性闘士タク矢   作:ほろろぎ

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第一話 よみがえれ! 性闘士伝説

 熱気あふれる大勢の歓声を受けて、二人の男が対峙していた。

 

 暗がりの舞台の上でスポットライトに照らされる男らは、誇らしげに決めのポーズをとって向かい合う。

 互いに(きた)え上げた肉体美を観客の前へとさらけ出し、両者は相手を威嚇(いかく)するかのごとく、にらみ合っていた。

 

「ちっちゃいっすよね」

 

 目の前の男の筋肉を、自身のものと比べて貧相に見えると挑発の言葉を投げかけたのは、肉体派と呼ばれるボディビルダー「カシオス丸」。

 今行われている闇の賭博……暗黒地下ボディビルコンテストを仕切っている闇ビルダーの元締めだ。

 

 肉体派カシオス丸──通称「カシおじゃ」と対峙するのは、セミロンって歳でもないがカラダはいい、ダメそうな顔をサングラスで隠した男性。

 名を、『タク矢』と言う。

 

「なに言ってんだよお前……なにがだよ」

 

 いきなり挑発されたためか、タク矢は余りも貧弱すぎる語彙(ごい)で、反論とも言えない反論を返す。

 

 二人はこの地下で行われている違法ボディビルコンテスト──「銀河戦争」、またの名を「ギャラクシあん!あん!ウォーズ」でのライバルだった。

 と言ってもカシおじゃが一方的に因縁を付けているだけで、タク矢は「チョーうぜー」とねむねむの顔で白け気味なため、相手にされていないのが実情なのだが。

 

 そんな関係も、ここで終止符を打つ。とカシおじゃは、ある日タク矢に挑戦状を叩きつけた。

 現在行われているコンテストで、負けた方がビルダー界を去る、という条件と共に。

 

「あ、いいっすよ(快諾)」

 

 いい加減カシおじゃと顔を合わせるのが嫌になってきたタク矢は、これを了承。

 そして、二人の最後の戦いは始まった。

 

「脅威はどのくらいあるのかな?」

 

 ダブルバイセップスで力こぶを見せつけながら、カシおじゃは自分を脅威に感じているか? とタク矢に問う。

 対するタク矢は、ラットスプレッドで逆三角形の体系を見せつけつつ

 

「たくよぉ、この頃の若ぇやつはなってねーよな」

 

 と歯牙にもかけない。

 カシおじゃとタク矢は、(そろ)ってサイドチェストで胸筋を盛り上げる。

 

「うわーっこれ(虚勢が)透けてるんだねハァッ」

「おっペンギンちゃーん」

 

 だがしかし……おじゃ渾身の胸板も、タク矢の前ではペンギンのように可愛らしいものでしかなかった。

 

 観客の声援はタク矢ただ一人に向けられ、この時点で肉体派カシオス丸は……敗北した。

 

 

 

 

 

 タク矢はなぜ、違法なボディビルコンテストなどに手を染めているのか?

 それは彼のたった一人の肉親である、お母さんのためであった。

 タク矢の母親は入院しており、莫大(ばくだい)な入院費用を稼ぐために、彼は自らの肉体を(ささ)げたのだ。

 

 カシおじゃとの対決を制したおかげで、お母さんの治療には十分な資金が、まとまって手に入ったのは幸運だった。

 タク矢はギャラクシあん!あん!ウォーズに見切りをつけ、地下違法ビルダー界から足を洗い、日の当たる地上へと戻っていく。

 

 かに思われたその矢先、タク矢の前に一人の男が立ちふさがった。

 

「お前ちょっとなんで俺がこの場所に居っかわかってんのか」

「知らねーよ、そんなの」

 

 男の問いに、タク矢は素っ気なく返す。

 そのまま横を素通りして、母のいる病院へ向かおうとするタク矢の腕を、男はつかんで止めた。

 

「お前手ぇほせーな、お前なぁ。女の子みたいな手ぇしてんなぁ」

 

