第二種乙ツンデレ取り扱い説明書   作:RKC

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5話

 さて、前回は月曜日のランニングをすっぽかす予定を立てた所で終わりましたね。今回は月曜日をすっぽかした翌日――火曜日の朝からスタートです。

 

 いつもより早く登校し、文化祭の準備で少し騒がしいクラスで彼女を待ちます。すると、彼女が登校してきました。

 

「……ぁ」

 

 彼女はアナタを見つけると、一瞬嬉しそうな表情を浮かべます。しかし、行き場を失った様に教室の中をウロウロし始めました。

 恐らく昨日のランニングに来なかった事を深読みしているのでしょう。

 

“自分が何か嫌な思いをさせてしまったのだろうか?”

“ランニングの最中に愚痴を言いすぎた?”

“他にも……何か…?”

 

 不安は疑心に。疑心は彼女にアナタとの思い出を振り返らせ、何か欠陥が無かったかを探らせます。

 

 強く言いすぎてしまった事。

 情けない姿を見せてしまった事。

 

 心当たりを思い出すたび、顔を青くしているのが分かります。たった一度、約束もしていないランニングをすっぽかしただけでこのザマです。文化祭について悩んでいたとはいえ、あまりのか弱さ。

 

 そこにつけ込んで一気に勝負を決めてしまいましょう。不安定な彼女に激しい揺さぶりをかけて、情緒をぐちゃぐちゃにしたところで優しくすれば一発です。

 教室のゴミ箱の前で立ち尽くす彼女に声をかけます。

 

“おはよう”

 

 それだけで彼女は大きく肩を揺らします。そして恐る恐るアナタの方を振り向きました。

 

「……ぉ、おは、よう…」

 

“顔色悪いけど大丈夫? 保健室に行った方が…”

 

「だ、大丈夫! 全然、体調は悪くないから…」

 

 彼女はアナタのフレンドリーな様子を見て、“昨日ランニングに来なかったのは何か用事があったのでは”と考えていそうです。

 

「その……」

 

 しかし、アナタを問いただし、

 “え、昨日? お前みたいな俺の事を名前ですら呼ばない礼儀知らずなメスガキの相手が面倒になったから行かなかっただけだよ”

 

 などと万が一にでも言われてしまえば相当な心の傷を負う事になるでしょう。

 それを恐れて口をつぐんでいます。しかし、意を決して口を開きました。

 

「き、昨日……アンタ…いや、ごめん、○○は……何で、ランニング……」

 

 意を決したとはいえ、ひどく頼りない意志の様子。

 ここで、

 “え、昨日? カップルのフリをしていたからとはいえ、いきなり手を握って来るような阿婆擦(あばず)れかつ、シロップかけ放題を楽しみにしているような小学生並の精神構造持ってる千枚張りの面の皮を相手するのが嫌になったから行かなかっただけだよ”

 

 などと吐き捨て、彼女を突き放すのも面白いですが、今回は純愛路線ですので普通に答えましょう。

 

“あ、昨日? 中学生の頃の友達と遊ぶ約束してたから、ランニングサボっちゃった。ごめんね”

 

 それを聞いた瞬間、彼女は形容しがたい表情変化を経て、安堵のため息を吐きました。

 

「そ、そう……。別に、約束とかしてなかったから、謝らなくても良いわよ」

 

“そうだね、確かに約束はしてなかったっけ。じゃあ来週の放課後は一緒にランニングするって約束しない?”

 

「う、うん。来週の放課後、約束する!」

 

 彼女は抑えようとしていますが、歓喜の表情を堪えきれていません。

 その日の彼女はいつもより機嫌よく過ごしています。この後の事も知らずに呑気な事ですね。

 

 

          ♢

 

 

 時間は過ぎ去り、来週の放課後。文化祭の作業を終えて、2人でランニングコースまで来ています。

 いつものように彼女と併走しながら雑談をします。

 

「やっと設定と謎解きの案をだしてくれたんだけど、設定はともかく謎の方が――難易度が低すぎたり、回答が納得できない物だったりで……。結局、予算の余りを使って外注することになったのよね……」

 

“外注する事、謎を考えてくれた班に直接言ったの?”

 

「……うん。間接的に濁してマイルドにした言葉を更にオブラートで包んで言ったわ。過去一番緊張した……」

 

“お疲れ様”

 

「それから……はぁ……」

 

 結構な文量を喋っていた彼女。喋りながらのランニングは、走り慣れている彼女といえ息が切れるのもしょうがない事でしょう。

 

“大丈夫? ペース落とす?”

