トリニティ総合学園ゲーミングお嬢様部の日常 作:まっしろたまご
「リーダー!屈んで!!」
バトロワお嬢様の放った渾身の一撃は、虚しくもいち早く危機を察知したミサキの掛け声によって軽くかわされてしまった。
突然の襲撃、心当たりはあるにはあるが、気づく事すらできない距離からの長距離射撃を可能なスナイパーは事前に受け取った要警戒人物のデータには無い。故のノーマーク、故の完全な不意打ちである。
弾丸が目標地点を通過した後コンマ一秒にも満たず、そばの物陰に身を隠していた格ゲーお嬢様は錠前サオリへとノーガードで駆け出していた。
しかし実力差や周囲への警戒度合いを考慮し、ターゲットを先程注意を促した少女へ変更。
途中遠距離から狙撃を受けるものの、一瞬だけバリアを展開しそれをいなす。いわゆるジャストガード。本来ゲーム内でのみ許された挙動を再現できた事に脳内麻薬が放出され、格ゲーお嬢様のボルテージが上がる。
鮮やかな掴み、流れるような投げ。おまけにピンを抜いた季節のグレネードを添えておく。なんてアットホームな起き攻めだろうか。
飛び退いた格ゲーお嬢様とサオリをよそに爆炎が上がり、ミサキが一時リタイアとなる。
「……あ〜ったく避けやがってクソわよ……さっきので仕留め切る予定でしたのに……あたらねー砂なんていらねーんってですわよ」
『おハーブ生えますわね。私が狙ったのはその奥、相手狙撃手ですわよ。わかったら近接がんばってくださまし』
「頑張れじゃなくててめーも頑張んですわ」
インカムで軽口を叩く余裕はまだある。不意打ちで人数有利もできている。依然として、状況はゲーミングお嬢様部有利だ。
「ところで、あの黒髪の御仁について情報はありませんの?相当な手練れとお見受けしますわ」
『今調べてる途中で———ファッキン
「特定企業へのヘイト発言はNGですわよ」
突如スクワッドに対して襲撃を仕掛け、一人持っていったと思えば内輪でわーわーと騒ぎ合う彼女らを見て、錠前サオリはひどく困惑していた。
卓越した近接戦闘能力、高精度な狙撃、各々の優秀な判断。そこいらの正義実現委員会よりは数段骨のある相手だろう。
しかし、それほどの相手をマダムが、アズサが見逃すだろうか。万が一低い確率でどちらとも接触していなかったとして、これほどの実力があれば名が売れているはず。しかしそんな様子もなく、互いに誰かどうかもわからぬまま戦闘を開始しているのである。
錠前サオリは達アリウススクワッドは既に『雰囲気』に飲み込まれていた。
判断力、戦闘力はそのままに、IQがじわじわと下がっていく。
(誰かはわからないが……仕方ない)
平時の彼女であれば、ミサキを回収した後即退却を判断していたであろうこの盤面。
しかし、今は愛銃を構えて反撃の用意を整えた。
「引くかと思ったのですが……やる気ですのね」
「ああ。逃してはくれないんだろう?」
「もちろん。ただ、タイマンとなれば
双方合意の上1v1。イメトレだけは一丁前にかましてきた歴戦のお嬢様とガチ歴戦の風格を漂わせる正体不明の部隊のリーダー。
一見勝敗はすぐにつくと思われたこの戦いは、格ゲーお嬢様の思わぬ粘りによって泥沼化していく。
『蛮勇』『悪知恵』『暴力』のトライフォースを併せ持つと自称する格ゲーお嬢様だ。これらに特に関係はないがとにかく耐久し、隙を見せない戦い方を得意としている。
距離を取ろうとステップを踏むサオリにピッタリと張り付き、ARの射程に持ち込ませまいと奮闘。互いに攻撃こそできないものの、体力はゆっくりと減る。
サオリがARを構える。格ゲーお嬢様が射線から姿を消す。音から方向を特定する。しかしそれはバトロワお嬢様に借りてきたデコイであった。
見失う。見回す。見つからない。錠前サオリに焦りが生まれる。
「……ちょこまかと!」
「後ろですわバーカ!!」
「……!しまッ」
言い終わらぬうちに、格ゲーお嬢様迫真の足払いによってサオリは体の制御を失った。足が掴まれるのを感じ、次に自分の位置を確認できたのは遥か上空。。キヴォトスの人間である以上怪我はしないであろう。ここでようやく、彼女は自分が天高く放り投げられたのだと気づく。
「部長!」
「合点!ですわ!」
手出しは無用。撃たないとは言っていない。小学生の屁理屈が如く放たれた弾丸が、こんどこそ錠前サオリのこめかみにクリーンヒットした。