オタク文化の創造神と呼ばれた俺がVtuberになった訳 作:ユリガスキー
「もう本当に恥ずかしいわ。この歳になってあんな風邪の引き方をするなんて」
「にゃはは! お腹出して寝ちゃったから風邪引いただにゃんて、彗月ちゃんも間抜けだにゃ!」
4日前に1人用レンジ鍋で晩酌配信をしていた彗月ちゃんは、テンションアゲアゲでお酒もぐいぐいと進み、マイクリ配信の疲れもあってか配信中に寝落ちしてしまった。
どうやらその時にお腹を出して眠ってしまったようで、それが原因で風邪をひいたとのこと。
軽い風邪で翌日には治ったようだが、大事をとって今日まで配信をお休みしていたのだ。
「むぅ、でも凛ちゃんだって人のこと言えないでしょ?」
「にゃ?」
「だって凛ちゃんもお腹出して寝たことくらいあるでしょ? 月一くらいで」
「そ、そんなにポンポン出していないにゃ! は、半年に1,2回くらいだし」
凛ちゃんェ……
聞こえてるぞー
でも凛ちゃんは風邪ひかなさそう
「んにゃー! そんなことどーでもいいんだにゃ! さっさとマイクリをやるにゃー!」
「おー!」
アスライテ先輩が企画したクリスマス建築対決は、今のところ俺たち三期生が1番遅れている。先輩方は既に建築に着手しているのに対して、俺たちは何を建築するのかすら未だ決まっていない。
そんな遅れを取り戻すべく、彗月ちゃんの風邪が治って配信ができるようになったら、いの1番にマイクリをしようと元々約束していたのだ。
その約束がなければ色々と理由をつけてコラボ配信なんてしなかったのに……グギギ
「やっぱりクリスマスーって感じのを建てた方がいいと思うけど……クリスマスっぽい建物ってどんな感じかにゃ?」
「先輩方とは被らない方がいいわよね? 一期生と二期生は何を作っているのかしら?」
ナギサ:イッキセイハ、クリスマスツリー。ニキセイハ、サンタノゾウヲ、ツクッテイルヨ!
「なるほどね」
ナギサ:キニナルナラ、アトデ、ミニイコーゼ!
「敵情視察ってことね!」
ナギサ:シコウガ、コワイヨ……
「……というか、なんで渚はチャットに書き込んでいるんだにゃ。普通に喋ればいいのに」
「えっ、普通に喋っていいんですか!?」
ダメに決まってるだろ!
俺たちの渚ちゃんを返せ!
返せ、返せー!
というか普通に喋ったら期日が延びたような
ノワール:じー……
ナギサ:ハッ! ソウダッタ!
ナギサ:ナラバ、チャットニカキコムシカナイナ!
ノワール:次チャットに書き込んだら本当に期日を延ばすわよ?
「…………うぅ……ノワール先輩のいじわる……」
仕方なくお嬢様言葉を、せめてもの抵抗で不貞腐れたような声で小さく呟くと、コメント欄が物凄い速さで流れ始めた。
やれ可愛いだの、やれ綺麗な声だの……リスナーたちが調子に乗るのが目に見えてたからお嬢様言葉なんて使いたくなかったのにぃ!
ぬ? お前も似たようなことをメンバーに散々してただろって? そりゃお前、する側に回るのはいいが、される側に回るのは嫌に決まってるだろうが。
ったく、どうしてこう、俺のリスナー共は調子のいい奴らばっかなんだ。
「うーん……違和感があるような、ないような……」
違和感がある……?
いつもの渚ちゃんと変わらないと思うけど
いったいどこに違和感があるというのだ
お前ら現実を見ろ
違和感がある、ならわかるけど、違和感がないとは?
「配信での言動だけを見ていたらそう思うかもしれないけど、私は渚ちゃんとオフで会っているからね」
「すっっっごく、わかるにゃ! 渚はめっっっちゃ可愛いしちょーーー綺麗だし、なんかもうオーラがすっっっごいのにゃ!」
そこまで言うか
凛ちゃん……語彙力が……
そういえば切り忘れの時にもそんなこと言ってたけ
「あれはアイドルとかやっててもおかしくないレベル…………いや、逆にアイドルになってはいけないレベルの美貌ね」
「え? 普通にトップアイドルのセンター張れると思うけど?」
「よく考えてみて凛ちゃん。渚ちゃんの姿を大勢の人の前に晒したり、お茶の間に流したらどうなるか。大変なことになるわ」
「んにゃー……確かに」
そこまで言う?
