妖精の尻尾のリュウさん   作:ただの馬鹿

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彼女のお話
歓迎するよ


遂に着いた憧れの魔導士ギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

あたしことルーシィは、ハルジオンの街で出会ったナツに連れられて、ナツの所属しているギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)にやってきた。

 

ハルジオンでは妖精の尻尾(フェアリーテイル)を騙っていた悪辣な魔導士に騙されて危うく奴隷にされるとこだったけど、本物の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だったナツに助けられた。

 

ナツの使う魔法は炎の滅竜魔法て言って、見たことも聞いたこともない魔法。

 

火を食べたり、火で殴ったり。その暴れようはまさしく伝説で語られるドラゴンそのものだった。

 

 

 

……まあ、暴れすぎて港ひとつを半壊させちゃってたけどね。

 

 

 

でも、派手な魔法で悪人を倒し、ありのままで楽しそうな姿はまさしく憧れていた魔導士のあり方そのもの。

 

そんなナツに連れられて、あたしはここ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へとやってきた。

 

マグノリアという商業都市に居を構える大きなギルドハウス、その門扉の前に立つ。

 

初めてのギルド。憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル)を前に感動している間に、ナツは先にギルドの中へと入っていった。

 

「ただいまー!!」

 

「はっはっはっ! ナツ! また派手にやらかしたなぁ。ハルジオンの港の件、新聞に載って―――」

 

「てめぇ! 火竜(サラマンダー)の情報嘘だったじゃねえか!!」

 

「うごっ!」

 

ナツが笑いながら迎えていた男に飛び膝蹴りした。うわ、痛そう。

 

ていうか、ハッピーにも言ったけど、街中にドラゴンなんているわけないし、ただの早合点だと思うんだけど。

 

蹴られた男が吹っ飛び、テーブルを巻き込みながら人だかりへと突っ込んでいく。

 

「てめぇ、痛ぇじゃねえか!」

 

「ちょっと、何よ!」

 

「うおっ、やんのか、コラ!」

 

巻き込まれた人たちも怒りに火がつき、徐々に喧嘩が広まり始めた。

 

騒がしくもどこか楽し気な様子の喧騒を眺めていると、実感が湧き上がってきた。

 

「あたし本当に……妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来たんだぁ」

 

 

 

ただまあ、ナツを知ったときから薄々思っていたんだけど、やっぱりまともな人が全然いない。

 

脱ぎ癖があり、半裸どころかパンツ一丁……を超えてパンツさえも脱ぎ捨てるグレイ。

 

酒好き、よりも酒乱て言った方がいいくらいに酒樽ごと酒を呷るカナ。

 

漢なら拳で語れ! と言いながら一瞬で玉砕するエルフマン。

 

「彼氏にしたいランキング上位ランカー」の女好きロキ。

 

 

 

憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来て嬉しいんだけど、ここまで変な人だらけだと、ちょっとだけ不安にも感じてきた。

 

そんなあたしに現れる救世主。

 

「あら、新入りさん?」

 

「ミ……ミラジェーン!!」

 

キャー! 本物! あたしの愛読書週刊ソーサラーにもグラビアが載るほど有名な美人看板娘の女性。

 

この方は常識人のはず!

 

思わず感動でうっとりしてしまったが、我に返って声をかけた。

 

「アレ止めなくていいんですか!?」

 

目の前で起こってる喧嘩を指差す。

 

ミラジェーンさんは笑いながらこう答えた。

 

「いつもの事だから、放っておけばいいのよ♡」

 

「あ、あはは。そうですか……」

 

思わず引き攣ってしまった。

 

こんな乱闘が日常茶飯事って、どんな修羅場よ。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

ミラジェーンさんが言葉を続けようとしたその時、乱闘している中から瓶が飛んできてミラジェーンさんの頭に直撃した。

 

ミラジェーンさんが床に倒れるのを見て思わず絶叫してしまった。

 

「きゃー!! ミラジェーンさん! 大丈夫ですか!」

 

「それに……」

 

ミラジェーンさんは何事もなかったかのように起き上がる。

 

……頭から血を流しながら。

 

「楽しいでしょ?」

 

(怖いですぅー!)

