第二種乙ツンデレ取り扱い説明書   作:RKC

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3話

 

「――今日だけで良いから、仮の彼氏になってくれないかしら」

 

 前回は超展開に動揺し解説役にあるまじき動揺を晒してしまいました。大変申し訳ありませんでした。

 現在の状況を説明すると、アナタと彼女でショッピングモール内のカフェに来ています。前回、彼女が“物語の引き”を作るためだけの様な提案をしてきたのは、ここのカフェのカップル限定サービスを受けたいがためだった様子。

 

 カフェには数人の客が待合室におり、アナタたちが接客を受けられるのはもう少し先になりそうです。2人並んで椅子に座り、大人しく待ちましょう。

 

 辺りを見回すと、待合室にいるのはほとんどがカップルの様子。その人たちもカップル限定サービスを受けに来たのでしょう。

 カップルだらけの雰囲気に、隣の彼女が浮足立っているのが手に取るようにわかります。“クラスメイトにお願いしてまで衝動的にこんな所に来るんじゃなかった”、と顔に書いてありますね。

 

 とはいえ引き返すことも出来ない彼女の様子を楽しんでいるアナタ。その手に、突然柔らかい感触が。

 謎の感触の原因を確かめると、それは彼女の手でした。

 

“……あ”

 

「周りっ!」

 

 アナタが何も言わせまいと、機先を制する彼女。

 

「みんな、カップル……手、繋いで、る…から……」

 

 恐らく、手を繋いでいなければカップルとみなされず、サービスを受けられないと思ってしまったのでしょう。冷静に考えればそんなはずは無いのに、それに気づけない程テンパっていますね。

 最初に声を荒げたせいで注目を集めているのも、彼女の頬を朱に染めるのに拍車を掛けています。

 

 そんな恥ずかしい思いをするのならば、いっその事帰ってしまえば良いとお思いかもしれません。しかし、彼女は勇気を出してアナタにカップルのフリをしてほしいと頼みました。加えてこれだけの恥ずかしい思いをしたのです。

 

 そこまでコストをかけてしまったら、これはもう何が何でもカップル限定サービスを受けずには帰れない。そう考えるのが人間の悲しい(さが)です。長年やって課金もしたソシャゲをずるずる続けてしまう心理と同じですね。

 

 さて、現在あなたが長椅子の上に置いている手の上に、彼女のお手手が乗っている状態です。手の甲で女性特有の脂肪(サシ)の乗った柔らかな肉と、若者&美容に気を使った者だけに許された絹の様な肌の感触を十分に感じるチャンス。

 

白泉宿(はくせんしゅく)さんの手、柔らかくてすべすべで、凄いね”

 

 現在の彼女は軽いパニック状態。少し気持ち悪い事を言っても基本スルーです。この機に乗じてニチャリましょう。

 最後に“凄いね”とつけておけば、分かりやすいその単語だけに反応して褒められたと勘違いしてくれます。可愛(チョロ)いですね。

 

「い、いつも、手入れしてるから……クリームとか…」

 

 そしてパニックが入っているとはいえ、手と手が触れ合っても拒否反応を示さない今の状態を鑑みるに、彼女の好感度は予想より高い状態と言えます。

 仮のカップルになって欲しいというお願いをされた事からも、好感度の高さが読み取れますね。ここは一発かましてみましょう。

 

 手首を反転させ、彼女の手を握りましょう。この時、相手の薬指を、親指と人差し指で挟む。また、相手の小指を人差し指と中指で挟む。こうして簡単には抜けないよう組み合わせることがコツです。

 そうした後は手に力を入れずとも大丈夫。彼女の反応を楽しみましょう。

 

「………!?」

 

 言葉は発していませんが、明らかに動揺しています。マガジンマークが幻視出来る程です。とはいえ、拒絶反応は無し。“同じ体勢のままで手が痺れたなぁ”、と言わんばかりにすっとぼけた表情を浮かべておきましょう。

 

「ぇ……ぁ、ぅ…」

 

 アナタの顔と繋がっている手を交互に見比べ、小さく呻いています。そして、手を動かし始めました。手を解こうと、徐々に。

 彼女の肌が不規則に擦れて気持ちが良いですね。

 

 しかし、途中で停止。何を考えているのかは分かりませんが、とにかく停止。彼女はぎゅう、と目をつぶって何かに耐えるような表情。

 ……かと思えば、余った指で親指の付け根を擦ってきます。

 

