすぐに消すことができた」

 

 

 

「それ、嘘ですよね」

 

 

 

 『しろいの』所属の天才たちは皆どこかオタクの(さが)を持っている──しかしその中で唯一、オタク要素を持ち合わせていない人がいます。

 

 それが「ハッカー」です。

 

「神崎さんがリーク配信で流したお2人の会話、あのとき神崎さんはまだあの場にはいなかったはずです。神崎さんがやってきてすぐにレオの話が終わったのでしっかりと覚えてます」

 

 国・企業・個人問わず、ありとあらゆる情報を抜き取り世間に公表する愉快犯。国際刑事警察機構(インターポール)が追う世界的大犯罪者。総被害額は数兆円にのぼるとも。情報を抜き取った相手が全て悪徳であったため義賊と名高い。卯月家当主の悪事を探った際、逆にその力を利用された件以外ミスらしいミスがない。その一件でさえもハッキングそのものは成功している。

 

「そもそも、あの音声データは編集されたものですよね? お2人はあんな風に敵意剥き出しで会話していませんでした」

 

 そんなオタク文化とは無縁の彼、いや彼女が『しろいの』に所属しているのは、その技術力をもって『しろいの』の正体を探らせないようにするため。

 

「神崎さん。あの音声はボイスレコーダーで録音したものではなく、神堕ハフリの音声データを()()()()()して得たものなんじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

「ルフナ先輩はさ、結構大ざっぱって言うか、危機感がなさすぎるんだよな。そこが良いところでもあるんだけど。

だから、今回の炎上が収まったあの音声データを確認してないんだよね。まぁ、そんな気質だからこそアスライテ先輩が色々企んでいることにも気がつかないんだけどさ」

 

「マリー先輩は……完全に血筋だよな。あの家は代々豪胆というか思い上がってるというか。たとえ自分が歩んでいるのが破滅の道だとしても勇猛果敢と進んでいく悪癖があるからな。

まぁ、マリー先輩は比較的悪い面は少ないけど……今回確認を怠ったのはそういう一面のせいかもしれないな」

 

 

 

「俺にとっては好都合だけどな」

 

 そう言うと、神崎さんはいっそう笑みを深くしながら、私の方へと歩いてきました。

 そのまま目と鼻の先まで近づいて、私の顔を下から覗きこむように見上げると、お菓子を目の前にした子どものように目をキラキラさせました。

 

「一応聞くけどさ、俺がハッカーだとしてどうするつもりかな? 警察とかに突き出しちゃう? ネットに情報ばら撒いちゃう?」

 

「いえ、知的好奇心を満たせて満足したので……特に正体を明かすとかは考えてないですよ」

 

「ははっ、そうだよな。わかっていたけどマネージャーさんってだいぶやべー奴だよな」

 

 やべー奴筆頭である神崎さんだけには言われたくありません。

 なんで正体がバレたというのに笑っていられるんでしょうか。意味がわかりません。

 

 というか、顔が良すぎてちょっとドキドキしちゃうので離れてくれませんかね。

 

「でも、あの音声データをハッキングして手に入れたってことは、常に録音してるってのは嘘ってことですよね。神崎さんがそこまでの変態じゃないって知れてよかったです」

 

「いや? それは本当だけど? ハフリーズの鼻を明かしたいからハッキングしただけだぞ?」

 

「…………」

 

 やっぱり私なんかよりも、この目の前の少女の方がよっぽどやべー奴です。

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