 

ミラジェーンさんもどこかズレている。

 

あたしは確信した。

 

 

 

そうこうしている内に、場はエスカレートしていき、良くない展開へ変わろうとしていた。

 

苛立ちが頂点に達した者がその身の魔力を滾らせる。

 

「あんたらいい加減に……しなさいよ……!」

 

カナの右手カードが魔力を帯びて輝き始める。

 

「アッタマきた!!」

 

グレイは左掌に右拳を当てながら念じるとそこに魔法陣が浮かぶ。

 

「ぬおおおおおおおおっ!!」

 

エルフマンは雄叫びを上げ、掲げた右腕を変化させた。

 

「困った奴等だ……」

 

ロキは人差し指に着けている指輪に指で触れて光を灯す。

 

「かかって来いっ!!」

 

そして、ナツが両手に炎を纏い臨戦態勢に入る。

 

今までの喧嘩でも使わなかった各々の魔法を使用する予兆だ。

 

って、やばくない!? 大丈夫なの!?

 

「これはちょっとマズイわね」

 

ミラジェーンさんも笑みながらも冷や汗を流していた。

 

やっぱり、喧嘩がよくあるといっても魔法を使うのは行き過ぎみたい。

 

ああ、あたしのギルド人生終了しそう……。

 

 

 

訪れようとした大惨事に戦慄しているとギルドの天井まで迫る影が現れた。

 

「やめんかバカタレ!!!」

 

「でかーーー!!」

 

その巨体に思わず叫ぶ。

 

巨人だった。そうとしか言えない人物の一喝で、さっきまでの喧騒は噓のように消え、ギルドの皆が動きを止めた。

 

訪れた静寂。一体この人? は誰なんだろう。

 

「あら、いたんですか? マスター」

 

「マスター!?」

 

ミラジェーンさんの言葉を反復してしまった。

 

マスター、つまりギルドマスターだ。この妖精の尻尾(フェアリーテイル)の。

 

到底信じられそうにないが、この人の一喝で場は静まっている。

 

さっきまで魔法を使う程までにエスカレートしていた皆が大人しく矛を収めているし……この巨人が本当にギルドマスターってことなんだ。

 

「だーっはっはっ! 皆してビビりやがって! この勝負俺の勝ーーぴっ」

 

いや、ナツだけは空気読まずに高笑いを上げていた。すぐ巨人に踏み潰されて黙らされたけど。

 

踏み潰したその足でそのまま巨人がのしのしと近づいてきた。

 

目の前まで迫ってくる巨体に足が竦んでしまう。

 

「む、新入りかね」

 

「は……はい……」

 

なんとか声を絞り出したけど、それ以上の言葉が出せそうにない。

 

「ふんぬううぅぅぅ」

 

巨人が唸り声を上げて力む姿にもう声も出ない。

 

恐怖から口をパクパクさせるしかできないまま呆然としていたけど、巨人が徐々に縮み始めると、やがてあたしの背丈ほど……を超えてさらに膝丈まで小さくなった。

 

「ええーーーっ!?」

 

小っさ! ギルドの天井まで届くほどの巨体が跡形もなく消えて、小人といっていいほどの大きさの老人になった。

 

そういう魔法ってことなのかな。もう今日は驚きすぎて叫んでばっかりだ。

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルドマスター、マカロフさんって言うらしい。

 

その場から跳躍させて、その小さな体を回転させながら2階の手すりへと跳んで行った。

 

途中手すりに背中ぶつけていたけど。

 

痛みを堪えながら態勢を整えると懐から書類を取り出した。

 

「ゴホンっ! ま〜たやってくれたのう貴様等、見よ評議院から送られたこの文書の量を!」

 

評議院……魔導士ギルドを束ねている機関じゃない。

 

罪を犯した魔導士の検挙や問題を起こしたギルドに対する制裁などを加える権限を有している、いわば上位機関。

 

その評議院から送られてきた文書って何だろう?

 

「まずは……グレイ」

 

「あ?」

 

「密輸組織を検挙したまではいいが……その後、街を素っ裸でふらつき、挙句の果てに干してある下着を盗んで逃走」

 

え、何それ。変態の所業じゃない。

 

「いや……だって裸じゃマズイだろ……」

 

いや、その弁解は的外れでしょ。そもそも何で裸になるのよ。

 

「まずは裸になるなよ」

 

うんうん。その通り。正論ね。

 

「エルフマン。貴様は要人護衛の任務中に要人に暴行」

 

でもその正論を指摘した男もやばいこと仕出かしていた。

 

なんで守る人に危害を加えているのよ。

 

「『男は学歴よ』なんて言うからつい……」

 

そんなん理由になるか。普通に傷害だからそれ。

 

マスターも呆れたように首を振る。

 

「カナ・アルベローナ。経費と偽って某酒場で呑むこと大樽15個。しかも請求先が評議院。ロキ。評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求が来ておる」

 

続々と出てくる事案の数々。内容もひどい。的確に評議院を敵に回している。

 

つまりはマスターの持っている書類は苦情の束ってことなのね。

 

「そしてナツ……」

 

マスターはがっくしと項垂れるとナツを名指しした。

 

やっぱりナツもやらかしているのね。まあ、暴れ回ってハルジオンの港を半壊してるし、そのことかな?

