オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳 作:ユリガスキー
「ふわぁあぁあぁ…………流石に眠いな……」
不意に出てきた大きな欠伸を手で覆い隠す。
昨日のアスライテ先輩とのコラボは、太陽の光が部屋の中に完全に入ってくるまで続いた。
それもこれもアスライテ先輩がイタズラの計画を事前に立てていなかったせいで配信内で1から練り上げたり、規模のデカい建築やギミックを要求したり、監視されながらも全容がわからないよう注意したムーブを強いたりしたからだ。
だが、徹夜した甲斐はあった。これならエトワールのみんなが絶対に、否が応でも罠に引っかからざるを得ない。そしてその行き着く先は……ふひひっ。
そんなふうに、みんながマイクリ内でどんな反応を見せるのかを期待して頭は冴え渡っているのだが、いかんせん身体は眠気を訴えていて先程から欠伸が止まらない。
またもや不意に出てきた大きな欠伸を、面倒だからと手で覆い隠すこともせずに大口開けて目一杯堪能する。
こんな仕草をアイが見れば「はしたないですよ」とジト目で注意してくるのだろうが、あいにくと今の俺はオフコラボをするために事務所に赴いている。
つまり、ここには俺を注意する奴は存在しないのだ!
というか、俺がスーパーハイパーアルティメット美少女すぎて、どんな仕草や行動をとってもフィルターがかかって美しい所作にしか見えないだろう。これが美少女無罪ってやつか……
そんなくだらないことを考えながらも欠伸は止まらない。
「ふわぁーーあ"ぁ……流石にやべぇな。先輩方に心配かけさせる訳にもいかねぇし、自販機によってエナドリでも買ってくるか」
そうして回り道をして歩くこと数分、お目当ての自販機に到着したら、見覚えのあるキョドキョドした猫背を目撃した。
「あら? もしかして金剛さんかしら?」
「ヒョエ!? え、あ、ヴェ!? き、綺麗な人!?」
「もう、金剛さんったら、綺麗な人だなんて。でも、ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです///」
自販機の前にいたのは、今日のオフコラボの相手の1人である金剛先輩だった。
改めて説明しておくと、超絶人見知りな金剛先輩は、運営から『1ヶ月に2回のコラボ+2ヶ月に1回のオフコラボ』を強制させられている。今日のオフコラボは2つ目の『2ヶ月に1回のオフコラボ』のため事務所まで集まったってな訳だな。
「え? エナドリを買われるんですか?」
「お恥ずかしながら昨日はあまり眠れなくて。少しはしたないのですがカフェインの力を借りようかと思いまして…………幻滅しちゃいましたか……?」
「い、いえいえ! ぜんぜん! そんなことないです!
お嬢様でもエナドリ飲むんだなーって、あの、親近感、湧いちゃって!」
「うふふ、冗談です♪」
「ホ、ホヘー」
相変わらず揶揄いがいのある……面白い反応をしてくれるな、この人。
そこから十数秒、自販機の前で軽く談笑して「それでは私はこの辺で……」「えっ、同じ道ですねー」「せっかくだし途中まで一緒に歩きませんかー?」という感じで道中ご一緒させていただくことになった。
まったく、こんな簡単に誘導されるなんて……詐欺かなんかに遭わないか心配になってくるぜ。これは俺が守護らねば……
「…………金剛さん、なんだか浮かない表情ですけど、何かありましたか?」
「え、え? わ、私そんな顔してましたか???」
ほっぺをむにむにしながら頭にクエスチョンマークを浮かべる金剛先輩(かわいい)
最初の方はそうでもなかったが、事務所に近づくにつれて落ち着きのない表情を浮かべるようになってきたのだ。
「あ、あの、本当はこんなこと関係のない人に喋るのもどうかと思うんですけど……聞いてくれますか……?」
「えぇ、構いませんよ。むしろ、部外者である私の方が悩みを解決できるかもしれませんので存分に頼ってください」
清楚なお嬢様ムーブはただ演技をしているだけだが、その言葉には嘘偽りがない。
金剛先輩の不安な気持ちを取り除きたいという俺の思いは本物だぜ!
