第二種乙ツンデレ取り扱い説明書   作:RKC

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"曇らせ"っていうのはね、キャラクターが可愛くないといけないんですよ。
可愛いものが過酷な状況に晒される様を見る事で、ドーパミンが出るんですね。

可愛いものを愛でるのと同時に攻撃性を抱き、興奮する。これをキュートアグレッションって言うんですよ。誰もがキュートアグレッションに陥る可能性がある。

つまり"曇らせ"の種は誰しもが持っているんです。その種に水をあげられるような作者に僕はなりたい。



1話

 ツンデレ。

 それは、人間の性格を表す言葉。突き放すような“ツン”とした態度と、心を許した異性に見せる“デレ”を併せ持つ性格。

 

 以上の曖昧な定義により、ツンデレは時代と共にその意味を変遷させてきました。

 例えば、意中の相手に対して基本的には“デレデレ”したいが、何らかの事情により“ツンツン”してしまう第一種ツンデレ。

 

 他にも、一般的な男子生徒に対しては“ツンツン”するが、心を許した相手にだけ“デレデレ”する第二種ツンデレ。

 

 様々ありますが、今回は第二種ツンデレの中でも、第二種乙ツンデレの取り扱いについて説明していきます。

 

 

 

 

           ♢

 

 

 

 

 今回解説する第二種乙ツンデレは、白泉宿(はくせんしゅく) (かんな)さん。高校1年の女子学生。

 彼女は身長151cm、体重48kgの小柄な女性。勉学は学年で10本の指に入る程。部活動には入っていないが、1週間に2~3回、5kmのランニングを趣味にしています。タイムは平均25分ほど。女性の中ではかなり速い方でしょう。

 

 勉強、運動に加えて容姿も優れている方であり、クラスの中では高い立ち位置います。とはいえ他人に対し、たまに攻撃的な面が見られます。基本的にコミュニケーション能力は高いのですが、そこが玉に傷。

 

 例を見てみましょう。

 

 場面は中間テスト返却の時。クラスメイト達がそれぞれ点数を見せ合っています。才色兼備の彼女はもちろん高得点です。90点を下回る科目は一つもありません。

 

「カンナちゃんすごーい! 全部90点以上! 天才か?」

 

「これぐらい当然よ。毎日1時間、テスト期間は3時間勉強してるから」

 

 にぎやかな女子生徒が彼女を(はや)し立てます。それを受けて、彼女は喜色満面。とはいえ、周りより優れているという優越感では無く、周りよりも劣っていなかったことに安心している様子です。

 

 ワンポイント解説

 第二種乙ツンデレの人は、自分に自信がありません。そのため、他人より優秀であろうとせず、他人より劣っていない事を望みがちです。

 

「それより、(シオリ)は赤点がいくつかあるのを何とかしなさいよ……。期末でもう1つ赤点を取ったら夏休みの補習が決定するけど」

 

「う……。でも部活で疲れた後に勉強なんかやりたくない…」

 

「テスト期間は部活休みだったでしょ」

 

「いつも部活ばっかりやってる人間が勉強するわけないじゃん。ずっと自主練してた」

 

「じゃあ授業をちゃんと聞きなさいよ。半分ぐらい寝てるか、ボーっとしてるじゃない、(シオリ)は」

 

「えぇ~…。でもカンナちゃんみたいに家とか塾で勉強しないと成績上がらないんじゃない? ほら、頭良い人って塾に通ってるイメージあるし」

 

「頭が良い人は授業をちゃんと聞いたうえで更に勉強してるの。考えてもみなさい、授業は一日6時間。そのうち半分を寝て過ごせば勉強時間は3時間。

 授業中ずっと起きてるだけで1日の勉強時間が3時間増える計算よ。授業中ボーっとして家で3時間勉強するのと、どうせ拘束される授業を真剣に聞くのとどっちが効率的?」

 

「これからは、(あと)動画一本見たら勉強しようを永遠と繰り返し、結局勉強せずに夜更かししてしまう生活態度を直ちに修正し、授業を真面目に聞こうと思います」

 

「よろしい」

 

 第二種乙ツンデレの特徴ではありませんが、彼女は建設的でお節介な性格のようです。

 

「はぁー……。カンナちゃんは運動神経も良いし、頭も良いし、面倒見も良い。私が勝っている所なんて握力ぐらいしか無いよ~……」

 

「そんなこと無いでしょ? 少なくともおっぱいと上背(うわぜい)だけは(シオリ)の勝ち~」

 

 もう一人の女生徒がにぎやかな娘を揶揄(からか)うように言います。

 

