第二種乙ツンデレ取り扱い説明書   作:RKC

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2話

 場所は変わって図書室。一番隅っこの机に教科書とノートを広げて2人で勉強中です。この時、中央の目立つ机で勉強しないようにしましょう。彼女のように臆病な人間は、何かと隅っこを好む傾向にあります。

 自分の身を守りやすいよう、無意識に死角を減らしているでしょう。事実、彼女が座っているのは壁を背にする席です。

 

「確かに勉強範囲がここの学校より遅れてるわね……」

 

 アナタから学習進捗を聞いた彼女は、どうやって勉強を教えようかと考えている最中です。

 

「編入試験にはどうやって受かったの?」

 

“勉強してない範囲は全部捨てて、出来るところだけ頑張った”

 

「100点取らなきゃいけない訳じゃないし、それなら試験には受かるか。という事は、基礎が出来てるから普通に教えても大丈夫そうね」

 

 そう言って彼女は勉強を教えてくれます。教わる間は特別な事をしなくても大丈夫です。粗相をしない限り、彼女との親密度は上がります。

 一緒の空間で同じ時を過ごす。遠回りに見えますが、彼女の様に根が臆病なタイプにはこの方法が一番の近道なのです。

 

 特別な事はしなくても大丈夫ですが、勉強を教えてもらったお礼を忘れないようにしましょう。

 

“教えてくれてありがとね”

 

 勉強中、相槌と打つとなお良いです。

 

“なるほど……”

 

 あまりオーバーリアクションにならないように。

 “なるほど!” ぐらい大げさに行ってしまうと、臆病で懐疑的な部分のある彼女に、本当にそう思っているのかと疑問に思われてしまいます。しみじみと呟きましょう。

 

 また、彼女の事を褒めると更にGOOD。

 

“ここがこうで……分かりやすいな…”

 

 これも直接褒めないように。独り言でさりげなく教え方が上手い事を伝えましょう。彼女も満更ではなさそうです。

 自分に自信がない彼女は誉め言葉に弱いので、隙あらば叩きこんでいきましょう。

 

 

          ♢

 

 

 そうして勉強を教わること2週間。授業で抜き打ちのテストがありましたが、そこでアナタは高得点を取る事が出来ました。彼女に見せてあげましょう。

 

「良かったわね。私も教えたかいがあったわ」

 

白泉宿(はくせんしゅく)さんの教え方が上手かったおかげだよ。ありがとう”

 

 ここはしっかりと褒めて、その上でお礼を言いましょう。テストで高得点を取ったという絶対的な結果があるため、アナタの言葉が嘘と捉えられる事はありません。

 

「どう、いたしまして……」

 

 世話好きな彼女はお礼を言われることに慣れていますが、ここまで真っすぐにお礼を言われる事は少なかったのでしょう。髪をいじりながら、少し戸惑っています。可愛いですね。

 

 ここまでくれば、彼女との親密度はかなり高まっているはず。すかさず仕掛けましょう。

 

白泉宿(はくせんしゅく)さんは俺より点数高いけど、俺に勉強を教えた後も1人で勉強してたの?”

 

「そんな事ないわよ。人に教えるためには、その内容を自分が理解していないといけない。それに人に教える事で自分が理解できていない所がハッキリするから、そこを勉強し直すぐらいね」

 

“そうなんだ、ずっと勉強してるわけじゃないんだね。じゃあ普段は何をしてるの?”

 

「普通よ。音楽聞いたり、動画見たり、たまにランニングしたり」

 

 情報GET。ここから更に距離を詰めていきましょう。

 

“ランニングしてるんだ。何か運動を始めようと思ってたから、俺もランニングしてみようかな”

 

「まぁ、良いんじゃないかしら」

 

 結構な塩対応。当事者意識がまったくありません。

 それもそうでしょう。この後、ストーキング紛いの行動で生活パターンを把握された後、一緒にランニングする羽目になるとは思いもしなかったでしょうから。

 

 

         ♢

 

 

 場所は変わって学校近くのランニングコース。一周500mのそこに彼女の姿があります。事前調査(ストーキング)の成果ですね。

 運動前のダイナミックストレッチを行っている所へ、姿を現しましょう。

 

“あれ、白泉宿(はくせんしゅく)さん。奇遇だね、走りに来たの?”

