日曜午後、崖の上で逆さづりにされながら、腹筋一千回をこなしている最中のタク矢。
これは
すでにタク矢は三軍性闘士に認められ、自身を守る守護星座を
が、これに慢心せず日ごろの
「あーっ! おぅううっす! おー! うーっす!」
気合を込めて腹筋をこなすタク矢の全身は、汗でドロドロだ。
筋肉を傷めつける快感で狂いまくりで残り三ラウンドに入ったところで、タク矢のケータイに着信音。
修行中は集中できるようメールは切っておくタク矢だが、緊急用に電話は着信するようしているのだ。
股を開いてグチョグチョのケツマンに収納していた携帯を取り出し、電話に出る。
通話の相手は、各性闘士の身の回りのお世話をする人間──通称、マネエヂャアだった。
「たくや? 今、ピンキーから
「あ、あん、はっ、はい、四十分後には、いっ、行けまっす!」
「もっと早く来れませんか?」
「あ、ああ、はい、なるべくはっ、はっ、早く行きまっす」
性闘士の任務はいつも突然だ。
彼らの直属の上司であり、地上の平和を守るため降臨した、神の生まれ変わりでもある女神──ピンキーに会うため。
二時間コースの崖逆さづり腹筋を終えたタク矢は、速攻でシャワーも浴びずに勃起したリングマラをジーンズに収めて飛び出るのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
タク矢は今、聖地サンくちゅくちゅアリを出て、下北沢の街中を歩いていた。
それはピンキーから与えられた使命を果たすため。
「いいぜ、楽しみにしてるぜ~! 今日はどんな奴かな~今日のウリも楽勝だな♪」
性闘士の任務をウリと同じこととして考える能天気なタク矢は、鼻歌交じりで街をぶらつく。
「それにしても下北はいいな。通行人たちはみんな、まるで『タク矢を見ないのがエチケット』って感じでいてくれる」
それともオレの格好が激エロのモロ闘士だから目をそらすのかな(笑)
そんな事を思いながら、タク矢はとあるガソリンスタンドの前で足を止めた。
彼の視線の先には、真面目にバイトをこなす一人の青年の姿が映っている。
ゆっくりとした足取りで、タク矢は青年の前に歩み寄る。
タク矢の姿を認めた青年は、客が来たと思いお辞儀で出迎えた。
「あ、いらっしゃい!」
「君が……まさよしくんだね?」
青年は首を横に振った。
「違いますよ。俺の名前は
青年の名を聞いたタク矢の両目が鋭くなる。
このGOという男、女神ピンキーが「この世に災いをもたらす存在」として、性闘士となったタク矢に討伐を命じた相手だった。
ギン目でGOの目を
と、不意にタク矢を強烈な目まいが襲った。
(しまった……! ここに来る前に泊まりのウリで↑と合ドラ仕込まれた疲れが……ッ)
不覚、タク矢。任務を果たす前に、対象の前で意識を失うという失態を侵してしまった。
「ぅ……羽毛……」
窓から差し込む夕日の刺激でタク矢は目を覚ました。
どこかアパートの一室、丁寧に布団の上で彼は寝かされており、額には濡らしたタオルが当てられていた。
「あ、起きたんだ」
「お前は……」
目覚めたタク矢の隣では、彼を看病していたと思わしきGOの姿が。
水を張った桶を見て、ずっとタオルを交換して容態を見ていてくれたんだなと、タク矢は察する。
「なんで、俺を助けた?」
「え、そんなん深い理由ないっしょ」
他人を、特にタク矢のような怪しい中年を理由もなく助けるなど、普通の人間には中々行えないことだ。
損得抜きで他人に親切にできるGOという人間を見て、タク矢は彼を討伐するよう命じたピンキーに、少なからぬ疑念を抱いた。
「あ、さ、ビールあるんだけど、オジサンも飲む?」
そう言ってGOは冷蔵庫から二本の缶ビールを取り出し、一本をタク矢に差し出す。
「……おじ↑さん↓だとふざけんじゃねぇよお前! お兄さんだろォ!?」
しばしためらうも、喉が渇いていたタク矢は大人しくビールを受け取った。
二人は
「……タク矢だ」
「え?」
「俺の名は、タク矢だ。オジサンじゃねぇ」
「タク矢さんさ、俺になんの用があったの?」
「…………」
性闘士のことは世間に
もっとも、話したとしても信じてもらえるとは思えないし、討伐対象に任務を明かすのはご法度である。
「いいよ、言いたくないなら」
なにか深い事情があるのだろうと察したGOは、無理に聞き出そうとはしない。
二人は黙ってビールを飲み続け、やがて缶は空になった。