それは流石に盛りすぎでしょ
いったいどんなレベルの美しさならそんなことになるんだよ
「もうっ、やめてくだい2人とも! 恥ずかしいじゃないですか」
「ご、ごめんなさい」「にゃーー……」
「それに、これで身バレしちゃったらどうするんですか」
「いやこれだけの会話で身バレするとかなくね?」なんてコメントがいくつか流れているが、俺のひじょーーーに優れている容姿を知っている彗月ちゃんはどうやら気づいたみたいだ。人前に姿を晒してはいけない美貌という言葉は、俺を知っている人ならまず間違いなく俺を連想してしまうことを。
……凛ちゃんはそこんとこあまりよくわかっていないようだが。
まぁ、身バレを恐れてなんてのは建前で、本当は2人が俺のことを褒めるたび、コメントではやれ可愛いだの、やれ綺麗な声だの大量に流れて…………いや、さっきと書かれていること変わってねぇな!
と、とにかく、この悪しき流れを断ち切るためにも、さっさとマイクリに話題を変えないといけないのだ!
「……うーん? というか、渚はあの見た目で今までどうやって過ごしてきたんだにゃ? 学校とかもあるし人目に触れないなんて不可能──」
「凛ちゃん?」
「さ、さーて! さっさと建築を始めるとするかにゃ!」
わざとらしく大声を上げた凛ちゃんは、材料となる資材を取るべく地下へと繋がる倉庫へと走りだした。
「では私たちも行きましょうか」
「待って渚ちゃん」
「? どうかしましたか?」
「どうして凛ちゃんは渚ちゃんのことを「渚」って呼び捨てにしているのかしら……?」
「………………さ、さーて! さっさと建築を始めましょうか!」
逃げたwww
そりゃ逃げるわ
圧がヤヴァイ
そっか、彗月ちゃん風邪で休んでたから知らないのか
↑あの時の渚にデレデレだった凛ちゃん知ったらやばそう
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
というわけで、さっさと建築を始めるべく倉庫の地下へとやってきた俺たち3人は、色々な資材が揃っている豆腐建築の仮小屋の前で何を建設するかについて話し合うことになった。
話し合いをするだけなら地上でしてもいいのだが、ブロックの色合いや形などを把握していない彗月ちゃんの為にも、実物を見せた方がいいということでここまで降りてきたのだ。
「なるほど、階段ブロックにはそんな使い方があるのね」
「ふふーん! こんな小技はマイクリでは常識だにゃ!」
凛ちゃんは、階段ブロックを家の屋根やソファー等の家具に応用するという小技を彗月ちゃんに意気揚々と教えていた。
いつもなら横道に逸れた凛ちゃんを軽く窘めながら軌道修正する彗月ちゃんも、初めてのマイクリ建設やドヤ顔の凛ちゃんに興奮してか、珍しく凛ちゃんに便乗している。あぁー、彗月ちゃんの場合、マイクリ建設がどのくらい大変なのか理解していないのも要因の1つなのかな?
しゃーない。こうなったら俺が軌道修正するしかあるまい。
「初心者にマウントを取っているところ申し訳ないのですけど、そろそろ建築についての話し合いを始めませんか?」
「うっ、ごめんだにゃ……というか、いつもの渚より言葉が強いのにゃー……」
「……だって、こうでもしないとリスナーの方々が、また私をイジメてくるじゃないですか」
頬を赤らめながらそっぽを向いて、いじける様に話すと、コメント欄がまたもや物凄い速さで流れ始めた。そのほとんどが声にならない声で埋め尽くされており、俺が切り忘れ配信の時のような甘い雰囲気を出さない理由がこれでもかと現れていた。
真顔になった俺は「ほれ見てみぃ」と言わんばかりに顎をクイクイさせると凛ちゃんも「うむむ」と唸っていた。
「というか、純粋に気になるんだけど、渚のそれって演技なのかにゃ? それとも素なのかにゃ?」
それ聞いてもいいのか……?
皆があえて聞かなかったことを……
そこに痺れる憧れるゥゥゥ!!!