 

 いけしゃあしゃあと偶然出会った風を装います。彼女もまさか事前調査(ストーキング)されているとは思っていない様子。偶然出会ったと思っているのか、目を丸くしています。

 上の服装は深い赤のTシャツに黒のアームカバー。下の服装は赤のワンポイントが入ったショートパンツに黒のタイツ。スポーティーで可愛いですね。

 

「アンタ、本当にランニング始めたのね……」

 

“始めたのは今日からだけど。良かったら一緒に走らない?”

 

「走らない。早いか遅いかはともかく、私とアンタじゃペースが違うだろうし」

 

 そう言って彼女は走り出してしまいます。すかさずその後ろについて行きましょう。しばらく彼女についていきますが、彼女のペースはかなり速いです。今日が走り始めのアナタでは到底ついていけないでしょう。

 

 呼吸が苦しくなり、足の筋肉が強張ってきた頃を見計らって、足を挫いたフリをします。その場で蹲り、足首を押さえましょう。

 

 ここで捻挫のふりをした理由は、女性の本能に訴えかけ、今後の展開を有利に進めるためです。

 太古より女性は自分を放っておかない男性を好むもの。子供を産んだ後に“ポイ”されてしまっては子孫を残せません。自分と子供の身を守ってくれる男性を“つがい”に選ぶのは当然の流れでしょう。

 

 自分を放っておかない男性――言い換えれば自分が“つがい”で無ければ駄目な男性となります。つまり、自分無しでは生きられないようなだらしない男性にも本能的に惹かれてしまうのです。これが“ヒモ”の生まれるメカニズムですね。

 

 長くなりましたが、ここではドジな面を強調し、前述の本能をくすぐったわけです。

 ほら、見てください。アナタが捻挫をしたと勘違いした彼女が駆け寄ってきます。

 

「準備運動しないから……もう」

 

 フリなので、足首が腫れたりはしていません。とはいえ、痛がる素振りを見せれば彼女は肩を貸してくれます。

 

「初めてなんだから私のペースについてこれる訳ないでしょ。あんまり無理しないようにしなさいよ」

 

 文面だけ見るときつめ忠告ですが声音は非常に優しく、心配が伝わってきます。捻挫は嘘にも関わらず、いけしゃあしゃあと演技を続けましょう。

 

“ごめんね、足引っ張っちゃって”

 

「……別に…」

 

 彼女は自責思考なところがあるため、前もって準備運動するように言っておけば、と考えています。そのため言葉の歯切れが少々悪いですね。

 ここは罪悪感につけ込んで、更に馴れ馴れしく行きましょう。

 

白泉宿(はくせんしゅく)さんと一緒に走れればと思ったんだけど”

 

「……私と?」

 

 “どうして?” と言いたそうな表情の彼女。先んじて答えましょう。

 

“一緒にいると安心するから”

 

 この時、“好き”と直接言及することは避けましょう。“あぁ、この男は自分が好きなのか”と認識してしまえば、人間関係の面において彼女は安心してしまいます。

 気がある風な素振りだけを見せ、肝心な決め手は絶対に言わない。こうすることで“もしかしたら、自分に気が無いのかもしれない”と不安になり、よりあなたの事を意識させることが出来るでしょう。人間は信頼できる大親友より、微妙な関係の人間の事を頻繁に考えるものです。

 

 話を戻しましょう。一緒に走りたいが、足手まといだったと遠慮した所でしたね。

 

“今日はごめんね。次からはコースで見かけても1人で走るようにするから”

 

「……そんなことしなくても良いわよ。一緒に走りたいんなら、一緒に走れば。

 ちゃんと準備運動すれば怪我の心配も無いし、ペースも合わせてあげるから」

 

“良いの?”