 

「デボン盗賊一家壊滅するも民家7軒も壊滅。チューリィ村の歴史ある時計台倒壊。フリージアの教会全焼。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊」

 

やりすぎーーー!

 

今までの事案が前座になってしまうほどの規模と数の損害をナツが一人で引き起こしたらしい。

 

ていうか、本で読んだ記事はほとんどナツだったのね。

 

 

 

マスターはその後も次々と問題を起こしたギルドメンバーの名前を上げていく。

 

「アルザック、レビィ、クロフ、リーダス、ウォーレン、ビスカ……」

 

呼ばれた人はバツが悪そうな顔をしている。

 

ていうか多すぎ。色んな人が呼ばれて、最早呼ばれていない人の方が少なくなってしまっている。

 

やっぱり、雑誌で読んだ通り、とんでもないくらいハチャメチャなギルドなんだ。

 

雑誌で読んだ時はその破天荒さに憧れていたけど、マスターが苦情を読み上げて体を震わせる姿には少し悪寒を感じてしまう。

 

「まったく少しはリュウさんを見習ったらどうじゃ! 彼女だけじゃぞ、いままで苦情がなかった者は」

 

リュウさん? 誰なんだろう。

 

ギルドを見渡してみても該当しそうな女性はいない。誰もが気まずそうに顔を背けていたり、下を向いたりしている。

 

でも今まで苦情もなく、マスターが見習えって言うほどの人だから、常識人なんだろう。同じ常識人同士仲良くしたいな。

 

「貴様らァ、ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞ……」

 

そう思っていると、マスターは言いたいことは全部言い終わったのか、体を震わせながら沈黙する。

 

ギルドは気まずい沈黙に包まれていて、ただマスターの次の言葉を待っていた。

 

あたしも当事者じゃないのに、その怒りに怯えてしまう。

 

「だが……評議員などクソくらえじゃ」

 

だけど、続いた言葉は予想もつかないもので、思わず「え?」と呆けた声を出してしまった。

 

マスターは手元の書類に火をつけて投げ捨てた。ナツがその火にかぶりつくのを尻目に、マスターの言葉に耳を傾ける。

 

「よいか……理を超える力は、全て理の中から生まれる。魔法は奇跡の力なんかではない。我々の内にある気の流れと、自然界に流れる気の波長が合わさり、はじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂の全てを注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いてる目ン玉を気にしてたら魔道は進めん。評議員のバカどもを恐れるな」

 

言葉を紡いでいく内に、意気消沈した場は既になく、全員がマスターを見上げてその言葉に集中している。

 

あたしもさっきまでの悪寒も忘れたように、その言葉に思わず笑みを浮かべていた。

 

マスターはにやりと不敵に口元を歪めて、小さな両腕を大きく広げた。

 

「自分の信じた道を進めェい! それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士じゃ!!!」

 

マスターの言葉に、その場の全員が歓声を上げた。

 

みんなが一様に笑っていて、天高く拳を上げている。

 

これが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

あたしの憧れていた場所。

 

ここに来れて、本当に良かった。

 

 

 

 

 

 

場も落ち着いて、賑やかながらも穏やかな談笑に包まれるギルドの中で、ようやくあたしも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れてもらえることができた。

 

「はい。これであなたも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員よ」

 

「わぁ」

 

自分の右手の甲に入れてもらったギルドの紋章を感慨深く眺める。

 

ギルドに所属する魔導士は、その証として体のどこかにギルドの紋章を象った魔法のスタンプを押してもらう事になる。

 

ミラジェーンさんに押してもらったギルドの紋章を恩人であるナツに見せて報告した。

 

「ナツー! 見てー! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマーク入れてもらっちゃった!」

 

「おう、ムシャ、よかったなルイージ、ムシャ」

 

「ルーシィよ! もう」

 

……本人は食事に夢中で、あたしの事なんてどうでもいいみたい。名前、間違えてるし。

 

あたしを此処まで連れてきてくれたナツだからこそ、その喜びを分かち合いたかったのに。

 