 すぐさま振りほどこうとするが、いくら力を込めても男の手を外すことは出来ない。

 力で押さえつけられている訳では無かった。

 なにか……不思議なバワー(・・・・・・・)が、タク矢の腕をつなぎとめていたのだ。

 

「オイ!? いってぇ! オイ!」

 

 抗議の声を上げるタク矢だったが、男は相変わらず彼の腕を放そうとしない。

 普段は温厚で人当たりのいいタク矢も、次第に男の態度に怒りをあらわにする。

 

「もう許せるぞオイ! ……もう許さねぇからな(豹変)」

 

 タク矢は渾身の力を込めて、腕をつかむ男の手を強引に振り払った。

 そのまま距離をとって、ファイティングポーズをとる。

 

「おいにゃんにゃんにゃん!!」

 

 拳を振り上げたタク矢。

 しかし全力で放ったはずの右ストレートは……男が向けた人差し指一本で止められてしまった。

 

「な……なにぃ!?」

 

 これにはさしものタク矢もおっぱげ、ゴーグルの上からでも目を見開いて驚いているのが透けて見えた。

 対する男は、「フッ」とニヒルな微笑を浮かべ

 

「さすがだな、タク矢。不完全ながら、俺の()に抵抗するとは」

 

 両手を上げて、もう危害を加える気はないと言外で伝える。

 意をくみ取ったタク矢も、構えを解いた。

 

「俺はAKYS(あきよし)あるお方(・・・・)からの勅命(ちょくめい)で、お前を連れに来た」

「あるお方って誰だよ? それに、どこに行くって?」

「俺と来れば分かる」

「行かねーよ、そんなの」

 

 今タク矢がすべきことは、お母さんの元へ帰ることなのだから。

 

「お前が来なければ、お前のお母さんも……いや、この地上に生きるすべての人々が──死ぬことになる」

「なんだその深刻そうな……すわわっ!」

 

 AKYSの表情から、彼がウソや冗談を言っているのではないと、タク矢は直感で察した。

 そして問う。一体全体、なぜタク矢の動向に全人類の存亡がかかっているのか、と。

 

「すべては、俺と来れば分かることだ」

 

 しょうがねえなぁ、とタク矢はAKYSの後に従うことにしたのだった。

 

 

 

 

 

「こ↑こ↓」

 

 AKYSに連れられやって来たのは、下北沢の中でも特に人目に付かない、奥深い所に建てられたとあるビル──COAT本社。

 そこを知る人たちからは、聖地──「サンくちゅくちゅアリ」と呼ばれる場所だった。

 

「AKYS、勅命を果たし戻ってまいりました」

 

 タク矢の横で(こうべ)を垂れるAKYSの前には、一人の見目麗しい女性がイスに座っていた。

 

「おい、彼女は何者だ?」

 

 タク矢はそっと隣の男に問う。

 AKYSは、神妙な面持ちでその問いに答えた。

 

「彼女こそ、この地上を守るため降誕された女神……ピンキー様だ」

「ピンキー……女神だって?」

 

 目の前の女性は、なる程確かに……直視しては目がつぶれるほどの神々しさを放っており、視界に入れることすら恐れ多いという点では女神と言われるのも納得だ。

 

「よく来てくれました、タク矢。貴方を呼び寄せたのは、他でもありません」

 

 ピンキーは早速本題を切り出す。

 

「私はこの地上を守るため、天界より降り立ちました。けれど、私は直接戦うことは出来ない……そのために、貴方のような男が必要なのです」

「俺が……?」

「神話の時代より、私と共に悪しき神々と戦ってくれる戦士たちがいます。その名は──『性闘士(セイント)』!」

 

 性闘士、それは夜空に輝く星座をモチーフとした鎧──『性衣(ユニフォーム)』を身にまとう戦士のこと。

 そのペニスは空を裂くように()ち、そのケツは底深き奇妙かつ美しい谷の亀裂のように割れるという、希望の闘士たち。

 

「タク矢。貴方もまた、地上の性と欲を守るために戦う星の宿命に生まれた者。どうか私たちと共に、この地上のために戦ってください──!」

 

