トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部の日常 作:まっしろたまご
トリニティ総合学園。
数々のお嬢様を内包し、他学園からは『高貴で優雅』と評される、伝統のある学校。
黒い噂の絶えないシスターフッドに、恐れられる救護騎士団*1、ゴリラを飼育するティーパーティーなど、さまざまな組織がある中、学園の端にあるプレハブ小屋を拠点とし、その部活は存在している。
『トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部』。
近年人数が下火であったボードゲーム研究会を一新、改装して出来上がった部活でありながらも、多くのお嬢様の心の拠り所となっている。
「このクッ……お排泄物ラグゥ!!!」
「ハア?!なんでコイツ壁越しに見えてやがりますの!?」
トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部には、今日も罵声が響き渡る。
妖怪マックスをバチキメながらプレイするお嬢様方に世間体は存在しない。
最高峰の防音壁に、窓は二重。なんなら学園の端に建てた部室で尚騒音の苦情が相次いでいる。
そしてついた異名は『トリニティ総合学園モンキーパーク』。全く不名誉な称号であるが、残念ながら当然の評価だ。
たとえどんなに品行方正なお嬢様であっても、一度足を踏み入れればあら不思議。あっという間にモンキーの仲間入りしてしまうのというのは今やトリニティ七不思議のうちの一つ。有名なお話だろう。
「よぉっし、格ゲーお嬢様!萎えたんだったらデュオ行きますわよ!」
そんな入るだけでモンキーと評される部活に在籍するお嬢様たちは、それぞれコードネーム的なものを持っている。
当然だろう。本名であんな部活にはいったとなれば今生の恥だ。
『格ゲーお嬢様』に『バトロワゲーお嬢様』、『パズルゲーお嬢様』……得意とするゲームジャンルの名を冠した様々なお嬢様の紡ぐ青春の物語を、覗き見ていくとしよう。
「しっかし、めずらしいですわね。大人しく乗ってくるなんて」
「
掃除当番がなかったため意気揚々と部室に向かい、ランクマの前哨戦にフリーマッチへ飛び込んだ格ゲーお嬢様。
しかしそこで彼女を待ち受けていたのは
『どちらかのラグによってまともな勝敗がつかない』、なんてことはゲーミングお嬢様でなくとも経験したことはあるだろう。しかしそこに、『不条理な敗北による煽り』というエッセンスを加えると、怒りの限界を超えたお嬢様の拳は意図も容易くモニターを突き破る。
活動初期はそれによる備品の破損が相次いだ。だが、それを機に『叩くと爆ぜるゲーミングデバイス』をミレニアムのエンジニア部に発注し、運用を開始してからというもの、安易に机などを痛めつける阿呆は居なくなった。
万が一怒りをデバイスにぶつければ、そのモンキーには連鎖爆発と弁償による制裁が下るだろう。と言っても彼女らはお嬢様。後者の制裁でダメージを受けるものは存在しないが。
「デュオに行くのはいいんですけれど……あなたプレ維持*3してるんじゃなくって?こんなことしてる暇ありますの?」
「あ〜あれですわね。競技勢にボコされてからはタッチに変えましたわよ」
ゲームは上手くなればなるほどフラストレーションが貯まるもの。それを上手く発散しつつ実力を高めることが、『全キヴォ1お嬢様』への近道だ。
「いつまでもそんな
「四割チート*4がなんかほざいてますわね。親指だけじゃなく舌も良く回ること」
ここで留意していただきたいのは、彼女らは別に仲が悪いわけではないということだ。
お互い気心の知れたもの同士、軽口感覚で煽り合うことこそが『トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部』の部訓である。
「序盤どうしますの?」
「
「相変わらずお気持ちの悪い略し方ですわね」
彼女らの会話は大雑把に略されているためバトロワお嬢様語翻訳アプリにかけると、
『自分物資いいけど漁夫行く?』
『物資が弱いから戦いに行けない』
『OK、敵を避けて漁ろうか』
となる。FPSゲーマーお嬢様やバトロワお嬢様には、こういう風に会話を省略する習性が多く見られるため、覚えておいて損はない。
時は流れて最終局面。お嬢様部員達は最後の範囲収縮中の最終決戦を行なっていた。
「一応確認しておきますが、ULTはありますの?」
「道中で使っちまいましたわ」
彼女らはしているゲームには、『アルティメットスキル』というものが存在している。
時間経過で使用準備が整う、その名の通り超強力なスキルなのだが……
あろうことか、格ゲーお嬢様は『戦場に華が足りませんわァ!!!』なんて言ってぶっ放してしまった。お陰でクールタイムはまだあけず、そこそこにピンチな状態である。
彼女らを覗き見ている皆様には、この事の重大さを理解できぬ方もいらっしゃるだろう。そんな方のために簡単に説明するのであれば……
上手く使えば銃撃戦の途中で数人を無条件に退場させられる、と言ったところだろうか。
雑に使っても自分達に有利なフィールドが出来上がる。
が、格ゲーお嬢様はそんな優秀なアルティメットスキルをお漏らししたのだ。
そう。それが普通にバトロワお嬢様の逆鱗に触れた!!
「あ〜クッソ。格ゲーお嬢様のULTがあれば殲滅が楽ですのに」
「悪かったって言ってるじゃありませんか。引きずる女はモテませんわよ?」
「親指引きちぎりますわよこの野郎!」
怒号、罵声。打鍵音。
ゲーマーお嬢様達が織りなす地獄のハーモニー。
弾は切れ、回復も時間もなく味方はアホ。しかし最後の最後まで戦い抜き、最後の一瞬まで勝利に手を伸ばし続ける。
そして、伸ばされた手は美しい放物線を描いて敵アバターの顎を抉る。
と、同時に、画面にデカデカと『CHAMPION 』の文字が表示される。
チーム『ゲーミングお嬢様部』の勝利だ。
「イッッッッッッッッシャアアアアアアッッッ!!!!!」
「ナイスパンチ!!ですわよ!!」
ランクマッチや日常生活のストレスも吹っ飛ぶ快感。この瞬間のために生まれてきたのではないかと錯覚するほどだ。
「やりましたわね。バトロワお嬢様」
「でも許しませんわよ。格ゲーお嬢様」
「アイスでも奢るのでお許しくださいまし」
「ハーゲ◯ダッツで手打ちにしますわ」
連れ立って部室から出て行くお嬢様二人。
一歩でも部室から出てしまえば、彼女らも普通の少女達だ。モンキーの面影はもう無い。
少女達は仲睦まじい様子で手を繋ぎ、近くのエンジェル24へと吸い込まれていった。