喜びに水を差された気分になって少し消沈してしまった。

 

 

 

「おや、見ない顔だねぇ」

 

そんなあたしに声がかかる。鈴を転がすような、それでいて優しく暖かい女性の声。

 

その声をかけてきた方に向き直ると、一人の女性があたしの方に向かって歩いて来ていた。

 

その風貌に思わず息を呑む。

 

腰元まで緩いウェーブのかかった白銀の長髪は薄虹色の光沢を纏っていて、神秘的に輝いている。こんな髪色なんて見たことない。

 

小さく微笑みをたたえた瞳は宝石のように綺麗で、思わず見惚れてしまうほど。

 

色白な素肌は触れることを躊躇わせる神聖ささえ感じさせるよう。

 

背丈はあたしよりも小さく、その小柄な体躯を装飾の少ない簡素な服で包んでいて、その衣装の左胸の部分に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が刻まれていた。

 

今までに見たことない美少女で、思わず惚けてしまった。

 

「あら! お帰りなさい。リュウさん」

 

「うん、ただいま。ミラ嬢。いつもの頼んでいいかい?」

 

「はーい、ただいまお待ちを~」

 

その女性はミラジェーンさんに声をかけるとあたしの隣の席に座って、ふう、と一息ついた。

 

「いや~、疲れたねぇ。最近の若者は元気が良すぎるよ。あ~、肩痛い」

 

肩を回しながら、草臥れたように独り言ちるその姿に、さっきまで感じていた非現実的な美しさは霧散する。

 

言動が中年のソレだ。さっきまでとは逆に、一気に親近感を感じる。

 

う~ん、ギャップでおかしくなりそう。

 

「それで、君は新入りかい?」

 

「あ、はい! あたし、ルーシィって言います。これからよろしくお願いします!」

 

「うんうん、よろしくねぇ。私のことはリュウさんと呼んで。ギルドのみんなからはそう呼ばれてるからさ」

 

カラカラと軽く笑いながら、手を差し伸べてきたから、応じて握手する。

 

この人がリュウさんなんだ。マスターがさっき見習えって言ってた人。

 

常識人って言うからには、もっとありきたりな普通の人を想像していたけど、完全に予想外だったわ。

 

こんな、この世のものでない美貌を持った女性がいたなんて。

 

でも……。

 

「ルーシィ嬢は別のギルドから来たのかい? それとも初めて?」

 

「初めてです。ずっと魔導士ギルドに入りたいと思ってまして。ハルジオンでトラブルに巻き込まれたんですけど、そこから助けてくれたナツに連れられてここに来ました」

 

「そうだったんだねぇ。それは大変だったねぇ。いろんな意味で。ナツ坊、すっごい暴れ回ったって聞いたよ」

 

「あ、あはは……まぁ、それでナツが連れてきてくれたんですけど、驚きました。実は妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってあたしが憧れてて、入りたいって思ってて。その一員になれて嬉しいんです」

 

「おや、そうだったのかい。そう言ってくれると嬉しいねぇ」

 

そう言って、リュウさんは微笑んだ。

 

話してみるととても友好的で、暖かく会話してくれる姿には親近感が湧いてくる。

 

うん、ちょっと美しさに気後れしちゃってたけど、他の面々みたいに変な癖や言動もないし、マスターの言うようにまともな人っぽい。

 

そんな風に頷いていると、カウンターからミラジェーンさんがリュウさんにドリンクを差し出した。

 

「はい、お待ちどうさま」

 

「うん、ありがとうね」

 

リュウさんは受け取ったグラスを傾けて、一気に飲み干した。

 

さっき、ちらっと銘柄が見えたけど、確か相当に度数の高いお酒だったはず。

 

それを一気飲みするなんて……。

 

「うーん、効くねぇ。やっぱり仕事終わりの一杯は格別だねぇ」

 

リュウさんは見た目はあたしと同年代か、それよりちょっとだけ下に見えるんだけど、その見た目で酒を一気飲みする姿はすごく犯罪的に見えるわね。

 

でも、酒樽ごと呷らないあたり、常識的な飲み方ではある。

 

……いったいいくつなんだろ。話し方からも年季を感じるし、熟練された雰囲気を漂わせている。年齢を聞くなんて失礼なんだけど、うーん、気になる。

 

「それで、ルーシィ嬢」

 

「……あ、な、何でしょうか?」

 

ちょっと失礼な事を考えていたから思わずどもってしまった。

 

