オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳 作:ユリガスキー
「よーお前ら、元気してるか? 俺は眠気マックスでちょいとやべーぜ!」
「いやいやいや、こんな状態の未来を放って配信始めないでよ!?」
「エ……エッ……?」
いやどういう状況だよ
どうせ渚だろ?
まーた渚がなんかしたのか
「おいおいお前ら、すぐに俺を疑うなんて安直すぎるぜ? まぁ今回は俺が原因だけどさ」
「配信部屋に着いた時からこんな感じだったのよね。
それで? ここに来るまでの道中、2人は一緒だったみたいだけど……未来に何したのよ」
「まぁまぁ、それは本人の口から直接語ってもらおうじゃないですか。というわけで……テイッ!」
手に持ったピコピコハンマーで金剛先輩の頭を軽く引っ叩くと「アイタッ」とかわいく鳴きながら、正気に戻って辺りをキョロキョロと見回した。
「あ、あれ? こ、ここは? 私はいったい何を…………あぁ、そうか、あれは夢だったんだね。そうだよ、あの人が「ちわーす」なんて言葉を使うわけがないよ、うんうん」
「ちわーす」
「夢じゃなかったーーー!!!」
「えーと、未来? そこの渚ちゃんと一緒みたいだったけど、いったい何があったの?」
「あっ、ノワールさん! 聞いてくださいよ! 渚ちゃんがお嬢様ーって雰囲気から急に「ちわーす」なんて言い出し────えっ、渚ちゃん?」
俺の方へ振り向いた金剛先輩は、こちらをまじまじと眺めてきた。
普段人の顔を見ないようにしている金剛先輩が、こんなにも人の顔を観察する姿はかなり珍しい。せっかくだからと清楚っぽい表情を作って微笑んでみれば、ピシッと石像のように固まって「エッ……エッ……」と呟くだけの置物に戻ってしまった。
俺こと神崎渚と、先程まで話していたお嬢様がイコールで結びつかなくて頭がショートしたのだろう。
しかし、ここまで良いリアクションを取ってくれるとは。長きにわたって種をまいてきた甲斐があったぜ!
「まったく、ノワール先輩のせいで固まっちゃったじゃないですか」
「えぇ……本当にどういうことなのよ……もう渚ちゃんでいいから説明してくれない?」
「アイアイサー!」
そうして俺は、金剛先輩から
普通渚なんかをお嬢様と見間違えないだろw
渚とお嬢様とか天と地ほど差があるだろ
おいおいお前ら、渚も一応お嬢様設定なんだからな?
↑一応とか設定とか、余計な一言を付け足すんじゃねぇよw
「…………」
「おや? どうかしましたかな、ノワール先輩」
「……い、いえ、なんでもないわよ」
ホホホっ、俺にはノワール先輩の言いたいことが手に取るようにわかるぜ。
絶世の美少女と言っても過言ではない俺の見た目に加え、金剛先輩を最後まで騙し切るために着てきたお嬢様然とした装い。
よほど下手な演技でもしない限り100人中100人が「清楚なお嬢様」と騙されることだろう。
そのことについて話せば金剛先輩が勘違いしても無理はないと擁護することは可能だが……そんなリアルな情報について言及するなどVtuberとして言語道断──のはずなんだけど、みんな普通に喋ってるんだよなぁ──と真面目に考えているノワール先輩はつっこみたくてもつっこめない、ということなのだ!
「ヨホホホホ! 俺の演技に騙されるなんて、流石エトワール1察しの悪い女ですねぇ!」
まぁ、未来ちゃんなら気づかなくてもおかしくはないか
また気づけなかったか……
渚の演技が上手かった可能性も残っているから()
「え、演技に騙されるって、あれはもはや演技とかそういうレベルのものじゃなかったよ!」
「おや、もう目を覚ましてしまいましたか」
「でも普通に気になるわね、渚ちゃんが演じるお嬢様って。結構いろんなことに長けているし、演技力も相当なものなんじゃないの?」
「ふっふっふっ、気になりますかな俺の演技が。ならば見せてあげましょう!
おーほっほっほっ! 皆様ご機嫌よう! 神崎渚ですわ〜! 一流のォ〜〜、お嬢様ですわ〜!!!」
うるさっ!
いきなりでかい声出すなバカ!
