第二種乙ツンデレ取り扱い説明書   作:RKC

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4話

 さて、前回は彼女とショッピングモールに出かけました。彼女がポンコツのムッツリだったことが判明しましたね。そのような一面を知っている人間というのは、アナタ以外には彼女の家族ぐらいしかいないため、秘密を共有している特別な人間というアドバンテージを得られている状態。

 

 今回はショッピングモールで買ったおニューのシューズを履いて、彼女と一緒にランニングをする予定です。綿密な事前調査(ストーキング)により把握した彼女の生活パターンによると、月・水・土に彼女の家の近くのランニングコースを走っています。

 

 ここは月曜日を狙って、毎週彼女とランニングを行いましょう。別に水・土でもかまいませんが、ここで大事なのは一緒に走る曜日を不定期にしない事です。

 

 曜日が固定されていれば、ランニングコースで毎回出会ったとしても、“生活パターンが被っているんだな”、ぐらいにしか思われません。

 しかし、先々週は土曜、先週は月曜、今週は水曜、などと不定期に出会っていれば、“え、こいつ私の行動パターン把握してる? キモ”、と思われる可能性が高いです。

 月曜日と決めたのであれば、月曜日だけ会うようにしましょう。

 

 

            ♢

 

 

 月曜日の放課後。ランニングコースに向かうと彼女がいます。彼女はアナタと目が合うと、目を逸らしました。

 これは別に嫌われているという訳ではありません。ショッピングモールで彼女が醜態をさらした二日後が現在です。それは、目も合わせづらいでしょう。当日では無く、日を置いて一旦落ち着いた分、湧き上がるような羞恥に襲われているはずです。

 

 学校でもそうでした。アナタが“おはよう”、と挨拶をするだけで、彼女は“うにゃうにゃ”と体を捻じ曲げながら悶絶する始末。加えて休み時間中などは常にアナタの行動を観察しており、アナタが自分の痴態を言いふらさないか気が気でなかったようです。

 

 とはいえ、学校での様子を見てアナタを“口外しない”という約束を守る誠実な人だと確信した彼女。羞恥を抑え込んで対応してくれます。

 

「あ、アンタも走りに来たの?」

 

“うん。シューズも買ったから早速ね”

 

「ちゃんと準備運動はしなさいよ。前みたいに怪我するのはゴメンだからね」

 

 運動前の体操は、体を動かすダイナミックストレッチが一番です。彼女と一緒にラジオ体操第1を踊りましょう。

 

 準備運動を終えた後は、何を言うともなく二人で並んで走り始めます。以前に捻挫をした時、一緒に走る約束をしたためですね。

 アナタのペースに合わせて併走する彼女と雑談をしながら過ごしましょう。

 

“そういえば、そろそろ文化祭だね。うちのクラスは出し物で何をやるのかな”

 

「さぁ……、あんまりふざけた出し物じゃなければ何でも良いけど」

 

“文化祭の実行委員、クラスの中だと誰がやるんだろうね”

 

「多分、大城君がやるんじゃないかしら。クラスの中心人物だし、まとめ役が好きなタイプだし」

 

(カンナ)はやらないの?”

 

「――っ…」

 

 下の名前を呼ぶと、目に見えて動揺する彼女。名前を呼ぶだけで感情に揺さぶりをかけられるため、ドンドン呼び捨てにしましょう。

 

「私は……私じゃ、無理よ。やったことも無いしね」

 

 口調こそ勝気な彼女ですが、それは見せかけ。第二種乙ツンデレの本質は“自分の能力に自信がなく、弱点を隠すために虚勢をはる、張子の虎”です。

 実際の彼女のスペックは高いのですが、自信がないためクラスをまとめる役は無理だと言います。昔に実績がある事ならともかく、初めての事に対してであれば尚更。

 

 ここで大事なのは、彼女が自分の弱い部分を“自分から”アナタに晒してくれた事です。これは相当アナタを信用してくれている証拠。一度、痴態を晒し、“もういいか”と思われている可能性もありますが、どちらにせよ問題無いでしょう。

 彼女にとって、今のアナタは弱気を晒しても問題の無い、数少ない人物なわけですから。ここから更に距離を詰めていくのは朝飯前。文化祭でゴールインすら視野に入ります。

 