「タク矢さん、今日泊るところあるの?」
「いや……」
「だったらさ、家に泊ってかない?」
初めて会った怪しいだけのタク矢に対し、なぜそんなに親切にしてくれるのか。
この疑問がタク矢の心をとらえて離さないのである。
根が素直なタク矢は、率直に尋ねてみた。
「うーん、なんて言うかさ……タク矢さん、俺と同じものを感じるんだよね」
「同じ?」
「俺、家族がいなくて、天涯孤独の身の上なんだ。だから、誰か側にいて欲しいっつーかさ……」
「……そうだったのか」
お母さんこそいるものの、タク矢もずっと一人暮らし。
そして今は関係が修復されたが、タク矢は長い間お母さんと仲が悪く、疎遠な状態が続いていたことがあった。
GOの言う様に、確かに二人はどことなく、似たような境遇にある。
それが彼らの間にシンパシーを感じさせたのだった。
それからタク矢はGOの家で、共同生活をおくり始めた。
抹殺対象と、それを狙う人間という奇妙な二人の同居は、不思議と上手くいった。
孤↑高↓という互いの境遇で繋がった縁は、お互いに欠けたものを埋め合うような歯車のかみ合わせ。
ある時は狭い台所で並んで食器を洗い、またある時は二人揃ってジムに行ったあとシャワーを浴びる。
いつの間にかGOは、ずっと昔から側にいる幼馴染のように、タク矢になくてはならない存在となっていた。
GOにとってもまた、タク矢という男性がいることは大きな心の支えとなっていることだろう。
性闘士になるための過酷な修業とは違う。
タク矢にとって初めてとも思える、心満たされる楽しい日々は、あっという間に過ぎていった。
◇ ◆ ◇ ◆
タク矢がGOと出会ってから、早一月の時間が経過した。
今日も二人は、仲良く並んで買い物帰り。
「昔は精液とヨーグルトとキメションのみが体の養分だったが、今はお前の手料理がマジたまんねぇ!」
「もう本格的にやってんだぁ、料理の勉強」
まるで新婚のカップルのような仲睦まじさを見せるタク矢とGO。
……その前に、不意にかつての因縁が影を落とす。
「ハァ……(驚愕) 絵に描いたような堕落(笑) 凄い陽気だね」
「! お前は……」
タク矢はゴーグル越しに、カッと目を見開いた。
彼の前に現れたのは、かつて地下暗黒ボディビルコンテスト──「ギャラクシあん!あん!ウォーズ」で因縁のあった人物。
「久しぶりだな、カシおじゃ」
肉体派カシオス丸……タク矢に敗れたあと、地下世界から姿を消した彼が、今またタク矢の前に舞い戻って来たのだ。
不死鳥のごとく、強い恨みを抱いて。
ボロ布で全身を包むカシおじゃの隣には、彼を復讐の鬼へと駆り立てた謎の男──
「お前タク矢か? って事は、横の奴がGOか?」
TNOKは写真を片手に二人を見比べて言った。
見るからに堅気の人間ではないTNOKを、タク矢は警戒する。
「なんだお前?」
「俺はTNOK。クルルァド財団の
「なにぃ? クルルァド財団っていえば、性闘士をサポートしてる組織じゃねえか」
聖地サンくちゅくちゅアリと深い関わりがあり、性闘士の活動や資金面でのバックアップをしている企業、それがクルルァド財団。
「財団がお前らを支援していたのは、ピンキーのためじゃねえ。俺らが……世界を支配するためなんだよ」
「どういうことだ!?」
タク矢が叫ぶように問う。
「お前らもよーく見とけよ」
TNOKはニヤリと口の端をゆがめ、隣に控えるカシおじゃに合図を送った。
カシおじゃは、これまで身を包んでいたボロ布を脱ぎ捨てる。
布の下には、カシおじゃの身体すべてを覆うように、漆黒の鎧が身にまとわれていた。
鎧を見たタク矢の顔が、衝撃を受けた様に歪む。
「それは……
カシおじゃがまとう鎧は、限りなく性衣に似ていた。
しかしどこか……どこかが決定的に違っている。
タク矢の反応に気をよくしたTNOKが、その正体を明かす。
「こいつはなぁ、お前ら性闘士の性衣を解析してクルルァド財団がつくり上げた、人造の鎧。いわば……
TNOKの言うように、確かにカシおじゃの着るアーマーは、どこか機械的な冷たさがあった。
暗黒性衣をまとった肉体派カシオス丸を前にタク矢は……余裕を持った笑みを浮かべる。
「フッ。そんなまがい物の性衣で世界を支配するとか、笑っちゃうぜ」
タク矢のいう通りだった。
いくら人工的に性衣を再現できる技術があっても、それだけで女神を有するサンくちゅくちゅアリに敵うはずもない。