 

「うん、お願い。ごめん、私ばっかり喋っちゃって」

 

“良いよ、喋るより聞いてる方が好きだし。それに喋ってばかりだとすぐに息が切れちゃうから”

 

 ここは勝負所。しっかりと言葉を選びましょう。

 

(かんな)はやっぱりすごいよね。あれだけ喋ってたのに少し息が切れるぐらいなんて”

 

「いつも走ってるから、まぁ、これぐらいは…」

 

“体が小さいから歩幅も小さくて”

 

 アナタがそう言った瞬間、彼女の呼吸が僅かに止まりました。続けます。

 

“俺より走る歩数を多くしないといけないのに”

 

 彼女の口元がぎゅっ、と引き結ばれます。

 

“体のハンデをものともしないなんて……”

 

「は、ハンデじゃないわよ! 別に!」

 

 彼女は立ち止まり、声を荒げました。第1回で彼女は体が小さい事に特別なコンプレックスを抱いていそう、という話が合ったと思います。今回はわざとそこをツンツンして彼女を怒らせました。この後も容赦なく行きましょう。

 

「マラソンに限れば身長の高い低いはほとんど関係無いし! 今だって、アンタに負けて無かった! 息が切れたのは喋りすぎたからで! 勉強だって……その…」

 

 トーンダウンしてきましたね。彼女の怒りは条件反射的なモノであり、鎮静化するのは当然です。

 しっかりと油を注ぎ、怒りの炎を絶やさないように気を付けましょう。

 

“う、うん……体が小さいのに(かんな)は凄いなって……”

 

「だ、だからその言い方! 小さい“のに”って何よ!! まるで小さい事がハンデみたいに……!」

 

“いや、別にそんなつもりじゃ……”

 

 絶対に謝らないのがコツです。浮気がバレた時の様に言い訳がましくいきましょう。しかし、決定的な悪口を行ってはいけません。この場で決定的な発言をするのは、あくまで彼女。

 

「じゃあどんなつもりで…!」

 

”そんなつもりも、どんなつもりも……ただ、言葉として口から出て来ただけで……”

 

「つ、つまり、アンタの本心ってわけ……!?」

 

 彼女は頭を押さえました。

 怒りによる心拍の上昇。それに伴う血流の増加、血管の急な拡充によって片頭痛を発症しているのでしょう。ここまでくればあと一歩。

 

“いや、困ったな……”

 

「“困った”って何よ! 私の方が悪口言われてるのに!」

 

“だから悪口じゃ……”

 

「うるさい!! あの時もバカにしてたんでしょ! 悪かったわね、シロップかけ放題で!! 子供っぽくて!!

 アンタだって人の事言えないくせに! 転校早々変な所に座ったくせに! 準備運動せずに捻挫したくせに! 私の肩も借りた…くせに…!」

 

 うーん、もう一歩足りなさそうですね。ここで更に油を1つまみ。

 

“ご、ごめんって……とにかく、ごめん!”

 

 “とにかく”、がポイントです。“はいはい、分かりました分かりました。面倒くさいんでとりあえず謝っときますね”、みたいなニュアンスが良く伝わります。

 

 ブチリ、と血管の切れる音が聞こえてきそうでした。

 

「か、帰るッ! アンタの顔なんかもう見たくない!!」

 

 それを聞きたかった。

 

 彼女の口から決定的な言葉を引き出せたため、今日のノルマはクリアです。ダッシュで駆けていく彼女の背中を見送りながら、彼女の今後の姿を妄想しましょう。

 

 家に戻り、冷静になった彼女は客観的に今回の件を思い返すはずです。自分のコンプレックスを刺激されたとはいえ、言いすぎてしまったと。

 

 いえ、普通に考えればアナタが彼女のコンプレックスなど知る(よし)もない。アナタからすれば、彼女は急にキレて話し合う余地も無く一方的に絶縁状を叩きつけて来た女。

 今後一切関わりたくないと考えてもおかしくありません。家族以外に初めてできた心を許せる人間との縁を自ら断ち切った彼女の心境を考えるだけで……興奮しちゃうじゃないか……♢ 100点…♡

 

 今回は短いですがここまでです。次回はクライマックスとなるのでお楽しみに。

 

 

 

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