 ひとまずこの日は彼女と1時間ほどジョギングを行い、解散しましょう。

 

 

            ♢

 

 

 数日後の学校での事。6限目の時間を使って、クラスで文化祭の出し物を決める事になったようです。出し物を決める前に、クラスの代表――実行委員を決める事になりました。

 

「誰か実行委員をやりたい奴はいないか?」

 

 ……手は上がりません。

 彼女が実行委員になると予想していた大城君ですが、今日は風邪でお休み。残されたメンバーで実行委員を決める必要がありますが、彼ほど行動力のある人間はいないようです。

 

「……あー、じゃあ他薦だ。実行委員に相応しいと思うクラスメイトを挙げてくれ」

 

 自薦ではなく他薦の流れに。初めの方は変わらずに沈黙が流れるだけでしたが、1分ほどして手が上がります。

 

(カンナ)ちゃんが適任だと思いま~す!」

 

 1人の生徒の声に釣られて、教室の中で様々な声が上がります。

 

 “確かに、白泉宿(はくせんしゅく)さんなら適任かも”

“勉強もできるし、クラスの中心にいるし”

“他に頼めそうな人も居ないしな…”

 

「推薦があったが、白泉宿(はくせんしゅく)はどうする?」

 

「……」

 

 彼女の様子を窺うと無表情です。しかし、僅かに眉が歪んでおり、内心動揺していることが隣の席のアナタにだけ理解できます。

 恐らく、彼女の本音としては、出来るか分からない実行委員は断りたい。

 しかし、彼女の張子の虎が、“断ればお前は実行委員すら出来ない無能だと、周囲の人間に失望されるぞ”、と彼女を追い立てているのでしょう。

 

「……や、やります」

 

 結局、虎が吠えました。

 

「なら実行委員は白泉宿(はくせんしゅく)で決まりだ」

 

 ここはそのまま傍観していても問題ありませんが、更に攻めるのであれば行動するべきです。手を挙げてみましょう。

 

「……ん? なんだ、どうかしたか?」

 

“いや、実行委員をやろうかな~…と”

 

「おいおい、自薦ならもっと早くに言ってくれ。……クラスの皆はどうする? 白泉宿(はくせんしゅく)か、それとも×××か」

 

 クラスのメンバーにそう聞く担任ですが、アナタの信頼度より彼女の信頼度の方がたかいです。

 

「いやぁ~、アイツよりは白泉宿(はくせんしゅく)さんだよな~」

 

 当然、アナタの思い付きは却下されます。しかし、以前に彼女が“自分に実行委員は向いていない”と言っていたのを覚えており、その上で彼女が実行委員を実質的に強制された所を何とかしようとしました……というスタンスがここでは一番大事です。

 

“ごめんね”

 

 一言謝れば、彼女は何について謝っているのか察してくれます。

 

「私が断れなかっただけだから。アンタのせいじゃないわよ」

 

 そう言う彼女は少しだけ暗い面持ち。やはり、クラスのまとめ役となる事に不安を覚えているのでしょう。

 しかし、すぐに嬉しそうに口元を緩めます。アナタが自分をかばおうとしたことが嬉しかったのでしょう。

 

「ぁり…と」

 

 おや。彼女が何事かを呟きましたね。何を言ったかは想像が付きますが、とぼけた顔で聞き返しましょう。

 

“ごめん、さっき何て言った? 聞こえなくて”

 

「……っ」

 

 彼女は一度口をつぐみ、眉を恥ずかしそうに潜めました。

 

「……ありがと」

 

 そして小さく、しかしはっきりと感謝の言葉を述べました。返事はしなくても大丈夫です。ニコニコしながら彼女の方を見ていましょう。

 

「何よその顔…!」

 ビスビス

 

 すると、彼女は照れ隠しに指でアナタの腹を突いてきます。突かれてくすぐったい部分を手で押さえると、彼女が不安そうな表情に。

 

「い、痛かった…?」

 

“いや、全然”

 

「でも……ど、どれくらいの強さだった?」

 

 “気にしい”の彼女に教えてあげましょう。ぷにぷにのほっぺを突いて。

 

“これぐらい”

 

「………ふぃ…!?」

 