あれ、急に静かになった
↑南無……
「こーんな感じで金剛先輩と話していましたの! パーペキなお嬢様の演技で、見事に金剛先輩を騙し通せましたわ〜!」
「そ、そんなマリーさまみたいな変てこな喋り方してなかったよ! もっと本物のお嬢様って感じだったもん!」
マリー:へ、へんてこ……
「あーあ、金剛先輩が変てこなんて言うから配信を見てるマリー先輩が傷ついちゃったじゃないですか」
「ウエッ! ち、違うんです、マリーさま! マリーさまのお嬢様言葉は変てこだけど今回のこれはそういうことじゃなくて……って、今、配信してるの!?」
そういえば配信始まった時には気を失ってたっけ
うぇーい、コメント見てるー?www
お嬢の言葉が変なのは否定してなくて草
「はいっ! というわけで何やかんやありましたが、今回はノワール先輩と金剛先輩と俺の3人のオフコラボでお送りするぜ!」
「な、なんという強引な話しの戻し方……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私はまだ何がなんだか──」
「──かの有名な猫型ロボットは言いました。人の目が前向きについているのは前へ前へと進むためだと。
では金剛先輩が前へと進むためには何をするべきか。そうです、マリー先輩に対する失礼な物言いに対する謝罪をするべきです。しかし、今この場にはマリー先輩がいないので後回しにして……今はリスナーのみんなを楽しませることだけを考えましょう。大丈夫です、俺も後で一緒に謝罪の言葉を考えますから」
「え? う、うん。ありがと……?」
未来ちゃん……
なんでこんなんで丸め込まれるんだよ
ちょろい……あまりにも……
@気づいて未来ちゃん
「いやー、色々と回り道をしてしまいましたが、やっと本題に入れますよ。このまま雑談オンリーなのもいいんですけど、せっかくなんでゲームしながらお話し……なーんて如何でしょう?」
今回のオフコラボでは、台本や段取り、何をするのかなどの相談等、事前準備の一切合切を行っていない。
これは金剛先輩に課せられている義務オフコラボでは毎度行われていることで、どんな状況でも臨機応変に対応できる能力を培ってコミュ障を改善するための荒療治のためだと運営に強制させられているのだ。
「荒療治」なーんて言ってるが、オフコラボの相手は皆……1名のやべー奴を除いて皆優しいので、そこまで大きな無茶振りはしてこない。せいぜい雑談やゲームくらいで、一般的なオフコラボで行われるようなことと大して差はない。
今回の俺の提案もその一環というわけだな。
「…………」
「ん? どうしましたか、金剛先輩?」
「……い、いったい何を企んでるの、渚ちゃん……!」
「!? な、なんで疑われているんですか!? 普通にゲームやるだけですよ!」
当然だろ
そりゃあ渚だし
未来ちゃんですら気づくレベルやぞ?
これまでの行いを振り返ってみな
「あ、あれ? 味方なし? もしかして俺ってやべー奴側だと思われとるのか?」
「その提案してきたゲームって、絶対ろくでもないものでしょ! は、白状してよ渚ちゃん!」
「いやいや勘違いですって。金剛先輩、運営のトゥイッターを見ましたか? クリスマスに向けてエトワール全員でゲームをやろうっていう投稿を」
「え? それって確か……マイクリだっけ? あれ? じゃ、じゃあ本当にただゲームを誘っただけ?」
「えぇそうね。ゲーム自体は何もおかしくはないわね。
数時間前にエトワール全員を罠にかけようと、アスライテとマイクリ内で色々と動いていたみたいだけど」
「やっぱり「普通にゲームやるだけ」って嘘じゃん!」
「ノ、ノワール先輩! なんで喋っちゃうんですか!」
そりゃあ喋るだろうよ
流石ですぞ姫!
朝まで問題児2人を監視していただけのことはある
このまま渚のことを止めてくれ……!
「な、なるほど。ノワールさんはアスライテさんと渚ちゃんの配信を見てたから知っていたんだね。
あれ? ということは2人が何を仕掛けているのかも全部見てるんだよね? なら、イタズラを回避することも……!」
「……残念ながらそれは難しいでしょうね。配信を見ていた限りでは普通に建築や採掘をしているようにしか見えなかったもの。それに、隠しておきたい内容は誰も知らない言語で交わされていたし」
「誰も知らない言語?」
「そういえば未来は直に聞いたことあったわね。アスライテと行ったアフリカで部族の方々が使っていた言語らしいわよ」
その昔、とある配信によって金剛先輩は罰ゲームを受けることになった。そして不運にも、罰ゲームの内容を決めるのがアスライテ先輩となってしまった。
アスライテ先輩は「大勢の人の前で踊りを見せ、それをトゥイッターにアップすること。あっ、もちろん顔バレしないように仮面はボクの方で用意するよ!」と言った。
当時はまだVtuberが生まれて間もない頃で、界隈の方向性というものもまだはっきりと定まっていなかった。そんな中で、仮面をつけるとはいえ生身の身体を晒す提案をしているのもだいぶイカれているのだが……アスライテ先輩はその程度で収まる者ではなかった。
周囲の人々の喧騒を横目に、アスライテ先輩はいい笑顔で金剛先輩に言った。
──それじゃあ、パスポートを取ろうか。
アスライテ先輩は「生身の身体を晒すこと」という大きすぎる題材について皆で議論させることによって「そもそも誰の前で踊りを披露するのか」という件について目を逸らさせたのだ。
そのことに皆が気づいた頃には時既に遅し、2人は飛行機に乗ってアフリカまで飛んでいた……
こうして、また1つアスライテ先輩のやべー奴エピソードが増え、簡単に流されてアフリカまで飛んだ金剛先輩は「エトワール1ちょろい女」「危険に気づけない残念な娘」という印象をリスナーに植えつけたのだ。
「う、うぅ〜……あの時のアフリカの言葉かぁ…………今でもたまーに夢で出るくらい、あの時の光景は覚えているよ。私を囲んで皆が言うんだ。ボゾムフシンチ、ボゾムフシンチって」
「いみもなくわれらをあつめおって! ぶざまなおどりをみせればころしてやるぞっ! ……ですか?」
「そうそう、それそれ! あの時の人たちはなんて言ってたの?」
「無様な踊りを見せたら殺してやるぞーって言ってました」
「えっ」
「でも安心してくださいよ。皆最後は笑って歓迎してましたでしょ? いやー流石は金剛先輩。即興で皆が満足するような踊りを見せたんですから」
「えっ、えっ、えっ」