 

「良い。また私の前で怪我されても嫌だから」

 

 ここで事前に好感度を稼いでおくと、一緒に走る事を許してくれます。だから、図書館で一緒に勉強しておく必要があったんですね。

 目安としては、捻挫をした際に体の接触を厭わず肩を貸してくれれば好感度は十分足りています。

 

「後、定期的に走るならちゃんとシューズを買った方が良いわよ。このコースは下がアスファルトだからスニーカーだと怪我しやすいの」

 

 彼女の発言。ここはしっかりと上げ足を取りましょう。

 

“シューズかぁ。あんまり詳しくないから白泉宿(はくせんしゅく)さんに選んでもらいたいんだけど、ダメかな?”

 

 シューズを買った方が良いとは彼女の言葉です。こちらの提案は断りづらいはず。

 彼女は困った表情を浮かべています。シューズを選んであげたいのはやまやまですが、男性と二人きりで出掛けないといけない事に逡巡(しゅんじゅん)しているのでしょう。

 

「……分かったわ。今度の土曜日に捻挫が治っていたら買いに行きましょう」

 

 最終的には了承してくれました。間の抜けた面を見せておいたおかげで、彼女の警戒心が薄れているのが良かったですね。

 

“ありがとう。買いに行った先で何かお礼をさせて欲しいな”

 

「いや、別にお礼なんて…」

 

 貸しは作っても借りを作りたくない彼女。お礼を拒否しようとしますが、そんな事を許してはいけません。このお礼を足掛かりに更に関係を進展させるつもりなのですから。

 

白泉宿(はくせんしゅく)さんにはしてもらってばかりだから、俺からも何か返させてよ。そうじゃないと逆に心苦しいから。俺を助けると思ってさ”

 

「……そういうことなら」

 

 貸しだけを作りたくないと言う主張をすれば、彼女も同じ考えのため共感し、了承してくれます。

 

 今日の所はひとまずここまで。アナタを病院に連れて行こうとする彼女をやんわりと止めながら、足を引きずるフリをしながら家まで帰りましょう。

 一応、嘘がバレないために足首にテーピングを巻いておきましょう。学校での言い訳が立ちます。

 

 

           ♢

 

 

 さて、週末になりました。今日は彼女とシューズを買いに行く日です。近所のショッピングモールの前で待っていると、彼女がやってきました。

 

“おはよう”

 

「ん、おはよう…」

 

 若干照れながら挨拶を返す彼女。どうやら、休日に異性と出かける経験が少ない様子。

 彼女の服装は露出の少ないパンツスタイル。肌面積は少なく、色合いも地味で色気の欠片もありませんが、その奥ゆかしさが逆に性的です。隠された所を何とかして見てやりたいという感情を想起させますね。

 もちろん下心は隠したまま、彼女の事を褒めましょう。

 

“ランニングの時もそうだったけど、制服姿じゃないから新鮮に感じる。後、いつもより目がパッチリしてるね。キレイに見えるよ”

 

 この時、いつもと違って気合を入れている部分をきちんと指摘し、褒めてあげましょう。人間、誰しも気合を入れた部分を褒められると嬉しいもの。

 今回の場合、彼女がいつもよりまつ毛を整えてきたため、そこに触れました。今日のお出かけに合わせて特別にお化粧してきたようです。

 しかし、勘違いしてはいけません。二人きりでいつも以上に身なりをチェックされるかもしれないと考えた結果です。まだまだ、アナタの事を恋愛対象としては意識していないので気を付けましょう。

 

「そ、そう……? 別に、普通だけど……」

 

 髪を指で巻き取りながら、そっけない仕草を見せる彼女。しかし、表情の僅かな機微から喜びが隠しきれていません。

 

「と、とにかく、早くシューズを買いに行くわよ」

 

 そう言って彼女はお店の中に入っていきます。すかさず後を追いかけ、彼女の照れを観察するのも良いでしょう。しかし、ここは少し間を開けて彼女が落ち着くのを待ちましょう。

 まだ関係が微妙な時に攻めすぎると逆効果の可能性が高いですからね。しばらくした後に彼女の後を追って、ショッピングモールに入りましょう。

 

“ごめん、ちょっと電話かかって来たから遅れちゃって。シューズを買いに行こっか”

 

「そ、そうね…」

 

 紅潮していた頬は収まり、冷静さを取り戻しているようです。そのまま二人でスポーツ用品店に入りました。早速、彼女がシューズを選んでくれます。

 