俺凛ちゃんの何も考えずに行動するとこ好きだよ(白目)
「それはもちろん演技に決まってるじゃないですか」
「おぉー、即答だにゃ」
「おふたりは、私が2回目の配信の時に言ってた言葉を覚えていますか?」
「2回目は確か、初配信で説明しきれなかった今後の配信内容の発表だったっけ?」
「そうにゃそうにゃ、下手くそな囚人服で凛を釣って「お絵描きは草」でボコボコにした、あのにっくき配信だにゃ」
「でも何を言っていたかまでは流石に覚えていないわね」
苦い顔をしている凛ちゃんをプギャーと笑って煽りたいところだが、あいにく今の俺はお嬢様モードを維持しないといけない。
というわけなんで、ここは1つ誰もが目を奪われてく完璧で究極なお嬢様を演じてみせよう。
「初配信の時に何故すぐに本性を曝け出したのか聞かれた際、私は『大好きなエトワール所属の彼女達を偽ることが嫌だった。生まれたままの姿をちゃんと見てほしい』って答えたんですよ」
当時の俺の発言をそのまま引用せずマイルドな言葉に置き換えて、清楚で可憐な印象を崩さない程度に『俺』の声マネをする。特徴は捉えているが、ちょっと似てないかも? くらいが丁度良い。
言い終えた後にクスリと小さく笑うのもポイントだ。当時のことを思い出して思わず笑みが溢れましたという風にな。
そうして笑みを浮かべたまま目と口を閉じる。
そのまま……3、2、1──
「──初めてだったのです」
「仮面を被る生き方しか知らない。友人という関係は絵本の中の存在でしかない。そんな身の上を嘆くことも、表に出すことも決して許されない」
ま、嘘なんですけどね。生まれてこの方仮面なんて被ったことなんてないし、友人も……ぜ、前世では沢山いたしな!
そんな(嘘っぱちな)悲痛な境遇を、それでも笑みを絶やさずに言葉を紡いでいく。そうして一通り語り終えたところで、閉じていた目をゆっくりと開ける。
こうすることで、今までの話しは過去、これから語るのは今現在の話しだと印象づけるだけでなく、そんな辛い過去があっても今現在は幸せなのだろうなぁとそれとなく思わせることができるのだ!
だから目を閉じて笑っておく必要があったんですねー。
「そうして絶望の中で足掻くことすら諦めてしまった私の目に、綺羅星が映ったんです」
ここですかさず、俺史上最高の笑顔を! ガワを超えて伝わるほどの最高の笑顔を!
「偽りの世界で生きてきた、偽りで塗り固められた私だけど、ここでは飾らずに『俺』として皆さんとお話しがしたい。そう思ったんです」
「ちょぴり、羽目を外しすぎたかなと思うのですけどね、ふふっ」
なんということでしょう。可愛い可愛いとあれほど騒がしかったコメント欄が、匠の手によって「ほげー」一色に生まれ変わったではありませんか。
「ほ、ほげー」
「……ですので、現状がとても心苦しいのです」
「ほげ?」
「凛ちゃん、語尾がすごくアホっぽくなっているわよ?」
「──ハッ! こ、心苦しいって?」
「今の『私』は偽りの私に過ぎない。そんな私のままで、エトワールのメンバーとリスナーの皆様方に接してもいいんでしょうか」
ここで絶対使わないと思っていた泣き顔差分をひとつまみ……w
な、渚ちゃん……
泣かないで
;;
今の渚ちゃんを偽りだなんて思わないよ!
そうだよ!
「そーにゃ、そーにゃ! みんなの言うとーりだにゃ! はっちゃけてる渚も、お嬢様って感じの渚も、どっちも渚であることに変わりはないにゃ! どんな渚だって偽りだなんて凛たちは思わないにゃ!」
「……! ありがとう、ございます……!」グスッ
「でも、これは私の気持ちの問題なんです。『私』でいると、どうしても……
なので日付が変わるまで……いえ、この配信が終わるまでの少しの時間だけ『俺』として偽らずに過ごせたらな、と」
ノワール:別に良いけど期間を延ばすわよ?
「チッ」
「───にゃ?」
「凛ちゃんやリスナーを利用して、罰の延長なしで口調を戻そうと画策していたのですが、まだ配信を見ていらっしゃったとは。
少しの間だけでも息抜きができるかと思ったのですけどね……残念です」
「────にゃ?」
へ?
あ、あれ?
えっ、どゆこと、なにおき
だって今まで泣いて……いない!?
今まで見ていたお嬢様は……!?
↑そんなものはない…………えっ、ないの?
その瞬間、俺たちは思い出した、こいつが渚だったってことを
凛ちゃんも完全にやられちまってる……
「─────にゃ?」