一部のユーザー以外に見せる用途では書いていない駄文じゃから、偶然見つけても閲覧は非推奨じゃ。
「ああ~~~…沁みるのぉ…。温泉とは良いものじゃ…。」
自室の庭にある専用の露天風呂。
そこには酒をあおりながらゆるりと入浴を楽しむ一匹の鬼が居た。
「しっかし、まさか負けるとはの~!
おかげで右腕が使えぬわ、とズタボロの右腕を眺めながら嬉しそうに鬼は笑う。
ひとしきり笑った後にもう一度酒をあおり、紅い目を細めて鬼は呟く。
「童も、まだまだ未熟じゃな。」
桜散りゆく景色を眺めながら、夢を思い出すかのように。
──数日前。
ぽっちゃりドラゴンに呼び出され、このためだけに生やされた【第二戦闘場】に酒をあおりながら入る。
無邪気に喜ぶぽっちゃりドラゴンとは対照的に鬼は少し困惑気味だった。
「で、お主がやるんじゃな。どういう形式じゃ?」
「本気の戦いなのだ!」
「本気とな。」
「うん!正真正銘!正々堂々!」
「でもこのままだと負けちゃうから助っ人を呼んだのだ!」
「ふぅむ?」
「店長ー!」
トテトテと黒猫亭の店主が歩いてくる。
なるほど、そういうことか。と合点がいったように眺めている鬼。
「店長!僕を影羅さんと戦えるくらいパワーアップさせて欲しいのだ!」
「んっ!めちゃくちゃつよくするのっ!!!」
目も開けられないほどの眩い光。
鬼が目を開けると、そこには一人の青年が立っていた。
「んじゃ、がんばってねっ!」
声をかけて退出していく黒猫とは対照的に、鬼も青年も困惑していた。
「あれ?ここって?」
青年は辺りを見渡し、鬼を見る。
一目見るやいなや彼は困惑気味に鬼に問いかけた。
「ん?もしかして影羅姉さん?」
「誰じゃお主??」
「いやいやいや、この前あった…いやなんか若くない?」
「んー?ん???これってもしかして今日なのか…?」
「??」
ぶつぶつと呟く青年に対して鬼はひたすらに困惑している。
やがて青年は呟くのをやめてまた鬼に問いかける。
「えーと、影羅姉さん、いや影羅さん?ここは黒猫亭で良いですよね?」
「そうじゃな。」
「最近パンダのパンとか発売されたりしました?」
「されておるな。洋菓子店の方で。」
「あーー、あーーー、理解しました。お手数おかけしました。」
「...うん、ヨシ!」
「影羅さん、いきなりの事でわけも分からないと思いますが僕は今日の為に頑張りました。だから」
「お手合わせ願います」
「…ほう。」
青年が構えた瞬間に鬼は悟った。
目の前のコイツは、
黒猫亭では自分では勝てないであろう店主以外に本気を出す気はさらさらなかった。
殺しかねないから。
自分の居心地のいい場所を自分で壊したくはない。
だが。
「何やらよく分からぬが…」
分からずとも、本能で解っていることがある。
「本気は出した方がよさそうじゃな。」
本気でやっても、
その手を妖力で紅く染め、凄絶に鬼は嗤う。
「いつでもよいぞ。かかってこい。」
「イザ尋常に、参る!!!」
一息で懐に潜り込み、鬼の横腹に発勁を打ち込む青年。
鬼は防御もせずにそのまま受け、吹き飛ばされていく。
無言で受け身を取り、感触を確認した鬼は嬉しそうに笑い始めた。
「はっはっは!ここに来てからは初めてじゃな!!」
「受け身を取らされてしまったのは!」
そう、これほどの打撃を打ち込めるのであれば…
「…遠慮は、要らないようじゃな。」
妖力を全開にし、紅く染まっていく鬼の身体。
妖力を強めていけば行くほどにその紅は濃く染まっていき、身体に浮かぶ紋様はより大きくなっていく。
これほど妖力を抑えずに解放したなど、鬼にとって久しぶりだった。
青年も嬉しそうに笑う。
「もちろん、その為にここに居ますから!」
竜の力を解放し、青年の身体に鱗が生えていく。
まさに竜人。
この日を、この日だけを迎えるために高めてきた竜の力。
目の前の鬼を超えるために培ってきた力。
それが目の前の鬼に呼応するかのように高まっていく。
「─往くぞ。」
悠々と鬼が歩き、それを静かに見つめる竜。
鬼はそのまま至近距離まで近づき、正拳突きを打ち込む。
竜は正面から受けたが、少し押し込まれ後ろに下がるだけだった。
「【竜騎士の守護】…鉱石竜の鱗はあらゆる攻撃を受け止める」