「とりあえず試し履きね。色は後から選べるから、先に形状を合わせるわよ。今の靴のサイズは?」

 

“28cm”

 

「じゃあ、これとこれとこれを……」

 

 彼女がいくつかシューズを選び、アナタの足元に持ってきてくれます。

 

「とりあえず片っ端から履いてみなさい。注意するのはつま先と、足の甲と、土踏まずと、(かかと)ね」

 

 とりあえず言われたままにシューズを履いてみましょう。

 

“履いたよ”

 

「片足だけじゃ駄目。右と左で足の大きさ、形が違う人もいるんだから両方に合う靴を選ばなきゃいけないの」

 

 怒られてしまいました。ここは面倒臭がらずに両足で試し履きしましょう。すると、靴の上から彼女が指で押してきます。

 

「甲と……つま先は大丈夫。踵はどう? 緩くない?」

 

“ちょっと浮くかな”

 

「じゃあこれはダメね。次」

 

 そうして次々とシューズを履いていくこと数十分。ようやくアナタの足に合うシューズが見つかりました。

 

「どう?」

 

“……うん、スゴイ良い。前に履いてたスニーカーとは大違いだよ。これを買おうかな”

 

「そう、良かった…」

 

 彼女は胸をなでおろします。大きな安堵のため息付き。相当に緊張していたようです。自分が下手なチョイスをしてしまうと、アナタへ迷惑をかけてしまうと考えた彼女は真剣に選んでくれたようです。

 

“ありがとね。真剣に選んでくれて”

 

 ここは茶化さず、しっかりお礼を言うのがポイントです。何度も言いますが、彼女は自分に自信を持ちたいが、自己肯定感自体は低いタイプ。褒められて嫌な気はしません。

 

「いや、別に……は、早く買ってきなさいよ!」

 

 珍しく赤面する彼女に追い立てられながらレジで会計を済ませましょう。

 

 

          ♢

 

 

 靴を買った後は、彼女を連れてスポーツ用品店を出ます。ショッピングモールに来た目的の一つを果たしましたが、もう一つの目的――日頃のお礼を込めたプレゼントを彼女へ送る事を達成していません。

 プレゼントは1000円前後が良いでしょう。あまり高価過ぎても彼女が気おくれするでしょうし、安すぎても相手に与える印象が小さくなってしまいます。

 加えて、消耗品が良いでしょう。相手の事を良く知っているのであれば、化粧品も良いですが、ここは無難にお菓子が良いでしょう。

 

白泉宿(はくせんしゅく)はお菓子だと何が好き?”

 

「え、っと……クッキーとかの焼き菓子かしら」

 

 彼女を連れて洋菓子店へと来ました。ここで“どれが良い?”と聞いてしまうと、彼女が遠慮してやっすい物を選ぶ可能性が高いので、有無を言わさず一番人気の商品を買い、ラッピングをしてもらいます。

 

 店員から受け取ったプレゼント入りの紙袋を彼女に渡しましょう。

 

“いつもありがとね。日頃のお礼、受け取って欲しいな”

 

「いや、でも……そんな、別に大したことしてないし…」

 

 一度は拒絶の言葉を口にする彼女。しかし先日、お礼を受け取ると約束をした事を思い出し、恐る恐るアナタの手からプレゼントを受け取りました。

 

「……ありがと」

 

 プレゼントを受け取ると、彼女は柔らかく微笑みます。彼女は義理堅いのでこれが色んなところで(くさび)になるはず。彼女の献身に対するお礼にも関わらず、です。

 安い買い物ですね。

 

 今日の目的はすべて達成しました。もうショッピングモールに用は無いのでこのまま解散、帰宅しましょう。

 

「……その、いつものお礼をしてくれたついでに、もう1つだけ良い?」

 

 おや、彼女の方から何か提案があるようです。内容を聞いてみましょう。

 

「……いや、やっぱり…」

 

 彼女はアナタから目線を逸らして言い淀んでいます。しかし、意を決して口を開きました。

 

「――今日だけで良いから、仮の彼氏になってくれないかしら」

 

 ……わお、超展開。

 

 

 

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