「当然! 脳みそじゃなくて体に栄養いってるからね! 男を(たぶら)かして彼氏作るのは私の方が先かな~」

 

 にぎやかな娘が胸を張って冗談交じりに言いました。普通であれば苦笑を返すような場面ですが、彼女は過剰な反応を返します。

 

「べ、別に胸が大きくて身長高いからって彼氏が出来るとは限らないでしょ! ち、小さいのにも絶対需要はあるし! 私はニッチな所の供給なだけで!」

 

 ワンポイント解説

 第二種乙ツンデレの人は、自分に自信がありません。そのため自分が他人より劣っている所を指摘されると、弱い部分を隠そうと攻撃的になってしまいます。これが“ツン”の部分になるわけですね。

 

 先取り予習となりますが、自信の無い部分をさらけ出しても良いと思えるほど信頼している人物の前では、普段の“ツン”の反動かしおらしく甘える事が多いです。これが“デレ”の部分となるわけですね。

 

「おっぱい大きくてもそういう男しか寄ってこないし! 身長高いと可愛らしくないとか言われて……!」

 

 そこまで言って、彼女は我に返りました。言いすぎてしまったと口をつぐみます。

 

 第二種乙ツンデレとはいえ、この反応はいささか過剰に思えます。この場合、自らの体形に大きなコンプレックスがあると推測されるので、良く留意しておきましょう。

 

 気まずそうな彼女とは対照的に、にぎやかな女生徒は何も気にしていません。

 

「そうだよね~、カンナちゃん小さくて可愛いし。小さい方が男の子には可愛がられるよね~」

 

 女子生徒は彼女に抱き着いてそう言います。

 

「あんまり引っ付かないでよ…」

 

 不服そうな彼女。それもそのはず、第二種乙ツンデレの人は防衛本能が強く、不用意に触られるのを嫌う傾向にあります。そして防衛本能が強いあまり外敵を寄せ付けまいと、攻撃的な態度、“ツン”を取ってしまう原因にもなるのです。

 

 とはいえ、過ぎる暴言を口走ってしまった負い目があるため、無理に押しのけることも出来ないようです。結局、その休み時間はベタベタとまとわりつかれたまま過ごしていました。

 

 以上のやり取りで、第二種乙ツンデレの特性の大幅は掴めました。ここからは実際のコミュニケーションを想定した取り扱い方法を解説していきます。

 

 

 

         ♢

 

 

 

 今回はアナタが時季外れの転校生として、彼女のクラスに編入した場合を例に挙げます。先生に呼ばれて教室に入るなり、クラス中から好機の目が刺さります。その中には当然彼女の視線も。

 

 肝心のファーストコンタクト。しかし、彼女のアナタへの印象は良くないようです。

 というのも彼女の隣の席は空席であり、転校生が座るとすればそこ。パーソナルスペースに入られたくない彼女は、隣席が埋まる事を好ましく思っていません。

 

 “隣の席に座られるぐらいで大げさな“、そう思っている内は彼女を攻略する器に満たず。学校机がくっついた状態での隣の席との距離はおおよそ60cm。一般的にこの距離はパーソナルスペースにおける個体距離――相手の表情が読み取れる距離、手を伸ばせば相手を捕まえられる距離とされており、友人ほどの親しい人でなければ違和感を感じる距離です。

 

 しかし、彼女にとって60cmとはパーソナルスペースにおける密接距離――家族程の親密な人でなければ立ち入りを許さない距離です。そこに見ず知らずの他人が入ってこようというのですから、彼女の警戒ぶりも納得の物。

 

 そのためアナタが彼女の隣の席に座る際、出来るだけ彼女から離れた所に座るようにしましょう。机の端に寄るように椅子を動かします。

 

 これで彼女との距離は約90cm。ギリギリ密接距離の外。とはいえ、まだまだ個体距離。彼女の警戒は解けていません。そもそも机の端っこの方に座っているような変人に心を許す人間は少ないでしょう。

 彼女はアナタの座り方に疑問を持っていますが、物理的な距離に多少の安心感を抱いています。この調子で彼女を警戒させず、“友人”の関係に持っていくことをひとまずの目標としましょう。

 

 まずは自己紹介です。簡潔に、名前と“今後ともよろしく”という旨の挨拶。この程度で問題ありません。

 

「私は白泉宿(はくせんしゅく) (かんな)。これからよろしくね」

 

 彼女の眉間に、僅かに寄ったしわが姿を消します。きちんと挨拶を交わすことで、彼女の中でアナタの認識が他人から知り合いに変化したためです。挨拶というのは(おろそ)かにしがちですが、無料かつ簡単で大きなリターンを得られるので忘れないようにしましょう。

 