「割と本気で打ち込んだつもりじゃがなっ!!!」
嬉しそうに鬼はもう一歩踏み込み、意趣返しと言わんばかりに見よう見まねで彼の鳩尾に発勁を打ち込む。
「フンッッお返しです!!!」
竜は体をひねりながら衝撃を受け流し、その衝撃を返すようにカウンターを鬼の顔に打ち込もうとする。
鬼はあっさりと片腕で受け、至近距離から回し蹴りを竜の顔面に向けて打ち込む。
それを首で受けた竜は鬼の手首を掴んで思いっきり鬼をぶん投げた。
鬼は体を翻し、ぶん投げられた勢いのままに壁を蹴っ飛ばして組みつきにかかる。
竜は正面から両手を掴み、両者は押し合いの体勢になった。
「
「こっちもですよ!!影羅姉!!」
嬉しそうに笑う両者。
凄絶な笑みを浮かべる鬼と竜。
この時を待っていたかのように笑う二匹の異形。
「ああ、楽しくて愉しくて…。」
「永らく出しておらんかった本気を出せそうじゃ…。」
より紅く染まる鬼の両手。
「もうちっと辛抱してくれよ。」
鬼の両手が巨大化し、竜をそのまま握り潰さんと唸りを上げる。
「デカさで張り合うならそちらが不利ですよ!!」
呼応するように竜の腕が変化し、自らの力を誇示するように鬼を押し返す。
「グウオアアアアアアア!!」
咆哮を上げそのまま押し切らんとする。
「おお!?地底にはおらんかったなこのタイプ!!」
「地竜舐めんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
壁までそのまま押し切り、鬼が潰されるかと思われたが…
鬼の顔には笑みが張り付いたままだった。
「妖力を使った上での力負けは久々じゃ!滾らせてくれるのぉ!!」
両手のサイズを瞬時に元に戻しつかみ合いの状況をリセット。
体勢の崩れた竜の懐に入り込み地面を蹴り、飛びあがるように顎にアッパー。
落下する勢いのままに上を向いた竜の顔に踵落とし。
その一連の動作が淀みなく一瞬のうちに実行される。
「ガッ…」
流石の竜も面食らったのか、一瞬地に伏せる。
「ふぅ…準備運動はこれで終わりじゃな?」
「そうですね…やっぱり影羅さんは強いですね。」
声に反応しむくりと起きながら血を吐き捨てる。
その姿を見ながら鬼はからからと笑う。
「まぁ効いておらぬよな!これは服が破れずには済まなさそうじゃ!!」
ひとしきり笑ったあとに真顔に戻る鬼。
竜はその表情を見ると何かを察したように竜気を高め始める。
その全身を鱗で覆い、鉱石の結晶を生やし始める。
「おお、まだ変化するんじゃな。どこかで聞いた『竜と龍は違う』というのは本当だったわけじゃ。」
「僕に細かい技とか魔法とかやっぱり無理でした。遠回りはしたと思うけど、この身体でこの力で影羅さんを倒してこそ僕の感謝の証明!!」
その言葉を聞き、鬼は静かに答えを返す。
「そろそろ童もあったまってきたところじゃ。」
「もう加減はできぬぞ。」
準備運動と言い放ったことに偽りがないことを証明するかのようにさらに力を解放する鬼。
たったそれだけで周囲にはビリビリと衝撃が伝わり、鬼が持っている力を雄弁に物語っている。
それはまさに鬼神を思わせる様相だった。
その衝撃を、力をひしひしと感じた竜はそれでも不遜に笑う。
「そちらこそ、土に顔つける準備は出来ましたか?」
「戦いに屈辱も何もないじゃろ?出すだけ出し切って負けても面白いだけじゃ!!!」
屈辱などどうでもいいと嘲笑し、鬼は薙刀を取り出して自らの左腕にサラシを巻く。
薙刀の名は【鬼薙・影桜華】。
彼女の本気に耐えうる愛武器である。
準備を終わらせた鬼は悠々と構え、正面に位置する竜を見据える。
竜も空間から見覚えのある鉱石で染め上がったハンマーを取り出し、構える。
一瞬の静寂の後に動いたのは竜だった。
「砕け散れぇい!!」
大上段の構えからのフルスイング。
「素直な軌道じゃな!!その不遜さはまさに上位者のそれじゃ!!楽しいのぉ!!」
サラシを巻いた左腕で受け、そのまま右手の影桜華を顔目がけて力任せに横に薙ぐ。
「片手で切れると思うなッ!」
結晶に覆われた片腕で受け、鬼の腹を蹴る。
もろに喰らった鬼だったが、口から血を垂らしながらもその場から一歩も動かずに腹筋だけで受けていた。
