トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部の日常 作:まっしろたまご
トリニティ自治区を離れ、ミレニアム自治区へと足を運ぶお嬢様が二人。
「付き合わせて申し訳ありませんわね」
「注文していた4090の受け取りが今日ですの。気に病む必要はありませんわ」
一人は我らがモンキー筆頭バトロワお嬢様。もう一人はモンキーパークの中でも1、2を争う賢者*1とされる落ちゲーお嬢様だ。
トリニティ自治区には彼女らのようなヘビーゲーマーが満足できるゲームショップは少ない。
貴重なPCパーツや新作ゲームの入荷状況で言えばミレニアムがぶっちぎり、ゲーマーや技術者たちにとっては完全にパラダイスだ。
さてそんなミレニアム自治区遠征。例のごとく彼女らは令嬢モードではなくお嬢様部モード。世にも珍しいモンキーたちの外出だ。
ゲームショップを去り、次の目的地はド〇パラミレニアム店である。
到着。さっそく突入しようと鼻息を荒くするバトロワお嬢様。しかしそれを落ちゲ―お嬢様が制止した。
「お待ちください。少し様子が……一度観察するべきかと」
「……?問題ありませんが……どうかなさいましたか?」
じっと目を凝らして店内を見つめる落ちゲ―お嬢様。彼女の卓越した視覚はフレームを見切り、格ゲーお嬢様を発狂させ、なんやかんやで部室が爆ぜた。
数分経っても動く様子のない落ちゲ―お嬢様に痺れを切らし、バトロワお嬢様が動こうとした瞬間、ドス〇ラが……爆ぜた。
「やっぱりですわね」
「な、え、ちょ、何が起こってますの?!」
店舗の外、でかでかとバッテンが描かれたマスクをつけた少女、通行人を威圧し続け、中の似たような服装をした生徒とコンタクトを取る。それに爆破まで加われば役満だ。
「強盗ですわよ。あの服装、おそらくブラックマーケットで普段行動している連中でしょう」
「正体なんてものはどうでもいいんですわ。アイツらは私たちの味方か敵か……明言してくださいまし」
「吐き気を催す邪悪、忌むべき大罪人、ぶん殴っていい相手ですわ」
それを聞いた瞬間、明らかにバトロワお嬢様の目の色が変わった。
ギラギラととした光を宿すそれはまず間違いなくお嬢様のそれでなく、腹をすかせた肉食獣を彷彿とすらさせた。
「私は援護に回りますわ。リコンはお任せくださいまし……ってもういらっしゃらない。相変わらず血気がお盛んだこと」
キヴォトスでは最近、仮想通貨のマイニングがブームになりつつある。
故にグラボは品薄となり、ゲーマーたちは価格高騰に喘いだ。そんな中、正当な対価なしに貴重品を得ようとするとは言語道断。素晴らしいものには相応なものを差し出すべきというのが彼女ら共通の思想だ。
「ごきげんよう。強盗団の皆様。わたくしはトリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部部長、バトロワお嬢様ですわ」
「あ?んだよテメェ。ナヨナヨしたやつが邪魔すんじゃ―――へぶっ!」
「てめーに捧げる祈りはありませんわ。寝とけ。遅すぎるんじゃボケ」
罪人に安らかな死を。なんて物は存在しない。法と規約を守らぬものに、速やかな死を。
《あ、やっと応答しましたわね。おせーですわ》
「罪深き者を救済しておりましたの。まぎれもないお嬢様ですわ」
《イントネーションが関西のオッサンになってますわよ》
軽口を叩きあいながら店の奥へと進んでいく。指示に沿って撃つだけで敵が倒れていく快感。VAL〇RANTで鍛えたピーク技術のたまものだ。
「さすがの指揮、もとい情報収集ですわね。感服いたしますわ」
《それはどうも。これだけが取り柄ですので》
お嬢様部の襲撃をうけ、強盗団は一か所に固まることを選んだようだ。ご丁寧に人質まで取って、籠城の準備は万端らしい。
《あ~~。トラップとかはありませんがなかなかにおクソ……籠城ですわ》
「場所と配置さえ教えていただければなんとかしますわ。腐っても『部長』ですもの」
《では、制圧に関してはお任せいたしますわ。情報は端末に共有しておきました。検討を》
ブツリと通信は途絶。薄情だとも思いつつ、後輩の配慮に感謝する。
「本当、私には出来過ぎた後輩ですわね。気回しもばっちりとは」
『お嬢様部部長』の称号は伊達ではない。全てのゲーマーお嬢様たちを腕っぷしとゲーム両方でぶっちぎりで超越した彼女の戦闘スタイルは常軌を逸している。というかかなり不快指数が高いので誰かに聞かれるわけにはいかないのだ。
「……さて。行きましょうか」
情報をもらった扉を押し開けると、すぐに思い描いた通りの光景が広がっていた。
「よぉ。誰かは知らねぇが、アタシの部下を随分といじめてくれたらしいじゃねぇか」
「いじめる……というには語弊がございますね。私はそこいらのトリカスと違って高潔ですから」
「あ?口答えしてんじゃねぇぞ。じょ~う~きょ~う!分かってんだろうな?」
「ええ、わかっておりますとも。『馬鹿が集まって犯罪ごっこ』ですわよね?わたくしも混ぜていただけると嬉しいですわ」
言い終わらないうちに、バトロワお嬢様を四方八方からの弾幕が襲う。しかし弾丸はすべて彼女を通り抜け、ダメージを与えることはなかった。
「騙されたな!クソ馬鹿共が!!」
部屋の真ん中に突っ立っていたお嬢様はホログラムであった。そして消えたと同時、突き刺すような視線が不良たちの全身を襲う。
段ボールの中、机の下、自分の背後、天井、壁の隙間、窓の外。どこを見ても同じ人間が……バトロワお嬢様がニチャニチャとした気持ちの悪い笑みを浮かべている。
「ヒッ?!」
「な、なんだよこれ?!」
ホログラムのデコイに、搭載されたスピーカー機能。おしゃべりはただの時間稼ぎにすぎず、本命は『この』状況を作り出すこと。俗にいう先読み系お嬢様だ。
「それじゃ、この方は頂いていきますわね」
ロボットの店長を担ぎ、悠々と退出するバトロワお嬢様。しかし不良たちは1670万色に発光を始めたお嬢様群に気を取られて動くことができない。
「お楽しみはここからですわよ……ふふふ……」
クリクリと音量調節のツマミを回し、『戦闘態勢』が整う。ここから始めるのは、愚か者へのレクイエム。彼女からの、せめてもの慈悲だ。
「さぁ、再生!死にやがれですわ!」
最大音量に設定されたスピーカーから、やや左側に偏った旋律が不良達の耳を穿つ。
光で目をやられたなら耳もセットで。それが優しく優雅なお嬢様流の慈悲だった。
「I AM A APEX CHIMPOYAN……ふふふっ……」
制圧後、一人でど下ネタを呟いきながら微笑む彼女を目撃したものは、誰もいなかった。