 しかし、まだまだ“知り合い”の間柄。心を許してくれたわけではないので、引き続き彼女に無用な警戒心を抱かれないよう注意しましょう。

 

 ホームルームが終わると、1限目までの休み時間に他のクラスメイトがアナタの元へと寄ってきます。転校生ですから、初めの内に注目の的になってしまうのはしょうがありません。甘んじて質問攻めに()いましょう。

 

 

      ♢

 

 

 無数の質疑応答を捌いていると予鈴が鳴ります。すると、アナタの机の周りに群がっていた生徒は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの席に戻っていきます。

 そんな時、隣の彼女が話しかけてきました。

 

「……ねぇ、どうしてそんなに端っこの方に座ってるの?」

 

 ついに聞かれてしまいました。ここは一度、下手な言い訳をしておきます。

 

“今日の朝、餃子を食べちゃったからニンニクが……”

 

「さっきはクラスの子と至近距離で話してたのに?」

 

 彼女の(もっと)もな指摘。下手な言い訳をする間の抜けた所を見せ、彼女の警戒心を(ほど)きつつ、真意を伝えましょう。

 

“隣に座った時、あんまり良い顔してなかったから。人見知りなのかと思って”

 

 彼女はアナタにそう言われると、一瞬驚き、目を丸くします。

 彼女の性根は人見知りですが、友達が少ない=コミュニケーション能力が劣っている、と他人に捉えられかねないため、無理して交流を広げていました。

 自らの本質を初対面の人間に見抜かれれば、誰だって驚くでしょう。同時に自分を見透かされたような錯覚に陥り、警戒心を抱く場面でもありますがここで更に一芝居打ちましょう。

 

“ごめん、もっと端に寄った方が良かった?”

 

 そう言って、机からはみ出るぐらい椅子を寄せましょう。アナタは通路のど真ん中に座しています。そこに丁度1限目の先生が教室に入ってきました。

 

「……なんか転校生の座標がズレてないか?」

 

 先生が指摘すると、ちらほらと笑い声が聞こえてきます。共感性羞恥を覚えたらしく、顔を赤くした彼女がアナタを机の中央へと引き戻します。

 

「真ん中に座ってて良いから! あんまり恥ずかしいことしないでよ、もう…」

 

 道化を演じたおかげで、彼女はアナタに対して警戒心を抱いていません。

 

 “そもそも彼女の性根を見抜くような発言をしなければ良かったのでは?“

 

 その疑問は(もっと)もですが、ここで彼女の性根を知っているぞ、と示した事が後々(のちのち)聞いてくるわけです。

 

 人間、自分の欠点だと思う部分、露わにすれば嫌われる可能性の高い本性は嘘で隠すものです。逆に言えば、その部分を知られている人間に対してはある程度、素を出しやすくなります。

 虚勢の“ツン”ではなく、臆病で甘えたがりな“デレ”の露見確率が上昇するわけですね。

 

 さて、1限目が始まりました。授業中に彼女と親交を深める事は難しいため、大人しく授業を受けましょう。しかし、その際にも注意が必要です。

 

 例えば授業中、教科書が机の境界線を越えて彼女のテリトリーを侵す事などもってのほかです。彼女でなくとも嫌に思う人は多いでしょう。他にも貧乏ゆすりで机を揺らしたり、消しカスを飛ばす事も決して行わないように。

 無難に授業を受けていれば問題無いでしょう。

 

            ♢

 

 授業が終わった放課後。隣の彼女にある提案をしましょう。更に仲を深めるために必要な事です。

 

“そういえば、白泉宿(はくせんしゅく)さんって勉強凄くできるよね。先生に難問を当てられた時もちゃんと答えてたし”

 

「まぁ、一応ね」

 

“俺はあんまり勉強得意じゃないんだよね。転校先選ぶ時もちょっと背伸びしちゃったから、授業が難しくて…。

もし良ければ、白泉宿(はくせんしゅく)さんに勉強を教えてほしいんだけど”

 

「私に?」

 

 突然の提案に目を丸くする彼女。彼女の本音としては、会って間もない人間に個別指導するのには抵抗があるでしょう。しかし、人より劣っていることを嫌う彼女にとって、“頼られる”のは好ましい事です。少なくとも、頼ってくる人間よりは優位に立てるわけですから。

 加えて世話好きな性格も相まり、提案自体は受けてくれるでしょう。

 

「……分かったわ。図書館でなら良いわよ」

 

 当然ですが、いきなりカフェで一緒に勉強、とはなりません。ましてや、どちらかの自宅などありえません。何度も言いますが、彼女の本質は臆病で防衛的。少しずつ距離を縮めましょう。

 

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