今度はTNOKが笑みを浮かべる。
「これだけじゃねえぜ。俺らの目的は、そこにいるGOだ」
「GOが一体なんの関係があんだよ?」
「それだけ側にいて気づかないのか? GOはなぁ……俺らの調べでは、ピンキーに匹敵するか、それ以上の『
「ウッソだろお前! 信じらんねぇ!」
「(GOの雄宇宙をこの手にできれば、世界制覇なんてたやすい可能性が)濃いすか?」
TONKだけでなくカシおじゃも、至極真面目な顔でGOの持つ可能性を語る。
タク矢はGOの顔を見た。
彼の表情は、二人の言を肯定も否定もしていない。
タク矢は考える。
たぶん三人の考えにはいろんな可能性が入ってたんだぜ。
さっき妙にTNOKが自慢げだったのは暗黒性衣の性能の良さだな、カシおじゃの余裕は破壊力を鍛えたんだな、GOのエロさは3だなとか
結局一番つらい時ってのはGOを守りたいのに倒さなければならない可能性が浮上して一人で悶え狂ってるシチュエーションだとわかったぜ。
それでも尚──タク矢はGOを庇うように、TNOKとカシおじゃの前に立ちふさがる。
「今GOを守れなかったら、俺が俺でいらんねーよ」
その言葉を宣戦布告と捉えた肉体派カシオス丸は、タク矢に向けて地を駆けた。
タク矢はギン目でカシおじゃを睨めつける。
「物凄い……(笑)なんか、正義の味方? なの?」
……かに思われた。
カシおじゃの右拳は、しっかりとタクヤの人差し指で押さえつけられていた。
それはかつて、タク矢の攻撃を指一本で受け止めた師匠、AKYSの行動を思い起こさせる状況だ。
「えっ、なんすかそれ」
思わず素で聞き返すカシおじゃ。
さらなる力を込めても、タク矢の指はビクともしない。
タク矢は
なぜ、暗黒性衣というパワーを与えられてもなお、彼の力がタク矢に届かないのか……。
「カシおじゃ。お前はただ、表面的な破壊力を身につけただけに過ぎないんだよ。そんなんじゃお前、虫も殺せねえぞ」
ゾクリ、と肉体派カシオス丸の背筋に冷たいものが走った。
「お前は……自分の雄膣の中に、宇宙を感じたことがあるか?」
「(そんなもの無)イーヨー……」
「自らの雄膣に秘められた力を爆発させ、あらゆる原子を砕く……それこそが性闘士の究極の闘法」
こんな風に。
タク矢の平手打ちがカシおじゃの頬に炸裂。
パーンッと軽快な音を響かせて、カシおじゃはぶっ飛び射精。
「見せてやるぜ、カシおじゃ。お前に……性闘士の本当の力をな!」
タク矢は股間に手を突っ込むと、おもむろに履いていた競パンを脱いだ。
それこそが、女神ピンキーが彼に授けた聖なる鎧。
「これが、種付け競パン座の性衣だッ」
カシャーンと音を立てて、性衣が分解する。
オブジェ形態から別れた性衣は、鎧となってタク矢の体の各部位に装着されていく。
「性衣と俺のさ、子供ができたらどうする? 性衣と俺と……え? 性闘士タク矢の誕生か?」
背には輝く種付け競パンの星座。
性闘士タク矢は、誇らしげに決めのポーズを構える。
「ミッキーマウス……(イキまーす)」
「速攻力任せかよお前……(落胆)」
勢いに任せて突っ込んでくる肉体派カシオス丸を前に、タク矢は拳を引き絞り
「フィストだな」
音速のパンチを放った。
秒間にして優に百発もの拳の連打を受けたカシおじゃは、暗黒性衣ごと体中の原子を砕かれ、ドウと地に倒れ伏す。
「未熟です……」
それが肉体派カシオス丸の、最期の言葉だった。
残る敵はTNOKただ一人。
タク矢はクルルァド財団総帥である男の顔を、キッと見据える。
「ば、バカな……いくら模造とはいえ、カシおじゃに着せたのは三軍性闘士の中でも最強と言われる、不死鳥座のコピー品なんだぞ……!?」
それを、たかが性闘士になりたての……まだヒヨッコのはずのタク矢が難なく撃破してしまうとは……。
TNOKにとっては夢にも思わない現実。
「(お前の野望もこれで)終わりだぜ」
「ちくしょう! ……ポイテーロ!!」
捨て台詞を残して、TNOKは闘争を図る。
が、それを
一筋の雷光と共に、姿を見せた男の身には、
「うっ! あ、アンタは!?」
タク矢は驚きと共に言った。
それは、性闘士の中でも最強の力を誇る十二人の一軍性闘士、その中でも最も実力の高いとされる人物──。
「やりますねぇ!」
タク矢の性闘士としての初めての戦いを褒める、その人こそ……
「一軍性闘士──『デカマクラ座のタドコロ』!!」
タドコロは、したり顔を浮かべ一同を