「えぇと、その、私の後輩のことなんですけどね、最近先輩の炎上事件を解決したんですけど……そのぉ、解決の方法がなんというか、その」
「…………もしかして神崎渚さんのことですか?」
「あっ、流石に気付きますよね」
って、不安の種は俺じゃねぇか! 何やってんだナギサァァァ!!!
「炎上を収めたのは、本当に凄いなぁって思うし、ありがとうって思ってるんですよ? でも、その……炎上解決の決め手になったのが「常に身に付けてるボイスレコーダー」っていうのが……」
「本当はわかってるんです! 大好きな先輩方を救ってくれた渚ちゃんに対してこんなことを思うのはダメだって!」
「でも、常にボイスレコーダーを持ち歩いている状態で会うのは気が引けちゃって……!」
いや、正しい! これに関しては金剛先輩が正しい!
普通に考えてみろよ? ボイスレコーダーを常に持ち歩いて「自分の声が常に録音されている状態」なのに、その元凶に対して何も反応を示さないのはおかしいって!
しかもこれって「表面上は〜」とかそんなもんじゃねぇぞ? この俺は人の心理状況を完璧に把握できる能力を持っているのだが、誰一人としてなんとも思っていねぇ。
これはアレか? 俺ならそれくらい普通にしてくるよねって諦められているのか???
「先輩の恩人に対してこんなことを思うなんて……私はなんて酷い奴なんだって思っちゃって……」
「いやでも当然の反応だと思いますよ。私も自分の声が常に録音されてる状態なんて気味が悪いですし。いたって普通なことなので気にしないほうが──」
「あぁ、気味が悪いとは思ってないんですよ」
「へ?」
「私ってかなりの緊張しいでドジなんで、四六時中音声を録られてると思うと、絶対にポカしちゃうと思うんですよ。うぅ〜、それを思うと今から億劫になっちゃって……」
「あ、あの〜、ちなみにボイスレコーダーを常に持ち歩いていることについておかしいなーなんて思いませんか?」
「? いえ、まったく?」
そうだった、そうだった。この人もエトワールの一員だった。
やっぱりここはやべー奴の巣窟だわ。
「え、えーと、神崎さんってエトワールの皆さんのファンだって常日頃から公言してますし、本当に嫌がることはしないと思うんですよ。なので事情を説明したら金剛さんの前では録音を止めてくれると思いますよ」
「!!! そ、その手がありましたか! さ、流石です、ありがとうございます!」
解決策を聞いた金剛先輩は、大はしゃぎしながら両手で俺の手を掴み、よほど嬉しいのかブンブンと縦に大きく振った。
あの金剛先輩が、たった3度邂逅しただけの相手にここまで気を許すなんて……よほどポカするのが恐ろしかったんだろうな。
でも俺的には、ポカすることへの用心よりも、ボイスレコーダーを常に持ち歩いている不審者に対しての警戒心を持っていてほしかったな……エトワールに所属してる奴ってヤバい、俺は改めてそう思った。
「あっ、私はこの部屋に用事があるので……えっと、その、改めてありがとうございました! おかげで今回のコラボは何の不安もなく始められそうです!」
そう言った直後、金剛先輩が用事のあると言っていた部屋の扉が開いて、中からノワール先輩が出てきた。
あっそうそう、言い忘れていたが今回のコラボは俺と金剛先輩とノワール先輩の3人でやるんだぜ!
「あら、2人とも遅かったわね。いつもはもっと早く来てるのに。私が1番乗りだなんて珍しいわ」
「あっ、ノワール先輩、ちわーす」
「ふふっ、ちわーす。思ったより元気そうね。全然寝れてないんじゃないかって心配してたんだけど」
「いやー、実際全然寝れてなくてですね? なのでエナドリ様の力を借りようかと」
「んもう……始まるまで時間あるから少し仮眠とっとく?」
「いえいえ、お構いなく」
「へぁ?」
奇声がした方へと顔を向けると、そこには金魚のように口をパクパクした金剛先輩がいた。
何かを言おうにも混乱して声が出ない金剛先輩は、人差し指をこちらに向けると、首振り扇風機のように顔と指が俺とノワール先輩を行き来し続けた。
「…………あなた、未来に何したのよ」
「いやー、特になにもー?」
「」パクパク