フェイス・オフ   作:その辺の残骸

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後編

 フロイトはロックスミスと共に、戦場に降り立った。モニターを通して、荒れ果てたビル群を見上げる。仮想空間に構築された戦場ではあるが、現実との齟齬を見出すのは不可能だ。原子の一粒までエミュレートされている。

 

 ベイロードシティはシェルターに覆われた大都市であった。

 敵性反応はビルの上にある。漆黒の中量二脚ACだ。深紅のカメラアイがロックスミスを睥睨している。

 

「ベイラムの機体ではないな。似ているが、まるで違う」

 

 デュアルフェイスを構成しているのは、ロックスミスにも使われている敵対企業ベイラムの製品を彷彿とさせる、直線的で無骨なシルエットのパーツであった。装甲によって複雑に造形された脚部が目を引く。鋭く垂直に伸びた爪先はどこか悪魔的だった。

 

 コアから突き出た銃身や肩部に装備されたミサイルポッドらしきものを始め、コア理論によるACとは異なる機能を有している。フロイトはそれを一目見ただけで見抜いた。

 

 手持ちの武器はライフルとブレード。背面には大型グレネードキャノンを二門背負っている。極めて火力の高いアセンブルだ。集音センサーが拾っているジェネレーターの駆動音は、出力の高さを示している。

 

「裏切られることなど傭兵の常とはいえ…」

 

 デュアルフェイスを駆るジノーヴィーから通信が入る。シミュレーションの元になった戦闘で、記録された音声が再生されているのだろう。

 ジノーヴィーの声音には苦悩と哀しみが滲んでいた。

 

「だが、今この瞬間は力こそが全てだ」

 

 ブースターを起動させ、デュアルフェイスが舞い降りてくる。

 フロイトはロックスミスを離陸させ、右手のアサルトライフルを向ける。互いに銃口を向け合った。仮想現実に再現された重力加速度は申し分なく、フロイトの闘争心を刺激してくれる。

 

「私を超えてみろ」

 

 デュアルフェイスが先に撃った。迫ってくる高速の徹甲弾に対して、ロックスミスは左右に切り返して回避する。慣性を載せ、左斜めに跳びながら銃撃を続ける。

 

 並みのAC相手なら今の一瞬でコクピットに直撃させ撃墜できていた。ジノーヴィーは少なくとも退屈しない相手だ。面白い。

 

「言われなくとも、そのつもりだ」

 

 二機のライフル弾が空中で激突していた。

 

 撃ち合いを続けていると、デュアルフェイスの背部グレネードキャノンの一門が稼働。砲身が前方を向く。

 

「ちぃっ!」

 

 轟音。榴弾は音を置き去りにして、フロイトがクイックブーストをかけた先に飛んできた。

 見事な偏差射撃だ。当然、ライフルの射撃は継続していて、回避コースを制限してくる。

 

 ロックスミスは脚を蹴り上げ、宙返りする。砲弾はロックスミスがいた空間を通り抜ける前に近接信管により炸裂した。

 爆風と破片で損傷するだけでなく、バランスを崩す。 

 炸裂前からこの流れを予期していたフロイトは精密機械の正確さで操縦桿を引き、スロットルを調整することで機体を立て直す。

 

 その間にデュアルフェイスのライフルに被弾してしまう。

 

「結構揺れるな」

 

 脆弱部への被弾は逸らしたはずだが、大口径のためダメージは無視できないほどだった。

 ACSへの負荷も蓄積していく。

 

「やられてばかりは性に合わないんでな!」

 

 ロックスミスは弾かれたように急加速。背部のアサルトブースターを起動して、空中を直進。被弾を恐れず攻撃に適したポジションをもぎ取る。

 再び、グレネードキャノンの砲撃がきたが、今度はライフルで撃ち落した。

 

 お返しにこちらがライフル弾を当ててやる。まるで分厚い鉄塊に当てたような手応えだ。

 

 背部のレーザードローンを飛行しながら放っていた。

 側面から攻撃しているが、デュアルフェイスはブースト移動中にターン。美しい戦闘機動でレーザーを避けていく。

 

「いただきだ!」

 

 アサルトブースト中に左右へのフェイントをかけてから、拡散バズーカを発射。発射のタイミングをデュアルフェイスのグレネード発射に合わせていた。

 

 巨大な爆発が起こり、黒煙が漆黒のACを飲み込んでいる。

 

 フロイトは追い打ちのレーザーを浴びせ、自身も敵機を中心とした周回機動でライフルを射掛けて様子を窺う。中量二脚ACなら致命傷を負うはずだが、デュアルフェイスは異様なまでに強固だ。ライフルで被弾した箇所に装甲のヘコみすらなかった。

 

 一方でクイックブースターが装備されておらず、アサルトブースターもない。機動力の面ではロックスミスが圧倒している。

 

 だが、あちらの火力は手持ちのライフルでさえ高威力で、グレネードキャノンに至っては直撃すればロックスミスを粉砕するだろう。

 