 あまりにも突拍子の無い話だったが、不思議と彼女の言葉はタク矢の中に、スッと入って来た。

 これまで欠けていたパズルの最後の一ピースが、ついにハマったような感覚。

 自分が生まれ、これまで生きてきた意味が……タク矢は心の底から理解できた気がした。

 

「かしこまり! 俺も性闘士になって、皆のために戦うっす!!」

「よく言ってくれました。そこに居るAKYSも性闘士なのです。早速、彼に修行を付けてもらいなさい」

「ウッス!!」

 

 こうしてタク矢は、立派な性闘士になるためAKYSとの過酷な修行の日々に突入した。

 

 

 

 

 

 修行が始まって、一体幾日が経過しただろう。

 水中ブリッジ三分間から始まった数々のチョーSなトレーニングを乗り越えるも、タク矢は未だ性闘士になれずにいた。

 

 悩むタク矢に、AKYSはもっとも重要なアドバイスを教える。

 

「タク矢。お前は自分の雄膣の中に、宇宙を感じたことがあるか?」

「ウッス! ありません!!」

「そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ」

「ウッス! すいません!!」

 

 AKYSは地面に転がっていた石をおもむろにつかみ上げると、それを紙でも潰すようにクシャリと握りつぶしてしまった。

 

「この世にあるものは全て原子でできている。そして自らの雄膣に内包された宇宙を爆発させれば、あらゆる原子を砕くことが出来るんだ」

 

 こんな風に。

 

「自分の雄膣を爆発させるんだ、タク矢! そうすれば、お前も性闘士の究極の闘法──『雄宇宙(オスモ)』を使えるはずだ」

「ウッス!!」

 

 素直なタク矢は、すぐさま自分の雄膣に意識を集中させる。

 そして──

 

「たまんねぇっす!」

 

 セクフレが雄膣の肉壁を責めてきた時のことを思い出し、快感に浸っていたタク矢のバワーが爆発。

 先にAKYSが砕いた石の、何十倍もある岩を、タク矢は一撃のもとに破壊した。

 

「やったぜ」

「おー、たくや、すげーな! やっと雄宇宙に目覚めたな!」

 

 AKYSの賞賛と共に、守護星座を(かたど)った専用の性衣(ユニフォーム)をもらい受ける。

 今ここに──性闘士タク矢、誕生。修行開始から9315日目のことだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃──タク矢が去った後の地下違法ビルダー会場。

 ギャラクシあん!あん!ウォーズでタク矢に敗北を喫した肉体派カシオス丸──カシおじゃは荒れていた。

 

「ハララララァ……(溜息)」

 

 タク矢が居なくなってから銀河戦争も一気に人気に陰りが出て、もはや誰も訪れる者がいなくなった。

 カシおじゃは敗北の二文字を背負わされたまま、この地下でくすぶり続けている。

 

 そんなおじゃの前に、ヤクザを思わせるいかつい風貌(ふうぼう)の男が一人、歩み寄って来た。

 男は、落ち目のカシおじゃに(さげす)むような視線を向ける。

 

「お前負け犬か?」

 

 見ず知らずの男から投げつけられた嘲笑の言葉。

 カシおじゃは額に血管を浮かべ、男の前に立つ。

 

「(命がいらな)イーヨー……(うだな)」

「お前初めてか誰かに負けるのは? なあ? 力抜けよ」

「(俺を前にして減らず口を叩ける態度に)笑っちゃうんすよね」

「お前……タク矢に勝ちたいか?」

「ッ!」

 

 因縁の相手の名を出され、カシおじゃの表情が固まる。

 

「俺が勝たしてやろうか?」

「(タク矢に一泡吹かせられる可能性が)濃いすか?」

 

 自身の口車にすぐさま乗って来たカシおじゃに、男は思わずほくそ笑んだ。

 

「俺の名はTNOK(たにおか)。タク矢に勝ちたいんだったら……『クルルァド財団』について来い」

 

 タク矢に続いて肉体派カシオス丸までもが姿を消したギャラクシあん!あん!ウォーズは、やがて地下世界の住人からも、完全に存在を忘れられてしまった──。

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