そんなあたしに不敵な笑みを見せてこう言った。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は君の憧れを裏切らない場所だよ」

 

「!」

 

「ギルドは仲間であり、家族。そのあり方を体現しているギルドさ。ちょ~~~っとばっかし、やらかすこともあるし、我が強い子ばっかりだけどさ。困難を打ち破る覚悟と仲間の苦難を見逃さない絆ならどこにも負けないギルドだよ」

 

リュウさんの優しくも真っすぐな視線があたしを射抜く。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)へようこそ。歓迎するよ」

 

「っ、はい!」

 

その言葉が心に沁みて、あたしは力強く返事した。

 

 

 

「あ、ミラ嬢。これね、クエスト達成の証明書。渡しておくね」

 

「はーい、預かりますね」

 

リュウさんは懐から一枚の紙を取り出すと、ミラジェーンさんに渡した。

 

それは、依頼板(リクエストボード)に張り出されてる依頼書にクエスト達成の証明が付け足されたものだった。

 

つまりは、リュウさんはクエストから帰ってきたところだということ。

 

どんなクエストに行ってきたのかしら。マスターが名前を出すほどの人だから、困難な討伐依頼とかかしら。

 

気になったので問いかけてみることにした。

 

「どんなクエストだったんですか?」

 

「孤児院の子守り」

 

「え?」

 

予想外の内容に思わず口に出してしまった。

 

「孤児院の子守り……ですか。それは、何というか」

 

「意外かい? ギルドにはそれこそ色んなクエストがあるよ。要人警護や商団の護衛、討伐クエスト、秘境や希少アイテムの探索クエストといったのは華があるし人気だけどね。落とし物探しとか街の清掃とか、浮気調査なんてものもあるよ」

 

「そういうクエストってそれに応じて依頼料もそこそこだから、あまりやる人が多くないのよね。魔導士としての活躍が少ないからかな、好まれないクエストとして塩漬けになってるものもそこそこあるのよ」

 

「ああ、いや。あたしもギルドについていろいろ勉強してきたから、そういった依頼がくるのも分かります」

 

あたしが気になったのは、クエストの内容自体じゃなくて。

 

「その……失礼かもしれないですけど。リュウさんがそういうクエストをやっている姿を想像してなかったっていうか」

 

「リュウさんは残っちゃってるクエストを率先してやってくれているのよ。受付嬢としては助かるし、ギルドの評判とか、社会貢献度としても重要だから決してバカにしてはいけないものなんだけどね」

 

「しがない老輩のただのお節介さ。血気盛んな若者たちこそ、ギルドの花形だよ」

 

 

 

リュウさんが軽く笑いながら、おかわりを注がれたグラスを傾けていたその時、何かが破壊される音がギルド内に響いた。

 

音がした方に顔を向けると、ナツが手に取ってた依頼書を叩きつけて依頼板(リクエストボード)を破壊しているのが目に入った。

 

そして、ナツはそのまま依頼書を何も持たずに外へと歩いて行ってしまった。

 

談笑しながらも事の経緯は把握している。ロメオくんが依頼に出かけて未だ帰らない父親マカオを探しに行ってくれるように、とマスターに頼み込んでいたが、マスターは自分自身のことは自分で始末をつけるのが魔導士だと拒否をしていた。その様子を見ていたナツがギルドを出て行ったロメオくんの後を追うように外へ出て行ったの。

 

「……どうやら、ナツ坊は助けに行くつもりだねぇ」

 

「えっと、マカオさんは今、ハコベ山に行っているはずです。確か一週間前だったかな」

 

「確か内容は……あれだったかな。それなら確かに一週間は長いねぇ。何かしらのトラブルに巻き込まれたかな」

 

「そういうのって、ギルドとかが救援を出したりしないんですか」

 

「ギルドとして救助することはめったにないね。それに他の魔導士が助けに行くこともあまりないね。魔導士は自己責任が原則よ。明確にクエスト失敗したことが分からない限りは手を出さないものさ」

 

「……厳しい世界なんですね」

 

「マスターも本当は心配しているのよ」

 

ミラジェーンさんがマスターの方を見て、そう言った。

 

マスターの周りにはギルドメンバーが集まっていて、ナツが外に出て行ってしまったのを見て苦い顔をしている。

 

「アイツ……マカオを助けに行く気だぜ」

 

「これだからガキはよぉ」

 

「んなことしたって、マカオの自尊心が傷つくだけなのにな」

 

「止めなくていいのか、マスター」

 