白泉宿(はくせんしゅく)さん、くすぐったい”

 

「え? …………ぁ」

 

 アナタが指摘すると、彼女はあんぐりと口を開けて固まってしまいました。瞬間、顔を沸騰させ、瞳が潤みます。

 

「死にたい……」

 

 震え声も震え声。

 何を思ったのか異性の手を(ねぶ)るように弄る失態を晒したのですからそれもしょうがないでしょう。人間、ミスにミスを重ねると嫌になるものです。加えて自責的な彼女の事。自分のミスは許せないものがあるのでしょう。不憫で可愛いですね。

 

 本気で死にたいと思っていそうな彼女に励ましの言葉は逆効果です。今の地獄がもう少しで終わる事を示唆してあげましょう。

 

“あ、次が俺たちの番みたいだよ”

 

「うん……」

 

 ここまで恥を晒してしまっては、嫌でもサービスを受けずには帰られません。彼女の不退転(どうにでもなれ)の想いが、諦観の表情に現れていますね。

 

 それから2分もかからず、アナタたちは席へと案内されました。彼女は無心なのか、アナタとつないだ手を離さないまま、テーブルの上に晒しています。

 

「パフェ食べて帰る……パフェ食べて帰る……すぐ帰る……」

 

 呪文のように呟き続ける彼女の代わりに、店員に注文しましょう。パフェは1つしかないため、迷う必要はありません。

 

“生クリームパフェ2つ”

 

「…パフェを注文されたカップルには限定サービスで、シロップをかけ放題にできますが、いかがなさいますか?」

 

 店員はアナタと彼女がテーブルの上でしっかりと手を繋いでいるのを確認した後、提案してきます。

 シロップかけ放題。これが彼女の目当てだったのでしょう。

 

“かけ放題でお願いします”

 

「承知しました。セットで飲み物をお付けできますが、いかがなさいますか?」

 

 特定できたパフェと違い、彼女の飲み物を勝手に頼むわけにはいきません。機能停止している彼女を再起動しましょう。

 しかし、今はカップルを演じているという建前があります。こっそり名前で、それも呼び捨てで呼んでしまいましょう。

 

(カンナ)、飲み物どうする?”

 

「ぇっ! ぁ、その、ミントティー、アイスで。

 ……(カンナ)ァ!?」

 

 いきなり下の名前、それも呼び捨てされてバグる彼女をさておき、アナタも飲み物を選びます。

 

“レモンティーのホットを”

 

「かしこまりました」

 

 スルースキルの高い店員を見送り、彼女に向き直りましょう。

 

“ごめんね。一応カップルのフリをしてる(てい)だから下の名前で呼んじゃって”

 

 訳を説明すると、パクパクと鯉みたいに喘いでいた彼女の口の動きが止まります。

 

「べ、別に謝らなくても。私も、勝手に手を繋いだから……」

 

“今もそうだね”

 

「……?」

 

 疑問符を浮かべる彼女の手を“にぎにぎ”しましょう。彼女は触覚が働く方へ目線を落とします。

 未だに手を繋いでいることを認識した瞬間、彼女の顔が一瞬で煮沸。ゆっくりと手を解き、その後顔を手で覆います。

 

「…死、にた…い……」

 

 本日二度目の弱音。彼女のメンタルはズタボロですが、立ち直りの補助をすることであなたの印象を更に強める事ができます。破壊(scrap)&創造(build)は基本ですね。

 

“俺と手を繋ぐのはそんなに嫌だった?”

 

「いやっ…! ちが! そうじゃなくて!」

 

 自分から手を繋いだくせに“嫌だった”という恥知らずな人間とは、絶対に思われたくないのでしょう。必死で否定した後、彼女は続けます。

 

「アンタの方こそ嫌じゃなかったの? ずっと、私と手を繋いで……」

 

 嫌なんてはずが!無いだろう! 美少女と手を繋いで!男が!!