 フロイトは時速数百kmで疾走する戦艦と戦っている気分だった。

 

 デュアルフェイスは鋭角に跳躍した。機体自体の馬力も凄まじいようだ。レーザードローンの砲撃を浴びながらも揺るがず、グレネードキャノンをロックスミスに向けている。

 

 フロイトは真っ向から受けて立つ。直撃した。今度はデュアルフェイスが黒煙の中の敵機を警戒する番だった。

 

 黒煙を突き抜けて姿を現したロックスミスは無傷だった。パルスアーマーによる防壁が機体を徹甲榴弾の破壊力から完全に守っていた。

 

「流石に驚いたか」

 

 機体を取り巻く、球形エネルギー装甲に包まれたロックスミスに対して、デュアルフェイスは少々対処に悩んだようだった。

 

 未知の防御システムを前にした、そういう反応だ。だが、即座に火力で対抗してきた。グレネードキャノンとライフルを放ちつつ肉薄。パルスアーマーに二発目を防ぐ余力はない。

 

 山猫の瞬発力で漆黒のACの猛撃を躱し、隙を狙って跳躍するとロックスミスはビルの壁面を蹴って高速で駆けた。

 

 それを皮切りに二機の戦闘はビルの壁面や屋上を蹴って駆ける三次元的なものにシフトした。

 

 激しい戦闘でフロイトはレーザードローンを使い果たしている。デュアルフェイスに多数のドローンが撃墜され消耗が激しかった。

 

 デュアルフェイスの胸部の砲身は迎撃レーザーを高精度で放ってきた。さらに肩に取り付けられたポッドから発射されたミサイルもレーザードローンを打ち落としていた。

 

 ビルで遮蔽を取り、拡散バズーカをパージして身軽になる。

 

 大きな振動を検知した。デュアルフェイスも左右のグレネードキャノンをパージしたようだ。互いに残りの武器はライフルとブレードのみ。

 

「征くか、ロックスミス」

 

 激しい加速に苛まれながらも、フロイトは歓喜の中にあった。激しい戦闘で重厚な装甲に傷を負った、漆黒の中量二脚ACを見据える。今ならばブレードを直撃させれば撃破できる。

 

 残弾数僅かなライフルで撃ち合いながら、蛇行機動で接近戦の下準備をする。

 

「――――ここだっ!」

 

 レーザーブレードを抜刀。高出力のエネルギーを力場で収束した刀身の青い輝きが暮れなずむビル群を照らす。

 

 フロイトの斬撃は羽のように軽くも鋭い。戦いへの恐れも憂いをもたない者だけが辿り着ける空の剣技だった。

 

 斬撃に手応えはなく、フロイトには驚愕があった。

 

「なっ!」

 

 デュアルフェイスは必殺の斬撃を僅かな動作で回避してみせた。

 左腕に装着されたレーザーブレードが発振するのは、刀身の短いオレンジ色の光刃。

 

「まだだ!」

 

 ロックスミスは身を捻り、続けざまの斬撃でデュアルフェイスを追う。その斬撃は断ち切られ、エネルギーが霧散してしまう。

 高出力を極めたデュアルフェイスのレーザーブレードが迎え撃ち、収束力場を拡散させてしまったのだ。

 

「小さな存在だな、私も君も」ジノーヴィーの記録音声が再生された。彼は憐れんでいた。

 

 その後の動きでも、ジノーヴィーはフロイトを上回った。

 レーザーブレードの冷却で無防備になったロックスミスを手玉に取り、ライフルを突き付ける。

 

 引き金が引かれる。だが、決着はつかなかった。直前に甲高い金属音がして、ライフルの銃口は天を向いた。

 

ロックスミスが蹴りを叩き込んだのだ。そのまま、クイックブーストで後退して、フロイトはジノーヴィーとにらみ合う。

 

「どうだっていい。続けようぜ、ジノーヴィー」

 

 今のやり取りで接近戦の手口はだいたい解った。次で堕とす。

 

 高まり続ける戦意と興奮に身を委ねながら、ロックスミスを疾走させようとしたその時。

 画面がノイズで乱れ、フロイトの意識は現実へと引き戻された。VRゴーグルにはエラーが表示されていた。

 

 ゴーグルを脱ぎ捨て、ストレージの様子を確かめた。金庫めいた黒い記録装置は高温を帯び、煙を吐いている。もう二度と使い物にならないだろう。

 

 

 歓喜から一転。フロイトが喪失感と怒りに震えていると、コクピットハッチが外部から解放された。

 

「フロイト! やはりここにいましたか!」

 

 改めて説教すべくスネイルは格納庫に足を運んだのである。しかし、今のフロイトはスネイルなど眼中にない。

 

「畜生がっ!! ジノーヴィィィィィ!!」

 

 フロイトはあらん限りの憤怒を吐き出す。ジノーヴィー、これはお前の望みなのか、違うよな?

 

 初めて聞くフロイトの怒声とその剣幕に、第二隊長閣下は魂消てしまった。

 

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