それぞれナツの行動に苦言を呈しているけど、マスターはその言葉に目を細めて特に何をするでもなくこう答えた。

 

「進むべき道は誰が決めることでもねえ。放っておけぃ」

 

マスターがそう言うと、他の人たちはそれ以上ナツの事を言及することはなかった。

 

ギルドとしては助けを派遣することはしないけど、助けに行くことを止めることまではしないみたい。

 

でも、なんでナツは助けに向かったんだろう。ギルドの流儀なんて百も承知だろうに。

 

ナツが出て行ったギルドの門を見ていると、あたしの内心を察したのかリュウさんがグラスの氷をカランと鳴らしながら疑問に答えてくれた。

 

「ナツ坊もロメオ坊と同じだからねぇ。自分と重ね合わせているんだろうさ」

 

「同じ?」

 

「ナツのお父さんも出て行ったきり、まだ帰ってこないのよ。育ての親なんだけどね」

 

「ナツ坊から聞いてないかい? イグニールのこと」

 

「イグニール? はい、そういうドラゴンを探しているってっ、え!? ドラゴンに育てられたの!?」

 

驚きに腰が抜けかけた。

 

ハルジオンの街でナツが聞いていた、探しているドラゴン、イグニール。

 

聞いた時は魔導士らしく、伝説上の存在を信じて冒険しているだけかと思っていたけど、そうじゃないらしい。

 

「そんなの信じられるわけ……」

 

「ね。小さいときにそのドラゴンに森で拾われて、言葉や文化……魔法なんかを教えてもらっていたんだって」

 

「でも、ある日、ナツ坊の前から突如姿を消してしまった」

 

「それがイグニール……」

 

まさしく荒唐無稽な話だ。ドラゴンは伝説上の存在。遥か昔には本当に生きていたと主張する歴史書こそあれど、現代では絶滅したっていうのが定説だ。到底信じられない話でしかない。

 

だけど、それを言っているのがナツだ。下らない嘘をつくような人間ではないことは、短い付き合いの中でも分かる。

 

「ナツ坊は今でもイグニールに会えると信じててねぇ。どんな噂話でもドラゴンがいるかもしれないって聞くとすぐ飛んで行ってしまうのさ」

 

「そこが可愛いんだけどね♡ ……だからロメオくんのこと、見放せなかったんじゃないかな。それがナツの抱えてるもの。ナツだけじゃなく、みんながみんなそれぞれ苦悩や傷を抱えているの……」

 

「そっか……」

 

ハルジオンでの傍若無人な暴れ様と能天気な笑顔で気付かなかったけど、それがナツの目的なのね。単なる夢や憧れじゃなくて、重く悲しい再会の願いを抱えていたんだ。

 

寂しそうに悲し気な笑みをこぼすミラジェーンさんと神妙な顔して酒を飲んでいるリュウさん。

 

それを見ていると、あたしも居ても立っても居られない気持ちに駆られる。

 

あたしももう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだ。なった喜びばかりに浸っていられない。

 

「あの、あたしも行ってきます」

 

「あら」

 

「ほう、ナツ坊に付いていく気かい? 初心者がナツ坊に付いていくには少しばかりハードルが高いと思うんだけどねぇ」

 

「大丈夫です! あたしこう見えて星霊魔導士としてそれなりにキャリアも長いし、足手纏いにはならないと思います! それに……そんな話を聞いちゃうと、あたしも何か役に立ちたいって思うんです」

 

立ち上がってぐっと拳を握り、聖霊の鍵に触れる。

 

ナツは強いからそこまで危ないことにはならないだろうという打算とどんなクエストなんだろうという興味があることは否定できない。

 

でも、あたしも悲しみに暮れるロメオくんを見て、助けてあげたいって思うんだ。その気持ちに嘘はない。

 

「そうかい。ハコベ山には馬車で行くだろうから置いていかれないようにねぇ」

 

「ルーシィちゃん。クエストから帰ってきたら私の家に遊びにおいで。私、ルーシィちゃんのこと気に入っちゃったわ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

手を振って見送る二人を背に、ナツを追ってあたしもギルドを飛び出した。

 

二人とも本当に暖かくて良い人だった。実家にいた頃は考えられないくらい。

 

充実感とワクワク感であたしの足は速くなる。

 

ここから、あたしの冒険が始まるんだ!

 

 

 

 

 

まあ、付いていったクエストが凶悪モンスターバルカンの討伐で、いきなり波乱な幕開けになったんだけどね。

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