 僅かな間、アナタにされるがままの彼女。ほっぺたを突かれているという事実に気づき、素っ頓狂な声をあげます。

 その後、“むぐぐ”という擬音が聞こえてきそうな程、強く唇を引き結んでいます。不満そうですが、嫌悪の感情は全くありません。

 

 お互いにボディタッチをできる程の親密度を確認できました。このまま時間を進めて見ましょう。

 

 

           ♢

 

 

 さて、彼女が文化祭実行委員になってから数週間。彼女のクラスの出し物は“脱出ゲーム”に決まりました。それもクラスの中で構想だけが盛り上がり、大掛かりなものになりそうです。彼女はクラスのまとめ役として、全体の取りまとめを行っていました。

 

 脱出ゲームの提供に必要な仕事の細分化。なおかつ曖昧な仕事内容を小学生でも取り組めるレベルにまで具体化。

 クラスを8の班に分け、それぞれの班に仕事を割り振り。

 各班の進捗の管理。

 加えて実行委員として学校全体で必要とされる雑務。

 

 上記の仕事に追われて、かなり忙しそうです。加えて仕事の最中は“リーダーとしての務めを果たせているか”、をずっと気にしています。

 そんな彼女の心労はかなりの物。そのストレスの解消方法はランニングです。殊更(ことさら)、アナタと走る事を楽しみにしている様子。

 

 併走する最中の話題には事欠きません。文化祭について話し合う事はいくらでもあります。

 

「脱出ゲームの謎と設定の構成を先に考えないと、飾りつけと小道具を世界観に合わせて作れないんだけど、それを任せてる班の進捗が……」

 

“音沙汰無いよね”

 

「かといって()かしに行くのは……」

 

“気が引ける?”

 

「……うん」

 

 心配性の彼女の事です。リーダーとして必要な事とはいえ、クラスメイトを“詰め”に行く事に抵抗を覚えるのも性がありません。

 しかし、このまま遅れを出し続けるのもリーダーとしての資質を疑われかねません。その矛盾が最近の一番の悩み。ここは“理解ある彼”と化し、彼女の悩みを受け止めてあげましょう。

 

“分かる。昔、部活をやってたけど後輩とかに注意するのがすごい苦手だった”

 

「それに注意する相手はあんまり親しくないし……」

 

“気まずいよね”

 

「作業の無い班は他クラスに貸し出して、小道具作りで忙しくなりそうな後半に他クラスび手伝ってもらう予定だから、遅れは何とかカバーできそうだけど……。やっぱり明日忠告しないと」

 

“俺も一緒に行くよ。二人なら幾分か気も楽になると思うし”

 

 すでに有名だとは思いますが、女性の悩み相談に対しては共感することを優先しましょう。解決方法は一番最後に提案するべきです。

 加えて学校では合理的にリーダーの務めを果たす彼女。プライベートの時間では生産性のない雑談を楽しみたいはず。十分に注意しましょう。

 

「私、ちゃんとリーダーやれてるかな…?」

 

 それに関しては問題無いと言えるでしょう。彼女のクラスは学校の中で一番と言っても良い程、組織立った動きが出来ています。現在が上手くいっていないだけであり、彼女のリーダーとして素質は疑いようがありません。

 

“大丈夫、(カンナ)はちゃんとやれてるよ。脱出ゲームの設定と謎が完成すれば、もうちゃちゃっと準備完了できちゃうから”

 

「……うん。そうよね、ちゃんと出来てるわよね」

 

 どれだけ考えても彼女の不安は拭えません。それこそ、文化祭が成功に終わるまでは。

 今の彼女にはアナタの言葉しかありません。どれだけ薄っぺらくてもアナタの言葉以外に安心の材料は無いのです。満点の状況ですね。

 

 さて、彼女はここ一か月の間、毎週月曜日にはアナタと一緒にランニングをしています。ここまで来ると日課ならず、週課のように思っているでしょう。

 ここで変化を1つまみ。来週の月曜日はランニングをすっぽかしてしまいましょう。元々、約束をしていたわけではありません。アナタの綿密な事前調査(ストーキング)によって、偶然出会っていただけです。

 

 今回はここまで。来週の火曜日、学校で彼女と会うのが楽しみですね。

 

 

 

 

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