「なかなか重い蹴りじゃが…その程度でもなかろ?」
「…一応岩石くらいなら木端微塵なんですけどっ!!」
腕で受け止めた薙刀を弾き、止められたハンマーを振りかぶり横凪する。
その余波だけでも吹き飛びそうな膂力だ。
「受けても良いのじゃがなっ!」
下からくぐるようにするりと避け、両手で持った影桜華で肩を思いっきり突く。
「痛っったいなぁ、関節は弱いんですよ!!」
普通なら貫通して然るべき威力だが、彼にそこまでのダメージはない。
「そもそもなんですかそのバカ力!これでも硬さなら世界最硬自称してるんですよ僕!!」
しかし全く効かないというわけでもないようで、鬼に対して文句を垂れた。
「いやぁ!本気で突いてさほどダメージが入っておらんとはな!!自信なくす…のぉ!!」
文句を意にも介さずに嬉しそうに大笑いする鬼。
言うや否や妖力で影桜華を浮かせて射出し、本体も右手を巨大化させて突進する。
「フン!オラァ!!!」
ハンマーを投げて影桜華を迎撃する。
「真正面からブチ破る!!【チャージ】!!」
次の攻撃の力を溜め、鬼の攻撃を受ける構えを取る。
鬼はそれを見て笑みを深める。
「受けるのは分かっておったよ!何のために妖力で影桜華を飛ばしたと思っておるんじゃ!!」
竜に肉薄し、左手も巨大化させ両手を組み頭上から鉄槌を下す。
「グッッッウウツウウ!!!」
竜の口から血が漏れる。
床が割れるほどの衝撃を受けたが、倒れない。
「そんな手で上から叩いたら身体がガラ空きですよ!!【正拳突き】!!!」
ガラ空きの腹に正拳突きをもろに喰らった鬼はそのまま吹き飛ばされていく。
体勢を立て直して着地したのちに影桜華を地面に突き刺し、静かに構え始めた。
「『ギリギリでこそ力が出せるものじゃ。お主もそう思うじゃろ?』」
そう一言だけ呟き、あるけみすと世界のスキルを使用する。
彼女自身が考えたものではなく、たまたま覚えただけの技。
しかし今の彼女にはぴったりのスキルだった。
「【ネバーギブアップ】」
自らの体力が減っていれば減っているほど他のスキルの威力を上げるバフ技だ。
「そうですね!
影羅と全く同じ構えを取り、彼も一言呟いた。
「【ネバーギブアップ】」
目を丸くしてそれを見ていた鬼はため息をつく。
「教えた覚えはないんじゃがな。…童も腕の一本や二本は覚悟しておくかの。」
「…この世界で言うと、【ブレードジャグラー】じゃったか?」
妖力で影桜華をもう一度浮かせ、高速で四回撃ち込む。
それに合わせ最後にもう一撃本体が殴りにいく。
隙を潰した5連撃。
「迎え撃ちますよ。【竜巻の舞】」
ハンマーを高速で振り回し、何発かは弾き飛ばして迎撃する。
しかしすべては弾ききれなかったようだ。
竜の身体に傷が増え、そこから血が滴っている。
「この状態の僕で血が出るなんて…ホントにただの鬼ですか?姉さん…【神水スプラッシュ】」
自らの身体にリジェネを付与し、凄絶に笑う目の前の鬼を見つめる。
目線を受けた鬼はあっけらかんと言葉を紡ぐ。
「鬼じゃよ。人と鬼の間に生まれ、忌み嫌われてなお…それでもただ好きに生きているだけの、一匹の鬼じゃ。」
「はは。それでこそ憧れの姉さんだ!!【シールドバッシュ】」
片腕を巨大化させ、それを盾にしての突撃。
鬼はとっさに両手で受けるが、そのまま吹き飛ばされてしまう。
「ほんに、かったぃのぉ…」
「まだまだぁ!!」
鱗が煌々と輝き、一段と厚くなる。
「(もう2,3撃まともに喰えば、限界かもしれぬな…)」
「(覚悟だけでも、しておくかの。)」
彼女にとって、全力を出した状態でここまで長引く戦闘など経験がなかった。
地底に居た者ですら、彼女をここまで満足させるほど受けきれなかった。
「…本当は、使う気はなかったんじゃがな…」
「グルルルル…」
竜は野性味を帯びた瞳で鬼を見つめている。
目の前の竜は全力を出して然るべき相手だ。それは分かっている。
敬意を、表するべきだ。
「お主がここに居る理由はさっぱり分からぬ。」
「童に憧れているというのも心当たりはない。」
「しかし、ここまで本気を出させてくれたこと。」
「そして、お主のその強さに…敬意を表しよう。」
「愉しい戦いとはいいものじゃ。」
「限界の戦いとはいいものじゃ。」
