トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部の日常 作:まっしろたまご
トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部には今日も罵声が響き渡———らない。
普段は猿叫を上げ机に殴り掛からんとする彼女らも今日は粛々と身なりを正し、厳かな雰囲気を纏っている。
「ところで、この条約に意味ってありますの?」
しかし、本質的には普段の彼女らと変わりはない。
現にカスの質問をしたのはFPSお嬢様だ。
「仕方ないですわね……説明して差し上げますわメガネクイッ」
「あらパズルゲーお嬢様。
「バトロワお嬢様。本音お漏らししてますわよメガネクイッ」
「あら、これは失礼」
おほほ……としばし微笑み。
双方目は笑っていない。
「いてこましたるぞコラ」
「関西のおっさんが出てますわよメガネクイッ」
「ええ。私も悪くはありましたが……とりあえずそのキッショい語尾をおやめくだいまし」
「しかしこれをやめてしまうと個性なき一般お嬢様に逆戻りしてしまいますのよ。私とてトリカス堕ちはご勘弁願いたいですわメガネクイッ」
そこからはエデン条約の説明を真面目に行っていたのでしばし割愛。
『進研ゼミでやったところだ!』というお決まりのセリフが飛び出したのは言うまでもない。
「しっかし、テレビで映されてるほどの厳戒体制だと、何も起こりそうにありませんわね」
「ええ。先程説明した通り、トリニティとゲヘナ両校から主戦力が集っていますから」
「何か事件でも起こって、ゲーミングお嬢様部で解決してしまえば存続も楽なのですけれど……」
ゲーミングお嬢様部は由緒正しき部活動の多い学園内ではかなり珍しい、新設の部活である。
『いかなる状況下にあっても態度を崩さず、世に出すに相応しい立ち振る舞いを身につける』というおよそ今の彼女らとは似ても似つかないモットーを掲げ、ダメ元でティーパーティーに直談判した結果なんとか創設されたという経緯を持つ。
今日の今日までミカのワガママにより実績の無いまま存続してきたが、先日その後ろ盾が見事に失脚したのだ。
事件を望む、というのは余りにも不謹慎ではあるが、漠然とした目標を抱えていること、大会での成績は正式な実績として認められないと突っぱねられた*1ことが足を引っ張り、解体の猶予まで残るは数ヶ月となった部長の胸中は測り知れない。
しかし、幸か不幸か、彼女の望みはすぐに叶えられることになる。
まず彼女らの顔に浮んだのは驚愕。
普段となんら変わりない雰囲気は一瞬にしてぶち壊され、その代わりに緊張が場を支配する。
「行きますわよ。皆様。大和魂を見せる時ですわ」
「こういう時は風紀や正実に任せたほうがいいのではないのですか?」
「いえ。大人数の機関は投入に時間がかかるほか、生徒会の認証も必要ですわ。その上そのニ組織となりますと現場で甚大な被害を受けているはず」
「こういう時だけ無駄に頭が回りますのね。で、本音は?」
「さっさと大将首取りに行きますわよ」
「それでこそ我らが部長ですわ!」
***
モニターからの爆音で腰を抜かしていた格ゲーお嬢様を引きずり、執事に手配させておいた自家用ジェットをかっ飛ばして現地へ。
今は正実もティーパーティーも出払っているため、邪魔が入ることなく離陸でき、阻む物のない空路を秘密のスピードで飛行。その間に作戦の準備をは着々と進む。
『調印式会場にはまだゲヘナ側の生徒会長が現着していませんわ。おそらく次に実行犯がアクションを起こすならそこ。というわけで襲撃が予想される地点とそこをカバーできるロケーションを端末に共有しておきましたわ。パラシュートで降下して向かってくださいまし』
「「了解しましたわ!」」
武器及びその他の装備を整え、説明を受けているうちに現地へと到着し、バトロワお嬢様は付近で一番高い建物の上へ。格ゲーお嬢様は遮蔽物の多い物陰へと無事着陸した。
ごうごうと大きな音を立ててプライベートジェットが飛び去った他には何も物音は無く、辺りはピリピリとした緊張感に包まれている。
しんと静まり返った辺りに影が差し、大きな川の対岸から、飛行船が悠々と姿を表したことが分かった。
ちょうど飛行船の真正面、
青のメッシュが入った黒のロングヘアに、少しサイズの大きな白衣。そして極めつけは———腕に刻まれた髑髏の刺繍。
『ターゲット確認。間違いありませんわ。これより作戦を開始しますわ』
カウントダウンの後放たれる狙撃。
芋砂渾身の一撃が、ターゲット『錠前サオリ』を襲った。