 

 心の炭○郎を抑え込みつつ、努めて平静にその旨を伝えましょう。

 

「そ、そう? なら良いんだけど……いや、別に良くは……」

 

 アナタの機嫌を損ねていない事に安心した彼女。それはさておき、先ほどの彼女の行動は、異性の手をいきなり握るばかりか、探るように指を動かす変態とも取れるわけで。

 それを再認識した瞬間、彼女の顔が再び煮え始めます。それを防ぐために、彼女の意識を逸らしてあげましょう。

 

“やっぱり手もお手入れした方が良いのかな。白泉宿(はくせんしゅく)さんの手と比べると、ガサガサだったから。具体的にどんな手入れを……”

 

「そ、そんな事無い! アンタの手、別にガサガサじゃないし、存在感があって、不思議と安心して、でも、何かドキドキして……」

 

 そこまで言って、彼女は更に顔を赤くしました。

 

 ……なんだろう、墓穴掘るのやめてもらって良いですか? フォローにも限界があるんですよね。この人、ちょっとムッツリなのかなー、と思いました。

 

 丁度その時、パフェと飲み物が配膳されます。同時に苺のシロップが詰まった容器も。

 

「シロップかけ放題ですが、他のお客様も利用されるので、この場でシロップをかけていただきます。追加でシロップをかける事は出来ませんのでご了承ください」

 

 店員の注意を聞いた後、彼女がシロップの容器を手に取りました。そしてパフェにどっぷりとかけていきます。

 かけ放題ならば、かけられるだけかけてしまえと、小学生並の感覚で白いパフェを苺のシロップで赤く彩っていく彼女。

 

 シロップをかけ終わる頃には、パフェの生クリーム部分をシロップが全て覆うぐらいになっていました。彼女からシロップに容器を受け取ったアナタは、自分のパフェに適当にシロップをかけ、店員に容器を返しましょう。

 

 今まで顔を赤く染めるだけの彼女でしたが、お目当ての生クリームパフェ、シロップマシマシフルーツアマメを目の前に喜色満面。

 

 これまでの羞恥に耐えてきて良かった、と感無量のままパフェを口に運びます。

 

 ……とはいえ、○○放題は基本的に罠が潜んでいるもの。

 ○亀製麺で、ネギと天かすがかけ放題だからといって、大量に入れてしまうと、うどんの味がしなくなってしまう様に。

 

 甘い生クリームの上にかけられた、大量の甘いシロップ。その相乗効果によって空前絶後、超絶怒涛の甘ったるさ。

 それは僅か5口で感無量の彼女を、甘味無用の精神へと追い込むのは容易(たやす)かった様です。

 

 今日のワンポイントアドバイス

 ○○放題には気を付けましょう。

 

 

           ♢

 

 

 さて、男友達に彼氏のフリをしてもらい、更にその男友達の手を無断で繋ぎ、あろうことか異性の手を(さす)るというムッツリを披露した後、あまつさえ手を離す事を忘れて店員に見せつける公然でのプレイを挟んだ上、最後には異性の手の感触について感想を述べるという生き恥を晒したにも関わらず、期待していたシロップマシマシのパフェは甘すぎてあまり美味しくなかったという地獄を味わった彼女はK.O.寸前。

 

「……その、今日の事は誰にも言わないでほしい……」

 

 彼女は今日の痴態を言いふらされないようにアナタに口止めをしようしています。セリフだけを聞くと、何かHな雰囲気を感じますね。

 

 (よこしま)な思いは抑え込み、少年誌の主人公の様に固い約束を交わしましょう。

 

“個人的には白泉宿(はくせんしゅく)さんの新しい一面を知れて嬉しかったけど…。白泉宿(はくせんしゅく)さんが言いふらされたくないなら絶対に口外しないよ。約束する”

 

「……(カンナ)

 

 おや? これはもしかして……。

 

白泉宿(はくせんしゅく)、って言いにくいと思うから。下の名前で呼んでも良いわよ。カフェの時みたいに、呼び捨てで……」

 

 下の名前を呼び捨てする栄誉を正式に賜りました。ここまでくると、序盤戦を制したと言っても良いでしょう。彼女の懐に潜り込むことが出来ました。

 

“分かった。じゃあね、(カンナ)。また月曜日に”

 

「ぇ、ぁ、ぅん…」

 

 躊躇なく下の名前を呼ぶアナタにタジタジする彼女と別れて、今日は終了です。

 

 今回はここまで。これまではじりじりと間合いを詰め続けていましたが、ここからはもう少しトリッキーに揺さぶりをかけていく予定です。また次回もお楽しみに。

 

 

 

 

 

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