「構えよ。正真正銘。
言い放った直後、彼女の全身に浮かんでいた紅の紋様がより濃くなっていく。
紅に染まっていた右手はドス黒く染まっていき、暗く光り始める。
竜は、静かに息を吸い…すべてを受け止め、ねじ伏せるために構える。
「【竜騎士の守護】【癒しの鎖】【チャージ】…来いッ!!」
満足げに眺めていた鬼は、ぽつぽつと語り始める。
「先に言っておこう。童のこの右手…防げばお主の勝ちじゃ。」
「これは童の全ての妖力、全ての力を用いて体の内部にダメージを通らせる。」
「童が唯一自分自身で身につけ、名付けた
「この黒猫亭に来て使うことはないと…そう思っておったがの。」
説明を聞いた竜はそれでもなお本望と言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「ならば結構。我が肉体は内外すべてを貫けぬ身と化す鉱石竜。その名に二言は無い!!」
啖呵を切った竜に笑いかけ、慈しむように、惜しむように鬼は言う。
「思い残すことはないな。往くぞ。」
────「【
一瞬。
瞬きをする間もないほどの一瞬。
瞬間移動でもしたのかと見紛うほど一瞬の肉薄。
「【ラストスタン…】」
言いきれたのかどうかというところで打ち込まれる拳。
「ウガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
抵抗も出来ずに頑丈な戦闘場の壁の奥まで吹き飛ばされる竜。
全ての力を振り絞り打ち込んだ鬼は打ち込んだ構えのまま不動。
─静寂が、鳴り響いていた。
がらり、と。
瓦礫が崩れる音が響く。
土煙が立ち、その奥に見える影。
「…満足、出来ましたか。」
腹部の結晶鱗は剥がれ落ち、血塗れになった竜がそれでも立っていた。
「─嗚呼、本当に満足じゃ。」
名残惜しそうに、どこか嬉しそうに。
「お主の勝ちじゃな。」
ズタボロになった右腕を眺めながら…鬼は、自分の負けを認めた。
その言葉を聞いた竜は、安心したかのように息を切らしながらも話す。
「…あぁ、良かった…本当に…良かった…。」
「待っててください…いつかまた…こんどは…ちゃんと勝ちますね…。」
竜の身体が光り始める。
「誇れ。童が唯一名付けたこの技を受けて生きていたものなど…地底にはおらんのじゃから…。」
名残惜し気に鬼は云う。
「また遊ぼうなのだ!」
辺りを眩い光が包み込み、光が収まるとそこには…
「Zzz…」
無傷で寝ている一匹のぽっちゃりドラゴンが居た。
「全く…何が何やら。」
鬼は苦笑しながら左手で竜を担ぎ、回復室に向かっていった。
─時は現在に戻る。
入浴しながら戦闘したあのひと時を思い出していた鬼は、いい加減にのぼせそうなので湯船からあがることにした。
「結局、童の右腕は店長の力や回復室でも回復せんみたいじゃな。」
普段の着物に着替えながら腕を見る。
日常生活を送るにはサラシを巻いていればさほど問題はない。
しかし…自分の全力で自分の身体が使い物にならなくなるというのは奇妙なものだ。
「技というには未完成じゃなぁ。毎度毎度このような壊れ方をしておっては本当に使えなくなるじゃろうし。」
どうしたものか、と思案を巡らせるもすぐには良い案が思い浮かばない。
「まぁよいか。童もまだまだ伸びるということじゃし。」
細かいことを考えるのは苦手じゃしな、と笑いながら酒をあおる。
全力を出してなお負けた。
そのことに感謝こそすれ、後悔する要素はない。
いつでも桜が咲いているこの不思議な空間も、いつも以上に晴れやかな気分で眺められる。
「負けるって…いいもんじゃなぁ…。」
地底では味わえなかった、純粋な力比べでの敗北。
まだまだ自分は強くなれるという実感。
ただただ酒をあおるよりもよほど満足感のある、そんな時間だった。
「─さて、今日も店でダラダラ過ごすかの。今日のダイス飯が童に食えるものじゃといいのじゃが…。」
ひょうたんを持ち自室のドアを開ける。
ただの一匹の鬼は、今日も気ままに生きてゆく。
童もかなり満足いった戦闘じゃったから加筆してSSに書き起こしたのじゃ。
シェフ殿には感謝しかないのじゃ。
今後こういったSSは好評じゃったら書くかもしれぬな。
またの。